今回はAswadのアルバム

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「Live And Direct」です。

AswadはUKレゲエの先駆的なバンドと
して知られているグループです。
UK(イギリス)では早くからジャマイカ
の音楽が聴かれていて、古くは60年代の
スカの時代から輸入元のレーベルの名
前からブルー・ビート(Blue Beat)の名称
でスカが聴かれていたんですね。
そういう事もあってかUKでは早くから
レゲエが聴かれていて、70年代に
ジャマイカ以外で一番最初にレゲエの
バンドが誕生したのもこのUKだったん
ですね。
そうしたUKのレゲエを、当時は
「ブリティッシュ・レゲエ」と呼んでい
ました。

その初期のUKレゲエを、Matumbiなどと
ともに牽引してきたのがこのAswadだった
んですね。
のちの時代にはレゲエという音楽はかなり
インターナショナルな音楽へと発展して
行くんですが、まずその礎を作ったのが
彼らUKのレゲエ・バンドだったんです
ね。

このAswadも1976年にファースト・
アルバム「Aswad」でデビューし、
ジャマイカのレゲエとは一味違う洗練され
たサウンドで一躍UKの人気グループと
なります。

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Aswad – Aswad (1976)

その後も一時期メジャー・レーベルのCBSと
契約したり、活躍を続けたAswadですが、
80年代半ば以降はそのメッセージ性が
薄らぎ、徐々にポップな路線に転向して
ポピュラー・チャートをにぎわせるように
なります。
その転向がレゲエ・ファンから厳しい評価
を受けている側面があるのが、このAswadと
いうグループなんですね。

ネットのDiscogsを見ると、現在までに
28枚ぐらいのアルバムと、78枚ぐらい
のシングル盤をリリースしているのがこの
Aswadというグループです。

アーティスト特集 Aswad (アスワド)

アスワド - Wikipedia

今回のアルバムは1983年にUKの
Island Recordsからリリースされた
Aswadのライヴ・アルバムです。

Aswadの通算7枚目ぐらいにあたる
アルバムで、83年のNotting Hill
Carnivalで行われたライヴの模様が
収められたアルバムで、代表曲の
「African Children」や「Love Fire」、
さらにはDennis BrownやJohnny Osbourne
の楽曲のメドレー「Rocker's Medley」
などが収められたアルバムで、まさに
ダイレクトにAswadというグループの
魅力の感じられるアルバムとなっていま
す。

手に入れたのはIsland Recordsから
リリースされたCDの中古盤でした。

全9曲で収録時間は約46分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Lead Vocals, Rhythm Guitar: Brinsley Forde
Drums, Vocals: Angus 'Drummie' Zeb
Bass, Vocals: Tony 'Gad' Robinson
Keyboards, Vocals: Clifton 'Bigga' Morrison
Lead Guitar: Martin 'Tatta' Augustine, Jimmy 'Senyah' Haynes
Saxophone: Michael 'Bami' Rose
Trumpet: Eddie 'Tan Tan' Thornton
Trombone: Henry 'Buttons' Tenyue

Produced by: Aswad, Michael 'Reuben' Campbell
Mixed by: Michael 'Reuben' Campbell, Drummie Zeb
Recorded by Rak Mobile at Notting Hill Carnival, 1983
Engineered by: Steve Cooksie, Chris Dickie
Mixed at Addis Ababa Studios and Marcus on to Sony Digital System
Edited by Femi Jiya
Assistanted by Matt Wallace
Mastered at The Sound Clinic by John Dent

となっています。

ライヴに参加したメンバーはリード・
ヴォーカルとリズム・ギターにBrinsley
Forde、ドラムとヴォーカルにAngus
'Drummie' Zeb、ベースとヴォーカルに
Tony 'Gad' Robinson、キーボードと
ヴォーカルにClifton 'Bigga' Morrison、
リード・ギターにMartin 'Tatta'
AugustineとJimmy 'Senyah' Haynes、
サックスにMichael 'Bami' Rose、
トランペットにEddie 'Tan Tan'
Thornton、トロンボーンにHenry
'Buttons' Tenyueという布陣です。

プロデュースはAswadとMichael 'Reuben'
Campbellで、ミックスはMichael 'Reuben'
CampbellとDrummie Zebが担当し、83年
のNotting Hill Carnivalで行われ、
エンジニアはSteve CooksieとChris
Dickie、ミックスはAbaba StudiosとMarcus
で行われ、編集はFemi Jiyaが担当し、
編集アシスタントがMatt Wallaceとなって
います。

