今回はJoe Gibbs & The Professionals
のアルバム

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「African Dub All-Mighty Chapter 3」
です。

Joe Gibbsはレゲエの歴史に数々の名曲を
残したプロデューサーとして知られて
います。
彼とエンジニアのErrol Thompsonのコンビ
はThe Mighty Twoと名乗り、レゲエの歴史に
数々の名曲、名アルバムを残して来ました。

しかしCharley Prideのカントリー・ソング
「Someone Loves You Honey」をレゲエ・
アレンジして大ヒットしたものの、その
著作権料を支払わなかった為に裁判を起こ
され敗北し破産。
以降は音楽界で活躍出来なくなります。
2008年に心臓発作で亡くなっています。

レーベル特集 Joe Gibbs (ジョー・ギブス)

The ProfessionalsはそのJoe Gibbsの
ハウス・バンドです。
70年当時のジャマイカはミュージシャン
の専属契約のない状態で、当時の録音は
歌手やミュージシャンを日雇いで雇い、
集まれる人が集まって録音する
「プラスティック・バンド」の形式
が一般的でした。
その為当時のスタジオ・ミュージシャン
はいろいろなグループ名のバンドで
プレイしており、バンド名は誰が
プロデューサーかで決まっていたんです
ね。
例えばJoe Gibbsがプロデューサーなら
The Professionalsと名乗り、Bunny Leeが
プロデューサーならThe Aggrovatorsと
名乗るといった感じです。
このThe Professionalsもベースが
Lloyd Parksという事が多いですが、他の
メンバーは流動的で、ジャマイカのスタジオ・
ミュージシャンがJoe Gibbsのスタジオで
録音する時に使われたバンド名なんですね。
Dennis Brownをはじめとする多くのシンガー
の曲のバックを務めたほか、Joe Gibbs
のレーベルの代表的なダブ「African Dub
All-Mighty」シリーズの演奏などを務めて
います。

Errol Thompsonについても書いておくと、
70年代から80年代にかけて活躍した、
レゲエの歴史に名を残したエンジニア
です。
彼の最初の仕事はStudio Oneで助手をして
いた時代に、スタジオをレンタルした
Bunny LeeがプロデュースしたMax Romeoの
「Wet Dream」で、そのわいせつな歌詞に
怒ったC.S. Doddがスタジオを出て行って
しまった為に、代わりに助手の彼がミックス
したというエピソードはよく知られて
います。
その後Clive Chin)のレーベルRandy'sに
移籍した彼は、初期ダブの名作と言われる
Impact All Starsの「Java Java Java Java」
のミックスを担当し、ダブのミキサーと
して高い評価を受ける事になります。

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Impact All Stars‎– Java Java Java Java (1973)

70年代半ばにはJoe Gibbsのレーベルに
移籍して、彼とのコンビ「The Mighty Two」
としてDennis BrownやCultureなど数多く
のアーティストのミックスや、「African
Dub All-Mighty」シリーズなどのダブの
ミックスを手掛け高い評価を受けます。
しかしJoe GibbsがCharley Prideの
カントリー・ソング「Someone Loves You
Honey」をレゲエ・アレンジして大ヒット
させたものの、その著作権料を支払わ
なかった為に裁判を起こされ敗北し破産。
その後はJoe Gibbsがキングストンで運営
するスーパーマーケットの経営者となり、
音楽の世界からは身を引いてしまうんです
ね。

2004年に脳梗塞で亡くなっています。

アーティスト特集 Errol Thompson (エロル・トンプソン)

今回のアルバムは1978年にジャマイカ
のJoe Gibbs Recordからリリースされた、
「African Dub All-Mighty」シリーズの
第3作目のアルバムです。

この「African Dub All-Mighty」は
シリーズ化していて、75年には第1作目
の「African Dub All-Mighty」、76年に
「Chapter Two」、78年には「Chapter 3」、
79年には「Chapter 4」、そして84年
に「Chapter Five」と計5作が作られて
います。

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Joe Gibbs & The Professionals ‎– African Dub All-Mighty (1975)

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Joe Gibbs & The Professionals ‎– African Dub All-Mighty Chapter Two (1976)

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Joe Gibbs & The Professionals ‎– African Dub All-Mighty Chapter 4 (1979)

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Joe Gibbs & The Professionals ‎– African Dub Chapter Five (1984)

今回のアルバムはそのジャケット・デザイン
の素晴らしさもあって特に人気が高い作品
のようで、たびたび再発されているアルバム
です。

この「African Dub All-Mighty」シリーズ
は、「Chapter Two」までの2作品が比較的
インストに近い作品でしたが、この
「Chapter 3」ではそれまでと違って水音や
「ボヨヨ~~ン!」と何か飛び出すような
擬音など、大胆なエフェクトが巧みに使わ
れたダブへという方向転換が見られ、
ミックスのErrol Thompsonの確かな力量が
発揮された、より娯楽性の強い楽しい
ダブ・アルバムに仕上がっています。

