今回はPinchersとPliersのアルバム

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「Pinchers With Pliers」です。

Pinchers(本名:Delroy Thompson)は
80年代の半ばごろから活躍するダンス
ホール・レゲエのシンガーです。
Tenor Sawばりのアウト・オブ・キーを
得意としたシンガーで、ヒット曲に
「Bandelero」などがあります。
ネットのDiscogsの彼の履歴を見ると、
86年にアルバム「Can't Take The
Pressure」をリリースしてから現在まで
に、4枚の共演盤を含めて13枚ぐらいの
アルバムと、400枚を超えるシングル盤
をリリースしている人気シンガーです。

アーティスト特集 Pinchers (ピンチャーズ)

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Pinchers ‎– Bandelero (1991)

Pliers(本名:Everton Bonner)は
80年代後半から活躍するダンスホール・
シンガーです。
ネットのDiscogsによると、ソロとしても
共演盤を含めて6枚のアルバムと、
145枚ぐらいのシングル盤を残して
いますが、やはり彼を有名にしたのは
ディージェイのChaka Demusとのコンビ
Chaka Demus & Pliersとして活躍した事
で、このコンビで90年代に世界的に
大活躍し、「Murder She Wrote」や
「Twist And Shout」など世界的なヒット
曲を多く放っています。
ネットのDiscogsによると、Chaka Demus
& Pliersとして11枚ぐらいのアルバム
と、94枚ぐらいのシングル盤をリリース
しています。

また彼の家は音楽一家で、兄弟に
Spanner BannerやRichie Spice、
Snatcher Doggと、3人のシンガーが
居ます。

Chaka Demus & Pliers - Wikipedia

Pliers (singer) - Wikipedia

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Chaka Demus & Pliers ‎– Tease Me (1992)

今回のアルバムは1988年にジャマイカ
のBlack Scorpioといレーベルから
リリースされたPinchersとPliersの
クラッシュ・アルバム(対決盤)です。

どちらも工具の「ペンチ」を名前にした
「工具系」のシンガーですが、アウト・
オブ・キーを得意としたPinchersと、
ノビのある美声で人気だったPliersという
組み合わせのアルバムで、それぞれの個性
が際立つ内容のアルバムとなっています。

手に入れたのはBlack Scorpioから
リリースされたLPの中古盤でした。

ひとつ残念なことを書くと、Side 1の
Pinchersの曲が収められた面は、曲順が
表記とかなり違っています。
ジャケットもLPの盤面も曲順が違って
いるんですね。
それを(表記された曲)→(正しい曲)
として書くと以下のようです。

1. The Sun Is Shining In My Life → Increase Your Knowledge
2. Increase Your Knowledge → The Sun Is Shining In My Life
3. Crazy → Rise And Fall
4. Here I Come Again → Crazy
5. Rise And Fall → Here I Come Again

こうした間違いはジャマイカのアルバム
には時々あります(笑)。

Side 1がPinchersの曲が5曲、Side 2が
Pliersの曲が5曲の全10曲。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Arranged and Produced by M. Johnson for Black Scorpio Ltd.
Distributed by Black Scorpio Ltd.

Rhythm Tracks: Clieve, Brownie
Bass: Brownie, Winston Wright, Steele
Lead Guitar: Dwight Pinkney
Drums: Clieve, Winston Wright
Rhythm Guitar: Lascelles Beckford
Synthesizer: Asher, Robbie Lyn
Percussions: Scully, Sky Juice

Engineers: Junior and Mikey Riley from Dynamic Sounds,
Chris and Mervin from Aquarius
Design and Art: Bagga Case

となっています。

アレンジとプロデュースはBlack Scorpio
レーベルのM. Johnsonです。

バックのメンバーは、リズム・トラック
の制作にClieveとBrownie、ベースに
Winston WrightとSteele、リード・ギター
にDwight Pinkney、ドラムにClieveと
Winston Wright、リズム・ギターに
Lascelles Beckford、シンセにAsherと
Robbie Lyn、パーカッションにScullyと
Sky Juiceという布陣です。
Steely & Clievieなど、この時代らしい
デジタルな音源を制作したメンバーが
揃っています。

録音はDynamic SoundsとAquariusで行わ
れ、エンジニアはDynamic Soundsが
JuniorとMikey Riley、AquariusがChris
とMervinという人が担当しています。

ジャケット・デザインはBagga Case。

さて今回のアルバムですが、この80年代
の後半らしいデジタルなダンスホール・
サウンドに乗せた2人のシンガーの個性が
際立つアルバムで、内容は悪くないと思い
ます。

この80年代から90年代にかけては、
実に多くのクラッシュ・アルバムが作られ
ているんですね。
もともとは同じ曲でそれぞれのシンガー
の個性を競わせるという事で誕生した
クラッシュ・アルバム(対決盤)ですが、
その裏には少ないバックの録音で1枚の
アルバムを作るというかなり経済的な理由
もあったようです。
まだ80年代のジャマイカは弱小レーベル
も多く、そうしたレーベルはなんとか経済
的にやり繰りしてアルバムを作っていたん
ですね。
ただそうした形式も徐々に崩れて、別の曲
を入れた者もクラッシュ・アルバムと
呼ばれるようになります。

またA面とB面に違う歌手を入れる、
1度で2度美味しいというスタイルは
ジャマイカの人々の気質に合っていたの
か、こうしたクラッシュ・アルバムは
けっこう人気があったようです。
レゲエでは今も多くの歌手の曲を入れた
コンピュレーション・アルバムが多く
作られていますが、もともとこうした
ヴァラエティに富んだものが好まれる
傾向があるんですね。
特にこの80年代から90年代はこうした
クラッシュ・アルバムの全盛期で、
いろいろなクラッシュ・アルバムを楽しむ
のも、レゲエの楽しみ方のひとつではない
でしょうか。

