今回はJanet Kayのアルバム

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「Capricorn Woman」です。

Janet Kay(本名:Janet Kay Bogle、
1958年1月17日生まれ)は70年代
後半からUKで活躍したラヴァーズ
ロック・レゲエ・シンガーで、女優として
も活躍した人です。

1958にロンドンのノース・ウェストで
ジャマイカ人の両親から生まれた彼女は、
UKのレゲエ・バンドAswadのリハーサル
に立ち会った事をきっかけにメンバーの
Tony Gadからその才能を見込まれ、
シンガーのAlton Ellisを紹介され、
77年にMinnie Ripertonのカバー曲
「Loving You」でデビューする事になり
ます。

Janet Kay & The Kaylets - Loving You (UK - 7'' All Tone Records) Sllct


79年にDennis Bowellのプロデュースで
リリースした「Silly Games」はレゲエの
枠を超えたクロスオーバーな大ヒットと
なり、UKだけでなくヨーロッパ全土で
人気を博します。
その勢いでリリースされたのが、今回の
彼女のファースト・アルバム「Capricorn
Woman」です。

その後も順調にキャリアを積み重ね、
「Queen Of Lovers Rock(ラヴァーズ
ロックの女王)」と呼ばれるほどの活躍を
したのが、このJanet Kayです。

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て15枚ぐらいのアルバムと、43枚
ぐらいのシングル盤を残しています。

アーティスト特集:Janet Kay(ジャネット・ケイ)

ジャネット・ケイ - Wikipedia

今回のアルバムは1979年にUKの
Arawakレーベルからリリースされた
Janet Kayのファースト・アルバムです。
(ネットのDiscogsではこのアルバムは
1982年にPressure Recordingという
レーベルからリリースされた事になって
いますが、ネットのWikipediaやレゲエ
レコード・コムなどの彼女の記事を読むと
どうも79年にArawakレーベルから
リリースされたというのが正しいよう
です。)

プロデュースとアレンジはDennis Bovell
で、バックにAswadのドラマーAngus Gaye
やギターにJohn Kpiayeなど、当時のUK
のスタジオ・ミュージシャンが参加した
アルバムで、大ヒットした「Silly Games」
や表題曲の「Capricorn Woman」など、
Janet Kayの高音を活かしたスウィートな
ヴォーカルが楽しめる、好内容のアルバム
となっています。

手に入れたのはPressure Recordingから
リリースされたCDの中古盤でした。

またこのアルバムは90年頃に「Silly
Games」と改題され、別ジャケットで
再リリースされています。

またこのアルバムのダブ・アルバムが、
Dennis Bovellの名義で「Dub Dem Silly」
というタイトルで93年にリリースされて
います。

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Dennis Bovell – Dub Dem Silly (1993)

全8曲で収録時間は29分21秒。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Arranged & Produced by Dennis Bovell
Directed by God

Vocals: Janet Kay
Backing Vocals on "Do You Realy Love Me" & "Can't Give It Up": Marie Pierre
Drums, Percussion: Angus Gaye
Guitar: John Kpiaye
Keyboards: Tony Robinson
Fender Rhodes, Clarinet: Nick Straket
Bass on "Do You Realy Love Me" & "That Night": George Oban
Saxophone on "Don't Feel No Way": James Danton
Trumpet & Flugelhorn: Patrick Tenyue
Saxophone & Trombone: Henry Tenyue
Flute: Delroy Clarke
Bass, Backing Vocals on "Do You Realy Love Me" & "Can't Give It Up",
all instruments on "Silly Games" except Drums: Dennis Bovell

Recorded at Studio 80, 6/8 Emerson St, SE1
Engineers: Martin Rex, Bill Farley
Mixed by Dennis Bovell

Cover Artwork and Design by A. Nero
Script Lettering by A. McKenzie

となっています。

アレンジとプロデュースはDennis Bovell
が担当しています。
「Directed by God(神が監督した)」と
なっているのはご愛敬か(笑)。

ミュージシャンはヴォーカルにJanet Kay、
5曲目の「Do You Love Me」と6曲目の
「Can't Give It Up」のバック・
ヴォーカルにMarie Pierre、ドラムと
パーカッションにAngus Gaye、ギターに
John Kpiaye、キーボードにTony Robinson、
Fender Rhodes(ローズ・ピアノ)と
クラリネットにNick Straket、5曲目の
「Do You Love Me」と7曲目の「That
Night」のベースにGeorge Oban、3曲目
の「Feel No Way」のサックスにJames
Danton、トランペットとフリューゲル
ホーンにPatrick Tenyue、サックスと
トロンボーンにHenry Tenyue、フルート
にDelroy Clarke、ベースと5曲目の
「Do You Love Me」と6曲目の
「Can't Give It Up」のバック・
ヴォーカル、1曲目の「Silly Games」
のドラムを除くすべての楽器にDennis
Bovellという布陣です。

