今回はI Royのアルバム

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「Gussie Presenting I Roy」です。

I Royは70年代から活躍したルーツ・
ディージェイの中でも、もっとも人気を
博したディージェイです。
その鋭いトースティングで、デビューから
10年間常にトップ・ディージェイの地位
を維持し続けたという人気でした。
75年にI RoyとPrince Jazzboの間で
起きた「伝説の舌戦」はとても有名で、多く
の人を巻き込んでジャマイカの音楽界を盛り
上げた事で知られています。

1999年に心臓疾患のため他界して
います。

アーティスト特集 I Roy (アイ・ロイ)

今回のアルバムは1973年にUKの
Trojan Recordsからリリースされた、彼の
ファースト・アルバムです。

プロデュースはAugustus 'Gussie' Clarke
で、Lloyd Parksの「Slaving」のリディム
の「Black Man Time」や、Alton Ellisの
「Breaking Up」リディムの「Melinda」、
The Heptonesの「Tripe Girl」リディムの
同名曲など、ファースト・アルバムであり
ながらすでに風格のある鋭いトースティング
を聴かせています。

手に入れたのはTrojan Recordsからリリース
されたCDでした。
オリジナル12曲に加えて、CDボーナス・
トラック11曲がプラスされた、全23曲
入りのアルバムでした。

全23曲で収録時間は約76分。
オリジナルは12曲で、残りの11曲はCD
ボーナス・トラックです。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

All tracks performed by I Roy unless otherwise stated

All Recordings Produced by Augustus Clarke

Design by mystery.co.uk

という記述があります。

さて今回のアルバムですが、I Royらしい
ズシッと手ごたえを感じるトースティング
が聴けるアルバムで、内容はなかなか良い
です。
何よりデビュー・アルバムでこれだけの風格
を感じるトースティングが出来るのは驚異的
で、彼の実力の高さがよく解ります。
彼がその後10年間トップ・ディージェイの
座に君臨したというのは、この実力があって
の事だったんですね。

実はこのアルバムには、もう1枚兄弟の
ようなアルバムが存在します。
それがBig Youthの72年のアルバム
「Screaming Target」なんですね。

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Big Youth - Screaming Target (1972)

レゲエレコード・コムのI Royのページ(上)
と、レーベル特集のMusic Worksのページに
書かれていますが、この2枚のアルバムは
同じトラックを別のディージェイにトース
ティングさせたアルバムなんですね。

レーベル特集 Music Works (ミュージック・ワークス)

今そう聞くと「レゲエの世界ではそんなの
当たり前なんじゃ…」と思うかもしれません
が、当時はこれがけっこう画期的な事だった
らしいです。
このアルバムは72年のアルバム(レゲエ
レコード・コムの文章では73年になって
います)で、その時代はおそらく違う
ディージェイで同じトラックで曲を出す
事はあまり一般的でなかったのかもしれ
ません。
そう考えるとこの2枚のアルバムは、その後
盛んになる「使い回し」のハシリのアルバム
という事になります。

こういう「使い回し」は、弱小のプロデュー
サーにとってはとても切実な問題だったん
ですね。
この70年代初め頃のジャマイカは、大手の
プロダクションはC.S. DoddのStudio Oneと
Duke RiedのTressure Isleしかなく、
ほとんどはスタジオを持たない弱小の
プロデューサーだったんですね。
そうしたプロデューサーはスタジオを
レンタルし、歌手とミュージシャンを雇い、
レコードを作っていたんですね。
その負担はすべてプロデューサーで、新曲
ばかり作っていたら、当然のようにそのたび
に経費がかかる事になります。
そこで「使い回し」をする必要性が生まれて
来たんですね。
曲を加工するダブや、曲でしゃべる
ディージェイという画期的な音楽が生まれた
のも、曲の「再利用」という経済的な理由が
背後にはあったんですね。

この72,73年頃にはすでにそうした
「使い回し」をするダブやディージェイと
いう音楽が誕生していますが、おそらく同じ
トラックを別のディージェイにトース
ティングさせるというのはまだ一般的では
なかったのかもしれません。
それを行ったのがAugustus 'Gussie' Clarke
だとすると、それはかなり画期的な事だった
んですね。
この時代は彼Augustus 'Gussie' Clarkeや
SanticレーベルのLeonard 'Santic' Chinなど
は、ジャマイカのプロデューサーの中でも
かなり若手のプロデューサーで、彼らに
とってもレコードを作るという事はかなり
経済的に大変な事だったんだと思います。
そこをアイディアで乗り越えているところ
に、彼らが生き残った秘密があるのかもしれ
ません。

