今回はBrown Sugarのアルバム

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「I'm In Love With A Dreadlocks:
Brown Sugar And The Birth Of Lovers
Rock 1977-80」です。

Brown Sugarは76年にUKで当時
ティーン・エイジャーだった
Pauline CatlinとCaron Wheeler、
Carol Simms(のちのKofi)の3人で
結成されたUKの女性コーラス・グループ
です。

デニス・ボーヴェル(Dennis Bovell)と
デニス・ハリス、そしてジョン・カパイが
新たに設立したレーベルLover's Rockの
契約アーティスト第1号として知られ、
70年代中頃からUKで流行したラヴ・
ソングを中心としたレゲエ、ラヴァーズ・
ロック・レゲエの人気アーティストとして
知られています。
その活動期間は短く77年から80年まで
で、当時はアルバムのリリースは無く、
シングル盤のみのリリースで終わっていま
す。

またメンバーのCaron WheelerはUKの
ソウル・グループSoul II Soulで活躍し、
Carol SimmsはKofiという名前でソロ・
シンガーとしてMad ProfessorのAriwa
レーベルでその後活躍した事で知られて
います。

ネットのDiscogsによると、21枚ぐらい
のシングル盤と、1枚のコンピュレー
ション・アルバムを残しています。

Brown Sugar (group) - Wikipedia

ラヴァーズ・ロック - Wikipedia

今回のアルバムは2018年にUKの
Soul Jazz Recordsからリリースされた、
3人組女性ラヴァーズ・ロック・グループ
Brown Sugarのコンピュレーション・
アルバムです。

副題に「Brown Sugar And The Birth Of
Lovers Rock 1977-80」とあるように、
表題曲の「I'm In Love With A
Dreadlocks」をはじめとして、「Our
Reggae Music」や「Black Pride」、
「Dreaming Of Zion」など、彼女たちが
グループとして活躍した77年から80年
までの4年間の、彼女たちのシングル盤の
代表曲が収められたアルバムとなっていま
す。

手に入れたのはSoul Jazz Recordsから
リリースされたCD(新盤)でした

全13曲で収録時間は約57分。

詳細なミュージシャンの表記はありま
せん。

Brown Sugar are: Pauline Catlin, Caron Wheeler, Carol Simms (Kofi)
Arranged & Produced by: Brownie T, (John kpiaye)
Mixed by: Dennis Bovell, Brownie T
Executive Producers: Dennis Harris, Winston Edwards

という記述があります。

Brown SugarのメンバーはPauline Catlin
とCaron Wheeler、Carol Simms(のちの
Kofi)の3人で、アレンジとプロデュース
はBrownie Tと(John kpiaye)が担当し、
ミックスはDennis BovellとBrownie Tが
担当しています。
エグゼクティブ・プロデューサーは
Dennis HarrisとWinston Edwardsとなって
います。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、まさにUKの
ラヴァーズ・ロック・レゲエという
サウンドのアルバムで、内容はなかなか
悪くないと思います。

このラヴァーズ・ロック・レゲエですが、
レゲエの中でもかなり亜流の音楽で、その
誕生は70年代中頃のUKで、UKレゲエ
のグループMatumbiやプロデューサーと
して活躍したDennis BovellやDennis
Harris、John Kpiayeなどが始めた音楽
なんですね。
その特徴はそれまでジャマイカで流行して
いたルーツ・レゲエが黒人差別などを
テーマにしてかなり思想性が強かったのに
対して、ラヴ・ソングなど恋愛やロマンス
をテーマにしていた事にあります。
そうした思想性のない音楽の方が、白人も
多く暮らすUKでは多くの人に受け入れ
易かったんですね。
ジャマイカでもレゲエという音楽が広まる
につれ、80年代以降はあまり思想性の
無いラヴ・ソングやスラックネス
(下ネタ)、ガン・トーク(暴力ネタ)を
中心としたダンスホール・レゲエが流行の
中心となりますが、UKでは早くからこう
したラヴァーズ・ロック・レゲエが人気と
なっていたんですね。
そうした影響を受けてジャマイカの
アーティスト、特に国際的に活躍する
Gregory IsaacsやDennis Brown、Sugar
Minott、Fredie McGregorといった人達が
こうしたラヴァーズの影響を受けたラヴ・
ソングを中心とした楽曲を歌い始めるよう
になります。
(それをラヴァーズと呼ぶべきかは
ちょっと微妙ですが…。)

