今回はAugustus Pabloのアルバム

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「Rockers Come East」です。

Augustus Pabloは70年代のルーツ・
レゲエの時代から活躍したメロディカ
奏者、キーボード奏者、プロデューサーと
して知られている人です。
それまで練習用の楽器ぐらいにしか思われ
ていなかったメロディカを駆使して、
レゲエにそれまでに無い新しい音楽という
イメージをプラスしたのがこの人なんです
ね。
数々のセッションに参加し、多くの
インストやダブ・アルバムを残し、自身の
レーベルRockersを運営して、Hugh Mundell
やYami Boloなど多くの若手のミュージシャン
を育てたのがこのAugustus Pabloという人
です。

90年代に入ると筋無力症に苦しみ、
化学療法を拒否して自然治癒を目指した
彼でしたが、1999年に亡くなって
います。

オーガスタス・パブロ - Wikipedia

アーティスト特集 Augustus Pablo (オーガスタス・パブロ)

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Agustus Pablo ‎– King Tubbys Meets Rockers Uptown (1976)

今回のアルバムは1987年にUSの
Augustus PabloのレーベルMessageから
リリースされた彼のダブ・アルバムです。

この時代のジャマイカはKing Jammyに
よるデジタルのダンスホール・レゲエ
「コンピューター・ライズド」が真っ盛り
の時代で、ジャマイカ中が新しいデジタル
のコンピューター・サウンドに熱狂して
いた時代なんですね。
ただそうした時代にあってもAugustus
Pabloは、新しい打ち込みのドラムなども
取り入れながら、基本はそれまでも自分が
作り続けて来たルーツ・サウンドを披露
しています。

手に入れたのは日本のCanyon Recordsから
リリースされたCDの中古盤でした。
中には椎名謙介さんという方の書いた
四つ折りの解説文が付いていました。

全11曲で収録時間は約41分。
オリジナルは9曲で、残りの2曲はCD
ボーナス・トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Musicians:
Bass: M. Taylor, A. Pablo, C. Meredith
Drums: Clive Brownie, Squiddly
CZ 101 (DX 100): A. Pablo
Melodica: A. Pablo
Engineer: P. Smart, M. Carrol

Arranged by: H. Swaby
Produced by: King Selassie I and Augustus Pablo (Ras Levi)
Recorded at: H.C.F. Studio, Tuff Gong, Creative Sound
Art Concept: A. Pablo
Graphic Design & Art: B. Case
Cover Photo: Sho Kikuchi

となっています。

ミュージシャンはベースにM. Taylorと
A. Pablo、C. Meredith、ドラムに
Clive BrownieとSquiddly、シンセの
CZ 101 (DX 100)という機材の演奏は
A. Pablo、メロディカもA. Pabloとなって
います。
エンジニアはPhillip SmartとM. Carrolが
担当しています。
ドラムのClive Brownieは、あのSleely &
CleevieのCleevieなんですね。
彼らを初めて使ってくれたのは、この
Augustus Pabloだったそうで、彼らは
インタビューでAugustus Pabloに対する
感謝を語っています。
エンジニアはPhillip Smartは、King
Tubby'sに在籍していた名エンジニア
です。
今回のアルバムにはミックスの記載があり
ませんが、彼がミックスを担当している
ようです。

アレンジはHorace Swaby(Augustus Pablo
の本名)、プロデュースはAugustus Pablo
(Ras Levi)で、レコーディングはH.C.F.
StudioとTuff Gong、 Creative Soundで
行われています。
ちなみにプロデュースにKing Selassie I
とありますが、Augustus Pabloの後期の
アルバムの特徴で、信仰心の厚さから
ラスタの神(ジャー)であるエチオピア皇帝
ハイレ・セラシエの名前を載せるように
なるんですね。

アート・コンセプトはA. Pabloで、
ジャケット・デザインはB. Case、
フォトグラフィはSho Kikuchiとなって
います。

さて今回のアルバムですが、80年代後半
に起こったデジタルの流れに対応しながら
も、Augustus Pabloはそれまで自分が作り
続けたルーツの精神を持った音楽を作って
おり、内容は悪くないと思います。

解説文などによると、Augustus Pabloは
日本に来日した時のインタビューなどで
自分はレゲエでもっとも早くリズム・
ボックスを使っており、そうしたデジタル
への対応はまったく問題なかったと語って
いるようです。
ルーツ・レゲエというと古くて頭が固い
というイメージを持ちがちですが、彼は
それまでに使われていなかったメロディカ
をレゲエの楽器として確立した実績も
あり、柔軟性のある思考の持ち主なんです
ね。
彼にとって作りたい音楽はルーツ・
ミュージックであることは変わりません
が、それがデジタルで作られようが
アナログで作られようが本質に変わりは
ないという思考だったようです。
結果的にそうした柔軟性のある思考の
持ち主のみが、デジタル以降の時代も
生き残ることになり、そうしたデジタル化
に対応できなかったミュージシャンは
自然淘汰されることになるんですね。

ただ80年半ばまでのヒューマンな
ヴァイブスと、それ以降のデジタルな
ヴァイブスとでは大きな断絶があるのも
また事実で、ミュージシャンにとって
その時代を乗り越えるのがかなり大変な
事だったと思われます。
そして今の時代に聴くと、そうした
ヒューマンなヴァイブスを持った曲が
とても魅力的に聴こえる部分もあるん
ですね(笑)。
今回のアルバムでいうとオリジナル・
アルバム最後の曲9曲目の「Zion Seals
Dub」が彼らしいヒューマンな
メロディカを駆使した曲で、アルバムの
中でも特に魅力的に聴こえます。

