今回はNitty Grittyのアルバム

nitty_gritty_03a

「Turbo Charged」です。

Nitty Gritty(本名:Glen Augustus
Holness)は80年代のダンスホール・
レゲエで活躍したシンガーです。
ルート音より5度高いキーで歌い切る、
この時代に流行った独特の歌唱法アウト・
オブ・キーの使い手として知られる
シンガーで、「Hog In A Minty」などの
ヒット曲があります。
ネットのDiscogsによると、生涯で共演盤
を含めて6枚ぐらいのアルバムと、96枚
ぐらいのシングル盤を残しています。

そうした活躍をしたNitty Grittyでした
が、1991年に34歳で凶弾に倒れて
亡くなっています。

アーティスト特集 Nitty Gritty (ニッティ・グリッティ)

ジャマイカの音楽史の中ではこうして凶弾
に倒れて亡くなった人がけっこう多いん
ですね。
有名なところではKing TubbyにPeter Tosh、
Hugh MundellPrince Far Iなど……数え
挙げたらキリが無いほど居ます。
そうした人が生きていれば、ジャマイカの
音楽の歴史もまた変わっていたかもしれま
せん。
いつもこの事を書くと、本当に残念な
気持ちがします。

ちなみに彼を銃殺したのはあのシンガーの
Super Catだったらしいです。
2006年Tokyo FM出版刊行の本
「Dancehall Reggae Standards」の
Super Catの紹介ページにはその時の話が
書かれていて、彼がNitty Grittyを射殺後
に何事もなかったかのようにジャパン・
スプラッシュのために来日し、話を聞くと
お互いが銃を持っていたために正当防衛が
認められ大丈夫だったと語っていた、と
いうエピソードが載っています。

ジャマイカはアメリカと並ぶ銃社会で、
そこで暮らす彼らシンガーもとてもタフな
人達なんですね(苦笑)。

今回アルバムは1986年にUKの
Greensleeves Recordsのファースト・
ソロ・アルバムです。

彼は85年に同じアウト・オブ・キーの
使い手Tenor Sawとのクラッシュ・
アルバム「Tenor Saw Meets Nitty
Gritty」をリリースしていますが、ソロ
としてはこれが初めてのアルバムなんです
ね。

Tenor Saw & Nitty Gritty ‎– Tenor Saw Meets Nitty Gritty (1985)
↑85年リリースのアルバムは「17 North
Parade」のところが「Power House」と
なっています。

ジャマイカではJammy's Recordsから
リリースされたアルバムで、プロデュース
はPrince Jammy、バックはSteely & Clevie
やWayne Smith、Super Power All-Stars
などが担当したアルバムです。
当時流行したデジタルのダンスホール・
レゲエのサウンドに、Nitty Grittyの
浮遊感のあるアウト・オブ・キーが冴える
アルバムで、彼の代表曲である「Hog In
A Minty」などが収められています。

手に入れたのはGreensleeves Recordsから
リリースされたCDの中古盤でした。

全14曲で収録時間は分秒。
オリジナルは10曲で、11曲目以降の
4曲はCDボーナス・トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Produced by Prince Jammy
Recorded & Mixed at Prince Jammy's Studio
Musicians: 'Steely', Clevie, Wayne Smith, Super Power All-Stars
Mastered by Steve Angel
Digitally Remastered at Heathmans Mastering, London
Photos by C. Harriott
Design by Tony McDermott

All Tracks Written by G. Holness / L. James
except track 13 by G. Holness / L. James / W. Riley

となっています。

プロデュースはPrince Jammyが担当し、
レコーディングとミックスはジャマイカの
Prince Jammy's Studioで行われています。

バックのミュージシャンは'Steely'こと
Wycliffe 'Steely' Johnson、Clevieこと
Clevie Browne、Wayne Smith、
Super Power All-Starsが担当しています。

