今回はLittle Royのアルバム

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「Longtime」です。

Little Roy(本名:Earl Lowe)は70年
代のルーツ・レゲエの時代から活躍した
シンガーでプロデューサーである人です。

まだスカの時代だった60年代に
C.S. DoddのStudio Oneから12歳で
デビューしたという早熟のシンガーで、
70年代のルーツ期には後に名リディムと
して愛された「Prophesy」や「Tribal
War」などのヒット曲があります。

LITTLE ROY - Prophecy [1972]


LITTLE ROY - Tribal War [1974]


その後も永く活動をつづけた彼は、UKの
パンクとの中間的なレーベルOn-U Soundの
Adrian Sherwoodの元で96年にアルバム
「Longtime」をリリースしたり、ロック・
バンドNirvanaの楽曲を歌ったアルバム
「Battle For Settle」(2011年)を
リリースするなど、レゲエの枠を超えた
幅広い音楽活動を進めています。

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て11枚ぐらいのアルバムと、78枚
ぐらいのシングル盤をリリースしているの
が、このLittle Royという人です。

アーティスト特集 Little Roy (リトル・ロイ)

今回のアルバムは1996年にUKの
On-U Soundからリリースされた
Little Royの通算5枚目ぐらいにあたる
ソロ・アルバムです。

プロデュースはLittle Roy本人とOn-U
Soundの主催者Adrian Sherwoodで、
ルーツ期の録音と較べるとラヴァーズ
ロック・レゲエか?と思わせるほどソフト
な楽曲も収められた、聴き心地の優しい
アルバムとなっています。

なお裏ジャケと盤面に表記されている曲順
と、実際に収められている曲順は多少
違っているようです。
また全11曲となっていますが実際には
10曲で、表記にある「Blackman Dub」と
いう曲は収められていません。
(最後にジャケットの曲順と実際の曲順を
表記しています。)

手に入れたのはOn-U Soundからリリース
されたLPの中古盤でした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。
裏ジャケや盤面にはSide 2の6曲目に
「Blackman Dub」という曲が収められて
いるという記述がありますが、実際には
5曲で収められていません。
また最後に書いておきましたが、曲順も
多少違っています。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

1. All Day Long
Programming, Keyboards, Backing Vocals: Carlton 'Bubblers' Ogilvie
Backing Vocals: A.J. Franklyn
2. Way Down
Guitar : Tony Phillips
Programming, Keyboards, Backing Vocals: Carlton 'Bubblers' Ogilvie
Backing Vocals: B.B. Seaton, A.J. Franklyn
3. Long Time Rocksteady
Programming, Keyboards, Backing Vocals: Carlton 'Bubblers' Ogilvie
Backing Vocals: Sister Sally, Fredrica Tibbs
4. See Them Fighting
Guitars, Programming, Keyboards, Backing Vocals, Arrangement: Skip McDonald
Backing Vocals: Frank Bignal
5. Righteous Man
Guitar, Backing Vocals, Programming, Keyboards: Skip McDonald
Backing Vocals: A.J. Franklyn
6. New Song
Programming, Keyboards – Mafia And Fluxy
Guitar: Skip McDonald
Backing Vocals: B.B. Seaton, A.J. Franklyn
Saxophone: Glen Williams
Trumpet: Colin Graham
Trombone: Winston Rollins
7. Frankenstein
Programming, Keyboards: Mafia And Fluxy
Guest DJ: Brother Culture
Backing Vocals: Sally, Fredrica Tibbs, Anicia Banks
8. Singing The Blues
Programming, Keyboards, Backing Vocals, HornArrangement: Carlton 'Bubblers' Ogilvie
Guitar: Skip McDonald
Saxophone: Glen Williams
Trumpet: Colin Graham
Trombone: Winston Rollins
Backing Vocals: B.B. Seaton, A.J. Franklyn
9. Piece Of The Earth
Programming, Keyboards: Carlton 'Bubblers' Ogilvie
Guitar: 'Crucial' Tony Phillips
10. Blackman
Programming, Keyboards: Carlton 'Bubblers' Ogilvie
Guitar: 'Crucial' Tony Phillips
Backing Vocals: B.B. Seaton, A.J. Franklyn

Another On-U Sound Production:
Recorded at: On-U Sound Studio's London E17
Recording Engineers: Alon Adiri, Andy Montgomery, Tony Brown, Darren Grant
Assistant Engineer: Chris Carter
Mixed at: On-U Sound Studio's London E17
Mixed by: Adrian Sherwood & Alon Adiri
Co-Produced by: Little Roy & Adrian Sherwood