一応念のために書いておきますが、
ラヴァーズというのは70年代半ばにUK
で誕生した音楽で、それ以前には
ラヴァーズという音楽はまだ存在して
いなかったんですね。
よくラヴ・ソングなら何でもラヴァーズ、
女性が歌っていれば何でもラヴァーズと
いう分け方をされる事がありますが、それ
はちょっと違うんですね(笑)。

話を戻しますが、そのUKではラヴァーズ
とルーツ・レゲエが音楽の中心となり、
80年代以降ダンスホール・レゲエが中心
となって行ったジャマイカとは少し違った
レゲエという音楽の歩み方をするように
なります。
その中心となったのが今回のLover's Rock
というレーベルで活躍したDennis Bovell
と、80年代頃からAriwaレーベルで勢力
を伸ばして来たMad Professorだったん
ですね。
バルバトス諸島出身のDennis Bovellと
ガイアナ出身のMad Professorという、
ジャマイカ以外の出身者がこの
ラヴァーズ・ロック・レゲエをけん引した
のはとても興味深い事実です。

結果的に80年代以降はジャマイカでも
ダンスホール・レゲエが登場した事も
あり、レゲエという音楽はラヴ・ソングを
中心とした楽曲が主流となって行くんです
ね。
特にUKではこうしたラヴァーズ・
ロック・レゲエがもっとも人気のレゲエで
あった事は間違いありません。
その道筋を付けたのがLover's Rockという
レーベルであり、そうしたサウンドを創作
したDennis BovellやJohn Kpiayeであり、
その楽曲を歌って人気を博したBrown Sugar
などのアーティストだったんですね。
今回のアルバムはそうしたラヴァーズ・
ロックの創世記の歴史を知る上では、
けっこう貴重なアルバムではないかと思い
ます。

そのラヴァーズ・ロック・レゲエの特徴と
いえば、やはり高音を生かした男性だと
ファルセット、女性も高音域を使った独特
のヴォーカル・スタイルです。
全体にはかなりポピュラー・ミュージック
に近いサウンドですが、その高音を生かし
たところが少し違うんですね。
ネットのWikipediaにはDennis Brownの
「Money In My Pocket」もラヴァーズ・
ロックと紹介されていましたが、どうなん
でしょうね?
高音域を生かしたスタイルという点では、
ちょっと違うような気もしますが…。

ちなみにDennis Brownは自分の本名
「Dennis Emmanuel Brown」という名前
から取ったD.E.B. Musicというレーベル
を設立していて、共同経営者のCastro
Brownとともにラヴァーズ・ロックの
ミュージシャンをプロデュースしている
んですね。
特に有名なのがティーン・エイジャーの
女性3人組のグループ15-16-17です。
このグループは「Magic Touch」などの
ヒット曲をリリースしています。

まあこの70年代半ば頃からUKで
ラヴァーズ・ロック・レゲエが流行した事
で、インターナショナルに活躍するレゲエ
のスターは、ラヴ・ソングを多く歌うよう
になったという側面はありそうです。
プロテスト・ソングを歌いスタイリッシュ
だったレゲエという音楽が、UKなどで
人気を博すことで徐々に現代まで続く
ポピュラー・ミュージックに近いスタイル
に変化して行ったのが、このラヴァーズ
あたりからだったんですね。

今回のアルバムでも高音を生かした
ラヴァーズ・ロック・レゲエのスタイルが
充分に堪能出来、内容もなかなか充実して
います。
「Black Pride」や「Our Reggae Music」、
「Dreaming Of Zion」に表題曲の
「I'm In Love With A Dreadlocks」、
さらにはそのダブの「Loving Dreadlocks
Dub」、Dennis Bovellがヴォーカルを取り
Brown Sugarがコーラスを担当した
「Hurtin'」など、当時のラヴァーズ・
ロックの空気が目一杯盛り込まれた内容は
聴き応えがあり、ラヴァーズ・ロックと
いうレゲエを知る為の貴重なアルバムと
なっています。

