今回はTetrackのアルバム

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「Trouble」です。

TetrackはCarlton HinesとPaul Mangaroo、
Dave Harveyの3人からなるコーラス・
グループです。
おもに70年代後半から80年代に、
Augustus PabloのレーベルMessageや
Rockersなどで活躍したグループで、
ネットのDiscogsによると78年に
ファースト・アルバム「Let's Get
Started」と、83年に「Trouble 」と
いう2枚のアルバムを残しているほか、
32枚ぐらいのシングル盤を残していま
す。

今回のアルバムは1983年にジャマイカ
のAugustus 'Gussie' Clarkeのレーベル
Music Works Recordsからリリースされた
Tetrackのセカンド・アルバムです。

プロデュースはAugustus 'Gussie' Clarke
で、バックをSly & Robbieなどが務めた
アルバムで、この時代に流行していた
スローなワン・ドロップのリズムに乗せた
Tetrackのソウルフルなヴォーカルと
コーラス・ワークが堪能出来るアルバムと
なっています。
またすべての曲が前半は歌、後半はダブの
ディスク・ミックス・スタイルになって
いて、曲数は全6曲と少ないですが、この
アーリー・ダンスホールの時代らしい空気
感が味わえるのも魅力です。

手に入れたのは2017年にイタリアの
リイシュー・レーベルRadiation Roots
からリイシューされたCDの中古盤でし
た。
このレーベルはあまり音質が良くない
レーベルなんですが、今回のアルバムは
多少ボリュームが小さめな感はありました
が、目立ったパリパリ音などは入っていま
せんでした。

全6曲で収録時間は約45分。
曲はすべて前半は歌、後半はダブの
ディスコ・ミックス・スタイルです。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

All songs written by C. Hines, except "Win Your Love"
which was done by C. Hines & D. Harvey

Rhythm & Vocal Arrangements: Tetrack

Produced by Augustus 'Gussie' Clarke for Music Works
Records & Tapes

Recorded and Mixed at Channel One Studio
Engineer: Solijie

Musicians:
Bass: Robbie Shakespeare, Lloyd Parks
Drums: Sly Dunbar
Piano, Synthesizer: Robbie Lyn
Organ: Franklyn 'Bubbler' Waul
Rhythm Guitar: Willie Lindo
Lead Guitar: Dwight Pinkney
Horns: Dean Frazer, Chico, Nambo Robinson

となっています。

5曲目「Win Your Love」のみTetrackの
Carlton HinesとDave Harveyの共作で、
残りはすべてCarlton Hinesの作曲と
なっています。

リズムとヴォーカルのアレンジはTetrack
が担当しています。

プロデュースはMusic Works の主催者
Augustus 'Gussie' Clarkeが担当して
います。

レコーディングとミックスはChannel One
Studioで行われ、エンジニアはSolijie
(Cedrica Anthony Hamilton)が担当
しています。

ミュージシャンはベースにRobbie
ShakespeareとLloyd Parks、ドラムに
Sly Dunbar、ピアノとシンセにRobbie
Lyn、オルガンにFranklyn 'Bubbler'
Waul、リズム・ギターにWillie Lindo、
リード・ギターにDwight Pinkney、
ホーンにDean FrazerとJunior 'Chico'
Chin、Nambo Robinsonという布陣です。

ジャケット・デザインなどに関する記述は
ありません。

さて今回のアルバムですが、この80年代
の前半に流行したスローなワン・ドロップ
のリズムに乗せたTetrackのソウルフルな
ヴォーカルに加えて、これまたこの時代に
流行した前半は歌後半はダブという
ディスコ・ミックス・スタイルのロング・
ヴァージョンで曲が楽しめるアルバムで、
内容はとても良いと思います。

この80年代になるとレゲエという音楽
も、それまでのラスタファリズムの思想的
なルーツ・レゲエから、サウンド・
システムなどの踊りの「現場」を中心と
したダンスホール・レゲエが中心となって
行くんですね。
そうした踊りの現場で重宝されたのが、
ディスコ・ミックス・スタイル(別名:
ショーケース・スタイル)のロング・
ヴァージョンの曲で、この方がサウンド・
セレクターがレコードをかけ替える手間が
少なくて済むんですね。
そうした便利さからこの80年代頃には、
12インチ45回転のディスコ・
ミックス・スタイルのシングル盤などが
多く作られるようになるんですね。

今回のアルバムもそうしたロング・
ヴァージョンの楽曲が並んだアルバムなの
で、短い曲でも6分56秒、長い曲で
8分10秒と、1曲1曲にかなりの聴き
応えがあり、充実した内容のアルバムと
なっています。