手に入れたのはUKのLightning Records
というレーベルからリリースされたLP
でした。
私はこのアルバムと「Chapter Two」は、
初めにレゲエを聴いていた20代の頃
(おそらく70年代)に購入していて、
この2枚は当時聴いていたダブのアルバム
の中でも特にお気に入りのアルバムの
ひとつでした。

ちなみに3枚目と4枚目をまとめたCD
も、手に入れていました。

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Joe Gibbs & The Professionals‎– African Dub All-Mighty Chapters 3 & 4 (1999)

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced by: Errol Thompson
Exective Producer: Joe Gibbs
Arranged by: Joe Gibbs & Errol Thompson (The Mighty Two)

Art Direction: Joe Gibbs
Design: Trevor Campbell

Bass: Lloyd Park, Robert Shakespear
Guitar: Eric Lamouth, BoPe
Piano: Franklyn Waul, Errol Nelson
Drums: (Sly) N. Dunbar
Organ: H. Butler, Franklyn Waul, Errol Nelson
Percussion: Sticky, Ruddy Thomas
Engineer: Errol Thompson
Horns:
Trumpet: Bobby Ellis
Tenor Sax: Tommy McCook
Alto Sax: Herman Marques
Trombone: Viw Gordon

Recorded at Joe Gibbs Recording Studio, Kingston, Jamaica
Re-mix Engineers: E.T., Joe Gibbs

となっています。

プロデュースはErrol Thompson、
エグゼクティヴ・プロデューサーに
Joe Gibbs、アレンジはJoe GibbsとErrol
ThompsonのコンビThe Mighty Twoとなって
います。

アート・ディレクションはJoe Gibbs、
ジャケット・デザインはTrevor Campbell
となっています。

ミュージシャンはJoe Gibbsのハウス・
バンドThe Professionalsで、ベースに
Lloyd ParkとRobert Shakespear、ギター
にEric LamouthとBoPe、ピアノにFranklyn
WaulとErrol Nelson、ドラムにSly N. Dunbar、
オルガンにH. ButlerとFranklyn Waul、
Errol Nelson、パーカッションにStickyと
Ruddy Thomas、エンジニアはErrol Thompson、
ホーン陣はトランペットにBobby Ellis、
テナーサックスにTommy McCook、アルト・
サックスにHerman Marques、トロンボーン
にViw Gordonの布陣です。
ギターのEric Lamouthとなっているのは
Eric 'Bingy Bunny' Lamount、
トロンボーンのViw Gordonとなっている
のはVin Gordonの誤りだと思われます。

レコーディングはジャマイカのキングストン
にあるJoe Gibbs Recording Studioで行わ
れ、リミックス・エンジニアはE.T.こと
Errol ThompsonとJoe Gibbsとなって
います。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、この「African
Dub All-Mighty」シリーズはJoe Gibbs
とErrol ThompsonのコンビThe Mighty Two
が作った代表的なダブのシリーズですが、
その中でも今回のアルバムは特に白眉の
1枚で、このシリーズを代表するダブなん
ですね。

今回のダブの大きな特徴は、それまでの
2作が比較的インスト色の強いダブだった
のに対して、今回のダブはせせらぎの水音
や「ボヨヨ~~ン!」と何か飛び出すよう
な擬音、銅鑼の音など、様々なエフェクト
が多用されているところにあります。
そうしたエフェクトを多用する事で
それまでに無いような楽しい世界を作り
上げている訳ですが、その分複雑になって
行く訳であり、ミキサーの技量が必要に
なって来るんですね。
そのあたりはダブの創成期からあの「Java
Java Java Java」を作ったErrol Thompson
だけあって、過剰とも思えるエフェクト
をうまく処理して、彼らしい世界を作り
上げることに成功しています。
もっとも彼Errol Thompsonらしい、彼の
代表作のダブのひとつだと思います。

パーカッションを中心にボヨヨ~~ンと
いった擬音なども使ったSide 1の1曲目
「Chapter Three」から始まり、シンセと
ベースを中心とした軽快な演奏の2曲目
「Rema Dub」、ピアノやフルート、ホーン
などの盛りだくさんの演奏の3曲目
「Tribesman Rockers」、せせらぎの水音の
エフェクトや浮遊感のあるシンセが印象的
な4曲目「Freedom Call」、ギターとベース
を中心とした力強い演奏に電話音などの
飛び道具が効いた5曲「Jubilation Dub」、
「Hypocrites」リディムが魅力的なSide 2
の1曲目「The Entebbe Affair」、
The Heptonesの「Love Me Always」リディム
を使った2曲目「Angolian Chant」、浮遊
感のあるシンセとホーンの3曲目「Zion
Gate」、Sound Dimensionの「Rockfort
Rock」リディムの賑やかな「Dub Three」
まで、Errol Thompsonらしい遊び心
いっぱいのダブに仕上がっています。

Side 1の1曲目は「Chapter Three」です。
リディムはAugustus Pabloの「King Tubby
Meets The Rockers Uptown」。
エコーのかかった掛け声からパーカッション
のリズム、ボヨヨ~~ンといった擬音、
雷音など、エフェクト盛りだくさんの
オープニング曲です。