写真はC. Harriott、ジャケット・デザイン
はTony McDermottが担当しています。

さて今回のアルバムですが、やはりこの
時代に大流行したデジタル・サウンドに
乗せたNitty Grittyの浮遊感のある
アウト・オブ・キーはとても魅力的で、
内容は悪くないと思います。

Tenor Sawと共に独特の歌唱法アウト・
オブ・キーを駆使してこのデジタルの時代
に特別な存在感を放った彼ですが、その
魅力がこのアルバムにはうまく収められて
います。
Prince Jammy(King Jammy)によって
生み出されたデジタル・サウンド
「コンピューター・ライズド」ですが、
そのサウンドはまだ技術も進んでいない事
もあって、無表情でペラペラなサウンド
なんですね。
ある意味その無表情さが多くの人々に
ウケた訳ですが、その上に言葉を乗せる
歌手にとってはより高度な曲に表情を
付ける技術が要求される事になるんです
ね。
そうして生み出された歌唱法のひとつが、
このアウト・オブ・キーだった事は間違い
ありません。
一見調子っぱずれのようにルート音より
5度高いキーで歌い切る歌唱法は、この
「コンピューター・ライズド」の時代の
イケイケの空気にうまくハマり、大人気
の歌唱法となるんですね。

このアウト・オブ・キーを始めに歌ったの
はTenor Sawではないかといわれています
が、このNitty Grittyの他にも、アウト・
オブ・キーにさらに高いハイトーン・
ヴォイスを交えたCarl Meeksや、アウト・
オブ・キーに美声を交えたPnchersなど、
さらに進化した歌手がのちに誕生して
います。
いわばジャマイカの歌手のお家芸のひとつ
といえる歌唱法なんですね。

今回のNitty Grittyのアルバムでは、
「Things And Time」リディムの「Gimme
Some A Your Something」から始まり、
「Rockfort Rock」リディムの「Rub A
Dub A Kill You」、「Java」リディムの
「Amazing Grace」、「Satta」リディムの
「Down In The Ghetto」、「Tempo」
リディムの代表曲「Hog In A Me Minty」
など、名リディムをうまく駆使した彼
らしいアウト・オブ・キーが堪能出来る
アルバムに仕上がっています。

1~10曲目まではオリジナル・アルバム
の曲が収められています。

1曲目は「Gimme Some A Your Something」
です。
リディムはWailing Soulsの「Things And
Time」。
デジタルのリズムに明るいNitty Gritty
のムーディーなヴォーカルが心地良い曲
です。

Nitty Gritty-Gimme Some Of Your Sum'Thing


リズム特集 Things & Time (シングス・アンド・タイム)

2曲目は表題曲の「Turbo Charge」です。
どすの効いたベースとリリカルなピアノ、
浮遊感のあるNitty Grittyのアウト・
オブ・キーがとても心地良い曲です。
こちらはまだデジタルに切り替わる直前
ぐらいの曲か?
ちょっとアナログの感触があります。

NITTY GRITTY ~ Turbo Charge


3曲目は「Ram Up The Dance」です。
ホーンの華やかなメロディに重いベース、
エコーの効いたNitty Grittyのアウト・
オブ・キー…。
こちらもアナログの曲か?

4曲目は「Key To Your Heart」です。
流れるようなキーボードとピアノの
メロディ、浮遊感のあるアウト・オブ・
キーがとても心地良い曲です。

Nitty Gritty - Key to your heart (Original Digital 1986) Turbo Charged


5曲目は「Rub A Dub A Kill You」
です。
リディムはSound Dimensionのロック
ステディの時代のヒット曲「Rockfort
Rock」です。
重いベースとギター、ピアノのメロディに
Nitty Grittyのアウト・オブ・キーが絶妙
の曲です。
こちらもアナログ録音か?
デジタルと較べると、バックが少し重い
印象です。

6曲目は「Amazing Grace」です。
リディムはAugustus Pabloの「Java」。
ギターとホーン、重いベースの奏でる哀愁
のあるメロディに、Nitty Grittyの情感
たっぷりのヴォーカルがすごく魅力的。
こちらもアナログ曲です。