さて今回のアルバムですが、まだUK
レゲエの雄として活躍していた時代の
Aswadのライヴ・アルバムで、初期の
彼らの代表曲や有名曲のメドレーなどが
収められており、その臨場感のある演奏は
素晴らしく、魅力的なアルバムだと思い
ます。

後のポップス・ミュージック化でレゲエ・
ファンからは批判される事の多いAswad
ですが、このグループがUKレゲエの確立
に貢献した事は間違いなく、少なくとも
この80年代前半までは純粋にUKレゲエ
をけん引するグループだった事は間違い
ありません。

この間部屋を片付けていたら「Cut」と
いう雑誌の1994年9月号が出て来ま
した。

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Cut 1994年9月号

おそらくBob Marleyが表紙だったので、
買ったものと思われます。
この「Cut」は(株)ロッキン・オンが
発行する雑誌で、ミュージシャンの
インタビューなどを集めた雑誌のよう
です。
その94年9月号はレゲエ・
ミュージシャンのインタビューを集めた
特集だったようで、Bob Marleyのほか、
Aswad、Janet Kay、Apache Indianなど
のインタビューが載っていました。

そのB3サイズの雑誌に載ったAswad
(Brinsley Forde)のインタビューは、
太字で次のように書かれています。

「本物のレゲエはイギリスでは生まれない
という神話、ぼくたちはまずその神話に
打ち勝たなくてはならなかったんだ。」

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Aswad インタビュー

まあその言葉がすべてですが、彼らAswad
にはUKレゲエの先駆者としての苦悩が
あったのは間違いありません。
その為Aswadは「自分たちが作った曲と
独自のメッセージに全力を注いだバンド」
だったんだとか。
その努力がUKレゲエというジャンルを
誕生させ、さらにレゲエという音楽を世界
的な音楽にして行った事は間違いありま
せん。

ちなみにこのインタビューが行われたの
は、Aswadのアルバム「Rise And Shine」
が発売された直後ぐらいのようですが、
音楽が変わったと言われる事については
自分たちは何も変えた事が無く、自然の
流れでこういうサウンドになったという
ような事を語っています。
この時期のAswadは商業的な成功を収めて
いるものの、逆にレゲエを聴く人間からは
批判を受けていた頃なんですね。
ちなみに「Rise And Shine」という
アルバムは、ネットのDiscogsでは
スタイルが「House」となっていま
す(笑)。

80年代後半のアルバム「Distant
Thunder」あたりからこのAswadという
グループが、かなりポップ寄りの路線に
シフトした事は間違いありません。

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Aswad ‎– Distant Thunder (1988)

そして純粋にレゲエをヤッていた時代より
も、明らかにその路線で商業的には成功も
しているんですね。
ただレゲエ・ファンからするとそれ以前の
Aswadに魅力を感じるのも事実で、何とも
複雑な思いにさせられるグループがこの
Aswadなんですね(苦笑)。

さて話を戻しますが、レゲエにはあの
Bob Marleyの有名なライヴ・アルバム
「Live!」をはじめとして、Misty In
Rootsのデビュー・ライヴ・アルバム
「Live At The Counter Eurovision 79」
など、歴史に残るような有名なライブ・
アルバムがいくつもありますが、今回の
アルバムも非常に評価の高いライヴ・
アルバムなんですね。

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Bob Marley And The Wailers ‎– Live! (1975)

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Misty In Roots ‎– Live At The Counter Eurovision 79 (1979)

その理由は、6曲目「African Children」
や最後の9曲目「Love Fire」で生演奏で
ダブワイズして行くサウンドに挑戦すると
いう実験的な試みを試しているライヴで
ある事、またその前の8曲目「Rocker's
Medley」ではLinval Thompson「Ease Up」
~Dennis Brown「Your Love's Gotta Hold
On Me」~Dennis Brown「Revolution」~
Johnny Osbourne「Water Pumping」と続く
メドレーで、スタジオ盤では自作の曲で
勝負しているAswadの他の歌手の曲、
それもダンスホール系の曲が聴けるという
事など、かなり彼らの意欲の感じられる
ステージの模様が収められたアルバムで
ある事が高評価に繋がっているようです。