この英語の記述を見ると、5曲目の
「Do You Love Me」が「Do You Realy
Love Me」、3曲目の「Feel No Way」が
「Don't Feel No Way」だった事が解り
ます。
リリース時に改題されたのでしょうか?

レコーディングはStudio 80で行われ、
エンジニアはMartin RexとBill Farley
で、ミックスはDennis Bovellが担当して
います。

ジャケット・デザインはA. Nero、文字の
レタリングはA. McKenzieが担当していま
す。
「Capricorn Woman」というタイトルの
ように、Capricorn(やぎ座)のデザイン
のネックレスを手に持つ様子が描かれて
います。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、いかにも
ラヴァーズらしく、まだ21歳当時の
Janet Kayの爽やかな歌声がとても印象的
なアルバムで、内容は悪くないと思い
ます。

彼女のデビュー曲である「Loving You」は
74年に全米1位に輝いたMinnie Riperton
のポピュラー・ソングの大ヒット曲なん
ですね。
Minnie Ripertonは5オクターヴ半という
広い声域を持つシンガーと知られ、この曲
は女性でも高音を出すのが難しい曲として
知られている曲です。
逆にその難しさからMariah Careyや
Céline Dionなどの、歌に自身のある女性
シンガーがよく歌う人気曲となっていま
す。

Minnie Riperton - Lovin' You (Official Video)

↑後ろで生ギターを弾いているのが
Cat Stevens(のちにYusuf Islamと
改名)ですね。何かのTVショーの映像
でしょうか。

その難曲を歌いこなしてデビューしたの
が、このJanet Kayです。
英文の彼女の紹介文を読むと、歌手として
知られるAlton Ellisがこの歌を歌える
女性シンガーを探していたんだとか。
そうなるとデビュー曲をプロデュースした
のはAlton Ellisなのでしょうか。

彼女が歌ったこの「Loving You」ですが、
さすがにMinnie Ripertonと較べてしまう
とそこまでではないものの、19歳という
若さでここまで歌えるのはさすがの実力と
言えそうです。
さらに女優としても活躍したというの
だから、生まれ持った芸能の才能は並外れ
たものがあったのだと思います。

その2年後の79年には「Silly Games」
がレゲエという枠を超えたクロスオーバー
な大ヒットとなり、その勢いで同年に
リリースしたのが今回のアルバムという事
になります。
バックを務めたのがUKでラヴァーズ
ロック・レゲエをけん引したDennis Bovell
とJohn Kpiayeが参加した事からも解るよう
に、このJanet Kayへの期待の大きさが
かなりのものであった事がうかがえます。
そしてまだ20歳前後だった彼女は、充分
にその期待に応えたと言えるでしょう。
今もこのアルバムはラヴァーズロック・
レゲエの代表作のひとつと広く認知されて
います。

ちなみにラヴァーズロック・レゲエとは、
70年代半ばにUKで誕生したレゲエの
サブ・ジャンルで、おもにラヴ・ソングを
テーマとしたロマンティックな歌詞と、
洗練された洒脱なサウンドが特徴的な音楽
です。
70年代にレゲエという音楽は世界的に
認められ世界的な音楽となりますが、その
時代のレゲエはBob Marleyなどを中心と
した、社会の不平等や黒人差別などを訴え
るプロテスタント色の強いルーツ・レゲエ
だったんですね。
ただそうしたレゲエは当時支配階級だった
白人層にはウケが悪く、UKでは誰でも
楽しめる娯楽としてのレゲエが必要とされ
ていました。
そのラヴァーズロック・レゲエの中心と
なったのが、「Lovers Rock」という
レーベルを立ち上げたプロデューサーの
Dennis Harrisと、Dennis Bovell、
John Kpiaye(ジョン・カパイ)といった
ミュージシャンでした。
政治色を排し、ある意味ラヴ・ソングのみ
を歌うレゲエ、それがラヴァーズロック・
レゲエです。

