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ちょっと前になりますが、『ローリング
ストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」
500選』というのが発表されました。

ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選 | 2020年改訂版

要するにアメリカのローリングストーン誌
が選ぶ、全ての時間の全ての音楽から選ん
だ歴代最高のアルバム500枚という事
らしいのですが、その中でレゲエから選ば
れたのは以下の5枚のアルバムでした。

48. Bob Marley and the Wailers "Legend" Island, 1984
71. Bob Marley and the Wailers "Exodus" Island, 1977
140. Bob Marley and the Wailers "Catch a Fire" Island, 1973
174. Jimmy Cliff and Various Artists "The Harder They Come: Original Soundtrack" Mango, 1972
344. Toots and the Maytals "Funky Kingston" Island, 1973

とりあえず私の見つけたレゲエのアルバム
は、この5枚のみでした。

最高順位の48位に選ばれたのは
Bob Marley & The Wailersの「Legend」
でした。
これはBob Marleyの死後の84年に
リリースされたコンピュレーション・
アルバムです。
(Bob Marleyは81年に亡くなっていま
す。)

実はBob Marleyのアルバムの中で一番売れ
たのが、このコンピなんですね。
アルバムに収められた楽曲を調べてみると
けっこうバランスのよく取れたコンピュ
レーションで、比較的ソフトな「Is This
Love」や「No Woman No Cry」、
「Waiting In Vain」などの楽曲から、
The Wailersの代表曲ともいえる「Get Up
Stand Up」、Bob Marleyが中心になって
からの代表曲「I Shot The Sheriff」や
「Exodus」、「Jamming」、
アコースティックな美曲「Redemption
Song」まで、ツボを押さえた選曲が素晴ら
しいアルバムとなっています。

Bob Marley - Redemption Song


Bob Marley - I Shot The Sheriff


Bob Marley - Is This Love (Official Music Video)


ある意味Bob Marleyの楽曲を知る為の入門
書的なアルバムが、このアルバムなんです
ね。
アメリカやイギリスでBob Marley & The
Wailersのアルバムでもっとも売れている
のが、このアルバムだと思われます。

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『Legend』:17年以上も英チャートにランクインしたベスト盤

このアルバムの選択からも解るように、
今回ローリングストーン誌の選んでいるの
は、アメリカでよく売れて誰もが知って
いるアルバムというのが、ひとつの基準
なんですね。
だから必ずしもオリジナル・アルバムを
選んでいる訳ではありません。

ちなみに私自身はこのアルバムを所有して
いませんでした(笑)。
最近出かける用事があったので、横浜の
ディスクユニオンを覗いたら売っていたの
で、ちょっとネタになるかなという下心が
あって購入しました。

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Bob Marley & The Wailers - Legend (1984)


71位に選ばれたのはBob Marley & The
Wailersの77年のアルバム「Exodus」
です。

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Bob Marley & The Wailers ‎– Exodus (1977)

このアルバムはThe Wailersとして
Islandレーベルからメジャー・デビュー
した彼らの、通算6枚目ぐらいにあたる
オリジナル・アルバムです。
(2枚目以降にPeter ToshとBunny Wailer
が脱退し、その後はBob Marley & The
Wailersと改名。)
このアルバムは「Live!」と並んで、
おそらく日本の当時のレゲエ・ファンに
もっとも売れたアルバムではないかと思わ
れます。

ライヴ・アルバム「Live!」で徐々に人気
に火がついて来た彼らが、世界的にも完全
に認められたのが、このアルバムの頃
だったようです。
ちなみにアメリカで完全に人気に火が付い
たのは、生前最期のアルバム80年の
「Uprising」の頃だったんだとか。

表題曲の「Exodus」をはじめとして、
自然の神秘を歌った「Natural Mystic」、
代表曲のひとつといえる「Jamming」、
ベタなラヴ・ソング「Turn Your Lights
Down Low」、こちらも代表曲の
「One Love / People Get Ready」など、
パワー溢れる彼らの楽曲が楽しめる、内容
のアルバムとなっています。

Bob Marley - Exodus [HQ Sound]


Natural Mystic (1977) - Bob Marley & The Wailers


Bob Marley - Turn Your Lights Down Low


Bob Marley & The Wailers「Exodus」 : つれづれげえ日記


140位にはBob Marley & The Wailers
の73年のアルバム「Catch a Fire」が
入っています。

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The Wailers ‎– Catch A Fire (1973)

このアルバムの時点ではまだThe Wailers
と名乗っていて、正式にはBob Marley &
The Wailersではないんですね。
(Bob Marley & The Wailersと名乗り出す
のは、Peter ToshとBunny Wailerが脱退
して以降です。)
それまでThe WailersはStudio Oneや
Lee Perryの元などからアルバムを出して
いましたが、メジャーのIslandレーベル
からレコードを出すのはこれが初めてで、
これがメジャー・デビューのアルバムと
いう事になります。
まだBob MarleyとPeter Tosh、Bunny
Wailerのジャマイカ最強のコーラス・
トリオが揃っていた時代のアルバムで、
レゲエ・ファンの間ではセカンドの
「Burnin'」と並んで、The Wailersの
もっとも輝いていた時代のアルバムと認識
されているアルバムです。

