今回はSymaripのアルバム

simaryp_01a

「Skinhead Moonstomp」です。

Simaryp (Symarip)は他にThe Pyramids
やThe Bees、Seven Lettersという名前で
活動した黒人のスキンヘッド・レゲエ・
バンドです。
おもに60年代後半から70年代前半に
かけて活躍したグループで、Simarypと
して1970年にアルバム「Skinhead
Moonstomp」を残しているほか、
The Pyramidsとして1968年に
「The Pyramids」、81年に「Drunk
and Disorderly」という2枚のアルバム
を残しています。
また1967年にはThe Pyramidsとして
Prince BusterのUKツアーのバック・
バンドも務めています。

またMr. Symaripとも言われるリード・
ヴォーカルのRoy Ellisは、あのAlton
Ellisと「half brother(半分兄弟)」
という記載が、ネットのDisciogsにあり
ます。

ネットのDisciogsによるとSimarypと
して2枚のアルバムと、8枚ぐらいの
シングル盤、The Pyramidsとして2枚の
アルバムと22枚ぐらいのシングル盤、
The Beesとして3枚ぐらいのシングル盤、
Seven Lettersとして8枚ぐらいの
シングル盤をリリースしています。

Symarip - Wikipedia

今回のアルバムは1970年にUKの
Trojan Recordsからリリースされた
Symarip名義のアルバムです。

のちにThe Specialsがカヴァーした事でも
知られる彼らの代表曲「Skinhead
Moonstomp」をはじめとして、初期レゲエ
の香りの残るアルバムで、なかなか面白い
内容のアルバムだと思います。

手に入れたのは1980年に日本の
Trio RecordsからリリースされたLP
(新盤)でした。
中にはライナー・ノーツとしてピーター・
バラカンさんの解説文と、英文の歌詞が
付いていました。
このアルバムは私がまだ初めにレゲエを
聴いていた、20代の頃(おそらく80年
頃)に購入したアルバムでした。

Side 1が6曲、Side 2が6曲の全12曲。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Symarip are:
Lead Singer, Percussion: Roy Ellis
Keyboards: Monty Naismith
Guitar: Joshua Roberts
Drums: Frank Pitta
Bass: Michael Thomas

Cover Design by: Pipco's

となっています。

Symaripのメンバーはリード・ヴォーカル
とパーカッションにRoy Ellis、
キーボードにMonty Naismith、ギターに
Joshua Roberts、ドラムにFrank Pitta、
ベースにMichael Thomasという構成です。

また裏ジャケに記載はありませんが、
ネットのDisciogsではプロデューサーが
Philligreeとなっていました。

ジャケット・デザインはPipco'sとなって
います。

simaryp_02a
裏ジャケ

実はこのジャケット、非常に珍しい
ジャケットなんですね。
今回のジャケットはSimarypの黒人
メンバーの写真が使われていますが、他の
国のジャケットでは白人のいかにもスキン
ヘッドといった青年達の写真のジャケット
なんですね。
つまりオール白人のスキンヘッド・
レゲエ・バンドというギミックの写真が
使われているんですね。
なぜ日本のTrojan Recordsだけ、黒人
メンバーの写った写真が使われたのか?
事情は解りませんが、今となると意外と
貴重なジャケットなのかもしれません。
(ちなみに月面を作業靴で踏みしめる
イラストのジャケットもあります。)

さて今回のアルバムですが、まだレゲエと
いう音楽の始まったばかりの初期レゲエ
らしい空気感のあるアルバムで、多少荒い
構成ながら当時の不良少年スキンヘッドの
愛した楽曲が、堪能出来る内容となって
います。

書いたようにこのグループはいろいろ名前
を変えて活動したグループのようで
The Beesとしては67~68年頃に3枚
ぐらいのシングル盤をリリースしています。

The Bees - Jesse James Rides Again - UK Columbia 1967


そしてThe Pyramidsとしては1968年に
「The Pyramids」、81年に「Drunk
and Disorderly」という2枚のアルバム
をリリースしているほか、67~74年、
80~81年、2005年と時々期間が
空きながらもシングル盤を22枚ぐらい
リリースしています。