Photography, design & art direction: Dick Sweeney & Simon Weller

となっています。

長いので細かいミュージシャンの記述は
省略します。

レコーディングとミックスはロンドンに
あるOn-U Sound Studio'sで行われ、
レコーディング・エンジニアはAlon Adiri
とAndy Montgomery、Tony Brown、Darren
Grant、アシスタント・エンジニアは
Chris Carter、ミックスはAdrian Sherwood
とAlon Adiri、全ての曲のプロデュースは
Little RoyとAdrian Sherwoodが担当して
います。

写真とデザイン、アート・ディレクション
はDick SweeneyとSimon Wellerが担当して
います。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、Little Royの
初期の楽曲はかなりルーツ色の強い楽曲
なのですが、今回のアルバムあたりから
徐々にソフトな路線へと変化しており、
その変化が感じ取れるのがこのアルバムの
面白さなのかもしれません。

2002年シンコー・ミュージック刊行の
レゲエ本「Roots Rock Reggae」にはこの
アルバムについて「武田」さんという方の
文章で紹介されていますが、Side 2の
3曲目「Frankenstein」について「この曲
だけとったら立派にラヴァーズ・ロック」
と紹介されています。
この「Frankenstein」に限らず、今回の
楽曲はルーツ期の楽曲に較べると比較的
ソフトな楽曲が多いんですね。

私がLittle Royを初めて聴いたのは95年
にUKのPressure Soundsからリイシュー
されたコンピュレーション・アルバム
「Tafari Earth Uprising」で、その時は
彼のルーツ色の強い楽曲にかなりシビレた
記憶があります。

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Little Roy ‎– Tafari Earth Uprising (1995)

当時は何十年ぶりかで私が再びレゲエを
聴き始めた時期で、私が若い頃に聴いて
いたのはルーツ・レゲエのみで、
「やっぱりルーツ・レゲエって良いなぁ」
と思わせてくれたアルバムのひとつでし
た。
そして次に聴いたLittle Royのアルバムが
2011年のアルバムの「Battle For
Seattle」だったんですね。

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Little Roy ‎– Battle For Seattle (2011)

こちらは当時はまだブランクを埋めるよう
にルーツから聴き始めたばかりで、ルーツや
アーリー・ダンスホールぐらいしか聴いて
いなかった自分には、「えっ!これが
レゲエなの?」、「これ、同じ人!?」と
いう程に、逆の意味でかなり衝撃的でし
た(笑)。
こちらはロック・バンドNirvanaの楽曲を
歌ったアルバムで、レゲエのアルバムと
してはかなり異端のアルバムなんですね。
今年2021年に出た鈴木孝弥さんという
方のレゲエ本「Reggae Definitive」には
このアルバムが紹介されていて、
「P・ファッティのオタク仕事」と書かれ
ています。
プロデューサーのPrince FattyがNirvana
の91年のアルバム「Nevermind」の、
20周年に合わせて制作したアルバムなん
だとか。
残念ながら私はNirvanaのアルバムは聴い
た事が無いので曲はよく解りませんが、
水中に浮かぶ赤ちゃんのジャケットは見た
事があります。

今から思えばかなりレゲエとしては異色の
アルバムだったようで、かなり「非レゲエ
的なアルバムだなぁ」と感じたのは、
あながち間違いではなかったのかもしれま
せん。
ちなみに今回再び「Battle For Seattle」
を聴き直してみましたが、その後
ラヴァーズロックや最近のレゲエなど、
いろいろなレゲエを聴くようになったせい
か、その当時感じたほどの違和感は感じま
せんでした。
ただルーツの時代よりはずいぶんポップ
寄りに音を変えて行った人であるという事
は言えそうです。

今回のアルバムはそうしたLittle Royの
持つ、ポップ志向が徐々に顔を出し始めた
頃のアルバムといえるかもしれません。
上に挙げた「Roots Rock Reggae」の文章
は、ルーツ期よりさらに曲がソフトに
なり、彼のラヴァーズロック・レゲエへの
志向が垣間見える事を指しているよう
です。
Side 2の3曲目「Frankenstein」だけで
なく、今回のアルバムはソフトなテイスト
の曲が多いんですね。

ただそのソフトな感覚は、Little Royが
ルーツ期から持っていた彼の資質なのかも
しれません。
今回Pressure Soundsの「Tafari Earth
Uprising」の方も聴き直してみましたが、
意外と彼のヴォーカルはソフトで、優しい
印象の曲が多いんですね。
バックのサウンドの変化はありますが、
彼自身は今も昔も変わらぬ感覚で、歌を
歌い続けているだけなのかもしれま
せん。

