今回はSugar Minottのアルバム

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「Live Loving」です。

Sugar Minott(本名:Lincoln Barrington
Minott)はレゲエを代表するシンガーの
ひとりです。
70年代のルーツ・レゲエの時代に
Derek 'Eric Bubbles' HowardとWinston
'Tony Tuff' MorrisとAfrican Brothersと
いう3人組コーラス・グループとして音楽
キャリアをスタートさせた彼は、グループ
解散後もStudio Oneをはじめとして多くの
レーベル、多くのプロデューサーの元に
素晴らしい楽曲を残し活躍した人です。
そのかたわら「ゲットーの兄貴」として、
多くの若者をシンガーとして育てる事にも
尽力した事でも知られています。

そうした彼ですが2010年に54歳で
亡くなっています。

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て57枚ぐらいのアルバムと、659枚
ぐらいのシングル盤を残しているのが、
このSugar Minottという人です。

アーティスト特集 Sugar Minott (シュガー・マイノット)

今回のアルバムは1977年にジャマイカ
のStudio Oneレーベルからリリースされた
彼のファースト・アルバムです。

プロデュースはStudio Oneの主催者
C. S. Doddで、Studio Oneの所有する豊富
な過去の音源をバックに、Sugar Minottの
スウィートな歌声が冴えるアルバムと
なっています。

手に入れたのはStudio Oneからリリース
されたLPの中古盤でした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

詳細なミュージシャンの表記はありま
せん。

Recorded at Jamaica Recording and Publishing Studio Ltd.
Design & Artwork – G. Dayle
Produced by: C. S. Dodd
Manufactured by: Jamaica Recording Mfg. Co. Ltd.

という記述があります。

レコーディングはJamaica Recording and
Publishing Studioで行われ、ジャケット
のデザインとアート・ワークはG. Dayle
が担当し、プロデュースはC. S. Doddと
なっています。

またN. J. Dodd名義の短い解説文が書かれ
ています。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、その後
大シンガーとなってジャマイカの音楽界を
けん引して行くSugar Minottの出発点と
なったアルバムで、Studio Oneの古い音源
を時代に合わせて再構築した、創意に溢れ
た魅力的な意欲作となっています。

スカからロックステディ、レゲエの時代へ
と移り変わる60年代から70年代にかけ
てジャマイカの音楽界をけん引して来たの
は、C. S. Doddの主催するStudio Oneと
Duke Reidの主催するTreasure Isleの2大
レーベルだったんですね。
ところが70年代も後半になると、
Treasure IsleはDuke Reidが亡くなった事
で没落し、Studio Oneも新興レーベルの
Channel Oneなどに押されて徐々に勢いを
失ってしまいます。

その理由はC. S. Doddの金払いの悪さ
だったと言われています。
スカからロックステディの時代頃の
ジャマイカでは歌手としてデビューする
にはStudio OneかTreasure Isleの2大
レーベルで認められるしか方法がありま
せんでした。
ところがレゲエの時代に入るとBob Marley
やJimmy Cllifなどのアーティストが国際
的にも評価されて、レゲエという音楽の
人気も上がって来ます。
その人気に乗ってChannel Oneなど新興
レーベルや弱小レーベルも徐々に力を付け
て来るんですね。
そうなると金払いの悪いStudio Oneは、
徐々にアーティストから敬遠されるように
なってしまうんですね。

そうした厳しい状況にC. S. Doddは音楽へ
の情熱を失い、Studio Oneの大半の仕事を
ミキサーのSylvan Morrisに任せていたと
言われています。
ただそうした新しい録音が行えない厳しい
状況の中でもSylvan Morrisはうまく切り
盛りし、Studio Oneのスカやロック
ステディの時代の古い録音をリユース
して、Dub Specialist名でダブを制作した
り、古い音源にオーヴァー・ダビングを
施して新しい歌手に歌わせたりと、何とか
Studio Oneというレーベルを維持する努力
を続けていたんですね。

そのStudio Oneに眼を付けてソロとしての
デビューの場に選んだのがSugar Minott
です。
彼はStudio Oneの豊富な過去の音源を
うまく再利用して、彼のスウィートな歌声
を乗せた楽曲へと変換して行きます。
そのStudio Oneの過去の音源とスウィート
なSugar Minottの歌声がうまく合体した
当時のヒット曲が「Vanity」です。

SUGAR MINOTT - Vanity [1978]


今ではこのSugar Minottのヒット曲が有名
過ぎて「Vanityリディム」とも呼ばれる
このリディムですが、オリジナルはロック
ステディの時代のAlton Ellisのヒット曲
「I'm Just A Guy」なんですね。
(ちなみに「Vanity」は今回のアルバム
から1年後の78年のヒット曲で、この
アルバムには収められていません。)

