今回はTommy McCookのアルバム

tommy_mccook_06a

「Reggae In Jazz」です。

Tommy McCook(本名:Thomas Matthew
McCook)はスカ→ロックステディ→
ルーツ・レゲエと、レゲエの歴史に偉大な
足跡を残したサックス・プレイヤーです。
ジャズのサックス・プレイヤーの
John Coltraneに憧れて音楽を始めた彼は、
60年代のスカの時代に伝説のバンド
The Skatalitesでテナー・サックス奏者と
して活躍します。
その後もロックステディの時代には
Duke ReidのTreasure Isleレーベルで専属
バンドTommy McCook & The Supersonicsと
してロックステディの時代に活躍し、多く
の名曲を残しています。
さらに70年代のルーツ・レゲエの時代に
なっても、自身のソロ・アルバムや
Bunny LeeのバンドThe Aggrovatorsなどの
の数多くのセッション・バンドに参加して
レゲエという音楽を支え、けん引する役割
を果たすんですね。

そうした彼ですが1998年に亡くなって
います。

ネットのDiscogsによると、バンド活動も
含めた22枚ぐらいのアルバムと、
248枚ぐらいのシングル盤を残している
ほか、数多くのアルバムに名前を残して
います。

アーティスト特集 Tommy McCook (トミー・マクック)

aggrovators_03a
Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators ‎– Brass Rockers (1975)

今回のアルバムは1976年にUKの
Eveというレーベルからリリースされた
Tommy McCookのソロ・アルバムです。

プロデュースはBuster Rileyで、バック
にSly & RobbieやEarl 'Chinna' Smith
など当時のセッション・ミュージシャンが
多く参加したアルバムで、「Reggae In
Jazz」というタイトルからも解るように、
レゲエという音楽の中に彼がアルファ・
ボーイズ・スクールで学んだジャズの要素
が多く盛り込まれた、Jazzyな空気感の
インスト・アルバムとなっています。

手に入れたのは2013年にレゲエ・
リイシュー・レーベルPressure Sounds
からリイシューされたCD(新盤)でし
た。

ちなみに手に入れた日本番CDに付いて
いたレゲエ博士Steve Barrow氏の解説文に
よると、このアルバムは限定でリリース
されたアルバムだったため、かなりレア化
していたアルバムだったらしいです。
それがこのPressure Soundsのリイシュー
により多くの人の耳に届き、日の目を見た
アルバムという事らしいです。

またそうした限定的なリリースだった為
か、あるいは寄せ集めの音源だった為かは
解りませんが、今回のアルバムは多少音質
が悪いところがあります。
6曲目の「Black-Out」あたりは多少
こもったような音質で、聴き心地が
ちょっと悪いです。

全14曲で収録時間は約42分。
オリジナルは12曲で、残りの2曲は
当時のセッション・グループ
The Mercenariesのインスト「Beirut」
とそのダブが収められています。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Studio's: Dynamic Studio, Channel One

Musicians:
Drums: Sly Dunbar, Santa Davis, Micky 'Boo' Richards, Carlton Barrett
Bass: Robbie Shakespeare, George 'Fully' Fulwood, Aston "Family Man" Barrett
Guitar: Bertram 'Ranchie' McLean, Dwight Pickney, Earl 'Chinna' Smith
Keyboards: Jackie Mittoo, Ansel Collins
Horns: Roland Alphonso, Tommy McCook, Bobby Ellis, Herman Marquis, Vincent 'Vin' Gordon

Produced by: Buster Riley
Arranged by: Tommy McCook & B. Riley

Album Coordination: Pete Holdsworth
Annotation by: Steve Barrow
Artwork revival & layout: Teflon aka John Sims
Photographs courtesy the Riley Family

となっています。

レコーディングにつかられたスタジオは、
Dynamic StudioとChannel Oneとなって
います。
ミュージシャンはドラムにSly Dunbarと
Carlton 'Santa' Davis、Micky 'Boo'
Richards、Carlton Barrett、ベースに
Robbie ShakespeareとGeorge 'Fully'
Fulwood、Aston "Family Man" Barrett、
ギターにBertram 'Ranchie' McLeanと
Dwight Pickney、Earl 'Chinna' Smith、
キーボードにJackie MittooとAnsel
Collins、ホーンにRoland Alphonsoと
Tommy McCook、Bobby Ellis、Herman
Marquis、Vincent 'Vin' Gordonという
布陣です。
Sly & RobbieやギターのEarl 'Chinna'
Smith、The WailersのCarlton Barrett
とAston "Family Man" BarrettのBarrett
兄弟など、70年代に活躍していた
ジャマイカのセッション・ミュージシャン
が多く揃った布陣となっています。
やたらとミュージシャンの数が多いのは、
このアルバムが一度の録音ではなく、多く
のレコーディングの音源を集めたアルバム
だからだと思われます。
またアルバムにクレジットがありません
が、明らかにメロディカのサウンドが
入った曲がいくつかあり、おそらく
メロディカ奏者のAugustus Pabloが演奏
しているのではないかと思われます。

