今回はVarious (The Aggrovators)の
アルバム

aggrovators_12a

「Jackpot Dub: Rare Dubs From Jackpot
Records 1974-1976」です。

まずはこのアルバムに関わりのある
The Aggrovatorsと、King Tubbyについて
説明しておこうと思います。

The Aggrovatorsは70年代のルーツ・
レゲエの時代に、プロデューサーの
Bunny Leeのハウス・バンドとして活躍
したグループです。
数々の歌手のバック・バンドとして活躍
したほか、Kingu Tubbyなどのミックスに
よるホーンを中心とした素晴らしいダブを
多く残しています。
ネットのDiscogsによると共演盤を含めた
20枚ぐらいのアルバムと、211枚
ぐらいのシングル盤を残しています。

レーベル特集 Striker Lee/Lee's/Jackpot/Justice(ストライカー・リー/リーズ/ジャックポット/ジャスティス)

The Aggrovators - Wikipedia

King Tubbyはルーツの時代から活躍する
ダブのミキサーであり、プロデューサーで
ある人です。
もともと電気技師だった彼は、ルーツ・
レゲエの時代からミキサーとして活躍し、
ダブの創成期からダブを作った人として
知られています。

ダブはルーツ・レゲエが誕生した70年代
初め頃から徐々に作られるようになるの
ですが、1973年に一斉にダブの
アルバムが作られた事から一気にひとつの
ジャンルとして確立した音楽で、エコーや
リバーヴなどのエフェクトなどを使用して
原曲を全く別の曲に作り変えてしまう手法
を指します。

ダブ - Wikipedia

リミックスの元祖とも言われる音楽で、誰
が初めのダブを考案したかかはハッキリ
とは解っていないのですが、この
King Tubbyがダブという音楽を完成させた
と言われています。
自身のスタジオKing Tubby'sで、助手の
Prince JammyやScientistなどとともに
70年代から80年代にかけて多くのダブ
のミックスを手掛けたのが、この
King Tubbyという人なんですね。

その後も活躍を続けたKing Tubbyでした
が、1989年に自宅前で何者かに射殺
されて亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby (キング・タビー)

今回のアルバムは1990年にUKの
Attackというレーベルから
The Aggrovators And King Tubby's名義
で、「Dub Jackpot」というタイトルで
リリースされた、70年代のルーツ・
レゲエの時代のThe Aggrovatorsの音源を
King Tubby'sでミックスしたダブを集めた
コンピュレーション・アルバムです。

The Aggrovatorsというと、レゲエで有名
な4大ビートのひとつ、Carlton 'Santa'
Davisが開発したとされる「フライング・
シンバル」が有名なバック・バンドなん
ですね。
Wikipediaのレゲエのページにはこの
フライング・シンバルについて「ワン
ドロップのドラムに、通常はギターや
キーボードが強調する2拍目、4拍目を
ハイハットのオープンショットによって
強調する奏法」という説明が載っていま
す。

レゲエ - Wikipedia

私は専門家でないので細かい事はよく
解りませんが、独特のシャリシャリとした
ドラミングが印象的な奏法です。
ちょっと音が似てしまう傾向がある為か、
ジャマイカのレゲエで1974から75年
という短期間だけ流行したビートなんです
ね。
ある程度このThe Aggrovatorsの専用の
ビートのようなところがあり、同じような
メンバーが参加している
The Revolutionarisなどではあまりこの
ビートの演奏はしていないんですね。
当時のジャマイカのスタジオ・
ミュージシャンは、雇い主によって
サウンドを使い分けていた傾向が見られ
ます。

今回のリイシュー盤では副題が「Rare
Dubs From Jackpot Records 1974-1976」
となっていますが、1974年から76年
までのThe Aggrovatorsなどのダブを集め
たアルバムになっています。
(オリジナルの曲では一部King Tubbyや
サックス奏者のDirty Harry、Chinnaの
名義の曲があるようです。)
まさにフライング・シンバルが流行して
いた時代の音源で、The Aggrovators
らしいフライング・シンバルが楽しめる
アルバムになっています。

