今回はTriston Palmerのアルバム

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「Entertainment」です。

Triston Palmer(Triston Palma)は
80年代のダンスホール・レゲエの時代に
活躍したシンガーです。
特に80年代前半の活躍は非常に顕著で、
Henry 'Junjo' LawesやJah Thomasといった
大物プロデューサーの元で、「Joker
Smoker」をはじめとする多くのヒット曲を
出して、このアーリー・ダンスホールの
時代に活躍しています。

アーティスト特集 Triston Palmer (トリスタン・パーマー)

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Triston Palma ‎– Joker Smoker (1982)

今回のアルバムは1982年にジャマイカ
のJah Thomasの主催するMidnight Rock
レーベルからリリースされたアルバム
です。

プロデュースはJah Thomasで、彼の作った
ヒット曲で表題曲の「Entertainment」を
中心に、このアーリー・ダンスホールの
時代らしいスローなワン・ドロップに
乗せたTriston Palmerのヴォーカルが楽し
めるアルバムに仕上がっています。

手に入れたのはMidnight Rockから
リリースされたLPの中古盤でした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

Produced by Mkrumah 'Jah' Thomas

All tracks written by Mkrumah 'Jah' Thomas, except
"The First Time Girl,""Please Stop Your Lying" and,
"Touch Me"

という記述があります。

プロデュースはMkrumah 'Jah' Thomas
となっていますが、彼の本名はNkrumah
Manley Thomasなので、「M」と「N」が
間違っているようです。

作曲もMkrumah 'Jah' Thomasとなって
いますが、Side 1の4曲目「The First
Time Girl」とSide 2の3曲目「Please
Stop Your Lying」、4曲目「Touch Me」
は、別の人の作曲のようです。

また裏ジャケには次のような
「Entertainment」の誕生秘話のような
記述があります。

"One night in January 1981, Jah Thomas woke up about 11 P.M.
and decided to attend a dance one of his good friends was
putting on. On his way he was told that the dance had been
broken up. That night he got the vibe to write "ENTERTAINMENT"
which is now a hit song."

「1981年1月のある夜に、ジャー・
トーマスは午後11時ごろ起きて、彼の
親友の1人が行っていたダンスホールに
参加しました。
その中で彼は、ダンス現場が崩壊している
という話を聞きました。
その夜に感じた事を彼は、現在ヒット・
ソングとして知られる『ENTERTAINMENT』
に書き上げました。」

これに関連した文章が、ネットのレゲエ
レコード・コムのページにあります。

トリスタン・パーマー(Triston Palmer)、ヒット曲'Entertainment'の誕生秘話?

当時は連れの女性が別の男性とセクシーな
ダンスを踊るとモメ事が多かったので、
「ダンスホールのルール」を歌った歌が
必要だったとか。
「争いごとはなし」「俺は嫉妬しない」
など歌詞は、そうしたダンスホールの
ルールを歌ったものなんですね。

またこの文章にはバックはDean Fraserや
Nambo Robinson、Junior 'Chico' Chin、
Devid Maddenのホーン陣に、Roots Rdics
が参加して、Channel Oneで録音され、
King Tubby'sでBarnabasがミックスした事
が書かれています。
おそらく「Entertainment」以外の曲も
同じような布陣で、録音されたものと思わ
れます。

ジャケットはジャマイカのゲットーと思わ
れる場所で、左に椅子に腰を掛けてギター
を持って微笑むTriston Palmer、右に座り
込んでいるJah Thomasの写真が使われて
います。
手に入れたアルバムは元のアルバムの
ジャケットの解像度の悪い写真を後に
コピーし直したものなのか、凄くボケボケ
の写真のジャケットでした(笑)。

さて今回のアルバムですが、Triston Palmer
の最も活躍していた時代のアルバムで、
内容はとても良いと思います。

ネットのDiscogsやWikipediaなどを見る
と、Triston Palmerはこのアルバムが
リリースされた82年に、「Joker
Smoker」や「Show Case: In A Roots
Radics Drum And Bass」など7枚から
8枚のアルバムをリリースしているん
ですね。

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Triston Palma ‎– Show Case: In A Roots Radics Drum And Bass (1982)

これは彼の履歴の中でも飛び抜けた枚数
で、いかにこの頃に彼の人気が高かったか
が解ります。
彼の場合は85年ぐらいまではアルバムを
けっこうリリースしていますが、それ以降
のデジタルのダンスホール・レゲエの時代
になるとリリースが極端に減るんですね。
それ以降はプロデュース業をメインにして
いたのかも。
そういう事もあって、Triston Palmerと
いうとやはりアーリー・ダンスホールの
時代のシンガーというイメージの強い人
なんですね。

この頃彼はまた二十歳になるかならないか
ぐらいの青年ですが、Roots Rdicsの
スローなワンドロップをバックに、その
スウィートな歌声で聴衆を魅了していたん
ですね。
Don Drummondの「Heavenless」リディムを
使用した「Entertainment」という曲は、
「Joker Smoker」と並ぶTriston Palmerの
代表曲のひとつで、書いたようにダンス
ホール・アンセムとしても知られる曲なん
ですね。

またバックを務めるRoots Rdicsの独特な
スローなワン・ドロップにも、注目して
聴いて欲しいです。
一見ユルくてすき間だらけといわれる彼ら
の演奏ですが、実はかなり計算された
ヴォーカルが入った時にちょうど良い聴き
心地を作り上げた、「ユルくてハード」な
演奏なんですね。
この「ユルくてハード」というのがRoots
Rdicsがこのアーリー・ダンスホールの
時代に生み出した独特の美学で、単に
リズムを速くすればハードという単細胞的
思考を打ち破った、スローなリズムでも
ハードは作れることを証明した音楽なん
ですね。
ちょっと学習が必要な音楽ですが、その
あたりも注意して聴いてみてください。

