今回はPinchersのアルバム

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「Lift It Up Again」です。

Pinchers(本名:Delroy Thompson)は
80年代の半ばごろから活躍するダンス
ホール・レゲエのシンガーです。
ネットのDiscogsの彼の履歴を見ると、
86年にアルバム「Can't Take The
Pressure」をリリースしてから現在まで
に、4枚の共演盤を含めて13枚ぐらいの
アルバムと、400枚を超えるシングル盤
をリリースしている人気シンガーです。

アーティスト特集 Pinchers (ピンチャーズ)

Pinchers - Wikipedia

今回のアルバムは1987年にジャマイカ
のVena Recordingsからリリースされた
Pinchersのソロ・アルバムです。

プロデュースはPhilip 'Fatis' Burrel
で、演奏はSly & Robbieが担当した
アルバムで、表題曲の「Lift It Up
Again」が大ヒットし、これによって
Pinchersは一躍人気シンガーとなった
という彼の出世作です。

ちなみにVena RecordingsはPhilip
'Fatis' Burrelのレーベルで、のちの
Xterminatorレーベルの前身となった
レーベルなんですね。

ちなみにPinchersとは「ペンチ」の事
です。
ジャマイカではこの時代にPliers
(これもペンチの事)やSpanner Banner
(スパナ)など、工具の名前を持った
アーティストが何人か誕生しているんです
ね(笑)。

手に入れたのはVena Recordingsから
リリースされたLPの中古盤でした。

ちなみに曲を1曲1曲チェックしていて
解りましたが、LPの盤面に貼られた
シールがSide AとSide Bが逆に張られて
いました。
ジャマイカのLPでよくある事ですが、
こうした作業がすごくアバウトなんです
ね(笑)。

Side 1が4曲、Side 2が4曲の全8曲。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Musicians: Sly & Robbie
Produced by: Philip 'Fatis' Burrell
Engineers: Michael Riley
Mixed at: Dynamic Sounds & Music Mountain
Edited by: Michael Riley

となっています。

バックを務めたのはSly & Robbieで、
プロデュースはPhilip 'Fatis' Burrell、
レコーディングはDynamic SoundsとMusic
Mountainで行われ、エンジニアはMichael
Riley、編集もMichael Rileyが行って
います。

さて今回のアルバムですが、Pinchers
らしいアウト・オブ・キーが楽しめる
アルバムで、内容は悪くないと思います。

このアウト・オブ・キーという歌唱法です
が、「ルート音に対して最初から5度上で
歌い切る」という独特の歌唱法で、80年
代にジャマイカで誕生した歌唱法です。
代表的なシンガーはTenor SawとNitty
Grittyで、当時のジャマイカですごく人気
のあった歌唱法なんですね。

アウト・オブ・キー(Out of key)という歌唱法とその歌手・アルバムについて

このPinchersもTenor Sawのフォロワー的
なシンガーのひとりで、Tenor Sawほどの
危険な魅力はありませんが、ちょっと美声
シンガー的な要素も持ったシンガーです。

ここのところ彼のクラッシュ・アルバムを
何枚か聴いていて、なかなか面白い
シンガーだと思ったので、ネットのレゲエ
コレクター・コムで中古盤を見つけたの
で、買ってみたアルバムの1枚が今回の
アルバムです。

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Frankie Paul, Pinchers ‎– Turbo Charge (1988)

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Pinchers, Sanchez ‎– Pinchers Meets Sanchez (1989)

今回のアルバムは彼の初期の作品のせい
か、特にTenor Sawに似た浮遊感のある
アウト・オブ・キーが際立つアルバム
です。
まだこの時代のPinchersにはTenor Sawの
影響を強く感じますが、それでもそれだけ
に止まらない魅力が彼の歌声にはあるん
ですね。
それがこの人が単なるフォロワーに止まら
ず、一人のシンガーとして成功できた理由
かもしれません。