手に入れたのは2014年にUKの
レゲエ・リイシュー・レーベルJamaican
RecordingsからリイシューされたCD
でした。
オリジナル14曲にプラスして、CD
ボーナス・トラックが4曲、計18曲入り
のCDでした。

全18曲で収録時間は約58分。
オリジナルは全14曲で、最後に収め
られた残りの4曲はCDボーナス・
トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Musicians Include:
Drums: Carlton 'Santa' Davis, Carlton Barrett, Sly Dunbar
Bass: Robbie Shakespeare, George 'Fully' Fulwood, Aston 'Family Man' Barrett
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Rhythm Guitar: Tony Chin, Aston 'Family Man' Barrett
Organ: Bernard 'Touter' Harvey, Ossie Hibbert

Rythm's Recorded at: Channel 1, Randy's Studio, Harry J's, Dynamic Sounds
Mixed at: King Tubby's
Produced by: Bunny Lee
Design by: Gary @ Voodoo London

となっています。

ミュージシャン(The Aggrovators)の
メンバーは、ドラムにCarlton 'Santa'
DavisとCarlton Barrett、Sly Dunbar、
ベースにRobbie ShakespeareとGeorge
'Fully' Fulwood、Aston 'Family Man'
Barrett、リード・ギターにEarl 'Chinna'
Smith、リズム・ギターにTony Chinと
Aston 'Family Man' Barrett、オルガン
にBernard 'Touter' HarveyとOssie
Hibbertという布陣です。

メンバーの数やスタジオの数が多いのは、
この録音が一度ではなく複数の別の音源
から作られたダブだという事を示して
います。
ちなみに当時はバンドのメンバーは固定
ではなく、集まれる人が集まって録る
プラスティック・バンドの形式が一般的
でした。
今回はThe Aggrovatorsがバックを務めて
いますが、このThe Aggrovatorsという
名前はBunny Leeの録音の時に使われる
名前という意味合いが強いんですね。
例えばこのメンバーと同じメンバーで
Channel OneのHoo-Kim兄弟の元で演奏を
すれば、バンド名はThe Revolutionaries
となります。

当時のジャマイカのスタジオ・
ミュージシャンは、仕事があればどの
バンドにも参加しているんですね。
例えば今回のアルバムにCarlton Barrett
とAston 'Family Man' Barrettの兄弟の
名前がありますが、彼らはこの時期に
同時にあのBob Marley & The Wailersの
一員でもあったんですね(笑)。

レコーディングはChannel 1とRandy's
Studio、Harry J's、Dynamic Soundsで
行われ、ダブのミックスはKing Tubby's
で行われています。
プロデュースはBunny Lee。

ジャケット・デザインはGary @ Voodoo
Londonとなっています。

さて今回のアルバムですが、数多く
出回っているいわゆる「Bunny Lee音源」
のひとつですが、この70年代に流行した
「フライング・シンバル」を知るには
なかなか悪くないアルバムだと思います。

今回のアルバムは74年から76年という
ジャマイカがルーツ・レゲエ真っ盛りの頃
の音源が集められていますが、驚くべきは
この日本の秋田県ほどの小国ジャマイカ
で、音楽が量産出来るだけの体制がすでに
整っていたという事です。
60年代の後半のロックステディの時代や
70年代前半の初期レゲエの頃は、まだ
充分な音楽を作るだけの設備は整っておら
ず、もしも音楽を作ろうと思えば大手の
2大レーベルStudio OneかTresure Isle
からレコードを出すしかなかったんです
ね。
歌手はStudio Oneの主催者C.S. Doddか
Tresure Isleの主催者Duke Reidに認め
られる以外にレコードは出せず、
プロデューサーはどちらかのスタジオを
レンタルする以外にレコードが作れ
なかったんですね。

ところがこの70年代半ばになると、
スタジオもChannel OneやRandy's 、
Harry J's、Dynamic Soundsなど多くの
スタジオがあり、そこにはバックを務める
ミュージシャンが常にたむろしていて、
レコーディングを待っていたんですね。
さらにKing Tubby'sのように歌手や
ディージェイの声入れを専門にする
スタジオもあり、そこには多くの
エンジニアが居て、曲のミックスから
ダブのミックスまで全てしてくれる体制が
整っていたんですね。