ALTON ELLIS - I'm Just A Guy [1967]


リズム特集 I'm Just A Guy (アイム・ジャスト・ア・ガイ)

70年代初めにTony Tuffらと共に3人組
コーラス・グループAfrican Brothersと
して順調にスタートを切ったものの、その
後ソロとしての活躍の場を求めていた
Sugar Minottにとって、このStudio Oneは
良いデビューの場になったようです。

ReGGae Music 341 - African Brothers - Lead Us Father [Ital]


今回のアルバムはそうしたSugar Minottの
デビュー・アルバムで、Sugar Minottの
スウィートな歌声と、ロックステディの
時代などのStudio Oneの古い楽曲をうまく
アレンジした曲が魅力のアルバムとなって
います。

今回のアルバムに収められた楽曲をネット
のRiddimguideなどで調べてみたところ、
The Heptonesの「Get In The Groove」の
リディムを使った「Hang On Natty」や、
The Cablesのロックステディの時代の
ヒット曲「What Kind Of World」の
リディムを使った「Change Your Ways」
や、Cornell Campbell & The Eternalsの
「Queen Of The Minstrel」のリディムを
使った「Come On Home」、Horace Andyの
「Mr. Bassie」リディムを使った
「Jah Jah Lead Us」など、60年代後半
のロックステディの時代頃の楽曲などに
Sugar Minottが歌詞を載せた曲が多く収め
られています。

また面白いところでは日本でも人気の
あったポピュラーの作曲家バート・
バカラック(Burt Bacharach)のヒット曲
「A House Is Not A Home」のカヴァー曲
も収められています。

今回のアルバムはレゲエの音楽史に名前を
刻んだSugar Minottのデビュー・アルバム
という点でも貴重ですが、同時に
ジャマイカの「リディム文化」のアルバム
としてもとても面白いアルバムなんです
ね。
ちなみにこの「リディム文化」とは、
ジャマイカで発展した一度ヒットした
(作られた)楽曲のリズムを別の歌手が
別の歌詞を載せて歌ったり、別のディー
ジェイのトースティングを乗せたりして、
何度でも使い続ける文化の事です。
もともとジャマイカは貧しい島国で
レコードを出すプロデューサーも資金の
少ない弱小プロデューサーも多く、お金を
かけて録音した音源を何度も使う必要性が
あったんですね。
そこで考え出されたのが、別の歌手に別の
歌詞で歌わせる事であり、ディージェイに
トースティングをさせる事であり、録音
した音源を切り張り(リミックス)し直し
てダブに作り変える事だったんですね。

元々は弱小プロデューサーの苦肉の策で
始まったこれらの方法ですが、こうした事
からダブやディージェイが生まれ、同じ
リディムを何度も使い続ける「リディム
文化」へと発展して行ったんですね。

面白い事にそれまでジャマイカをけん引
していたStudio Oneというスタジオは
70年代半ば以降は力を失いますが、
持っていた古い音源を再利用する事で延命
し、「リディム文化」独特の古くて新しい
興味深い音源を数多く残す事になります。

Side 1の1曲目は「Jahoviah」です。
残念ながらこの曲のリディムを特定する事
は出来ませんでした。
華やかなホーンと刻むようなギターを中心
としたメロディに、ちょっとエコーの
かかったSugar Minottの静かに語りかける
ようなヴォーカルがとても魅力的な曲
です。

Sugar Minott - 1. Jahoviah


2曲目は「Hang On Natty」です。
リディムはThe Heptonesのロックステディ
のヒット曲「Get In The Groove」です。

THE HEPTONES - Get In The Groove


はややかなホーンのオープニングから、
刻むようなギターとキーボードを中心と
したメロディ、ソフトに歌うSugar Minott
のヴォーカルが魅力的。

Sugar Minott - Hang On Natty - Sugar Minott @ Studio 1


3曲目は「Change Your Ways」です。
リディムはThe Cablesのロックステディの
ヒット曲「What Kind Of World」です。

THE CABLES - WHAT KIND OF WORLD


心地良いドラミングから、刻むような
ギターと漂うようなキーボードの
メロディ、ソフトで力強いSugar Minottの
ヴォーカルがイイ感じ。

Change Your Ways - Sugar Minott


4曲目は「Give A Hand」です。
リディムはThe Heptonesのロックステディ
のヒット曲「Give Give Love」です。

Studio One Sound - The Heptones - Give Give Love


歯切れの良いドラミング、疾走感のある
キーボードとギターのメロディ、うまく
歌い込むSugar Minottのソフトな
ヴォーカルとコーラスがイイ感じ。

Sugar Minott - Give a Hand.