Dawn Penn「No No No」リディムに乗せた
ダンスホールの空気感たっぷりのSide 1
の1曲目「For Health And Strength」
から、ダンスホールの秩序を訴えた表題
曲「Heavenless」リディムの2曲目
「Entertainment」、Freddie McGregor
の「Bobby Babylon」リディムの3曲目
「Get It Tonight」、ダブワイズの効いた
4曲目「The First Time Girl」、
キーボードに乗せたワン・ドロップの
Side 2の1曲目「Sad News」、Errol
Dunkleyの「You're Gonna Need Me」
リディムの2曲目「Raving」、同じく
Errol Dunkleyのリディムを使った3曲目
「Please Stop Your Lying」、スキャット
なども入ったソフトなメロディの4曲目
「Touch Me」など、この時代のTriston
Palmerの好調ぶりがうかがえるアルバム
になっています。

Side 1の1曲目は「For Health And
Strength」です。
リディムはDawn Pennのヒット曲「No No
No」。
スローなワン・ドロップに乗せたホーン・
セクションの特徴的なメロディに、
Triston Palmerの若々しいヴォーカルが
とても魅力的。

Triston Palmer - For Health And Strength


2曲目は表題曲の「Entertainment」
です。
リディムはDon Drummond & Skatalitesの
「Heavenless」。
書いたようにダンスホールのルールを
訴えた曲です。
こちらもホーン・セクションのメロディ
に、心地良いワン・ドロップ、Triston
Palmerのちょっとしゃがれたヴォーカル
が心地良い曲です。

Triston Palmer - Entertainment


リズム特集 Heavenless (ヘブンレス)

3曲目は「Get It Tonight」です。
リディムはFreddie McGregorの「Bobby
Babylon」。
ギターのメロディに乗せたエコーの効いた
ワン・ドロップに、Triston Palmerの
個性的なヴォーカルが冴える曲です。
この時代らしいダブワイズも効いた
ミックスがグッド。

Triston Palmer - Get It Tonight 1982


リズム特集 Bobby Babylon/Hi Fashion (ボビー・バビロン/ハイファッション)

4曲目は「The First Time Girl」です。
キーボードのメロディに、ダブワイズの
効いたワン・ドロップ、Triston Palmer
の影のあるヴォーカルが魅力。
ハードなミックスも聴きどころです。

Triston Palmer - The First Time Girl 1982


5曲目は「Reggae Taking Over」です。
伸びやかなキーボードのメロディに、
明るく歌うTriston Palmerのちょっと
かすれたヴォーカルがとても魅力的。
ビタンビタンとしたシン・ドラムの
サウンドも、この時代らしく特徴的。

Side 2の1曲目は「Sad News」です。
キーボードとギターのメロディに、特徴
的なユッタリとしたワン・ドロップの
ドラミング。
ノビのあるTriston Palmerのソフトな
ヴォーカルも、とても素晴らしい曲です。

TRISTON PALMA ~ Sad News


2曲目は「Raving」です。
リディムはErrol Dunkleyの「You're
Gonna Need Me」。
ギターとキーボードのメロディに、
Triston Palmerのスウィートな
ヴォーカルが魅力の曲です。

3曲目は「Please Stop Your Lying」
です。
リディムはErrol Dunkleyの同名曲。
ユッタリとしたギターを中心としたワン・
ドロップに、Triston Palmerらしい個性的
なヴォーカルが魅力の曲です。

4曲目は「Touch Me」です。
漂うようなキーボードのメロディに、
Triston Palmerのスキャットから
ヴォーカル…ソフトなワン・ドロップ
の曲です。

Triston Palmer - Touch Me, Take Me


5曲目は「That's All I Want」です。
ソフトなキーボードのメロディに、
Triston Palmerらしい個性的なヴォーカル
が魅力的。

ざっと追いかけてきましたが、一見
ルーツ・レゲエとデジタルのダンスホール
の時代の間に挟まれて地味に感じられて
しまう80年代のアーリー・ダンスホール
の時代ですが、実はこの時代こそがレゲエ
という音楽もっとも成熟し、爛熟した
面白い時代だったんですね。
この時代に活躍したRoots Rdicsの叩き出す
スローなワン・ドロップのリズムは、他
では聴く事の出来ない唯一無二の世界観が
あります。

そのアーリー・ダンスホールの時代に
もっとも光り輝いたアーティストのひとり
が、このTriston Palmerだったんですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Triston Palmer
○アルバム: Entertainment
○レーベル: Midnight Rock
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1982

○Triston Palmer「Entertainment」曲目
Side 1
1. For Health And Strength
2. Entertainment
3. Get It Tonight
4. The First Time Girl
5. Reggae Taking Over
Side 2
1. Sad News
2. Raving
3. Please Stop Your Lying
4. Touch Me
5. That's All I Want

●今までアップしたTristan Palmer (Triston Palma)関連の記事
〇Tristan Palmer「Stop Spreading Rumours: 18 killer Cuts From Jamaica's Legendary Label」
〇Triston Palma「Joker Lover」
〇Triston Palma「Joker Smoker」
〇Triston Palma「Show Case: In A Roots Radics Drum And Bass」
〇Triston Palmer「Fancyness」