今回のプロデューサーBunny Leeなどは、
バックの演奏はChannel OneやRandy's
などで録音し、歌手の声入れとミックス
はKing Tubby'sという使い分けをしていた
ようです。
その理由をBunny Leeは「良いマイクが
King Tubby'sにはあったから」と語って
います。
意外とこのあたりはKing Tubbyという人
の抜け目のないところで、バックの録音
には適さないけれど良いマイクがある、
声入れ専門の小さなスタジオを用意する
事で、歌手やディージェイの録音と、
ついでにダブを含めたミックスの仕事全般
を一手に引き受ける事をしていたんです
ね。
こうした分業のシステムが出来上がって
いた事で、弱小のプロデューサーが多い
ジャマイカでは、お金さえ用意出来れば
いつでも音楽が作れる体制が整っていたん
ですね。

そうした状況でそれまで老舗だった
Studio OneはC.S. Doddの金払いの悪さ
から没落し、Tresure IsleはDuke Reid
が亡くなって、その跡を継いだ甥の
Errol Brownが頑張るものの徐々に力を
失って行くんですね。
この70年代中期以降は一番人気のある
レーベルとスタジオはChannel Oneだった
ようです。

そうしたジャマイカの音楽界の中で、
もっとも力のあるプロデューサーのひとり
がこのBunny Leeだったようです。
彼はChannel OneやRandy'sなどのスタジオ
をレンタルして、ミュージシャンを集めて
バックのサウンドを録音し、King Tubby's
で声入れとミックスを依頼して、さらに
そのダブの制作も依頼していたんですね。
そうして制作したレコードを自身のAttack
やJackpot、Justice、Lee'sといった
レーベルからリリースしていたんですね。
今回のアルバムはBunny Leeのレーベルの
ひとつJackpotのダブの音源を集めた
アルバムです。

たくさん出ているこの手の「Bunny Lee
音源」ですが(笑)、ひとつひとつ丁寧に
聴いて行くとやはりこの時代のKing
Tubby'sミックスは時代の最先端を行く
ミックスで、よくぞこの時代のジャマイカ
でこれほど実験的な音楽ダブが作られたと
感心する部分があるんですね。
この時期だけ流行したThe Aggrovatorsの
フライング・シンバルのビートに乗せた
このダブは、希少性だけでなく今聴いても
古びていない、ひとつの音楽としての魅力
があります。

1曲目は「Straight To Channel 1's Head」
です。
リディムはMighty Diamondsの「Carefree
Girl」。
フライングシンバルの心地良いドラミング
に、ギターとキーボード、ベースの
メロディのナイスなダブです。

Straight To Channel 1's Head


2曲目は「Straight To Jackson's Head」
です。
リディムはHorace Andyの「You Are My
Angel」。
キーボードとギターのメロディに、少し
入るだけHorace Andyのキーの高い
ヴォーカル…。
ズシっとしたベースも効いた1曲です。

The Aggrovators And King Tubby's - Straight To Jacksons Head (Disco Dub Jackpot 1990)


3曲目は「Watch This Version」です。
リディムはThe Uniquesの「Watch This
Sound」。
このアルバムに収められているのは、
Cornell Campbellの歌うヴァージョン
です。
華やかなホーンに高音を生かした
Cornell Campbellのヴォーカル、印象的な
フライング・シンバルのドラミング…。

4曲目は「Just A Version」です。
リディムはCornell Campbellの「JUst A
Moment」。
ホーンのメロディに乗せたいきなりの
高音の歌声から、ホーンとギターの
メロディに乗せたフライング・シンバルの
ドラミング…。

King Tubby and The Aggrovators - Just a Version


5曲目は「Behold This Version」です。
リディムはDerrick Morgan & Johnny
Clarkeの「Behold」です。
ギターとベースのノリの良いリズムに、
フライング・シンバルのドラミングが
うまくマッチした曲です。

6曲目は「The Knock Out Punch
Version」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Don't
Talk To Much」。
硬いドラミングにギターのメロディ、
Johnny Clarkeの歌声にズシっとした
ベース…。

