今回はScientistとHempress Sativaの
アルバム

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「Scientist Meets Hempress Sativa In
Dub」です。

Scientist(本名:Hopeton Overton
Brown)は、ミキサーやダブの
クリエイターとして活躍した人です。
70代の後半にミックスやダブの制作を
手掛けていたKing Tubbyのスタジオ
King Tubby'sで助手としてキャリアを
スタートさせた彼は、そこで頭角を現し、
80年代のダンスホール・レゲエの時代に
なるとVocanoレーベルのHenry 'Junjo'
Lawesプロデュースの「漫画ジャケ・
シリーズ」などで人気のダブのミキサーに
なるんですね。
70年代のルーツ・レゲエの時代のダブ
とはまた一味違った、80年代のダンス
ホール・レゲエのダブを創造したミキサー
として知られています。

ネットのDiscogsによると、共演盤を含め
て62枚のダブ・アルバムと、19枚
ぐらいのシングル盤を残し、数多くの
アーティストのミックスを残したのが、
このScientistという人です。

アーティスト特集 Scientist (サイエンティスト)

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Scientist ‎– Scientist Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires (1981)

Hempress Sativa(本名:Kerida Johnson)
は2013年頃より活躍する女性ラスタ・
シンガーです。
ネットのDiscogsには彼女のプロフィール
について、次のような記述があります。

born to Rastafarian parents Doris-Ray Johnson and legendary Jamaican Selector /Musician Albert Johnson aka Albert Malawi of the Jah Love Sound System

《ラスタファリアンである両親、Doris-
Ray Johnsonと、伝説的なジャマイカの
セレクター/ミュージシャンでJah Love
Sound SystemのAlbert Johnson(別名:
Albert Malawi)の元に生まれる。》

つまりラスタファリアンである母親
Doris-Ray Johnsonと、ラスタファリアン
でジャマイカでサウンド・システムJah
Love Sound System を営む、伝説の
ミュージシャン(ドラマー)であり、
セレクターの父親Albert Malawi
(Albert Johnson)の元に生まれたのが
彼女のようです。

ちなみにAlbert Malawiは、こちらも
ネットのDiscogsで調べたところ、多くの
ミュージシャンを輩出したAlpha Boys
School出身のドラマーで、Sugar Minott
のバック・バンドBlack Roots Players
などで活躍したドラマーです。

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Black Roots Players ‎– Ghetto-Ology Dubwise (1980)

そうしたラスタファリアンの両親から
生まれたのが彼女で、ネットのDiscogs
によると、2016年に今回の彼女の
ファースト・アルバム「Unconquerebel」
と、2018年にその「Unconquerebel」
のScientistのミックスによるダブ・
アルバム「In Dub」の2枚のアルバムと、
7枚ぐらいのシングル盤を残しています。

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Hempress Sativa ‎– Unconquerebel (2016)

2010年代頃から盛んになったラスタ・
リヴァイヴァル・ムーヴメントの
アーティストの中でも、Jah9などとともに
注目されている女性アーティストが、この
Hempress Sativaという女性シンガー
です。

今回のアルバムは2018年にヨーロッパ
のConquering Lion Recordsという
レーベルからリリースされたScientistと
Hempress Sativaのダブ・アルバムです。

オリジナルは16年にリリースされた
Hempress Sativaの「Unconquerebel」で、
それをScientistがダブにミックスしたの
が今回のアルバムです。
スローなワン・ドロップの「Rock It Ina
Dance」のダブ「Rock It Ina Dub」や、
重いベース音のキーボードのメロディに
「ワダダ・デン・ワダダ・デン…」という
Hempress Sativaのヴォーカルが印象的な
楽曲「Boom (Wah Da Da Deng)」のダブ
「Boom Wah Da Da Deng Dub」、
シングル・カットされたラスタらしい
メッセージが印象的な「Fight For Your
Rights」のダブ「Fight For Your Rights
Dub」、Ranking Joeとのコラボ曲
「Natty Dread」のダブ「Natty Dread
Dubwise」など、Hempress Sativaの個性が
光るダブ・アルバムに仕上がっています。

手に入れたのはConquering Lion Records
からリリースされたLP(新盤)でした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Musicians include:
Bass: Errol 'Flabba' Holt, Devon Bradshaw, Giulio Frausin
Drums: Kirk Bennett, Courtney Diedrick, Federico Mazzolo
Guitar: Ian Coleman, Earl 'Chinna' Smith, Giulio Frausin
Keyboards: Robbie Lyn, Devon Bradshaw, Courtney Edwards, Lenford Richerds, Filippo Buresta
Horn Section: Stingwray, Dennis Beganovich
Mixed at Alambic Conspiacy Studio Italy & Majestic Stidio Burbank California
Mixing Engineer: Hopeton Overton Brown aka Scientist, Track 5. mixed by Paolo Baldini
Produced by Christopher 'Chris Lion' Mattis
Artwork by Farmer Queen, Layout and Final Edits by Tribal Immunity