ラヴァーズ・ロック

やはりこのアルバムの目玉はクロス
オーバーな大ヒットとなった「Silly
Games」という事になると思いますが、
この曲に限らず高音を活かした彼女の
爽やかな歌声はとても魅力的です。
やはりいかにもラヴァーズという趣きが
あります。
またDennis BovellやJohn Kpiayeなどが
参加したバック陣もしっかりとした演奏
で、単にスウィートというのではない、
しっかりとしたレゲエらしいビターな
味わいをうまく演出しています。

1曲目は「Silly Games」です。
コツコツとしたちょっとイナタい
ドラミングに、キーボードのメロディ、
Janet Kayの高音を活かしたスウィートな
ヴォーカルがとても魅力的。
特にサビのちょっとでないような高音は、
この人のレベルの高さを感じます。

Silly Games


2曲目は「Imagine That」です。
コツコツとしたドラミングに、心地良い
デストーションなギター・ワーク、刻む
ようなギターの演奏、ファルセット気味の
Janet Kayのヴォーカルもイイ感じ。

Janet Kay - Imagine That (197X Roots)


3曲目は「Feel No Way」です。
最小限の演奏にJanet Kayのほぼアカペラ
のヴォーカルのオープニング、刻むような
ギターを中心とした演奏、伸びやかな高音
が光るJanet Kayのヴォーカルがイイ感じ。

Feel No Way


4曲目は「Rock The Rhythm」です。
コツコツとしたドラミングに、刻むような
ギターとピアノの演奏、高音を活かした
Janet Kayの伸びやかなヴォーカルがイイ
感じ。

Rock the Rhythm


5曲目は「Do You Love Me」です。
明るいホーン・セクションのオープニング
から、心地良いドラミングに、刻むような
ギターとピアノのメロディ、シッカリと
したJanet Kayのヴォーカルがイイ感じ。

Do You Really Love Me


6曲目は「Can't Give It Up」です。
心地良いワン・ドロップのドラミングに、
刻むようなギターとホーン・セクションの
演奏、伸びやかなJanet Kayのヴォーカル
が爽やかな曲です。

Janet Kay "Can't Give It Up"


7曲目は「That Night」です。
心地良いドラミングに、刻むような
ギター、ホーンの演奏に、語るように歌う
Janet Kayのヴォーカルもイイ感じ。

That Night


8曲目は表題曲の「Capricorn Woman」
です。
抒情的なフルートとストリングスの
イントロから、ポンポンとした効果音、
刻むようなギターとフルートのメロディ、
甘く囁くようなJanet Kayのソフトな
ヴォーカルもイイ感じ。

Capricorn Woman


ざっと追いかけて来ましたが、バックの
心地良いドラミングやリズムを刻むような
ギターといったシッカリとしたレゲエ
らしい演奏が、Janet Kayのスウィートな
ヴォーカルをより引き立てており、UK
独特のラヴァーズロック・レゲエの世界を
作り上げています。
Janet Kayのヴォーカルにはまだ若さゆえ
の若干の拙さを感じるところもあります
が、バックの演奏がうまくそのあたりを
引き締めています。
その立役者であるDennis Bovellの優れた
プロデュース力も褒めたいところ。

このアルバムの成功が彼女のその後の活躍
に影響を与えた事は間違いが無いと思い
ます。
そしてラヴァーズロック・レゲエという
音楽もこのあたりからUKに完全に定着
し、80年代にはUK独特のレゲエから
本場ジャマイカのアーティストも取り入れ
るほどに開花して行きます。
このアルバムはその礎を作った、アルバム
のひとつと言えるかもしれません。

機会があればぜひ聴いてみてください。


Janet Kay - Silly games - Top of The Pops 1979


Janet Kay - Wishing On A Star


Janet Kay - Loving You (Live TV Performance)


○アーティスト: Janet Kay
○アルバム: Capricorn Woman
○レーベル: Pressure Recording
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1979

○Janet Kay「Capricorn Woman」曲目
1. Silly Games
2. Imagine That
3. Feel No Way
4. Rock The Rhythm
5. Do You Love Me
6. Can't Give It Up
7. That Night
8. Capricorn Woman