またアウト・オブ・キーはこのジャマイカ
で生まれたレゲエという音楽の面白さが
詰まった歌唱法であり、そのあたりも魅力
です。
80年代半ば以降のジャマイカは、レゲエ
のデジタル化が進んで、Wayne Smithの
「Under Me Sleng Teng」が大ヒットして
King Jammyによるデジタル旋風
「コンピューター・ライズド」の真っ盛り
の時代だったんですね。
ただ当時のデジタル・サウンドは、技術的
にあまり表情のないペラペラのサウンド
だったんですね。
その無表情さがウケた側面がありますが、
それに歌を乗せる歌手としては曲により
表情を付ける必要性があったんじゃないか
と思います。
そこで生み出されたのがこのアウト・
オブ・キーだったんですね。
独特の浮遊感のある歌い回しは大人気と
なり、Tenor SawやNitty Grittyなど人気
のシンガーが次々と誕生したんですね。

一度その魅力が解ると、結構ハマる歌唱法
です。

Side1の1曲目は「Take Some Time」
です。
リディムはThe Heptonesの「Ting A
Ling」。
ユッタリとしたデジタルのメロディに、
ソフトに歌うPinchersのヴォーカルが
イイ感じの曲です。

Pinchers - Take Some Time


2曲目は「Lyrics None Stop」です。
ベース音を中心とした渋めのバックに、
エコーの効いたPinchersの高音を生か
したヴォーカル…。

Pinchers Lyrics None Stop


3曲目は「Dollyman」です。
浮遊感のあるシンセにファルセットの
コーラス、早口も交えたPinchersの
ヴォーカル…。

4曲目は「Boops」です。
デジタルなドラムにギターとピアノの
メロディ、浮遊感のあるPinchersの
ヴォーカルが魅力。

Pinchers – Boops [Vena LP, 1987]


Side 2の1曲目は「Nuh Worry Yourself」
です。
軽快なギターとピアノのメロディに乗せ
た、Pinchersの流れるようなヴォーカル
が魅力的な曲です。

Pinchers - No Worry Yourself


2曲目は「I Love You」です。
心地良いデジタルのリズムに、感情を
乗せたPinchersの語るようなヴォーカル。

3曲目は「I Am Gonna Be There」です。
頭からPinchersらしいアウト・オブ・
キーが炸裂している曲です。

4曲目は「Lift It Up Again」です。
「Answer」リディムとして知られる曲で、
オリジナルはSlim Smithの「Never Let
Go」です。
エコーの効いたPinchersのアウト・オブ・
キーのヴォーカルが、グッと来る1曲
です。
ちなみにネットの販売サイトの記述などを
見ると、7インチ・シングルとは別テイク
なんだそうです。

Pinchers - Lift It Up Again - Version

↑ヴァージョンはLPにはありません。

リズム特集 Answer (アンサー)

ざっと追いかけてきましたが、まだこの
時代のPinchersにはTenor Sawの影響を
強く感じさせる部分がありますが、
その浮遊感のあるアウト・オブ・キーの
ヴォーカルはとても魅力的です。

「Lift It Up Again」で人気を獲得した
Pinchersはその後も活躍を続け、後の
「Bandelero」ではさらにバッド・マン
路線も打ち出し、「Bandelero」は彼の
代名詞になるほどの人気を博すんですね。

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Pinchers ‎– Bandelero (1991)

このアルバムはその彼の出世作として、
なかなか内容の良いアルバムだと思い
ます。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Pinchers (Reggae Sunsplash 1987)



○アーティスト: Pinchers
○アルバム: Lift It Up Again
○レーベル: Vena Recordings
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1987

○Pinchers「Lift It Up Again」曲目
Side 1
1. Take Some Time
2. Lyrics None Stop
3. Dollyman
4. Boops
Side 2
1. Nuh Worry Yourself
2. I Love You
3. I Am Gonna Be There
4. Lift It Up Again

●今までアップしたPinchers関連の記事
〇Pinchers, Pliers「Pinchers With Pliers」
〇Pinchers, Sanchez「Pinchers Meets Sanchez」
〇Pinchers「Agony」
〇Pinchers「Bandelero」