今回はHalf Pintのアルバム

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「Money Man Skank」です。

Half Pint(本名:Lindon Andrew
Roberts)は80年代のダンスホール・
レゲエの時代に活躍したシンガーです。

ネットのDiscogsには彼について次のよう
に書かれています。

A product of West Kingston, Half Pint got into Jamaica's music industry in 1976.
Pint toured the island with various sound systems including Black Scorpio, Jammys,
Gemini, Lee's Unlimited and Killimanjaro, earning respect along the way as a
talented vocalist and performer.

《西キングストンに生まれたHalf Pintは
1976年にジャマイカの音楽業界に入り
ました。
Black ScorpioやJammys、Gemini、 Lee's
Unlimited、Killimanjaroといった様々な
島中のサウンド・システムでツアーを行い、
優秀なヴォーカリスト、パフォーマーと
して尊敬を集める存在となりました。》

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て13枚ぐらいのアルバムと、173枚
ぐらいのシングル盤をリリースしている
シンガーです。

アーティスト特集 Half Pint (ハーフ・パイント)

Half Pint - Wikipedia

今回のアルバムは1984年にジャマイカ
のJammy's Recordsからリリースされた
彼のソロ・アルバムです。

まだデジタルのダンスホール・レゲエを
仕掛ける前のPrince Jammyがプロデュース
で、ミックスはPrince JammyとScientist
が担当したアルバムで、バックはアナログ
録音で歌とダブが交互に収められたショー
ケース・スタイルのアルバムとなって
おり、表題曲の「Money Man Skank」を
はじめとして「Puchie Lue」や
「Mr. Landlord」など、彼の初期の代表曲
が収められたアルバムで、この時代の
Jammy's Recordsのクオリティの高さが
よく解るアルバムに仕上がっています。

手に入れたのは、Jammy's Recordsから
リリースされたLPの中古盤でした。

ちなみにタイトルの「Money Man Skank」
とは、「お金持ちの男の好きな尻軽女」と
いう意味です(笑)。
レゲエのタイトルには「Rastaman Skank」
や「Eastman Skank」など、
「●●● Skank」というタイトルの曲が
たまにありますが、それは「●●●好きの
尻軽女」という意味なんですね。
例えば「Rastaman Skank」なら、ラスタ
マンが好きな尻軽女という事になります。

Side 1が6曲、Side 2が4曲の全10曲。

詳細なミュージシャンの表記はありま
せん。

Produced by Prince Jammy
Mixed by Prince Jammy and Scientist

Songs 1,3,5 Side 1 written by Devon Roberts
Song 1 Side 2 written by Devon Roberts
Songs 2,4,6 Side 1 written by L. James
Songs 2,4 Side 2 written by L. James

という記述があります。

プロデュースはPrince Jammy、ミックス
はPrince JammyとScientistが担当して
います。
Prince JammyとScientistは、ともに
King TubbyのスタジオKing Tubby'sで
ミックスを学んだ間柄で、Prince Jammy
にとってScientistは弟分的な関係の人
なんですね。

なかなか印象的なジャケット・デザイン
ですが、誰の作品なのかの記述はありま
せん。

さて今回のアルバムですが、Half Pint
の初期のアルバムの中でも歌とダブが交互
に収められたショーケース・スタイルの
アルバムで、内容はなかなか良いです。

この84年はHalf Pintがアルバム・
デビューした年で、Henry 'Junjo' Lawes
のVolcanoレーベルから「One In A
Million」、ロック・バンドThe Rolling
Stonesが「Too Rude」というタイトルで
カヴァーした曲「Winsome」が収められた
「In Fine Style」、そして今回の
Jammy's Recordsからの「Money Man
Skank」と、3枚ものアルバムをリリース
している彼Half Pintにとっても「当たり
年」だったんですね。

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Half Pint ‎– One In A Million (1984)

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Half Pint ‎– In Fine Style (1984)

そしてこの活躍で人気シンガーとなった彼
は、現在まで順調に活動を続けているん
ですね。
そういう意味では今回のアルバムは、その
人気を不動のものとした全盛期の彼の歌声
が聴けるアルバムで、特におススメ出来る
アルバムだと思います。

また今回のアルバムは歌とダブが交互に
収められたショーケース・スタイルの
アルバムですが、ミックスをPrince Jammy
と弟分のScientistが手掛けたアルバム
で、そのミックスも魅力のひとつです。
ちなみに牧野直也さんという方の「レゲエ
入門」という本には、ダブのディレイが
深めなのがScientistで、手堅いのが
Prince Jammyと書かれています。

