今回はJohnny Clarkeのアルバム

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「Don't Trouble Trouble」です。

Johnny Clarkeは70年代のルーツ・
レゲエの時代から活躍するシンガーです。
プロデューサーのBunny Leeの娘婿として
知られ、彼のレーベルから多くのヒット曲
を放ち、「次世代シンガー」ともてはや
されたシンガーです。
Earl Zero作曲のフライング・シンバルの
名曲「None Shall Escape The Judgement」
などのヒット曲があり、その後も長く
シンガーとして活躍したのが、この
Johnny Clarkeというシンガーです。

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て40枚ぐらいのアルバムと、357枚
ぐらいのシングル盤を残しているのが、
このJohnny Clarkeというシンガーです。

アーティスト特集 Johnny Clarke (ジョニー・クラーク)

今回のアルバムは1989年にUKの
Bunny LeeのレーベルAttackからリリース
されたJohnny Clarkeの75年から76年
ぐらいの曲を集めたコンピュレーション・
アルバムです。

プロデュースはBunny Leeで、バックは
Bunny Leeのバック・バンド
The Aggrovatorsで、選曲にレゲエ博士
として知られるSteve Barrow氏が参加し
たアルバムで、「Rock With Me Baby」
や「Poor Marcus」などの代表曲を
はじめ、I RoyとPrince Jazzboの伝説の
舌戦にも使われた「Do You Love Me」
や、表題曲の「Don't Trouble Trouble」
など、Johnny Clarkeというシンガーの
魅力がうまく詰め込まれたコンピュレー
ション・アルバムとなっています。

手に入れたのはAttackからリリースされた
LPの中古盤でした。

Side 1が7曲、Side 2が7曲の全14曲。

詳細なミュージシャンの表記はありま
せん。

All tracks produced by Bunny Lee
All Musical Rhythms played by the Aggrovators
Compiled by Steve Barrow
Sleeve Design by Intro, London
Photography by Jon Sturdy

という記述があります。

プロデュースはBunny Leeで、バックは
彼のハウス・バンドThe Aggrovatorsが
担当し、編集はレゲエ博士として知られる
Steve Barrow氏が担当しています。

ジャケット・デザインはロンドンの
Introというデザイン事務所で、写真は
Jon Sturdyとなっています。

またネットのDiscogsには
Features tracks from 1975 and 1976.
という記述があり、今回の楽曲が
1975年から76年に録音された楽曲と
思われます。

この時期はというと、ジャマイカでは
Carlton 'Santa' Davisの開発した
「フライング・シンバル」というドラム
奏法が大流行した時期なんですね。
このフライング・シンバルはネットの
Wikipediaによると、「ワンドロップの
ドラムに、通常はギターやキーボードが
強調する2拍目、4拍目をハイハットの
オープンショットによって強調する」と
いうドラム奏法で、ほぼこの
The Aggrovatorsの専売特許とでもいえる
ドラム奏法です。

レゲエ - Wikipedia

Johnny Clarkeのヒット曲「None Shall
Escape The Judgement」や「Move Out A
Babylon」などがその代表曲と言われて
います。
またKing TubbyはこのThe Aggrovatorsの
ダブを多く発表しているので、彼のダブ・
アルバムなどでもこのフライング・
シンバルのビートをよく聴く事が出来
ます。
ちなみに今回のアルバムにはミックス・
エンジニアの記述がありませんが、
おそらくKing Tubbyおよび彼のスタジオ
King Tubby'sでのミックスと思われます。

さて今回のアルバムですが、シンガーと
してのJohnny Clarkeの魅力がうまく収め
られたアルバムで、とてもよく出来た
コンピュレーション・アルバムだと思い
ます。

このアルバムが発表されたのは89年で、
この頃はルーツ・レゲエの時代が終わり、
ジャマイカではKing Jammyによるデジタル
のダンスホール・レゲエが大流行していた
時代だったんですね。
ただ世界的に見るとまだルーツ・レゲエの
人気は根強く、多くの支持者がルーツ・
レゲエ、ルーツ・ミュージックを愛して
いたんですね。

その代表ともいえるのがこのSteve Barrow
氏で、この時代の彼はまだあのBlood &
Fireという伝説のリイシュー・レーベルを
作る前ですが、彼はルーツの時代を的確に
分析し、ルーツ・レゲエを愛する人々から
絶大な支持を得ていたんですね。
今回のアルバムからもその的確なルーツ・
レゲエ、特にフライング・シンバルの選曲
から彼のこの時代の音楽に対する深い愛情
がうかがえます。
その深い知識と冷静な分析力がこのSteve
Barrow氏の最大の長所なんですね。
彼はその後90年代になると自分の
リイシュー・レーベルBlood & Fireを興し
て、再び70年代のルーツ・レゲエを人々
に注目させる事に成功するんですね。
その後もルーツ・レゲエはたびたび復活
していますが、このSteve Barrow氏の
レーベルBlood & Fireの活躍も、こうした
ルーツ・レゲエの復活には影響を与えて
いるのかもしれません。