Nitty Gritty - Amazing Grace - Turbo Charged / Greensleeves


リズム特集 Java (ジャバ)

7曲目は「Cry Cry Baby」です。
リディムはThe Bassiesの「Things A Come
Up To Bump」。
Studio Oneの初期レゲエの頃のリディムの
ようです。
デジタルらしいキーボードのメロディに、
エコーの効いたNitty Grittyの情感のある
ヴォーカル…。

8曲目は「Down In The Ghetto」です。
リディムはThe Abyssiniansの「Satta
Massa Ganna」。
こちらもアナログか?
ピアノのリリカルなメロディに、Nitty
Grittyの粘りのある大人の味わいの
ヴォーカルが、とても魅力的。

NITTY GRITTY DOWN IN THE GHETTO


リズム特集 Satta Massa Ganna (サタ・マサ・ガナ)

9曲目は「Don’t Want To Lose You」
です。
重いベースにギターとピアノのメロディ、
表情豊かなNitty Grittyのヴォーカル…。
心地らもアナログですが、なかなかの佳曲
です。

Nitty Gritty - Don't Want to Lose You


10曲目は「Hog In A Minty」です。
リディムはAnthony Red Roseの「Tempo」。
デジタルらしいベース音とキーボードの
メロディ、Nitty Grittyの浮遊感のある
心地良いヴォーカル…。
彼の代表曲のひとつです。

NITTY GRITTY - Hog in a minty + version (1985 Jammy$)


リズム特集 Tempo (テンポ)

11~14曲目までの4曲はオリジナルの
LPには無い、CDボーナス・トラック
です。

11曲目は「Run Down The World」です。
こちらはNitty Grittyのリディムとして
知られている曲のようです。
デジタルのキーボードとベース音の
メロディに乗せた、Nitty Grittyの
セクシーなヴォーカルが魅力。

リズム特集 Run Down The World (ラン・ダウン・ザ・ワールド)

12曲目は「Man In A House」です。
こちらもデジタルらしいキビキビした
リズムに浮遊感のあるキーボード、
Nitty Grittyのアウト・オブ・キー。

13曲目は「False Alarm」です。
リディムはTechniques レーベルの
名リディム「Stalag」。
Tenor Sawとの味わいの違いが面白い
ところ。

リズム特集 Stalag (スタラグ)

14曲目は「Gimme Some A Your
Something (Human Side)」です。
1曲目の別ヴァージョンです。

ざっと追いかけてきましたが、改めて聴い
てみるとすべてがデジタルという訳では
なく、「Amazing Grace」などをはじめと
してデジタル直前のアナログ録音の曲も
混ざっています。
ただむしろそのデジタルの切り替え時期の
空気感が漂っていて、そこがかえって魅力
という気もします。
デジタルとアナログでは、アナログの方が
Nitty Grittyのヴォーカルが少し重く
聴こえる印象で、その違いが味わえるのが
このアルバムの面白いところ。
むしろチープなデジタルのバックの方
が、このNitty Grittyのヴォーカルがより
際立つ印象があります。

このデジタルの時代に大活躍した、
Nitty Grittyのアウト・オブ・キーの
アルバムとして押さえておいて損のない
アルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。

THE LEGEND NITTY GRITTY LIVE IN THE DANCE



○アーティスト: Nitty Gritty
○アルバム: Turbo Charged
○レーベル: Greensleeves Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1986

○Nitty Gritty「Turbo Charged」曲目
1. Gimme Some A Your Something
2. Turbo Charge
3. Ram Up The Dance
4. Key To Your Heart
5. Rub A Dub A Kill You
6. Amazing Grace
7. Cry Cry Baby
8. Down In The Ghetto
9. Don't Want To Lose You
10. Hog In A Minty
(CD Bonus Tracks)
11. Run Down The World
12. Man In A House
13. False Alarm
14. Gimme Some A Your Something (Human Side)