またこの時代らしいスローなワン・
ドロップが堪能できるのも大きな魅力
です。
この80年代前半のアーリー・ダンス
ホールと言えばHenry 'Junjo' Lawesの
Volcanoレーベルなどで活躍したRoots
Radicsのワン・ドロップの演奏が有名です
が、このSly & Robbieを中心とした
バック陣もそれに負けないほどのスローな
ワン・ドロップを聴かせています。

実はこのSly & RobbieはGeorge Phangの
レーベルPower Houseで演奏する時は、
雇い主のGeorge Phangの好みに合わせて、
スローではなくミディアム・テンポの
ワン・ドロップで演奏しているんですね。
80年代前半というとVolcanoレーベル
などのRoots Radicsのスローなワン・
ドロップが有名ですが、80年代半ばに
なる頃にはPower HouseのSly & Robbie
が演奏するミディアム・テンポのワン・
ドロップも人気が高まって、人気は拮抗
していたと言われています。

ただSly & Robbieも雇い主によってテンポ
を使い分けていた事が、このアルバムを
聴くとよく解ります。
このAugustus 'Gussie' ClarkeのMusic
Works Recordsの演奏では、Sly & Robbie
もスローなワン・ドロップの演奏に徹して
いるんですね。
このSly & Robbieのスローな演奏も味わい
があり、悪くは無いんですね。
むしろ同じスローな演奏なので、Roots
RadicsのStyle Scottのドラミングや、
Flabba Holtのベースなどと聴き較べて
みると面白いかもしれません。

またこのTetrackですが、リード・
ヴォーカル(C. Hinesなんでしょうか?)
のソフトでソウルフルなヴォーカルと、
コーラス・ワークがとても魅力的な
グループで、どうしてこのグループが
たった2枚のアルバムで終わってしまった
のか?ちょっと不思議に思うような良い
コーラス・グループなんですね。
おそらく彼らのアルバムとしては78年の
Augustus Pabloがプロデュースした
ファースト「Let's Get Started」の方が
圧倒的に有名だと思いますが、こちらも
内容的には負けないくらいに良いアルバム
なんですね。
販売サイトの情報などによると、初CD化
されたアルバムのようですが、良い
リイシューだと思います。

1曲目は表題曲の「Trouble」です。
ズシっとしたベースに心地良いワン・
ドロップのドラミング、ちょっとシリアス
なソフトなヴォーカルに心地良い
コーラス・ワーク…。
いかにもこの80年代の前半らしいダンス
ホール・サウンドにシビれます。

Tetrack - Trouble 12 inch


2曲目は「Trappers」です。
哀愁のあるホーンのメロディに、説得力の
あるソフトなヴォーカルにコーラス…。

3曲目は「Money Controls」です。
ギターとホーン、リリカルなピアノの
メロディに、Tetrackの心地良いソフトな
ヴォーカルにコーラス…。
このアルバムで一番長い8分10秒にも
及ぶ曲です。

Tetrack - Money Controls


4曲目は「Think It Over」です。
明るいホーンとピアノのメロディに
コーラス、ソフトな伸びのあるヴォーカル
が心地良い曲です。

5曲目は「Win Your Love」です。
ズシっとしたベースにファルセットの
コーラス、ピアノのメロディ、遅れて
入って来るソフトでソウルフルな優しい
ヴォーカル…。

Tetrack - Win Your Love


6曲目は「Tribal Warriors」です。
リディムはKeith & Texの「Stop That
Train」で、Clint Eastwood & General
Saintのリメイクの演奏に似ています。
シンセのちょっと歪んだキーボード・
サウンドに、心地良いワンドロップの
ドラミング、心地良いコーラス・ワークに
乗せたヴォーカル…。

TETRACK - Tribal Warriors 12" (Stop That Train Riddim)


ざっと追いかけてきましたが、どの曲も
とても素晴らしく、このアーリー・ダンス
ホールの空気がパンパンに詰まった
アルバムで、内容はとても良いと思い
ます。

この80年代前半のスローなワン・
ドロップのサウンドはこの時代にしか聴け
ないサウンドで、しかもRoots Radicsでは
なくSly & Robbieのスローなワン・
ドロップというところに、このアルバムの
大きな魅力があります。

またわずか2枚のアルバムしか残して
いない、ヴォーカル・グループTetrackの
アルバムである事もとても貴重です。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Tetrack
○アルバム: Trouble
○レーベル: Radiation Roots
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1983

○Tetrack「Trouble」曲目
1. Trouble
2. Trappers
3. Money Controls
4. Think It Over
5. Win Your Love
6. Tribal Warriors

●今までアップしたTetrack関連の記事
〇Tetrack, Augustus Pablo「Let's Get Started / Eastman Dub」