今回はVarious (King Tubby & Clancy Eceles
All Stars)のアルバム

king_tubby_11a

「Sound System International Dub LP」
です。

まずは今回のアルバムに関係のある2人の
人物King TubbyとClancy Ecelesについて
説明しておきます。

King Tubbyはルーツの時代から活躍するダブ
のミキサーであり、プロデューサーである人
です。
もともと電気技師だった彼は、ルーツ・
レゲエの時代からミキサーとして活躍し、
ダブの創成期からダブを作った人として知ら
れています。

ダブはルーツ・レゲエが誕生した70年代
初め頃から徐々に作られるようになるのです
が、1973年に一斉にダブのアルバムが
作られた事から一気にひとつのジャンルと
して確立した音楽で、エコーやリバーヴなど
のエフェクトなどを使用して原曲を全く別の
曲に作り変えてしまう手法を指します。

ダブ - Wikipedia

リミックスの元祖とも言われる音楽で、誰が
初めのダブを考案したかかはハッキリとは
解っていないのですが、このKing Tubbyが
ダブという音楽を完成させたと言われてい
ます。
自身のスタジオKing Tubby'sで、助手の
Prince JammyやScientistなどとともに
70年代から80年代にかけて多くのダブの
ミックスを手掛けたのが、このKing Tubby
という人なんですね。

その後も活躍を続けたKing Tubbyでしたが、
1989年に自宅前で何者かに射殺されて
亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby (キング・タビー)

Clancy Ecelesはロックステディから初期
レゲエの時代に活躍した、シンガーであり
プロデューサーである人です。
60年だ後半のロックステディの時代に
シンガーとして活躍したほか、自身のレーベル
Clandiscで多くのアーティストをプロデュース
した事で知られています。

クランシー・エクルズ - Wikipedia

レーベル特集 Clandisc (クランディスク)

今回のアルバムは1976年にClancy Eceles
のレーベルと思われるClancy Recordsから
リリースされた、King Tubbyがミックスを
手掛けたダブ・アルバムです。

オリジナルは白ジャケに「Sound System
International Dub LP」というスタンプが
されただけのアルバムで、レア盤マニアでも
手に入らないという希少なアルバムだった
らしいです。
もともとジャマイカのダブは、こうした
白ジャケにスタンプというだけでごく小数枚
リリースされる事が多く、コレクターでも
集めるのが大変なジャンルなんですね。
このアルバムも「歴史から消えた名盤」と
呼ばれていたアルバムなんだそうです。

それが2009年にUKのレゲエ・
リイシュー・レーベルPressure Soundsから
リイシューされたのが今回のアルバムです。

オリジナルはClancy Ecelesのバック・
バンドThe Dynamitesが演奏を担当した
全10曲入りのアルバムで、それに加えて
ディージェイのKing Stittの曲など5曲を
プラスした全15曲入りのアルバムになって
います。
(曲順も変更されています。)
初期レゲエらしいちょっと荒さのある演奏
に、King Tubbyのまだ若さを感じる
トンがったミックスが印象的なアルバム
です。

手に入れたのはPressure Soundsから
リリースされたCDの中古盤でした。

全15曲で収録時間は約43分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Musicians:
The Dynamites/The Clancy Eccles All Stars:
Drums: Paul Douglas, Winston Grennan, Joe Isaacs,
Hugh Malcolm, Paul Wilson
Bass: Bryan Atkinson, Clifton 'Jackie' Jackson
Guitar: Lynford 'Hux' Brown, Radcliffe 'Duggie' Bryan
Ernest Ranglin, Lorraine 'Ranny Bop' Williams
Piano: Gladstone 'Gladdy' Anderson
Organ: Aubrey Adams, Winston 'Brubeck' Wright
Tenor Saxophone: Dennis 'Ska' Campbell,
Hedley 'Deadly' Bennett, Val Bennett
Alto Saxophone: Carl 'Cannonball' Bryan
Trumpet: Bobby Ellis, Johnny 'Dizzy' Moore
Trombone: Karl Masters
Percussion: Denzil 'Pops' Laing, Larry McDonald,
Uziah 'Sticky' Thompson