今回のアルバムは80年材前半に流行した
スローなワン・ドロップのメロディに乗せ
たHalf Pintのヴォーカルと、Prince
JammyとScientistのミックスしたダブが
交互に楽しめるショーケース・スタイルの
アルバムで、この80年代前半らしい
サウンドがとても魅力的です。
この翌年の85年にはPrince Jammyの
プロデュースしたカシオトーンで作られ
た曲Wayne Smithの「Under Mi Sleng Teng」
が大流行して、ジャマイカは一気に
デジタル・レゲエ「コンピューター・
ライズド」の時代に突入してしまうのです
が、この時代のPrince JammyやJammy's
Recordsはすでにプロダクションとして
高いクオリティのリリースをしているの
で、次の時代への準備は完了していたの
かもしれません。
そういう点でも非常に興味深いアルバム
なんですね。

Half Pintらしいリリックと80年代前半
らしいワン・ドロップ・サウンド、この
時代らしい歌とダブのショーケース・
スタイルが楽しめるアルバムで、内容は
とても良いと思います。

Side 1の1曲目は「Give Me Some Loving」
です。
明るいホーンのメロディに、Half Pint
らしいちょっとしゃがれた語るような
ヴォーカルが魅力。

Half Pint - Give Me Some Loving


2曲目は「Loving Dub」です。
1曲目「Give Me Some Loving」の
ダブです。
歌が抜けた事でよりホーンが強調された
印象。
この時代らしいワン・ドロップのリズム
が、より感じられる曲となっています。

Give Me Some Loving Version


3曲目は表題曲の「Money Man Skank」
です。
華やかなホーン・セクションのメロディ
に、Half Pintの優しく入って来る
ヴォーカルがイイ感じの曲です。

Half Pint - Money Man Skank


4曲目は「Money Man Dub」です。
3曲目「Money Man Skank」のダブです。
こちらは華やかなホーンとパーカッション
が心地の良いダブ。

5曲目は「Puchie Lue」です。
リディムはDillingerの「Dub
Organizer」。
ギターとピアノの刻むようなメロディに
スローなワン・ドロップのドラミング、
Half Pintのソフトなヴォーカルが魅力的
な曲です。

Half Pint - Puchie Lou


6曲目は「Miss Lue Dub」です。
5曲目「Puchie Lue」のダブ。
こちらはスローなワン・ドロップの
ドラミングが、より強調されたダブに
なっています。

Side 2の1曲目は「Mr. Landlord」
です。
リディムはThe Wailersの「Hypocrites」。
ギターとホーン・セクション、ピアノの
明るいユッタリとしたメロディに、Half
Pintのハリのあるソフトなヴォーカル。

Half Pint - Mr. Landlord


リズム特集 Hypocrite (ヒポクリッツ)

2曲目は「Landlord Dub」です。
1曲目「Mr. Landlord」のダブ。
スローなワン・ドロップに乗せたホーンと
ピアノのメロディが、より印象的な曲
です。
「Hypocrites」はThe Wailersの初期の
ヒット曲ですが、リズムの面白さがより
強調された印象です。

3曲目は「If I Had A Hammer」です。
リディムはNitty Grittyの同名曲です。
Half Pintのスキャットから、ギターの
メロディに乗せたスローなワン・ドロップ
のリズム、Half Pintのヴォーカルも冴え
る曲です。

Half Pint - If I Had A Hammer


4曲目は「Hammer Dub」です。
3曲目「If I Had A Hammer」のダブ。
ギターに乗せた、ドスンドスンと落ちる
スローなワン・ドロップがとても印象的な
ダブです。

ざっと追いかけてきましたが、この80年
代前半の空気感とHalf Pintらしい個性的
なヴォーカルがとてもよく出たアルバム
で、彼のこの時代の好調さがよく解る
アルバムとなっています。
彼はその後もデジタルのダンスホールの
時代になっても活躍を続け、ダンスホール
の代表的なシンガーのひとりとして名前を
残す事になります。

このアルバムはそんな彼の代表作のひとつ
として、聴いておきたいアルバムなんです
ね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Half Pint
○アルバム: Money Man Skank
○レーベル: Jammy's Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1984

○Half Pint「Money Man Skank」曲目
Side 1
1. Give Me Some Loving
2. Loving Dub
3. Money Man Skank
4. Money Man Dub
5. Puchie Lue
6. Miss Lue Dub
Side 2
1. Mr. Landlord
2. Landlord Dub
3. If I Had A Hammer
4. Hammer Dub