また今回の歌手のJohnny Clarkeですが、
あのレゲエ本「Roots Rock Reggae」に
よるとデビュー当時は「他人の曲の
リメイクの多さから、以前は彼を一流と
して認めない向きもあった」と書かれて
います。
彼はBunny Leeの元で活躍したシンガー
ですが、このBunny Leeはとにかく同じ
楽曲を使い回す事の多いプロデューサー
だったんですね。
この70年当時のジャマイカは貧しい国
で、楽曲を制作するプロデューサーは
すべてのお金を負担するので、一度録音
した演奏を再利用する必要があったんです
ね。
そうした事情からあの実験的な音楽ダブ
や、曲の中で喋るトースティングという
技法のディージェイなどが誕生していま
す。
Johnny Clarkeもデビュー当時はオリジナル
曲ではなく、人のヒット曲を歌わされる事
が多かったと推測されます。
その為彼のヒット曲の「None Shall
Escape The Judgement」なども実は
Earl Zeroの曲だったりして、彼がB級
シンガーというレッテルを貼られて
しまった側面があるのかもしれません。

Johnny Clarke - None Shall Escape The Judgement


ただ彼の歌の実力は本物でその実力は徐々
に認められ、「次世代シンガー」という
評価まで受けるようになります。

実は私自身も再びレゲエを聴き始めた頃に
この「None Shall Escape The Judgement」
を聴いて完全にヤラレちゃって、彼の
アルバムを買い漁った事があります。
当時はなぜかベスト盤ぐらいしか売って
おらず、その後中古盤などが徐々に集まり
ましたが、彼のアルバムを集めるのに苦労
した事を今でもよく覚えています。
彼はやはりルーツ期のシンガーとして外せ
ない人で、その歌声は中毒性があるほど
やはりとても魅力的です。

今回のアルバムはSteve Barrow氏の好選曲
もあり、Johnny Clarkeの魅力がうまく
収められた、なかなか魅力的なコンピュ
レーション・アルバムだと思います。

Side 1の5曲目「Do You Love Me」は、
I RoyとPrince Jazzboの間で起こった伝説
の舌戦で使われた曲として知られていま
す。

I Roy - Straight to the head of Prince Jazzbo - 1973


Bunny Leeの元で録音していたPrince
Jazzboのトースティングの録音がなかなか
うまく行かず、次の録音の為に待たされて
いたI-RoyがPrince Jazzboをからかって
トースティングしたのがこの「Straight
To Prince Jazzbo's Head」だったんです
ね。
これは面白い!と思ったBunny Leeはこの
曲をリリースし、ジャマイカでこの曲は
大ウケするんですね。
そして今度はPrince JazzboがI-Royを
揶揄した曲を発表するという形で、伝説の
舌戦にまで発展するんですね。
その元の曲がこのJohnny Clarkeの
「Do You Love Me」です。

Side 2の1曲目「Bring It On Home To
Me」は、アメリカのソウル・シンガー
Sam Cookeの名曲です。
このSam Cookeは早くからアメリカの
公民権運動にも参加した・ソウル・
シンガーで、当時兵役を拒否した
Muhammad Ali(Cassius Clay)や、
活動家のMalcolm Xとも交流があった
シンガーだったんですね。
アメリカのフォーク・シンガーBob
Dylanの「Blowin' In The Wind」に
影響を受けて作られた「A Change Is
Gonna Come」は、黒人の権利を歌った
名曲としてよく知られています。

サム・クック - Wikipedia

マルコム・X - Wikipedia

モハメド・アリ - Wikipedia

最後は暗殺とも思われる不可解な死を遂げ
たSam Cookeですが、Muhammad Aliや
Malcolm Xなどともにアメリカの黒人史に
残る英雄なんですね。
そのSam Cookeの名曲のひとつがこの
「Bring It On Home To Me」で、この
あたりの選曲もSteve Barrow氏らしい
ところです。

Sam Cooke - Bring It On Home to Me - with lyrics


ヒット曲の「Rock With Me Baby」や
「Poor Marcus」、表題曲の「Don't
Trouble Trouble」なども素晴らしい曲
ですが、このあたりにも注目して聴いて
みると、また面白さが増すかもしれま
せん。

Side 1の1曲目は「Rock With Me Baby」
です。
ギターのリズミカルなメロディに乗せた、
ohnny Clarkeのソフトなヴォーカルが
魅力的。