となっています。

ミュージシャンはベースにErrol 'Flabba'
HoltとDevon Bradshaw、Giulio Frausin、
ドラムに、Kirk BennettとCourtney
Diedrick、Federico Mazzolo、ギターに
Ian ColemanとEarl 'Chinna' Smith、
Giulio Frausin、キーボードにRobbie Lyn
とDevon Bradshaw、Courtney Edwards、
Lenford Richerds、Filippo Buresta、
ホーン・セクションにStingwrayとDennis
Beganovichという布陣です。

ミックスはイタリアのAlambic Conspiacy
Studioと、カリフォルニアのMajestic
Stidioで行われ、ミックス・エンジニア
はHopeton Overton BrownことScientist
が担当しています。
ただし5曲目「Boom Wah Da Da Deng
Dub」のみミックスをPaolo Baldiniが
担当しています。
Paolo BaldiniはYouTubeにある「Boom
(Wah Da Da Deng)」のプロモーション・
ビデオで、Hempress Sativaの脇で
キーボードを演奏している、左腕に入れ墨
を入れた人のようです。
この曲はHempress Sativaと彼の共作曲
なんですね。

Paolo Baldini DubFiles Ft. Hempress Sativa - Boom (Wah Da Da Deng)


おそらくイタリアのAlambic Conspiacy
Studioのミックスは、彼によるものなん
じゃないかと思われます。
Paolo Baldiniは、イタリアのレゲエ・
バンドAfrica Uniteのメンバーで、ソロ・
アルバムも1枚ぐらいリリースしている人
のようです。

Hempress Sativaはイタリアの双子の
レゲエ・アーティストMellow Moodとも
シングル盤を出していたりと、イタリアの
レゲエ・アーティストと付き合いのある人
のようです。

Mellow Mood feat. Forelock & Hempress Sativa - Inna Jamaica pt. 2


プロデュースはChristopher 'Chris Lion'
Mattisとなっています。

なかなか魅力的なジャケット・デザイン
ですが、Farmer Queenという人のイラスト
のようです。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、Hempress
Sativaというなかなか個性的な女性
シンガーの楽曲をScientistがうまくダブ
に作り変えたアルバムで、内容はとても
良いと思います。

このHempress Sativaですが2010年頃
からジャマイカで起こった新しいルーツ・
レゲエのムーヴメントであるラスタ・
リヴァイヴァル・ムーヴメントで登場して
来たアーティストで、ルーツ色の強い楽曲
に乗せた個性的なヴォーカルが特徴の
シンガーです。

今回のアルバムはそのHempress Sativaの
楽曲を、80年代前半のアーリー・ダンス
ホールの時代にそれまでにないダブを創作
し、一世を風靡したScientistがダブに
ミックスしたアルバムで、そこがとても
興味深いアルバムなんですね。
元のアルバム「Unconquerebel」にはその
アーリー・ダンスホールの時代にバック・
バンドRoots Radicsの一員として活躍して
いたベースのErrol 'Flabba' Holtも参加
していて、曲調も80年当時に流行して
いたスローなワン・ドロップの曲が多いん
ですね。
そうした楽曲のミックスを得意としていた
Scientistがミックスしているのだから、
これはもう悪くなるはずがないんです
ね(笑)。
当時のScientistはもう少しガツンガツン
と強烈なヘヴィーなミックスを得意として
いた感はありますが、今回のミックスは
やや抑え気味の感はあります。
ただある意味Hempress Sativaの魅力を
立てた、要所をうまく心得たミックスと
いう感じがしました。
聴いていて飽きないミックスなんですね。

またPaolo BaldiniのSide 1の5曲目
「Boom Wah Da Da Deng Dub」のベース音
を効かせた攻撃的なミックスや、Side 2の
5曲目Ranking Joeとのコラボ曲「Natty
Dread Dubwise」など、ちょっと毛色の
変わった曲がある事が、このアルバムを
より奥深いものにしています。

ラスタ・リヴァイヴァル・ムーヴメント
のアーティストの中でもこのHempress
Sativaや、Jah9が自身のセカンド・
アルバム「9」のダブ・アルバム、
Mad Professorのミックスによる「In The
Midst Of The Storm」を出すなど、女性
アーティストの方が積極的にダブ・
アルバムをリリースしているのは、とても
興味を惹かれる事実です。

jah9_01a
Jah9 ‎– 9 (2016)

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Mad Professor Meets Jah9 ‎– In The Midst Of The Storm (2017)

こうしたオリジナル・アルバムとダブ・
アルバムという関係が、70年代の
ルーツ・レゲエの世界をより豊かにして
いた事実は見逃せない部分があります。
そして彼女たちのダブ・アルバムも、今の
ルーツ・レゲエの豊かさに影響を与えて
いる事は間違いが無いと思います。