今回のアルバムも彼のソフトな歌唱が
とても魅力的で、曲にユッタリとした
グルーヴ感があります。

Side 1の1曲目は「All Day Long」です。
デジタルらしいドラム音のオープニング
から、キーボードとベース音のメロディ、
女性コーラスに乗せたLittle Royのソフト
でちょっとしゃがれたヴォーカルがイイ
感じ。

Little Roy - All Day Long


2曲目は「Way Down」です。
軽快なデジタルなドラミングと、キー
ボードとギターのメロディに、歯切れの
良いパーカッション、奥行きのある男性
コーラス、情感があるLittle Royの
ヴォーカルがイイ感じ。

3曲目は「Long Time Rocksteady」です。
デジタルなワン・ドロップのドラミング
に、キーボードとフルート音の明るい
メロディ、女性コーラスに乗せた、
Little Royのソフトなヴォーカルがイイ
感じ。

Little Roy - Long Time Rocksteady


4曲目は「See Them Fighting」です。
心地良いパーカッションに乗せた、爽やか
なギターのスローなメロディ、情感を乗せ
たLittle Royのヴォーカルがとても魅力
的な曲です。

5曲目は「Righteous Man」です。
この曲は裏ジャケや盤面では「Singing
The Blues」となっていますが、実際には
「Righteous Man」のようです。
華やかなナイヤビンギ調のパーカッション
に漂うようなキーボードとギターの
メロディにダブワイズ、よく通るLittle
Royのヴォーカルがイイ感じ。

Side 2の1曲目は「New Song」です。
茫洋としたトロンボーンのオープニング
から、歯切れの良いパーカッション、
トロンボーンにギターとキーボードも織り
交ぜたメロディ、女性コーラスに乗せた、
Little Royの情感のあるヴォーカルが魅力
的。

2曲目は「Frankenstein」です。
ジャケットや盤面の表記では「Righteous
Man」となっていますが、「Frankenstein」
のようです。
漂うようなキーボードとギターのメロディ
に、女性コーラスに乗せたLittle Royの
伸びやかなヴォーカルがイイ感じ。

3曲目は「Singing The Blues」です。
ジャケットや盤面の表記では
「Frankenstein」となっていますが、
「Singing The Blues」のようです。
ギターとホーン・セクション、キーボード
のスローなメロディに、Little Royの
アーバンな雰囲気のヴォーカルがすごく
イイ感じ。

4曲目は「Piece Of The Earth」です。
リディムはBob Andyの「Unchained」の
ようです。
華やかなホーンのオープニングから、
ギターとキーボード、ピアノのメロディ
に、ピコピコ音のエフェクト、Little
Royの語るようなヴォーカルがイイ感じ。

Little Roy - Piece Of The Earth


5曲目は「Blackman」です。
デジタルらしいドラミングに、ホーン・
セクションを中心とした重厚なメロディ、
情感を込めたLittle Royのヴォーカルが
とてもイイ感じ。

ざっと追いかけてきましたが、Little Roy
のヴォーカルにはとても説得力があり、
それがこのアルバムをとても魅力的なもの
にしています。
スカの時代から活躍する彼ですが、そう
した歌唱のウマさと、どんな曲でも歌い
こなす柔軟さが彼のシンガーとしての寿命
の長さに繋がったのかもしれません。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Little Roy - Way Down In Babylon


LITTLE ROY & Adrian Sherwood "Tribal War" "Live @ Wrocław 2009



○アーティスト: Little Roy
○アルバム: Longtime
○レーベル: On-U Sound
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1996

(表示されている曲順)
○Little Roy「Longtime」曲目
Side 1
1. All Day Long
2. Way Down
3. Long Time Rocksteady
4. See Them Fighting
5. Singing The Blues
Side 2
1. New Song
2. Righteous Man
3. Frankenstein
4. Piece Of The Earth
5. Blackman
6. Blackman Dub

(実際に収められている曲順)
○Little Roy「Longtime」曲目
Side 1
1. All Day Long
2. Way Down
3. Long Time Rocksteady
4. See Them Fighting
5. Righteous Man
Side 2
1. New Song
2. Frankenstein
3. Singing The Blues
4. Piece Of The Earth
5. Blackman

●今までアップしたLittle Roy関連の記事
〇Little Roy「Tafari Earth Uprising」