実際に聴いた印象としてもかなり充実した
ライヴ・アルバムなんですね。
良い意味でこのグループの小器用さが、
生きていると思います。

結果的にはダンスホール路線は歩ま
なかったAswadですが、この83年の時点
で様々な進む方向を模索していた事が感じ
られるライブなんですね。
そうしたAswadのリアルなレゲエに取り
組む姿勢が感じられるところも、この
アルバムの魅力なのかもしれません。
Eddie 'Tan Tan' Thorntonなどのホーン・
セクションなども入った厚みのある
サウンドは、臨場感を持ってダイレクトに
聴き手の心に迫って来ます。

1曲目は「Not Guilty」です。
煽りの口上からホーンのメロディ、
ギターとベースのメロディに乗せた
ヴォーカル…。
ライヴらしい臨場感が魅力。

ASWAD-not guilty.


2曲目は「Not Satisfied」です。
アルバム・タイトルにもなっているAswad
の代表曲のひとつです。
ホーンとギターのメロディに、語るような
ヴォーカルにコーラス。
心地良いホーンが魅力的。

Not Satisfied (Live & Direct) - Aswad - Vinyl


3曲目は「Your Recipe」です。
ギターとベース、キーボードのメロディ
に、ソフトなヴォーカルにコーラス…。

ASWAD Your Recipe


4曲目は「Roots Rocking」です。
ホーンとギターを中心とした明るい
メロディに、ファルセット気味の
ヴォーカルと楽しいコーラスが魅力的。

5曲目は「Drum & Bass Line」です。
華やかなホーン・セクションとギターの
メロディに、ジックリと歌い込むような
ヴォーカルにコーラス・ワーク…。

6曲目は「African Children」です。
こちらもAswadの初期の代表曲のひとつ
として知られている曲です。
ギターのメロディに乗せたコーラス・
ワーク、表情のあるヴォーカルに遅れて
入って来るホーン・セクション…。

Aswad - African Children (Live and Direct) (1983)


7曲目は「Soca Rumba」です。
こちらは1分32秒のソカのメロディを
使った比較的短いインスト・ナンバー。
ホーンが活躍しています。
こういうメリハリの付け方のウマさも、
このグループの長所です。

8曲目は「Rocker's Medley」です。
Linval Thompsonの「Ease Up」~Dennis
Brownの「Your Love's Gotta Hold
On Me」(リディムはTriston Palmerの
「Entertainment」)~Dennis Brownの
「Revolution」~Johnny Osbourneの
「Water Pumping」(リディムは
Hopeton Lewisの「Take It Easy 」)と
続くメドレーは、当時ジャマイカで流行
していたアーリー・ダンスホールの空気感
があります。
ホーン・セクションとギターのの華やかな
メロディに乗せた次々と変わって行く曲
は、明らかにこの時代のダンスホールの
特徴をうまく掴んでいます。
こうした演奏はライヴならではなので、
聴き逃しなく。

Aswad - Rockers Medley


9曲目は「Love Fire」です。
8曲目に続いた感じで始まる、彼らの代表
曲です。
華々しいホーン・セクションに重い
ベース、リリカルなピアノのメロディ、
シリアスなヴォーカルにコーラスが魅力的
な曲です。
6曲目「African Children」もそうです
が、生演奏でダブワイズを聴かせている
ところも当時としてはとても斬新です。

Aswad: Love fire (live and direct)


ざっと追いかけてきましたが、最後の
「Rocker's Medley」から「Love Fire」
という流れは特に圧巻で、このライヴ・
アルバムをより魅力的なものにしていま
す。

レゲエ好きからはとかく批判される事の
多い彼らですが、少なくともこの80年代
前半までは彼らが魅力的なレゲエ・バンド
だった事は否定が出来ません。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Aswad African Children



○アーティスト: Aswad
○アルバム: Live And Direct
○レーベル: Island Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1983

○Aswad「Live And Direct」曲目
1. Not Guilty
2. Not Satisfied
3. Your Recipe
4. Roots Rocking
5. Drum & Bass Line
6. African Children
7. Soca Rumba
8. Rocker's Medley
ⅰ) Ease Up
ⅱ) Your Love's Gotta Hold On Me
ⅲ) Revolution
ⅳ) Water Pumping
9. Love Fire

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〇Aswad「Aswad」
〇Aswad「Hulet」
〇Aswad「New Chapter」
〇Aswad「Not Satisfied」