2021年4月10日にネットのタワー・
レコードで予約したレゲエ本「Reggae
Definitive」が近所のセブンイレブンに
届いたという連絡があったので、購入して
来ました。

●近所のセブンイレブンで購入した本
〇鈴木高弥著「Reggae Definitive」

reggae_definitive


この本は音楽評論家の鈴木高弥さんという
方が、スカから始まる60年ぐらいの
レゲエの歴史に残る、1000枚ぐらいの
アルバムを年代順にセレクトして、1冊に
まとめた本です。
タイトルに「Reggae Definitive(レゲエ
決定版)」とあるように、レゲエの歴史に
残る重要なアルバムがほとんど網羅されて
いる、好内容のレゲエ・ガイド・ブックと
なっています。

ハッキリ言ってこのガイド・ブックは、
今まで日本の方が書いたガイド・ブックの
中でも一段抜けた素晴らしい内容の本だと
思います。
その大きな理由はこの本がルーツだの
ダンスホールだの、アーティストだのの
区分けではなく、年代順の区分けを採用
している点です。
これまでのたいていのレゲエ本は、あの
レゲエ本「Roots Rock Reggae」などに
見られるように、ルーツやダンスホール、
ダブ、ディージェイなど音楽の種類や、
アーティストによって区分けされている事
が非常に多いんですね。
ただその別け方をしてしまうと、その
アルバムがいつ作られたのかの時代的な
価値が曖昧になってしまうんですね。

そのコンピュレーションもオリジナルも
年代もグチャグチャで、どれがいつの
アルバムか区分けが解りにくかったところ
が、今回の本ではかなり整理されていま
す。
半面誰のアルバム噛みにくい部分もあり
ますが、こうした長い年月のセレクトでは
そのアルバムがいつ作られたか?は、それ
以上に重要なところがあると思います。

80年代半ばまでの生演奏が中心だった
時代と、80年代半ば以降ののデジタル
での制作が当たり前になって行った時代
では当然音楽の作り方がまったく違う訳
で、それを同列に良い悪いを評価するのは
どうなんだろう?
もっと時代の流れに沿ってそのアルバムが
作られた意味を考えるべきではないのか?
こうしたガイド・ブックを読むたびに、
その事に私自身もいつも不満に感じていま
した。

私もそうした時代の流れを加味して文章を
書かないといけないとずっと思っていて、
数年前からアルバム評は年代ごとに分類
する方法を採用しています。
こうした区分けをする事で私自身もその
音楽が何故作られたのか?その理由が
ずっと解り易くなった気がします。

おそらくこれだけハッキリと年代別に分類
されたガイド・ブックは今まであまり
無かったのではないかと思います。
その事は高く評価したいと思います。

もうひとつこの本の素晴らしいところは、
レゲエの歴史の中で重要なアルバムが
ほとんど網羅されている点です。
まだパラパラめくってみた感じなので
ハッキリとした事は言えませんが、紹介
するアルバムを完全なオリジナル・
アルバムに絞り、コンピュレーションや
ミックス・アルバムなどは排除して、ある
意味レゲエの「本道」に徹したセレクト力
は高く評価したいところ。
こうした本では筆者は「自分はこんな
アルバムも知っているんだ」ととかく自分
のセレクト力を自慢したくなり、レア過ぎ
るアルバムをつい載せたくなるものです
が、実は地味でも堅実なセレクトをした方
が説得力があるんですね。
今回の鈴木高弥さんのセレクトは、その点
では自分の我を抑えたバランスの良い
セレクトで、内容はとても良く感じまし
た。

またその時代に影響を与えた重要な
アルバムというものがありますが、
そうしたアルバムもほぼ収められている
のも好評価出来るところ。
例えばあのレゲエ本「Roots Rock
Reggae」ではU-Royのファースト・
アルバムの「Version Galore」が掲載され
ていませんが、このアルバムはレゲエ史に
おける初のディージェイ・アルバムで
あり、ヒップホップのラップにも影響を
与えた重要なアルバムなんですね。

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U-Roy – Version Galore (1971)