こうしてジャマイカのレゲエを多く聴いて
いると、驚くほど同じリディムを何回も
何回も何回も飽きるほど「使い回し」ている
んですね。
80年代に入ってもそれよりも10年以上前
のロックステディのリディムを使っていたり
とか、しつこいまでの「使い回し」ぶりなん
ですね(笑)。
それは曲の新しい古いよりも、その音楽の
「グルーヴ」を重視する世界観なんですね。
そのグルーヴ重視の世界観は、この2枚の
アルバムから始まったと言えるかもしれま
せん。

ある意味そういうグルーヴ重視の世界観を
作ったのが、このAugustus 'Gussie' Clarke
だったと言えるのかもしれません。
それはけっこうスゴイ事なんですね。

さて話を戻しますが、実際にこの2枚の
アルバムを聴き較べてみると、実は同じ
トラックが使われていると思われる曲は
意外と少なく、Dennis Brownの「In His
Own Way」のリディムを使ったI Royでは
「Coxsone Affair」、Big Youthでは
「Be Careful」という曲と、Lloyd Parks
の「Slaving」リディムのI Royでは
「Black Man Time」、Big Youthでは
「Honesty」という曲の2曲だけしか確認
できませんでした。
しかも「Slaving」リディムの方は、I Roy
の方のヴァージョンではヴァイオリンが
オーヴァー・ダブされていたりと、それなり
の工夫が見える丁寧な作りなんですね。

Big Youth - Honesty (1972)


I ROY - BLACK MAN TIME


おそらくこうした丁寧な作りと、2人の
ディージェイの個性の違うトースティングが
評判を呼んだものと思われます。
この70年代後の歌手やディージェイには、
元の曲にどれだけ新しいリリックが盛り
込めるか?そういう才能が要求されたんです
ね。

Bunny Leeのインタビューなどを見ると、
よく「彼はリリックを持っていた」という
言い方をしていますが、それは元の曲に
どれだけ新しい要素(リリック)を盛り
込めるか?という事を指しているようです。
プロデューサーにとって新しいリリックを
盛り込んでくれるシンガーやディージェイ
の存在は、とても貴重だったんですね。
決められたように歌うだけでは生き残れ
ない、それがこのジャマイカの音楽界だった
んだと思います。

その点今回のBig YouthやI Royは強い個性
を持ったディージェイで、雇い主の
プロデューサーの要求に応えられるだけの
スキルを持ったディージェイだったんだと
思います。
同じトラックの同じりリディムを使いなが
らも、全く別のリリックを持ったトース
ティングは、当時の人々に新鮮な感動を
与えたのではないでしょうか。
おそらくこのアルバム以降同じトラックで
別のディージェイがトースティングする事
が、一般化したんじゃないでしょうか。
あの75年にI RoyとPrince Jazzboの間で
起きた「伝説の舌戦」では、2人の
ディージェイがJohnny Clarkeの「Do You
Love Me」など同じトラックで罵り合って
いるんですね(笑)。
そういう「伝説の舌戦」の元を辿れば、
これらのアルバムという事になるのかも
しれません。

話をアルバムに戻しますが、今回のアルバム
ではそうした「共演曲」の他にもI Royと
いうディージェイの個性がよく出た曲が
たくさん収められていて、デビュー・
アルバムにしてかなり楽しめるアルバムに
仕上がっています。
このI Royはデビューから10年間トップ・
ディージェイに君臨したという人なんです
が、このデビュー・アルバムのズシッとした
聴きごたえは、彼がそれだけの実力を持って
いた事をハッキリと証明しています。

ラスタ・カラーをタイトルにした1曲目
「Red, Gold & Green」から始まり、
Alton Ellisの「I'm Just A Guy」リディム
の2曲目「Pusherman」、そしてBig Youthの
アルバムと同じLloyd Parksの「Slaving」
リディムの3曲目「Black Man Time」、
Dennis Brownの「Smile Like An Angel」
リディムの4曲目の同名曲、こちらも
Big Youthとの共演曲のDennis Brownの
「In His Own Way」リディムの6曲目
「Coxsone Affairs」、The Heptonesの
「Love Won't Come Easy」リディムの7曲目
「Screw Face」、Alton Ellisの「Breaking
Up」リディムの9曲目「Melinda」、
The Heptonesの「Tripe Girl」リディムの
11曲目「Tripe Girl」、Roman Stewartの
「Try Me」リディムの12曲目「Cow Town
Skank」と、70年代前半のレゲエのヒット
曲を巧みに使ったトースティングはすでに
風格があり、このディージェイの高い実力を
証明しています。

さらに11曲ものCDボーナス・トラック
まで付いた今回のアルバムは、聴きごたえ
充分です。

1曲目は「Red, Gold & Green」です。
ユッタリしたホーンのイントロから、
ギターのメロディに乗せたI Royのトース
ティング。
「赤、金、緑」はご存じラスタ・カラー
なんですね。