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The Wailers ‎– Burnin' (1973)

名曲「Concrete Jungle」をはじめと
して、Peter Toshがリードをとる
「400 Years」や「Stop That Train」、
「Slave Driver」や「Stir It Up」、
「Kinky Reggae」、「No More Trouble」
など、全ての曲が素晴らしい内容の
アルバムです。

Bob Marley & The Wailers Concrete Jungle The Grey Old Whistle Test


Bob Marley - Slave driver (Catch a fire)1973


The Original Wailers - Stop That Train


Wailers「Catch A Fire (Deluxe Edition)」 : つれづれげえ日記


174位に選ばれたのは、72年のJimmy
Cliffやその他のアーティストによる
サントラ盤「The Harder They Come:
Original Soundtrack」です。
これはJimmy Cliffが主演した72年の
ジャマイカ映画「The Harder They Come」
のサントラ盤なんですね。

Jimmy Cliffの歌う表題曲「The Harder
They Come」や「Many Rivers To Cross」、
「You Can Get It If You Really Want」、
The Melodiansの「Rivers Of Babylon」、
Desmond Dekkerの「007 (Shanty Town)」、
The Maytalsの「Pressure Drop」など、
この70年代前半のレゲエの名曲が多く
収められたアルバムとなっています。
普通にレゲエのコンピュレーション・
アルバムとしても楽しめる内容に仕上がっ
たアルバムなんですね。

Jimmy Cliff Recording The Harder They Come In Studio Session


The Melodians - "Rivers Of Babylon" (Official Audio)


007 (Shanty Town)


Jimmy Cliff - Many Rivers To Cross


ちなみに「The Harder They Come」という
映画は、Jimmy Cliffが演じる主人公
アイヴァンがミュージシャンになる夢を
持って上京したものの夢がかなわず、強盗
となって名を挙げるというストーリーなん
ですね。
最後は警察官の一斉射撃で死んで行くと
いう話で、そのあたりは当時流行していた
アメリカのニュー・シネマ「明日に向かっ
て撃て!」の影響などを感じさせる内容
です。


そして344位に選ばれたのがToots &
The Maytalsの73年のアルバム
「Funky Kingston」です。
60年代のスカの時代からThe Maytalsと
して活躍した彼らでしたが、70年代に
なるとToots & The Maytalsとして
メジャーにも進出して、Bob Marley &
The Wailersと並んで世界的に活躍する
バンドとなって行くんですね。
このアルバムはその彼らのIslandレーベル
からリリースした、メジャーでの
ファースト・アルバムのようです。
「Pomp And Pride」や表題曲の「Funky
Kingston」など、彼らの代表曲が収められ
たアルバムとなっています。

Toots & The Maytals - Pomp & Pride


Toots & The Maytals - Funky Kingston


Toots & The Maytals - Redemption Song


なお近年までアルバムをリリースしていた
Toots & The Maytalsでしたが、最近
リード・ヴォーカルのToots Hibbertが
新型コロナ・ウイルスで亡くなっていま
す。
ご冥福をお祈り申し上げます。


以上がローリングストーン誌が選んだ
歴代最高のアルバム500枚に選ばれた
レゲエの5枚のアルバムでした。
500枚のうち5枚というのはあまりにも
少なく感じますが、音楽ジャンルも
ポップスからロック、ジャズ、ソウル、
ラップなど、多岐にわたり、しかも多くの
アメリカ人の誰もが知っているアルバムと
いう制約がかかると、この枚数でしかも
70年代に活躍したBob Marleyや
Jimmy Cliff、Toots & The Maytalsという
アーティストだったのは致し方ないのかも
しれません。
むしろよくこれだけ選ばれたなぁと、考え
た方が良いのかも…。

ちなみに今回の選出で話題になったのが、
1位がThe Beatlesのアルバムではなく、
ソウルのMarvin Gayeの71年のアルバム
「What's Going On」が選ばれた事だった
ようです。
ちなみに私はこのMarvin Gayeのアルバム
「What's Going On」を最近聴いたばかり
でした。
いろいろレゲエを調べていると、レゲエと
アメリカのソウルとの関りは、無視出来
ないものがあると感じたからなんですね。

Marvin Gaye - What's Going On (Official Video 2019)