今回の本ではこの「Version Galore」も
収められていますし、ジャマイカの音楽
史上一番売れたと言われるThe Heptones
の「On Top」や、ルーツの定番アルバム
として有名なBurning Spearの「Marcus
Garvey」、The WailersのIslandからの
メジャー・デビュー・アルバム
「Catch A Fire」など、音楽史の中で重要
なアルバムがほぼ収められているのも
とても評価できます。

欲を言えばRanking Slackness(General
Echo)の「Slackest LP」も、出来れば
載せて欲しかったかなと思います。

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Ranking Slackness ‎– Slackest LP (1979)

このアルバムは「Techniquesレーベル初の
ダンスホール・レゲエのアルバム」で、
けっこう重要なアルバムなんですね。
General Echoは80年に警官に撃たれて
亡くなっているので活動歴は短いですが、
ダンスホール・レゲエのスラックネス文化
に大きく貢献した重要なディージェイの
ひとりなんですね。
彼のライヴの模様を収めた音源の海賊版が
出回るほどの人気で、Clint Eastwood &
General Saintなど多くのレゲエ・ディー
ジェイに影響を与えた事でも知られていま
す。
この本では彼の80年のアルバム
「12" Of Pleasure」が紹介されています
が、出来ればRanking Slackness名義の
「Slackest LP」の方が良かったような
気がします。

あと1300ぐらいのアルバムから
1000ぐらいに絞ったと書かれています
が、King TubbyやPrince Jammy(King
Jammy)、Scientistなどのダブが、もう
少し大目に収められていても良かったの
かなという気もしました。
ただこのあたりは編集する上のコンセプト
の問題なので、問題はありません。

個人的にはDeadly Headleyの孤高の
インスト・アルバム「35 Years From
Alpha」やKeith Hudsonの「レゲエ初の
コンセプト・アルバム」といわれる
「The Black Breast Has Produced Her
Best, Flesh Of My Skin Blood Of My
Blood」、Prince Mohammed(歌手の
George Nooks)の「Bubbling」など
が収められているのは、自分が好きな
アルバムなのでかなりポイントが高い
です。

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Deadly Headley ‎– 35 Years From Alpha (1982)

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Keith Hudson – Flesh Of My Skin Blood Of My Blood (1974)
↑こちらはBasic Replay盤で、オリジナル
のジャケットではありません。

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Prince Mohammed ‎– Bubbling (1982)

またEarl Zeroの「Only Jah Can Ease The
Pressure」や、Phillip Frazerの「Come
Ethiopians」といった、ジャマイカの
かなりのマイナー系のアルバムが収められ
ているのは、かなり目の効いた選択だと
思います。

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Earl Zero And The Soul Syndicate ‎– Only Jah Can Ease The Pressure (1979)

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Phillip Frazer ‎– Come Ethiopians (1980)

UKのネオ・スカ系のバンドThe Specials
のファースト「Specials」(トロンボーン
のRicoがサブ・メンバーとして参加)や、
近年のEDM系のMajor Lazerのファースト
「Guns Don't Kill People... Lazers Do」
とセカンドの「Free The Universe」など、
他の音楽の境界線の音楽を紹介している
のも面白いところ。

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The Specials ‎– Specials (1979)

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Major Lazer ‎– Guns Don't Kill People... Lazers Do (2009)

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Major Lazer ‎– Free The Universe (2013)

実はこのあたりは自分がブログを書いて
いる上で紹介したものか迷うところなん
ですが、今回の本を見てやはり紹介すべき
アルバムなんだなぁとあらためて思いまし
た。

近年のラスタ・リヴァイヴァル・ムーヴ
メント系のアーティストChronixxや
Protoje、Kabaka Pyramid、Jah9、
Mortimer、Jesse Royal、Dre Island、
ダンスホール系のPopcaanやBusy Signal、
Alkalineまでもれなく紹介しているのも
ポイントが高いです。

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Kabaka Pyramid ‎– Kontraband (2018)

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Mortimer ‎– Fight The Fight (2019)

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Popcaan ‎– Where We Come From (2014)

特にPopcaanの「Fixtape」(2020年)
やProtojeの「In Search Of Lost Time」
(2020年)は、ほぼデジタル配信しか
されていないアルバムで、そうした
アルバムも収めているところに、時代の
変化に合わせたこの本の価値があるように
思いました。