7曲目は「Straight To Edwards Head」
です。
リディムはJohnny Clarkeの「If You
Should Lose Me You'll Lose A Good
Thing」です。
浮遊感のあるキーボードのメロディに、
Johnny Clarkeの心地良いヴォーカル、
ギターの軽快なメロディなどがうまく
使われたダブです。

King Tubby & The Aggrovators - Straight To Edward's Head


8曲目は「Lifetime Dub」です。
リディムはRonnie Davisの「That's
Life」。
ピアノのリリカルなメロディから、
心地良いフライング・シンバルのリズム
に、ダブワイズも効いた曲です。

Lifetime Dub


9曲目は「Come Softly Dub Version」
です。
リディムはCarl Harveyの「Come To
Me Soltly」。
フライング・シンバルに乗せたギターの
メロディ…。

10曲目は「Blessed Dub」です。
リディムはHorace Andyの「Love Of A
Woman」。
キーボードとギターのメロディ、ノビの
ある高音のHorace Andyのヴォーカル、
ズシっとしたベースも効いた1曲です。

King Tubby & The Aggrovators - Blessed Dub


11曲目は「So Much Version」です。
リディムはJohnny Clarke & Dennis Brown
の「Look What Love Has Done To Me」。
ファンキーなギターとズシっとした
ベース、フライング・シンバルの軽快な
リズムがとても心地良いダブです。

12曲目は「You're All I've Got
Version」です。
リディムはJohn Holtの「You're My
Soul And Inspiration」。
軽快なホーンのメロディに、John Holtの
ソフトなヴォーカルにダブワイズ、
ズシっとしたベースにキーボード…。

King Tubby and The Aggrovators - You're All I Got Version


13曲目は「Going Version」です。
リディムはThe Uniquesの「Give Me A
Love」で、Johnny Clarkeの歌う
ヴァージョンです。
ホーンとギターのメロディにJohnny
Clarkeの歌声、ズシっとしたベース、
リズミカルなギター…。

14曲目は「The Poor Barber」です。
リディムはJohn Holtの「Ali Baba」、
Jackie Edwardsのヴァージョンのよう
です。
銃撃とサイレンのエフェクトから重厚な
ホーンを中心としたダブです。
この時代のKing Tubbyのミックスの特徴
が、よく出たダブです。

King Tubby - The Poor Barber


15~18曲目までの4曲は、オリジナル
にないCDボーナス・トラックが収められ
ています。
ここでは説明を省略します。

ざっと追いかけてきましたが、この時代の
The Aggrovatorsがフライング・シンバル
で演奏し、King Tubby'sでミックスされた
ダブはレゲエ好きなら1枚は聴いておく
べき音源なんですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various (The Aggrovators)
○アルバム: Jackpot Dub: Rare Dubs From Jackpot Records 1974-1976
○レーベル: Jamaican Recordings
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1990

○Various (The Aggrovators)「Jackpot Dub: Rare Dubs From
Jackpot Records 1974-1976」曲目
1. Straight To Channel 1's Head
2. Straight To Jackson's Head
3. Watch This Version
4. Just A Version
5. Behold This Version
6. The Knock Out Punch Version
7. Straight To Edwards Head
8. Lifetime Dub
9. Come Softly Dub Version
10. Blessed Dub
11. So Much Version
12. You're All I've Got Version
13. Going Version
14. The Poor Barber
(CD Bonus Tracks)
15. So Dub Say
16. King Tubby Dub
17. Caretaker Dub
18. At The Dub Market

●今までアップしたAggrovators関連の記事
〇Aggrovators, Revolutionaries「Guerilla Dub」
〇Aggrovators「Dubbing At King Tubby's」
〇Aggrovators「Kaya Dub」
〇Aggrovators「Rasta Dub '76」
〇Agrovators, Revolutionaries「Agrovators Meets The Revolutionaries At Channel 1 Studios」
〇Tommy McCook & The Agrovators「King Tubby Meets The Agrovators At Dub Station」
〇Tommy McCook and The Agrovators「Cookin'」
〇Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators「Brass Rockers」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」
〇Various「Rubadub Revolution: Early Dancehall Productions From Bunny Lee」
〇Various「When Jah Shall Come」
〇Professionals「Meet The Aggrovators At Joe Gibbs」