The Pyramids - Train Tour To Rainbow City

↑1967年のシングルです。

The Pyramids-Mexican Moonlight.wmv

↑1968年のシングルです。

The Pyramids - Telstar

↑1970年のシングルです。

そしてSeven Lettersとしては69年に
7枚、93年に1枚のシングル盤を
リリースしています。
(93年のは新録かちょっと怪しい
です。)

The Seven Letters "People get ready" Doctor Bird 1189 A (1969)


Seven Letters - Mama me want gal


そしてSimarypとしては70年に今回の
アルバム「Skinhead Moonstomp」を
リリースしているほか、2017年には
なんと新録で「Skinhead Moonstomp」を
再び新しく作り直しているんですね。
またシングル盤は69~70年に5枚、
79年に「Skinhead Moonstomp」を2種類
再リリースしており、他に制作年不明の曲
が1枚あります。

こうして見て来ると、すべてのグループが
同じユニットと言えるかどうかは解りま
せんが、Simarypとして活動していた時期
は69~70年で、もっともメインで活動
していたのはThe Pyramids名のバンドで、
67~74年ぐらいがもっとも活動して
いた時期と思われます。

ネットのYouTubeにはこのThe Pyramidsか
Simarypか解りませんが、Roy Ellisと
思われる上半身裸で青いズボンに
サスペンダーを付けた男性が、いかにも
スキンヘッド・レゲエといった曲の間奏に
バク転をする映像がありました。

The Pyramids aka Symarip (Roy Ellis - The Reggae Festival Wembley | 1970)

↑1970年のパフォーマンス映像

実際にネット上のいろいろなバンド名の
このグループの楽曲を聴いた感じでは、
どうやらスカの時代から活躍するバンドの
ようで、そのスカやロックステディ、初期
のレゲエといった音楽の匂いのするバンド
のようです。
表題曲の「Skinhead Moonstomp」は、彼ら
の69年当時の最大のヒット曲だったよう
です。
その勢いで作られたのが今回のアルバムの
ようです。

ただ黒人のメンバーのバンドだったのに、
オリジナルのジャケットは当時のスキン
ヘッド(不良少年)の人気を意識したの
か、いかにもスキンヘッドという風情を
した5人の白人青年が写った、彼らが
メンバーと勘違いするようなギミック・
ジャケットなんですね。

実は今回調べるまでこのSimarypは、白人
のスキンヘッド・レゲエ・バンドだと
ずっと思っていました。
日本盤のジャケットの方が、ギミック・
ジャケットだと思っていたんです
ね(苦笑)。
お恥ずかしい事ですが、前にAmebaで
ブログを書いていた頃は、そう書いて
しまった事もあります。
ところが今回アルバム評を書こうとよく
調べてみると、実際は黒人のスキン
ヘッド・レゲエ・バンドだという事が解り
ました。
ネットのDisciogsでメンバーの写真を見る
と皆黒人で、しかもシンガーのRoy Ellis
はあのAlton Ellisと「半分兄弟」と
あったので、これはもう間違いないと思い
ました。

実はこのSimarypというバンドはこの
60年代後半から70年代前半以外にも、
もう一度注目された時期がありました。
それが70年代後半にUKでThe Specials
などを中心に起こったネオ・スカのブーム
の、いわゆる「2トーン・ブーム」なん
ですね。
その中心バンドだったThe Specialsが、
45回転12インチEPのライヴ・
アルバム「Too Much Too Young」で彼ら
の曲「Skinhead Moonstomp」を演奏した
事で、彼らは再び注目される事となるん
ですね。

specials_03a
The Specials Featuring Rico - Too Much Too Young: The Special A.K.A. Live! (1979)

これで再び注目されたSimarypは、70年
のこのアルバムをTrojan Recordsから
80年に再リリースしているんですね。
彼らSimarypの名前が知れ渡り、アルバム
がもっとも売れたのは、むしろこの時期
だったのかもしれません。
そして日本のTrio Recordsからも、この
アルバムが発売されたんですね。
当時は情報量があまり多くなかったので、
私はてっきりこのグループが2トーン・
ブームによって出てきた「白人のレゲエ・
バンド」だと思っていました(笑)。
ただTrio Recordsの解説文を書いている
ピーター・バラカンさんも、このグループ
について「何も知らない」と書いている
ほどなので、日本でこのグループについて
知っている人は本当に少なかったんだと
思います。