もともとこの「What's Going On」という
曲は、Marvin Gayeがベトナム戦争に
行った弟から来た手紙に書かれていた、
「What's Going On(一体何が起こって
いるんだ)」という言葉に刺激を受けて
書かれた曲だったんですね。
そのベトナムの反戦歌として書かれた曲
が、今の時代でもちゃんと意味を持って
歌われている…。
「一体何が起こっているんだ?」
「一体何が起こっているんだ!」
そう訴えかけるこの曲が歌われ続けている
という事は、アルバムとしては喜ばしい
事でもありますが、半面歌詞の意味を考え
ると、とても悲しい事でもあります。
おそらく最近のBLM(Black Lives
Matter)運動などで、このアルバムの
発する言葉の価値が上がったという側面は
否定出来ません。

ちなみにThe Beatlesのアルバムは最多の
9枚が選ばれていて、最高位は69年の
「Abbey Road」でした。
今回は順位が下がった事が話題になった
ようですが、やはりThe Beatlesの音楽界
への貢献は無視出来ないものがあります。

ちなみに私のレゲエ以外のおススメの
アルバムを1枚挙げておくと、87位に
入ったMiles Davisの70年のアルバム
「Bitches Brew」がおススメです。
このアルバムはMiles Davisがそれまで
のジャズのフォームを崩して、8ビートの
ロックのリズムに挑戦したアルバムです。
私が若かった70年代ぐらいに購入した
アルバムでしたが、その時はジャズの
ミュージシャンがロックのマネをしている
だけと思えて、あまり良いアルバムとは
思えませんでした。
ところがこうしたレゲエの文章を書き始め
て、ちょっと疲れた時に「こんなのも
あったなぁ…」と聴いてみたら、これが
すごくヒリヒリとするような緊張感のある
良いアルバムだったんですね。

おそらく若い頃の私にはこのアルバムの
魅力が、よく解らなかったんだと思い
ます。
ただ時間が経つとそうした解らなかった
音楽の魅力に、徐々に気付くようになって
来るんですね。
音楽とはそういうものなのかなと思い
ます。

もしもあの時このMiles Davisの
「Bitches Brew」の魅力に気付いていた
ら、私はレゲエという音楽を聴いていたの
だろうか?
もしかしたらジャズの魅力に惹かれて、
レゲエはあまり聴いていないという事も
あったのかもしれません。
このアルバムの良さに気付いてから、たま
にそういう事も考える事があります。
まあそういう事も含めて、音楽というのは
「出会い」なのでしょう。


今回はローリングストーン誌の選んだ歴代
最高のアルバム500選から、レゲエの
アルバムについて書いて来ましたが、こう
した選考というのは、「誰もが知っている
アルバム」というフィルターを被せただけ
で、だいたい無難なところに落ち着いて
しまうものなんですね(笑)。
それは致し方ない事なのかもしれません。

いつも思う事ですが、こうしたアルバムの
ランキングというのは、あくまで参考程度
に見ておいた方が良いものです。
こうしてレゲエのアルバムをたくさん聴い
ていると、時にはランクに入らないような
レアなアルバムでも時に素晴らしい内容の
アルバムに出くわす事もあるし、逆に
すごく雑誌などでホメているアルバム
でも、自分の感性とは合わないのか、
あまり面白く聴こえない事もあります。
そうした「意外な発見」や「解らない事が
ある」という事が、音楽を聴く「楽しみ」
のうちなんですね。

また音楽を聴く上ではこうした「良い
アルバム」ばかり聴くのではなくて、
「普通のアルバム」も聴いてみる事が
けっこう大事だと、私は考えています。
そうした「普通のアルバム」にもけっこう
良い曲があったり、そのアーティストが
よく解る部分があったりするんですね。
だからあまり大した事の無さそうな
コンピュレーション・アルバムや、
クラッシュ・アルバム(対決盤)、
リズム・アルバムなどを買ってみる事が
あります。
そうした何気ないアルバムに知らない歌手
の良い曲などが収められていたりする事が
あるんですね。
それで注目するようになったアーティスト
というのもけっこう居ます。
そうしたひとつひとつ知って行く事の積み
重ねが、音楽を聴く楽しみになって行くん
ですね。

SiriやGoogleはその時のムードにあった曲
を勝手に選んでくれるかもしれませんが、
そういう選択だけでは意外な発見や驚く
ような喜びは、必ずしも味わえないんです
ね。
先に書いたように20代に解らなかった
音楽が、60代になると解るようになる、
それが人間という生き物です。
SiriやGoogleが「音楽の先生」というのも
否定はしませんが、もっと地道に自分の耳
で探して行くという楽しみ方もあるという
事も、忘れないで欲しいと思います。

まあロックでのレゲエでもパンクでも、
元はといえば「反抗の音楽」でした。
それが時間が経つにつれ「名盤」と呼ば
れ、いつの間にか権威や権力に取り込まれ
てしまう…。
だから中指を突き立てて、「名盤」なんか
糞食らえ!というのが、ロックであり、
レゲエであり、パンクの精神だったんです
ね(笑)。
あまりそう言う事を気にせずに、気楽に
聴くのが良いと思います。


ではこの辺で。

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