5曲目は「Come On Home」です。
リディムはCornell Campbell &
The Eternalsのロックステディのヒット曲
「Queen Of The Minstrel」です。

Cornel Campbell & The Eternals-Queen Of The Minstrels


濃厚なホーン・セクションのオープニング
から、キーボードと刻むようなギターの
メロディ、説得力のあるSugar Minottの
ヴォーカルがイイ感じ。

Sugar Minott - Come On Home


Side 2の1曲目は「A House Is Not A
Home」です。
書いたようにポピュラーの作曲家バート・
バカラック(Burt Bacharach)のヒット曲
「A House Is Not A Home」のカヴァー曲
で、女性シンガーのDionne Warwickで
ヒットした曲のようです。

Dionne Warwick - A House Is Not Home Live 1964


ジャマイカではKarl 'Cannonball' Bryan
& Soul Vendorsがホーンのインストで
カヴァーしたようで、そのStudio Oneの
音源を元にカヴァーした曲のようです。

KARL BRYAN - A House Is Not A Home


ソフトで漂うようなキーボードと刻むよう
なギターを中心としたメロディに、
Sugar Minottのソフトなヴォーカルが
イイ感じ。
他の曲とちょっとニュアンスが違うので、
このアルバムの中でも異彩を放つ曲と
なっています。

Sugar Minott "A House Is Not A Home"


2曲目は表題曲の「Live Loving」です。
リディムはBob Andyのロックステディの
ヒット曲「Going Home」です。

Bob Andy - Going home ( Muzik City JA 1969 )


華やかなホーンのオープニングから、刻む
ようなギターと浮遊感のあるキーボード、
Sugar Minottのソフトなヴォーカルが
イイ感じ。

Sugar Minott - Live Loving


3曲目は「Love Gonna Pack Up」です。
残念ながらこの曲のリディムを特定する事
は出来ませんでした。
刻むようなギターとキーボードの
メロディ、ファルセットの入ったコーラス
に乗せた、Sugar Minottのソフトな
ヴォーカル…。

Sugar Minott-Love Gonna Pack Up


4曲目は「Jah Almighty」です。
残念ながらこの曲のリディムを特定する事
は出来ませんでした。
刻むようなギターとキーボードのメロディ
に、ちょっと粘りのあるSugar Minottの
ソフトなヴォーカルがイイ感じ。

Sugar Minott - Jah Almighty - Sugar Minott @ Studio 1


5曲目は「Jah Jah Lead Us」です。
リディムはHorace Andyのロックステディ
のヒット曲「Mr. Bassie」です。

HORACE ANDY - Mr Bassie


表情のあるホーンとキーボードのメロディ
に、語りかけるようなSugar Minottの説得
力のあるヴォーカルが魅力的。

Sugar Minott Jah Jah Lead Us


ざっと追いかけて来ましたが、この時代
より10年ぐらい前のロックステディの
時代の音源をうまく時代に合わせて変換
しているSugar MinottとStudio One
レーベル(おそらくはミキサーのSylvan
Morris)の手腕のウマさの光るアルバム
です。
またデビュー・アルバムにもかかわらず
歌の魅力を充分に発揮している、Sugar
Minottという人のズバ抜けた才能が際立つ
内容となっています。
彼はその後歌手として成功し、同時に自分
のプロモーションを立ち上げて多くの若い
才能を育てますが、その成功はけっして
偶然ではないんですね。

このアルバムはSugar Minottという歴史に
名を残す大シンガーの出発点となった
アルバムで、彼の魅力とStudio Oneという
レーベルの魅力がうまく収められた好内容
のアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Sugar Minott


TOKYO REGGAE SPLASH 1986 PART 3 SUGAR MINOTT



○アーティスト: Sugar Minott
○アルバム: Live Loving
○レーベル: Studio One
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1977

○Sugar Minott「Live Loving」曲目
Side 1
1. Jahoviah
2. Hang On Natty
3. Change Your Ways
4. Give A Hand
5. Come On Home
Side 2
1. A House Is Not A Home
2. Live Loving
3. Love Gonna Pack Up
4. Jah Almighty
5. Jah Jah Lead Us

●今までアップしたSugar Minott関連の記事
〇Sugar Minott, Frankie Paul「Show-Down Vol. 2」
〇Sugar Minott「A True」
〇Sugar Minott「Black Roots」
〇Sugar Minott「Dance Hall Showcase Vol.II」
〇Sugar Minott「Ghetto-Ology」
〇Sugar Minott「Rydim」
〇Sugar Minott「Showcase」
〇Sugar Minott「Sugar Minott At Studio One」
〇Sugar Minott「Wicked Ago Feel It」
〇Soul Syndicate (Black Roots Players)「Ghetto-Ology Dubwise」
〇Sugar Minott「African Girl」