話をアルバムに戻すと、この時代の
PinchersとPliersという2人のシンガーは
まだ売り出し中の時期で、自分のスタイル
がまだ完全に出来上がっていないような
ところがあります。
特にPinchersはTenor Sawばりのアウト・
オブ・キーのスタイルに多少迷いがあった
のか、このアルバムではファルセットで
歌ってみたり、高音を生かした美声を聴か
せたりと、いろいろ試行錯誤の跡が感じ
られます。
Pliersの方もPinchersほどではないに
しろ、歌い方をいろいろ工夫しているん
ですね。

そうした試行錯誤の跡が感じられるのが、
今回のアルバムの魅力なんですね。

その努力があったからこそ、Pinchersは
ソンブレロを被ったバッド・マン・キャラ
を獲得し、PliersはChaka Demusとの
コンビChaka Demus & Pliersで世界的な
ヒット曲を飛ばす人気シンガーへと成長
する事が出来たのかもしれません。

Side 1にはPinchersの曲が5曲収め
られています。
表示されている曲目がかなり入れ替わって
います。

Side 1の1曲目は「The Sun Is Shining
In My Life」となっていますが、実際
には2曲目となっている「Increase Your
Knowledge」のようです。
リディムはHorace Andyの「Mr. Bassie」。
デジタルなリズムにキーボードの
メロディ、Pinchersのノビのある歌声が
とても魅力的。

Pinchers - Increase My Knowledge - Black Scorpio LP 1988


2曲目は「Increase Your Knowledge」
となっていますが、実際の曲は「The Sun
Is Shining In My Life」です。
フワフワしたシンセのメロディに、浮遊感
のあるPinchersのヴォーカル。

3曲目は「Crazy」となっていますが実際
の曲は「Rise And Fall」のようです。
デジタルらしいリズムとメロディに、ノビ
のあるPinchersのヴォーカル。

Pinchers - Rise And Fall


4曲目は「Here I Come Again」となって
いますが、実際の曲は「Crazy」のよう
です。
リディムはAdmiral Baileyの「Two Year
Old」。
浮遊感のあるシンセに、Pinchersの語り
からノビのあるヴォーカル。

5曲目は「Rise And Fall」となって
いますが、実際の曲は「Here I Come
Again」のようです。
デジタルの心地良いリズムに、甲高い
ファルセットのPinchersのヴォーカルから
語るような歌いくちに代わる曲です。

Pinchers - Here I Come Again


Side 2にはPliersの曲が収められていま
す。

Side 2の1曲目は「Sweet Sweet」です。

デジタルらしいキーボードを中心とした
リズムに、流れるように流ちょうな
Pliersのヴォーカル…。

2曲目は「Who's There?」です。
明るく軽快なデジタルのリズムに、
Pliersの表情豊かなヴォーカルが魅力的。

Pliers ‎– Who's There


3曲目は「Whisper In The Dark」です。
リディムはAdmiral Baileyの
「Punaany」。
印象的なリズミカルなドラミングと
デジタルらしいキーボードのメロディ、
Pliersのノビのある美声を生かした
ヴォーカル…。

Pliers ‎– Whisper in the Dark


リズム特集 Punanny (プナニー)

4曲目は「Love Up Mi Bonify」です。
明るい浮遊感のあるキーボードとギターの
メロディ、ちょっと早口なPliersの
ヴォーカル…。

5曲目は「Bias Them Bias」です。
リディムはShabba Ranksの「Fresh」。
リズミカルなキーボードのメロディに、
表情のある早口なPliersのヴォーカル…。

Pliers - Bias Dem Bias


リズム特集 Fresh/Four Seasons Lover (フレッシュ/フォー・シーズンズ・ラバー)

ざっと追いかけてきましたが、この時代の
クラッシュ・アルバムとして、なかなか
楽しめるアルバムだと思います。

90年代に入ると彼ら2人はさらに成長
して、さらに独自の道へと歩き始め、
それぞれの成功を手に入れるんですね。
このアルバムはそうした彼らの出発点の
ひとつのアルバムと、言えるかもしれま
せん。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Pinchers - Here I Come



○アーティスト: Pinchers, Pliers
○アルバム: Pinchers With Pliers
○レーベル: Black Scorpio
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1988

○Pinchers, Pliers「Pinchers With Pliers」曲目
Side 1
(表記された曲順)
1. The Sun Is Shining In My Life - Pinchers
2. Increase Your Knowledge - Pinchers
3. Crazy - Pinchers
4. Here I Come Again - Pinchers
5. Rise And Fall - Pinchers
(正しい曲順)
1. Increase Your Knowledge - Pinchers
2. The Sun Is Shining In My Life - Pinchers
3. Rise And Fall - Pinchers
4. Crazy - Pinchers
5. Here I Come Again - Pinchers
Side 2
1. Sweet Sweet - Pliers
2. Who's There? - Pliers
3. Whisper In The Dark - Pliers
4. Love Up Mi Bonify - Pliers
5. Bias Them Bias - Pliers

●今までアップしたChaka Demus & Pliers関連の記事
〇Chaka Demus & Pliers「Tease Me」
〇Chaka Demus「Gal Wine」
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〇Pinchers, Sanchez「Pinchers Meets Sanchez」
〇Pinchers「Agony」
〇Pinchers「Bandelero」
〇Pinchers「Lift It Up Again」