Johnny Clarke - Rock With Me Baby


2曲目は「Cold I Up」です。
浮遊感のあるキーボードにギターとピアノ
のメロディ、Johnny Clarkeのソフトで
力強いヴォーカルがイイ感じの曲です。

3曲目は「Rebel Soldering」です。
フライング・シンバルのビートに、
ちょっとファンキーなギター、エコーの
かかったJohnny Clarkeのヴォーカルが
グッド。
途中に入るJohnny Clarkeのリラックス
した笑い声も印象的です。

Johnny Clarke ‎– Rebel Soldering (Rebel Soldiering)


4曲目は「Too Much War」です。
リズミカルなギターのメロディに、
ソフトに入って来るJohnny Clarkeの
ナイスなヴォーカル。

5曲目は「Do You Love Me」です。
書いたようにI-RoyとPrince Jazzboの
伝説の舌戦で使われた曲です。
ノリの良いギターのメロディに、
スキャットからのJohnny Clarkeの感情を
乗せたヴォーカルが魅力的。

Johnny Clarke - Do You Love Me


6曲目は「Since I Fell For You」です。
ギターの刻むようなメロディに
キーボード、Johnny Clarkeのソフトで
感情を乗せたヴォーカルがイイ感じの曲
です。

7曲目は「Tears On My Pillow」です。
刺激的なサイレン音から、刻むような
ギターのメロディに乗せた、Johnny Clarke
のヴォーカルが魅力的な曲です。

Johnny Clarke - Tears On My Pillow (Trojan)


Side 2の1曲目は「Bring It On Home
To Me」です。
書いたようにソウル・シンガーSam Cooke
の名曲のカヴァーです。
ギターとピアノのメロディにフライング・
シンバルのビート、ソウルの曲をうまく
レゲエ・アレンジした曲ですが、ソフトな
Johnny Clarkeのヴォーカルがうまく魅力
を引き出しています。

Johnny Clarke - Bring It On Home To Me - Reggae


2曲目は「You Keep On Running」です。
刻むようなギターとキーボードのメロディ
に、滑らかに入って来るJohnny Clarkeの
ヴォーカルがとても魅力的。

3曲目は「Poor Marcus」です。
リディムはMighty Diamondsの「Them
Never Love Poor Marcus」です。
ギターとキーボード、ホーンの印象的な
メロディに、フライング・シンバルの
ビート、陰影を際立たせるJohnny Clarke
の魅力的なヴォーカル。

JOHNNY CLARKE - Poor Marcus [1975]


4曲目は「Stop The Tribal War」です。
Johnny Clarkeの感情を乗せた哀愁のある
ヴォーカルに、ピアノとギターを中心と
したちょっと悲し気なメロディがかなり
グッと来る曲です。

Johnny Clarke-Stop the Tribal War


5曲目は「Don't Call I Daddy」です。
女性と男性の語りから、フライング・
シンバルのノリの良いビート、ホーンの
楽し気なメロディに乗せた、Johnny
Clarkeのソフトなヴォーカルがグッド。
合間に入る口笛も魅力。

6曲目は表題曲の「Don't Trouble
Trouble」です。
リラックスした語りから、ホーン・
セクションの重厚なメロディに刻むような
ギター、Clarkeのヴォーカルもグッド。

Johnny Clarke - Don't Trouble Trouble


7曲目は「Don't Stay Out Late」です。
リズムカルなホーン・セクションの
メロディに、Johnny Clarkeの明るい
ヴォーカルがグッド。

ざっと追いかけてきましたが、ルーツ期に
輝いたシンガーJohnny Clarkeはとても
魅力的で、そのリュクをうまく引き出した
Steve Barrow氏の選曲が光る、とても良く
出来たコンピュレーション・アルバムだと
思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Johnny Clarke
○アルバム: Don't Trouble Trouble
○レーベル: Attack
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1989

○Johnny Clarke「Don't Trouble Trouble」曲目
Side 1
1. Rock With Me Baby
2. Cold I Up
3. Rebel Soldering
4. Too Much War
5. Do You Love Me
6. Since I Fell For You
7. Tears On My Pillow
Side 2
1. Bring It On Home To Me
2. You Keep On Running
3. Poor Marcus
4. Stop The Tribal War
5. Don't Call I Daddy
6. Don't Trouble Trouble
7. Don't Stay Out Late

●今までアップしたJohnny Clarke関連の記事
〇Johnny Clarke「A Ruffer Version: Johnny Clarke At King Tubby's 1974-78」
〇Johnny Clarke「Authorised Rockers」
〇Johnny Clarke「Jah Jah We Pray」
〇Johnny Clarke「Originally Mr. Clarke」
〇Johnny Clarke「Satisfaction」
〇Johnny Clarke「Sings In Fine Style」
〇Various「Rubadub Revolution: Early Dancehall Productions From Bunny Lee」
〇Various「When Jah Shall Come」