そうしたクールなデジタルの中に、
ヒューマンなアナログを入れ込むのが
うまいのが、このデジタル以降の
Augustus Pabloのサウンドなんですね。
クールであるからこそ余計に人の温もり
を感じるのは、言うまでもありません。

1曲目は「Pablo Meets "P" Smart In L.I.」
です。
ストリングスと打ち込みのデジタル・
サウンドを使った、ソフトな曲です。
80年代後半からAugustus Pabloの曲は、
こうしたソフトな優しい曲が増えるん
ですね。

2曲目は「Progression Dub」です。
こちらはAugustus Pabloらしいクリアな
メロディカと、打ち込みのデジタル・
サウンドを組み合わせた曲です。
打ち込みのリピートと、ヒューマンな
メロディカの組み合わせが面白い1曲
です。

Augustus Pablo - Progression Dub


3曲目は「Revelino Dub」です。
Augustus Pabloの元でアルバムを出して
いる女性シンガーBunny Brissetteの
「Never Go Astray」という曲のダブです。
シンセの優しいメロディに、打ち込みの
ドラムとベースという組み合わせ。

Augustus Pablo - Revelino Dub


4曲目は「Babylon Loosing Dub」です。
ベースと水音のようにも聴こえる
ストリングス、ヴォーカルも入ったダブ
です。

5曲目は「Sun Ray Dub」です。
メロディカを中心に、シンセにピアノも
絡んだ表情豊かなダブです。

Augustus Pablo - Sun Ray Dub


6曲目は「Jah "D" Special」です。
寂寥感のあるシンセのメロディと、打ち
込みのリズムをうまく使った曲です。
デジタルを使っても、ちゃんと「ファー・
イースト・サウンド」を作り上げている
のはさすが!というしかありません。

Augustus Pablo Jah D Special


7曲目は表題曲の「Rockers Comes East」
です。
明るいシンセのメロディに、打ち込み
らしいデジタル・サウンドが冴える曲
です。

augustus pablo - Rockers Come East


8曲目は「Dubbing The Oppressors」です。
こちらは打ち込みの太鼓を前面に出した、
リズミカルな曲です。
大胆な「デジタル使い」が面白いところ。

9曲目は「Zion Seals Dub」です。
最後はAugustus Pabloらしい寂寥感のある、
メロディカのダブで締めています。
こういうAugustus Pabloが、皆が一番聴き
たい彼という事を解っているんですね。
彼らしいスピリチュアルが満ち溢れた曲
です。

augustus pablo - Zion Seals Dub


最後の2曲はオリジナルにはないCD
ボーナス・トラックですが、ここでは割愛
します。

ざっと追いかけてきましたが、この
Augustus Pabloはその精神的な基本に
ラスタファリズムという宗教があり、
音楽的な基本にルーツ・レゲエという
音楽がある人で、その基本的なところが
ブレていない人なんですね。
彼がデジタル以降も変わらずに活躍出来た
のは、その変わらぬ姿勢がリスナーを
惹きつけたのだと思います。

ただ彼のサウンド自体は70年代の
デビュー当時のメロディカや
ヴィブラフォンを駆使した荒ぶるような
サウンドから徐々に変化して、シンセや
メロディカ、ストリングスなどを使った
ソフィスティケートされた優しいサウンド
へと変わって行くんですね。
そのあたりの変化も面白いところです。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Augustus Pablo
○アルバム: Rockers Come East
○レーベル: Canyon Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1987

○Augustus Pablo「Rockers Come East」曲目
1. Pablo Meets "P" Smart In L.I.
2. Progression Dub
3. Revelino Dub
4. Babylon Loosing Dub
5. Sun Ray Dub
6. Jah "D" Special
7. Rockers Comes East
8. Dubbing The Oppressors
9. Zion Seals Dub
(CD Bonus Tracks)
10. Jah In The Hills
11. Armageddon

●今までアップしたAugustus Pablo関連の記事
〇Augustus Pablo「Augustus Pablo Presents Healer Dub」
〇Augustus Pablo「Blowing With The Wind」
〇Augustus Pablo「Born To Dub You」
〇Augustus Pablo「Dubbing In A Africa」
〇Augustus Pablo「Dubbing With The Don」
〇Augustus Pablo「Earth's Rightful Ruler」
〇Augustus Pablo「East Of The River Nile」
〇Augustus Pablo「Eastman Dub」
〇Augustus Pablo「Greek Theater - Berkley 1984」
〇Augustus Pablo「In Fine Style: Original Rockers 7" and 12" Selection 1973-1979」
〇Augustus Pablo「King David's Melody」
〇Augustus Pablo「King Tubbys Meets Rockers Uptown (Deluxe Edition)」
〇Augustus Pablo「One Step Dub」
〇Augustus Pablo「Original Rockers」
〇Augustus Pablo「Pablo Meets Mr. Bassie: Original Rockers Vol.2」
〇Augustus Pablo「Presents Rockers International」
〇Augustus Pablo「Presents Rockers International 2」
〇Augustus Pablo「Rebel Rock Reggae: This Is Augustus Pablo」
〇Augustus Pablo「Rockers Meets King Tubbys In A Fire House」
〇Augustus Pablo「Skanking With Pablo: Mlodica For Hire 1971-77」
〇Augustus Pablo「Valley Of Jehosaphat」
〇Hugh Mundell, Augustus Pablo「Africa Must Be Free By 1983 / Africa Must Be Free By 1983 Dub」
〇Various「Rockers All Stars」
〇Jacob Miller「Jacob Miller & Inner Circle Band & Augustus Pablo」
〇Augustus Pablo「Ital Dub」
〇Tetrack, Augustus Pablo「Let's Get Started / Eastman Dub」