Joe Gibbs and The Professionals - African Dub All-Mighty Chapter Three - 01 - Chapter Three


2曲目は「Rema Dub」です。
リディムはThe Uniquesの「Give Me A
Love」。
シンセのメロディにズシっとしたベースと
心地良いドラミング、ダブワイズした演奏
がビシッとキマッた軽快な曲です。

3曲目は「Tribesman Rockers」です。
リディムはAlton Ellisの「Why Birds
Follow Spring」。
ピアノとフルートのメロディにアクセント
で入るシンセ、ホーン・セクションに
心地良いパーカッション…盛りだくさんで
ありながら、よく計算されたサウンドが
素晴らしいです。

Joe Gibbs & The Professionals - Tribesman Rockers


4曲目は「Freedom Call」です。
リディムはThe Mighty Diamondsの「Ghetto
Living」。
サイレン音からせせらぎの水音の
エフェクト、浮遊感のあるシンセの
メロディ、ズシっとしたベースの演奏に
ダブワイズするヴォーカル…いろいろな
サウンドを細かく入れた、かなり凝った曲
です。

Joe Gibbs and The Professionals - African Dub All-Mighty Chapter Three - 04 - Freedom Call Dub


5曲目は「Jubilation Dub」です。
リディムはDennis Brownの「Repatriation」。
ギターとベース、ピアノなどを使った
力強い演奏と、ダブワイズが効いた1曲。
電話音などの「飛び道具」も効いています。

Side 2の1曲目は「The Entebbe Affair」
です。
リディムはThe Wailersのスカのヒット曲
「Hypocrites」。
銅鑼の音色からホーン・セクション、ダブ
ワイズの効いたヴォーカルに印象的なシンセ
のメロディ…かなり作り込まれた1曲です。

Joe Gibbs & The Professionals - The Entebbe Affair


リズム特集 Hypocrite (ヒポクリッツ)

2曲目は「Angolian Chant」です。
リディムはThe Heptonesの「Love Me
Always」。
軽快なピアノのメロディにシンセ、ダブ
ワイズして行くヴォーカル、打ち込むよう
なパーカッション…。

リズム特集 Love Me Always (ラブ・ミー・オールウェイズ)

3曲目は「Zion Gate」です。
リディムはThe Madladsの「Ten To One」。
浮遊感のあるシンセにズシっとしたベース、
ホーン・セクションのメロディ…。

Joe Gibbs and The Professionals - African Dub All-Mighty Chapter Three - 08 - Zion Gate


4曲目は「Jungle Dub」です。
リディムはAlton Ellisの「Live And
Learn」。
ピコピコ音のエフェクトからシンセの軽快
なメロディ、ズシっとしたベースも効いた
曲です。

5曲目は「Dub Three」です。
リディムはSound Dimensionの「Rockfort
Rock」。
ピアノのメロディにベル音のエフェクト、
ホーン・セクションのメロディと鳩時計の
「ポッポッ」という時刻音、サックス・
ソロなども入った賑やかな曲です。

Joe Gibbs and The Professionals - Dub Three


ざっと追いかけてきましたが、まるで
オモチャ箱をひっくり返したような過剰な
ほどのエフェクトが施されたダブは、この
Errol Thompsonというサービス精神溢れる
ミキサーだからこそ出来た「力業」なん
ですね。
この70年代の聴いておくべきダブ・
アルバムのひとつだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Joe Gibbs & The Professionals
○アルバム: African Dub All-Mighty Chapter 3
○レーベル: Lightning Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1978

○Joe Gibbs & The Professionals「African Dub All-Mighty Chapter 3」曲目
Side 1
1. Chapter Three
2. Rema Dub
3. Tribesman Rockers
4. Freedom Call
5. Jubilation Dub
Side 2
1. The Entebbe Affair
2. Angolian Chant
3. Zion Gate
4. Jungle Dub
5. Dub Three

●今までアップしたJoe Gibbs & The Professionals関連の記事
〇Joe Gibbs & The Professionals「Majestic Dub」
〇Joe Gibbs & The Professionals「African Dub All-Mighty Chapter 4」
〇Joe Gibbs & The Professionals「African Dub All-Mighty Chapter Two」
〇Joe Gibbs & The Professionals「African Dub All-Mighty」
〇Joe Gibbs And The Professionals「State Of Emergency」
〇Joe Gibbs「Reggae Christmas」
〇Joe Gibbs「Scorchers From The Mighty Two」
〇Various「Joe Gibbs 12" Reggae Discomix Showcase Vol.1」
〇Various「Joe Gibbs 12" Reggae Discomix Showcase Vol.2」
〇Various「Joe Gibbs 12" Reggae Discomix Showcase Vol.3」
〇Various「Joe Gibbs 12" Reggae Discomix Showcase Vol.4」
〇Various「Joe Gibbs 12" Reggae Discomix Showcase Vol.5」
〇Professionals「Meet The Aggrovators At Joe Gibbs」