Produced & Arranged by: Clancy Eccles

Recorded at:
W.I.R.L. (West Indies Records Limited) Studio &
Dynamic Sounds Recording Studio, Kingston, Jamaica
Engineers: Lynford 'Andy Capp' Anderson, Sid Bucknor

Remixed at:
King Tubby's Recording Studio, Kingston, Jamaica
Engineer: Osbourne 'King Tubby' Ruddock

Artwork & Design: Ben Bailey

となっています。

バック・バンドはClancy Ecclesのバック・
バンドThe DynamitesとThe Clancy Eccles
All Starsで、ドラムにPaul Douglasと
Winston Grennan、Joe Isaacs、Hugh Malcolm、
Paul Wilson、ベースにBryan Atkinsonと
Clifton 'Jackie' Jackson、ギターにLynford
'Hux' BrownとRadcliffe 'Duggie' Bryan、
ピアノにGladstone 'Gladdy' Anderson、
オルガンにAubrey AdamsとWinston 'Brubeck'
Wright、テナー・サックスにDennis 'Ska'
CampbellとHedley 'Deadly' Bennett、
Val Bennett、アルト・サックスにCarl
'Cannonball' Bryan、トランペットに
Bobby EllisとJohnny 'Dizzy' Moore、
トロンボーンにKarl Masters、パーカッション
にDenzil 'Pops' LaingとLarry McDonald、
Uziah 'Sticky' Thompsonという布陣です。

人数がやたらと多いのは、これらの音源が
一度に録られたものではなく、いろいろな
音源から作られたダブの為のようです

プロデュースとアレンジはClancy Eccles。

レコーディングはジャマイカのキングストン
にあるW.I.R.L. StudioとDynamic Sounds
Recording Studioで行われ、エンジニアは
Lynford 'Andy Capp' AndersonとSid Bucknor
が担当しています。

ミックスはジャマイカのキングストンにある
King Tubby's Recording Studioで行われ、
エンジニアはOsbourne 'King Tubby' Ruddock
が担当しています。

アート・ワークとデザインはBen Bailey。

さて今回のアルバムですが、これがレアな
非常に手に入りにくいアルバムだという
事は置いておいたとしても、初期レゲエ
らしいちょっと荒々しい演奏に、まだ初期の
King Tubbyらしい切れ味のあるミックスが
組み合わさったアルバムで、内容はとても
良いと思います。

やはりポイントはこれがKing Tubbyの初期
のミックスらしい事で、まだ初期レゲエの
頃のThe Dynamitesの荒さのある演奏を、
エフェクトなどはあまり用いずドラムや
ベースの重低音を強調する事で、うまくダブ
として成立させている点です。
King Tubbyはこうした曲の輪郭をうまく
なぞって協調する事で、メリハリの効いた
ダブを作るのが非常にウマい人なんですね。
そうした特徴がこのアルバムにすでに見て
取れ、彼のクリエイターとしての優れた才能
が、このアルバムの時点でよく解るんです
ね。

またバックのThe Dynamitesのガンガン来る
初期レゲエらしい演奏によるところが大きい
と思いますが、今回のアルバムはKing Tubby
の作品の中でもかなりトンがったダブに
仕上がっており、その荒々しさも魅力の
ひとつです。
彼King Tubbyは電気技師としての才能も
持っており、依頼主の要求にかなり忠実に
応えられる人なので、こうしたサウンドに
なったのは依頼主のClancy Ecclesの要求に
応えた結果なのかもしれません。
販売サイトのアルバム評にも書かれていま
したが、「サウンド・システムでの使用を
念頭に置いたタフなミックス」というのは
けっこう当たっている気がします。
サウンドがかなり刺激的で、野外のサウンド・
システムなどで大音量でかけたら気持ち良さ
そうなサウンドなんですね。

King Tubbyの作品の中でもこれだけ
トンがったミックスというのは少なく、思い
付くところでは75年頃に作られたMorwell
Unlimitedのアルバム「Dub Me」ぐらいなん
ですね。

king_tubby_15a
Morwell Unlimited Meets King Tubby ‎– Dub Me (1975?)