ようやく近年になってのコンピュレー
ション・アルバムのリリースですが、
もっと早くリリースされても不思議の
無い、好内容のアルバムだと思います。

1曲目は「Black Pride」です。
ギターを中心としたメロディに、高音の
女性ヴォーカルとコーラス・ワーク。
ラヴァーズ感タップリな1曲です。

Brown Sugar - Black Pride


2曲目は「Our Reggae Music」です。
刻むようなギターとキーボードのメロディ
に、高音を生かした甘いヴォーカルと
コーラス・ワークがイイ感じの曲です。

Brown Sugar - Our Reggae Music


3曲目は「Hello Stranger」です。
ホーンと刻むようなギターのメロディに、
伸びやかで美しい女性ヴォーカルに
コーラス。
2曲目などもそうですが、刻むような
ギター・ワークにいかにもレゲエらしい
ニュアンスを強く感じます。

Brown Sugar - Hello Stranger


4曲目は表題曲の「I'm In Love With
A Dreadlocks」です。
漂うようなキーボードと歯切れの良い
ギターのメロディに、美しい女性
ヴォーカルに優しいコーラス・ワーク。

Brown Sugar - I'm In Love With A Dreadlocks


5曲目はDennis Bovellとの共演曲
「Hurtin'」です。
刻むようなギターとピアノのメロディに、
Dennis Bovellのファルセットな
ヴォーカルとBrown Sugarのコーラス・
ワークがとても心地良い曲です。

Dennis Bovell & Brown Sugar - Hurtin'


6曲目は「I'm So Proud」です。
心地良いドラミングからドスの効いた
ベースと浮遊感のあるキーボードの
メロディ、甘く切ない高音を生かした
優しいヴォーカル。

Brown Sugar I'm so proud


7曲目は「Run Away Love」です。
鳴くギターのメロディに優しく入って来る
ソフトなヴォーカルがイイ感じの、大人の
味わいの曲です。

8曲目は「Dreaming Of Zion」です。
心地良いドラミングから華やかなホーンと
ギターのメロディ、優しいソフトな
ヴォーカルにコーラス・ワーク。

Dreaming of Zion


9曲目は「Loving Dreadlocks Dub」
です。
4曲目表題曲の「I'm In Love With A
Dreadlocks」のダブです。
このあたりはDennis Bovellの才能の
発揮されているところかも。
漂うようなキーボードにコーラス・
ワーク、ダブワイズ…。

10曲目は「You And Your Smiling
Face」です。
刻むような蟻田とドスの効いたベース、
キーボードのメロディ、ソフトな
ヴォーカル。

11曲目は「Do You Really Love Me」
です。
ユッタリとした刻むようなギターとピアノ
のメロディに、スウィートな高音を生か
したヴォーカルとコーラス…。

Brown Sugar - Do You Really Love Me


12曲目は「Proud」です。
6曲目「I'm So Proud」のダブ・
ヴァージョンのようです。

13曲目は「Confession Hurts」です。
ギターのメロディに、ソフトに歌う
ヴォーカルとコーラス・ワーク。

ざっと追いかけてきましたが、Brown Sugar
のいかにもラヴァーズといった歌声は
とても魅力的です。
それと同時に、ジャマイカで活躍していた
King Tubbyと親しく、当時のレゲエの
トレンドを全て熟知していたと語っている
Dennis Bovellの恐るべき才能も垣間見え
るのが、このアルバムの大きな魅力です。
このDennis Bovellの「ポップ志向」には
個人的には少し抵抗があるのですが、
やはりその才能は認めざるを得ません。

今から見るとこのDennis Bovellと
Mad ProfessorのUKレゲエに果たした
役割は、何と大きかった事か…。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Brown Sugar
○アルバム: I'm In Love With A Dreadlocks:
Brown Sugar And The Birth Of Lovers Rock 1977-80
○レーベル: Soul Jazz Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2018

○Brown Sugar「I'm In Love With A Dreadlocks:
Brown Sugar And The Birth Of Lovers Rock 1977-80」曲目
1. Black Pride (1977)
2. Our Reggae Music (1979)
3. Hello Stranger (1977)
4. I'm In Love With A Dreadlocks (1977)
5. Hurtin' - with Dennis Bovell (1978)
6. I'm So Proud (1979)
7. Run Away Love (1978)
8. Dreaming Of Zion (1977)
9. Loving Dreadlocks Dub (1977)
10. You And Your Smiling Face (1979)
11. Do You Really Love Me (1978)
12. Proud (1977)
13. Confession Hurts (1980)