ただこのSimarypにとってはこの2トーン・
ブームで名前が上がった事はとても大き
く、The Pyramids名義のアルバムも
81年にリリースしているほどなんです
ね。
それがこのバンドが細々ながらも生き
残り、2017年にも再録をするほど
続いている理由なんですね。

ちなみにグループ名ですが、Simarypと
Symaripの2通りの表記があります。
よく調べてみると70年のアルバムの
リリース時にはSymarip、80年の再
リリース時にはSimarypという名前が
使われているようです。

このSimarypという変わった名前です
が、The Pyramidsの逆さから読んだ名前
「sdimaryp」から「d」を抜いた名前の
ようです。
そう考えるとSimarypという名前の方が
正しいのかもしれません。
初めのSymaripは語呂が悪いので「y」と
「i」を入れ替えたのか?

ちなみに解説文を書いているピーター・
バラカンさんは、The Pyramidsという
バンドの存在を知らなかったようですが、
見事にピラミッドの逆さ名前と言い当てて
いて、タイプライターの隣り同士の「d」
と「s」を打ち間違えたのではないか?と
推論しています。

他にスキンヘッドはUKの労働階級の若者
で、短髪に半袖白シャツ、短く折った
リーヴァイスのジーンズに赤い
サスペンダー、ドクター・マーティンズの
重い感じのブーツが定番ファッションで、
それを想像するだけで怖いという事が書か
れています。
帰り道に彼らの溜まり場所ウィンピーが
あり、よく殴られたり蹴られたりしたんだ
とか。
他のモッズなどは仲間同士のケンカは
あってもあまり襲って来たりはしなかった
けれど、スキンヘッドは1人1人はとても
臆病な青年なのだけれど、たむろすると
とてもガラが悪く、やたらと襲って来て
怖かったんだそうです。

そうした不良青年スキンヘッドに人気の
音楽が、初めはスカであり、ロック
ステディであり、初期レゲエのスキン
ヘッド・レゲエだったんですね。
スキンヘッド・レゲエの人気グループと
しては、Lee PerryのThe Upsettersや
Harry J All Starsなどが知られていま
す。
このSimarypもどこまでの人気だったかは
解りませんが、スキンヘッド・レゲエの
人気グループだったと思われます。

さてSimarypの複雑な履歴を説明するだけ
でけっこう長くなってしまいましたが
(笑)、レゲエの始まりに流行したスキン
ヘッド・レゲエの軽快なノリに乗せた曲
は、この70年代初めならでは魅力があり
ます。
表題曲で代表曲の「Skinhead Moonstomp」
は、掛け声から始まるスキンヘッド・
アンセムともいえる曲で、ガシっと硬い
ビートに乗せたノリノリの演奏は、単純
だけれどもとても心を惹きつけるものが
あります。
そうした単純な楽曲の合間に、時折ロック
ステディを思わせる、ちょっとスウィート
な楽曲もあるのも人気の秘密かもしれま
せん。
細かく聴いて行くと全体に黒人の
アーティストらしい、粘着質のグルーヴ感
も感じられます。

なるべく曲を詰め込もうとしたためか、
いく分曲の構成が雑に感じられるのが、
ちょっと残念なところです。
特にB面にその感があります。
それがまだ70年という時代を感じさせる
ところではあります。

Side 1の1曲目は表題曲の「Skinhead
Moonstomp」です。
Roy Ellisと思われるリード・ヴォーカル
の掛け声から、軽快なドラミングに乗せた
ギターとベース、キーボードの歯切れの
良い演奏、「イェイェイェ~~♪、
イイェ~~♪」という煽り…。
理屈抜きのスキンヘッド・アンセムです。

symarip skinhead moonstomp


シマリップ(Symarip) - Skinhead Moonstomp - 1970 - リリック

2曲目は「Phoenix City」です。
66年のRoland Alphonsoの同名ヒット曲
のカヴァーです。
刻むようギターとキーボードにホーンの
抒情感のある演奏に、「チキチキチキ…」
というスキャットが楽しい曲です。