2曲目は「Pusherman」です。
Alton Ellisのロックステディのヒット曲
「I'm Just A Guy」リディムで、のちの
70年代後半にSugar Minottがこの
リディムを使った「Vanity」をヒット
させた事で、今では「Vanity」リディム
として知られている曲です。
I Royのトースティングからホーンとギター
のメロディにコーラス。
ロックステディの匂いを残したメロディ・
ラインが素敵です。

i roy pusherman


リズム特集 I'm Just A Guy (アイム・ジャスト・ア・ガイ)

3曲目は「Black Man Time」です。
リディムはLloyd Parksの「Slaving」。
書いたようにBig Youthとの競作ナンバー
です。
こちらの方だけヴァイオリンのメロディが
入っています。
そういう気配りの効いた子毎回音作りに、
のちにMusic Worksを立ち上げるAugustus
'Gussie' Clarkeらしい気配りが感じられ
ます。

4曲目は「Smile Like An Angel」です。
リディムはDennis Brownの同名曲「Smile
Like An Angel」です。
明かるいギターとピアノを中心とした
メロディに、I Royの滑らかなトース
ティングが冴えます。

5曲目は「Peace」です。
こちらも明るいギターとホーンのメロディ
に、I Royらしい滑らかなトースティング。

6曲目は「Coxsone Affairs」です。
こちらがBig Youthとのもうひとつの
競演曲です。
リディムはDennis Brownの「In His Own
Way」。
オルガンとギターのちょっと悲し気な
メロディに、立て板に水のI Royの流れる
ようなトースティング。

i roy . coxsone affair ( wicked dj cut to Dennis Brown Tune )


7曲目は「Screw Face」です。
リディムはThe Heptonesの「Love Won't
Come Easy」。
そのリディムを使用したAugustus Pabloの
「Frozen Dub」のディージェイ・ヴァー
ジョンです。
まだ若いAugustus Pabloの荒ぶるような
メロディカと、Carlton Barrettのガツっと
来るドラムをバックに、ノリの良いトース
ティングを聴かせています。

I Roy - Screw Face - (Presenting I Roy)


8曲目は「First Cut Is The Deepest」
です。
ギターのメロディに乗せた、ソフトな
ヴォーカルとI Royのラフなトースティング
との対比が面白い1曲です。

I Roy - The First Cut Is The Deepest - (Presenting I Roy)


9曲目は「Melinda」です。
リディムはAlton Ellisのロックステディ
の名曲「Breaking Up」。
耳馴染みの良いホーンのメロディに男性
ヴォーカル、I Royのトースティングと
聴きどころ満点な曲です。

I Roy - Melinda


リズム特集 Breaking Up (ブレイキング・アップ)

10曲目は「Tourism Is My Business」
です。
ピアノとギターのメロディに、I Royの
滑らかなトースティングが冴える曲です。

11曲目は「Tripe Girl」です。
リディムはThe Heptonesの同名曲「Tripe
Girl」です。
ちょっと陰のあるホーンのメロディに
コーラス、I Royの滑らかなトース
ティング…。

12曲目は「Cow Town Skank」です。
リディムはRoman Stewartの「Try Me」。
車のサイレンに会話から始まる曲です。
ピアノとギター、ベースを中心とした
メロディに、I Royの表情豊かなトース
ティングが冴えます。

13~23曲目までの11曲は、オリジナル
にはないCDボーナス・トラックが収められ
ています。
それだけでアルバムが1枚出来てしまいそう
な量ですが、ここでは説明は割愛します。

ざっと追いかけて来ましたが、I Royはこの
70年代のレゲエ・シーンに登場して来た時
からすでに十分な実力と風格を備えていた
事がうかがえるアルバムで、内容はとても
良いです。
その並外れた実力で彼はこの後の10年間、
ジャマイカのトップ・ディージェイに君臨
し続けるんですね。

今回のアルバムはそのI Royの代表作の
ひとつであり、70年代前半のディー
ジェイ・アルバムの聴いておくべき1枚
だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: I Roy
○アルバム: Gussie Presenting I Roy
○レーベル: Trojan Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1973

○I Roy「Gussie Presenting I Roy」曲目
1. Red, Gold & Green
2. Pusherman
3. Black Man Time
4. Smile Like An Angel
5. Peace
6. Coxsone Affairs
7. Screw Face
8. First Cut Is The Deepest
9. Melinda
10. Tourism Is My Business
11. Tripe Girl
12. Cow Town Skank
(CD Bonus Tracks)
13. Sudden Flight
14. Presenting I Roy
15. Rival Warfare
16. Education For Free
17. Leggo Beast
18. Magnificent Seven
19. High Jacking
20. Burning Passion
21. King And The Pauper
22. Clappers Tail
23. Live And Learn