プロデュースはBuster Rileyで、アレンジ
はTommy McCookとB. Rileyが担当していま
す。
解説文にもありますが、Buster Rileyは
ジャマイカでMummyレーベルを運営する
プロデューサーで、Techniquesレーベルの
主催者Winston Rileyの弟なんだそうです。
アルバムにCDボーナス・トラックとして
セッション・グループThe Mercenariesの
インスト曲13曲目「Beirut」と14曲目
「Beirut Version」が収められています
が、この2曲はBuster Rileyのレーベル
Mummyから78年に7インチ・シングル盤
としてリリースされた曲です。

ちなみにこのThe Mercenariesは、ネット
のDiscogsによると、1976年から
80年ぐらいの間にシングル盤を11枚
ぐらいリリースしているグループです。

アルバムのコーディネーションは
Pressure SoundsのPete Holdsworthで、
このアルバムのライナー・ノーツをレゲエ
博士として知られるSteve Barrowが書いて
います。
アート・ワークの作り直しをTeflon
(別名:John Sims)がおこなっていま
す。
元のジャケットを誰がデザインしたのかは
解りませんが、画面右下のデザインされた
太陽(旭日マーク?)のところに、
アルバムをリリースした「Eve」という
レーベルの名前がデザインされて入って
います。

tommy_mccook_07a
裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、Tommy McCook
はこの70年代に多くのサックスの
インスト・アルバムをリリースしている
アーティストですが、その中でも今回の
アルバムは非常にジャズの色合いが強い
内容で、なかなか興味深いアルバムだと
思います。

80年代以降はレゲエのデジタル化など
もあり徐々に活躍の場を失って行く
Tommy McCookですが、60年代から
70年代のスカからロックステディ、
レゲエ(ルーツ・レゲエ)の時代の活躍
ぶりは目を見張るものがあります。
もともとはアメリカのリズム・アンド・
ブルースなどに影響を受けて誕生した
スカという音楽でしたが、それにジャズ
のビッグ・バンドのようなホーンを中心
としたアドリブの要素を盛り込んだのは
彼が所属したThe Skatalitesで、その
華やかなサウンドはジャマイカやUKの
若者を魅了したんですね。
さらにロックステディの時代には
Duke ReidのレーベルTressure Isleで
The Supersonicsを率いてロックステディ
という音楽をリードした実績も見逃せ
ません。
その後のレゲエの時代に入ると、
セッション・ミュージシャンとして
トランペットのBobby Ellisや
トロンボーンのVin Gordon、サックスの
Herman Marquisなどとともに重厚な
ホーン・セクションで、レゲエという音楽
にひと味違う奥行きのあるサウンドを
プラスしています。

この70年代のルーツ・レゲエの時代まで
は、ジャマイカの音楽界にはジャズの素養
を持ったTommy McCookというサックス・
プレイヤーが常に活躍していたんですね。
今回のアルバム・ジャケットにも、
「Reggae In Jazz」という文字の横に
「Featuring The Great Tommy McCook」と
いう文字が書かれていて、「The Great」
という称号で彼を讃えています。

その彼Tommy McCookの出発点は少年時代に
カソリック系の更生施設アルファ・
ボーイズ・スクールで、ジャズという音楽
を学んだ事だったんですね。
当時のジャマイカはこのアルファ・
ボーイズ・スクール出身のミュージシャン
が多く、Tommy McCookの他にもBobby Ellis
やDon Drummond、Johnny 'Dizzy' Moore、
Rico Rodriguezなどもここで音楽を学んだ
ミュージシャンなんですね。

そうしたTommy McCookのジャズの素養が
生かされたのが、今回のアルバムという事
になります。
書いたようにこのアルバムは一度の録音
ではなく、彼の楽曲の中からジャズの要素
の強い楽曲をチョイスしたもののよう
です。
もちろんジャズの要素よりはレゲエの要素
が強い楽曲が多いですが、合間良く入る
サックス・プレイなどにはしっかりと
ジャズのアドリヴの要素も感じられます。
リラックスしたサックス・プレイが
なかなか魅力的なアルバムで、レゲエの
インストのアルバムとしては悪くない内容
だと思います。