素晴らしい本である事は間違いありません
が、ひとつだけ難を言うと、この鈴木高弥
さんという方のレゲエへのあまりの情熱の
為だと思いますが、アルバムの説明文が
あまりにガチ過ぎて、多少書いている事が
理解し辛いところがあります。
ガイド・ブックとして初心者が利用する
には、書かれている事が高度過ぎて解り
づらい感があるんですね。
言い方は良くないかもしれませんが、まず
は「こういうアルバムがある」という感じ
で、アルバムを聴いたらその説明文を読ん
でみるぐらいの気持ちで利用した方が良い
のかもしれません。

もしアルバムをもっと詳しく知りたい時に
は、このブログでも紹介しているアルバム
もけっこうあるので、このブログを読んで
もらえると嬉しいです(笑)。

レゲエ収集の定番本だった「Roots Rock
Reggae」は2002年の刊行なので、
その後の20年が欠落しており、そろそろ
時代のニーズに合わなくなって来た側面が
あります。
おそらくこれから10年以上は、この本が
レゲエの定番本として定着して行くのでは
ないかと思います。
少なくともレゲエ・ファンは持っておいて
損はない本ではないかと思います。

正直なところこのセレクトを見た時には
私の今までこのサイトで紹介したアルバム
とこの本のセレクトが似ていて、ちょっと
ビックリしました。
まあ私自身がレゲエのガイド・ブックと
して知られている「Roots Rock Reggae」
や「Dancehall Reggae Standards」などを
参考にしてアルバムを集めており、そこに
紹介されたアルバムが今回の本にも紹介
されているので、定番アルバムとなると
どうしてもセレクトが似るのはあるんだ
と思います。

特に70年代のルーツ期から80年代の
アーリー・ダンスホール~デジタル・
ダンスホール期にかけての紹介されている
アルバムは、ここ10年以上かけて私が
コツコツと集めたアルバムと、7割から
8割ぐらいは一致していました。
そうして集めたアルバムのアルバム評を
2015年8月28日からこのlivedoor
のサイトでコツコツと書いて来ましたが、
そのアルバムの正当性が今回の本で認め
られたような気がして、ちょっと嬉しく
思いました。

この鈴木高弥さんという方はかなりレゲエ
という音楽を知っている方のようなので、
出来ればあのレゲエ博士Steve Barrow氏
が書いた「The Rough Guide To Reggae」
のような、掲載するアルバムの数とか、
本の枚数とか気にせずに書かれた、徹底
したレゲエのガイド・ブックをまた書いて
もらいたいと思いました。


まあ、こういう本が出るとアルバムを集め
るのが、ライバルが増えてしづらくなる
かもしれないのが、ちょっと困ったところ
ではあります。
ただそれだけ聴く人が増えてくれれば、
それは嬉しい悩みかもしれません。
実は最新のアルバムでもリリース枚数が
少ない為か、けっこうアルバムを集めるの
が大変なんですね。
こうした事をきっかけにユーザーが増え、
リリースやリイシューが増えてくれると
良いのですが…。

まあとにかくコツコツと収集する事には
変わりはありません。


最後に書いておきますが、これは鈴木高弥
さんという方のひとつのレゲエの基準では
ありますが、それがけっして絶対的なもの
でない事は覚えておいてください。
レゲエには他にも素晴らしいアルバムは
無数にあり、ここに選ばれたアルバムと
同じくらいに素晴らしいアルバムは他にも
たくさんあるんですね。

大切なのは自分の耳で聴くこと。

ここに選ばれたアルバムでもあまり良く
思えないアルバムもあるだろうし、選ばれ
ていないアルバムでも自分が良いと思う
アルバムもあると思います。
そういう事があるのはむしろ自然で、必ず
しも自分の感性が間違っている訳では無い
んですね。
ある意味自分の感性にあったアルバムを
探す事が、音楽を聴く楽しみでもあり
ます。

「名盤」ばかり探すよりは、いろいろな
音楽を聴いて自分にあった音楽を見つける
事も大切です。


ではこの辺で。


Major Lazer - Titans (feat. Sia & Labrinth) (Official Music Video)


Popcaan - Survivor (Official Video)


Brighter Days ft. Tommy Lee Sparta, Julian Marley, Bounty Killer, Jahvillani, Gyptian &...