Symarip - Phoenix City


3曲目は「Skinhead Girl」です。
ドラマチッキなイントロに軽快なギターと
ドラミング、コーラスに乗せたRoy Ellis
のちょっとスウィートな味わいのある
ヴォーカル。

4曲目は「Try Me Beat」です。
裏ジャケには確かに「Try Me Beat」と
印刷してありますが、「Try Me Best」
の誤植のようです。
ギターとキーボードのロックステディを
思わせるメロディに、軽快なビート、
コーラスに乗せた甘いヴォーカル。
間奏のキーボード・ソロもグッド。

Symarip - Try Me Best


5曲目は「Skinhead Jamboree」です。
ギターキーボードに遊びの入った、
ちょっとユーモラスな曲です。
喋るようなヴォーカルも面白いところ。

6曲目は「Chicken Merry」です。
「臆病なメリー」という邦題が付けられて
います。
まるで鶏の鳴き声のようなギターの遊び
から、刻むようなギターのメロディに乗せ
たRoy Ellisのヴォーカルと合わせるよう
なコーラス。

Symarip - Chicken Merry


Side 2の1曲目は「These Boots Are
Made For Walking」です。
「にくい貴方」という邦題が付いていま
す。
叫び声から刻むようなギターに乗せた
ちょっとに陽気なヴォーカルが、いかにも
スキンヘッドといった曲です。

Mr.Symarip - These Boots Are Made For Walking


2曲目は「Must Catch A Train」です。
抒情的なギターのメロディから刻むような
ギター・ワークに乗せた、スムーズな
ヴォーカルの心地良い曲です。
後半はホーンのメロディとなる、ちょっと
ロックステディの香りもする曲です。

SYMARIP... MUST CATCH A TRAIN


3曲目は「Skin Flint」です。
キーボードのメロディに刻むようなギター
のインスト曲です。
多少音質が悪いようで、少しパリパリ音が
入ります。

4曲目は「Stay With Him」です。
ホーンのイントロから軽快なギターの演奏
に、ちょっとエコーの効いた感情表現豊か
なヴォーカルがグッド。
こちらも私の持っているLPは、音質が
ちょっと悪いです。

Symarip - Stay With Him


5曲目は「Fung Shu」です。
ギターのチャイニーズ風の独特のメロディ
に、Roy Ellisのちょっと喋るような
トーストに近いヴォーカル、ちょっと
フザケたようなファルセット気味の
コーラス…。
こちらも音質がイマイチ。

6曲目は「You're Mine」です。
ギター・ワークから刻むようなギター・
ワーク、ロカビリー調の明るいヴォーカル
が魅力。
こちらも音質が…。

ざっと追いかけてきましたが、もしか
したら私のアルバムだけの事なのかもしれ
ませんが、どうもB面の曲がちょっと音質
が悪いのが気になりました。

ただ全体にはこの70年にリリースされた
アルバムとしては、かなり曲が粒ぞろい
で、スキンヘッド・レゲエのアルバムと
してはとてもよく出来たアルバムでは
ないかと思います。
スキンヘッド・レゲエが好きな人は
もちろんですが、スカやロックステディと
いったジャマイカのレゲエ以前の音楽が
好きな人にもおススメ出来る内容だと思い
ます。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Symarip - "These Boots Were Made For Stomping" (Live) - Moonstomping At Club Ska CD


○アーティスト: Simaryp (Symarip)
○アルバム: Skinhead Moonstomp
○レーベル: Trio Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1970

○Simaryp (Symarip)「Skinhead Moonstomp」曲目
Side 1
1. Skinhead Moonstomp
2. Phoenix City
3. Skinhead Girl
4. Try Me Beat
5. Skinhead Jamboree
6. Chicken Merry
Side 2
1. These Boots Are Made For Walking
2. Must Catch A Train
3. Skin Flint
4. Stay With Him
5. Fung Shu
6. You're Mine