書いたように6曲目「Black-Out」などの
音質が多少悪いのが、ちょっと惜しまれる
ところ。
当時はテープを何度もダビングして編集
していたようなので、音質の劣化は仕方の
無い側面もありますが…。

1曲目は「Grass Root」です。
華やかで息の合ったホーン・セクションの
オープニングから、刻むようなギターの
メロディも入った明るいインスト曲です。

Tommy McCook - Grass Root


2曲目は「Caution」です。
Jazzyなサックスのイントロから、
キーボードとサックスを中心とした雰囲気
のあるなインスト曲です。

3曲目は「Sin」です。
リズミカルなギターと流れるような
キーボードの演奏に、ホーン・セクション
の明るいメロディが入って来るインスト曲
です。

4曲目は「Wild Bunch」です。
キーボードと高音のサックスのちょっと
陰のあるメロディの、ムーディーな
インスト曲です。
ちょっと録音が荒い印象もありますが、
そのラフさも魅力的。

Tommy McCook & The Hippy Boys- Wild Bunch


5曲目は「Bam-Bam」です。
疾走感のあるハモンド・オルガンとギター
のメロディに、唸るようなトロンボーン、
イカシたギター・ソロなどのアドリヴが
が交互に登場して来るインスト曲です。

Bam Bam - Reggae In Jazz


6曲目は「Black-Out」です。
フライング・シンバルの特徴的な
シャラシャラとしたドラミングに、
Augustus Pabloと思われる哀愁のある
メロディカのメロディが印象的なインスト
曲です。
書いたように録音状態があまり良くありま
せんが、それを差し引いても聴きどころ
満載な1曲です。

Augustus Pablo - Black Out (Techniques)


7曲目は「Collin '1'」です。
浮遊感のあるキーボードとギターの流れる
ようなメロディが心地良いインスト曲
です。

TOMMY MCCOOK COLLIN 1.wmv


8曲目は「Collin '2'」です。
刻むようなギターと浮遊感のある
キーボードのメロディのインスト曲です。

9曲目は「Bad Man」です。
ギターとホーン・セクションのメロディの
楽し気なインスト曲です。

10曲目は「Good Bye」です。
歯切れの良いリズムに明るく華やかな
ホーン、ピアノやキーボードのメロディも
入った楽しいインスト曲です。

11曲目は「Rock Away」です。
こちらもメロディカのメロディを中心に、
ギターやキーボードの演奏がイイ感じの
インスト曲です。

Tommy McCook - Rock Away - CD


12曲目は「War」です。
ギターとキーボード、サックスのメロディ
の明るいインスト曲です。

ここまでがオリジナル・アルバムに収め
られた曲で、残りの2曲はセッション・
グループThe Mercenariesの78年に
リリースのシングル盤からの曲が収められ
ています。

13曲目はThe Mercenariesの「Beirut」
です。
浮遊感のあるキーボードとギター、ピアノ
などが入ったインスト曲です。

14曲目はThe Mercenariesの「Beirut
Version」です。
13曲目The Mercenariesの「Beirut」の
ダブ(ヴァージョン)です。

ざっと追いかけてきましたが、多少音質に
バラつきはあるものの、インスト・
アルバムとしてはなかなか良い出来の
アルバムで、内容は悪くないと思います。

何より当時あまり耳に出来なかった
アルバムが、今の時代に聴けるのはとても
貴重です。
リイシュー・レーベルPressure Soundsの
努力を、素直に評価したいと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Tommy McCook
○アルバム: Reggae In Jazz
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○Tommy McCook「Reggae In Jazz」曲目
1. Grass Root
2. Caution
3. Sin
4. Wild Bunch
5. Bam-Bam
6. Black-Out
7. Collin '1'
8. Collin '2'
9. Bad Man
10. Good Bye
11. Rock Away
12. War
(CD Bonus Tracks)
13. Beirut - The Mercenaries
14. Beirut Version - The Mercenaries

●今までアップしたTommy McCook関連の記事
〇Tommy McCook & The Agrovators「King Tubby Meets The Agrovators At Dub Station」
〇Tommy McCook & The Super Sonic「Top Secret」
〇Tommy McCook and The Agrovators「Cookin'」
〇Tommy McCook「Greatest Hits Of The Skatalites Featuring Tommy McCook」
〇Tommy McCook「Real Cool: The Jamaican King Of The Saxophone '66-'77」
〇Tommy McCook「The Sannic Sounds Of Tommy McCook」
〇Tommy McCook & The Supersonics「Down On Bond Street」
〇Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators「Brass Rockers」