Side 1の1曲目は「Revolution Dub」
です。
Hempress Sativaの楽曲「Revolution」の
ダブです。
ユッタリとしたワン・ドロップのリズムに
ピアノとホーンのメロディ、ダブワイズ
して行くHempress Sativaのよく通る
ヴォーカル…。

Scientist & Hempress Sativa in dub - Revolution Dub

↑動画の初めにある「ジー、カチャッ」と
いう音は入っていません。

2曲目は「Rock It Ina Dub」です。
Hempress Sativaの楽曲「Rock It Ina
Dance」のダブです。
「シャラ・ラ・ラ・ラララ~♪」といった
Hempress Sativaのヴォーカルから、
ワン・ドロップのリズムにダブワイズ…。

Rock It Ina DUB - Hempress Sativa


3曲目は「Skinteeth Dub」です。
Hempress Sativaの楽曲「Skin Teeth」
のダブです。
キーボードとギターの影のあるメロディ
に、80年代を思い起こさせるような
ワン・ドロップのドラミング。

4曲目は「Heathen Wage Dub」です。
Hempress Sativaの楽曲「Heathen Wage」
のダブです。
キーボードとギターホーンのメロディに、
伸びやかなHempress Sativaのヴォーカル
とトースティング。
合間良く入るホーンがイイ感じの1曲。

5曲目は「Boom Wah Da Da Deng Dub」
です。
Hempress Sativaの楽曲「Boom (Wah Da
Da Deng)」のダブです。
リリカルなキーボードのメロディと重い
ベース音を軸とした演奏のダブです。
この曲のミックスのみPaolo Baldiniが
担当しています。

Side 2の1曲目は「Jah Will Be There
Dub」です。
Hempress Sativaの楽曲「Jah Will Be
There」のダブです。
リディムはDawn Pennの「No No No」。
緊張感のあるオルガンとフルートの
メロディに心地良いパーカッション、
Hempress Sativaの味わいのある
ヴォーカルがイイ感じのダブです。

2曲目は「No Peace Dub」です。
Hempress Sativaの楽曲「No Peace」の
ダブです。
女性コーラスにドラマチックなホーン・
セクションのメロディ、Hempress Sativa
の語りから伸びやかなヴォーカル…。
ワン・ドロップのリズムに乗せたホーンが
心地良いダブです。

3曲目は「We All Dub」です。
Hempress Sativaの楽曲「We All」のダブ
です。
Hempress Sativaのダブワイズした歌声に
メロディカ(?)のメロディ、エコーの
効いた演奏…。

4曲目は「Fight For Your Rights Dub」
です。
Hempress Sativaの楽曲「Fight For
Your Rights」のダブです。
華やかなホーン・セクションのメロディ
に、パーカッションに乗せたHempress
Sativaのダブワイズして行くヴォーカル。

Scientist meets hempress sativa in dub, fight for your rights dub 🔊💚💛❤️


5曲目はRanking Joeとの共演曲
「Natty Dread Dubwise」です。
Hempress Sativaの楽曲「Natty Dread」
のダブです。
明るいギターとキーボードのメロディに
陽気なRanking Joeの早口なトース
ティング、遅れて入って来るホーン・
セクション…。
Hempress Sativaのヴォーカルが入って
いないので、この曲だけちょっと異質な
感じですが、かえってそこが面白い
ところかも。

ざっと追いかけてきましたが、Hempress
Sativaのヴォーカルが中心だった
「Unconquerebel」とはまたひと味
違った、ScientistやPaolo Baldiniと
いったミキサーの手腕が冴えた魅力のある
ダブ・アルバムに仕上がっています。

音楽を再構築してまったく新しい音楽に
変えてしまうのがダブの面白さですが、
その面白さを誕生してから50年近く
経ってまた復活しているところも、今の
ラスタ・リヴァイヴァル・ムーヴメントの
功績のひとつなのかもしれません。

出来ればオリジナルの「Unconquerebel」
と、今回の「In Dub」の両方を揃えて
聴くと、より楽しめるのではないかと思い
ます。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Scientist, Hempress Sativa
○アルバム: Scientist Meets Hempress Sativa In Dub
○レーベル: Conquering Lion Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 2018

○Scientist, Hempress Sativa「Scientist Meets
Hempress Sativa In Dub」曲目
Side 1
1. Revolution Dub
2. Rock It Ina Dub
3. Skinteeth Dub
4. Heathen Wage Dub
5. Boom Wah Da Da Deng Dub
Side 2
1. Jah Will Be There Dub
2. No Peace Dub
3. We All Dub
4. Fight For Your Rights Dub
5. Natty Dread Dubwise - feat. Ranking Joe

(参考資料)
○Hempress Sativa「Unconquerebel」曲目
Side 1
1. Revolution
2. Jah Will Be There
3. Rock It Ina Dance
4. Skin Teeth
5. Heathen Wage
Side 2
1. Fight For Your Rights
2. No Peace
3. We All
4. Natty Dread - feat. Ranking Joe
5. Boom (Wah Da Da Deng)