こちらもあのBingy Bunnyが参加した
コーラス・グループThe Morwellsのバック・
バンドMorwell Unlimitedの演奏をダブにした
アルバムで、バックの荒々しい演奏を生か
したダブを作っているんですね。
依頼主の好みやバンドの特性を生かしたダブ
を作る、そのあたりがダブ職人King Tubby
らしいところでもあります。

話を戻しますが、まだロックステディの香り
を残したClancy Ecclesのバック・バンド
The Dynamitesの若々しい演奏も魅力の
ひとつで、ガシッと硬いドラミングやズシッ
としたベースを中心とした荒々しい演奏で、
まだ初期レゲエの形の定まらない強い
エネルギーが感じられるのもこのアルバム
の面白いところです。

またダブだけではちょっと単調になるところ
に、ボーナス・トラックとして初期ディー
ジェイのKing Stittの楽曲などをうまく挟み
込んでいるのも、リイシュー・レーベル
Pressure Soundsらしい心の行き届いた編集
で好感が持てます。

1曲目はThe Dynamitesの「Dub Star」です。
初期レゲエらしい刻むようなリズムに、あの
ロック・バンドThe Doorsのヒット曲
「Light My Fire」を連想させるような
浮遊感のあるキーボードのサウンドがクール
で面白い曲です。

The Dynamites - Dub Star


2曲目はThe Dynamitesの「Kingston Dub
Town」です。
原曲はスカの時代に活躍したLord Creator
の「Kingston Town」のようです。
リリカルなピアノからちょっとセンチ
メンタルなヴォーカル、それに反する
ようなガツっと来るドラミングの対称が
面白い1曲。

Kingston Dub Town - The Dynamites


3曲目はKing Stittの「King Of Kings」
です。
こちらはオリジナルにはない曲です。
明るいオルガンのメロディに乗せた
初期レゲエの時代のディージェイ
King Stittのトースティングです。
この人自体は曲の前後に掛け声を入れる
「掛け声係」的なディージェイなんですが、
この曲は曲の中でもトースティングをして
いるので、U Royがそのスタイルをヒット
させて以降の録音か?
明るく空気が和む1曲。

King Stitt - King of Kings


4曲目はThe Dynamitesの「Joe」です。
明るいギターのメロディから、ズシッとした
ベースを軸にギターキーボードで彩りを
添えた曲です。

5曲目はKing Stitt & Clancy Ecclesの
「Dance Beat」です。
こちらもオリジナルにない曲です。
明るいホーンのメロディ、King Stittと
Clancy Ecclesによる語り合うような
トースティング。

KING STITT & CLANCY - DANCE BEAT


6曲目はThe Dynamitesの「Garrison」
です。
こちらはベースのズシッとしたサウンドを
軸に、ギターやオルガン、ピアノで彩りを
添えた曲です。

7曲目はThe Dynamitesの「Red Moon」
です。
浮遊感のあるキーボードに、ホーンの
メロディが良い空気感を醸し出している曲
です。

The Dynamites - Red Moon


8曲目はThe Dynamitesの「King Tubby's
City Dub」です。
ギターとオルガン、ピアノのイントロから、
ベースのズシッとした演奏を軸とした1曲。

9曲目はThe Dynamites & Andy Cappの
「Phantom」です。
こちらもオリジナルにない曲です。
こちらは8曲目「King Tubby's City Dub」
の別ヴァージョンのようです。

10曲目はKing Stittの「I For I」です。
こちらもオリジナルにない曲です。
浮遊感のあるオルガンのメロディに、
King Stittの元気のあるトースティング。

11曲目はThe Dynamitesの「King Banga」
です。
元気のあるピアノのメロディから始まる、
ベースを軸としたド・渋なダブです。
うまく強調されたピアノやベース、ドラムの
サウンドが強烈な1曲。

The Dynamites - King Banga - LP


12曲目はThe Dynamitesの「Down Town」
です。
オルガンのメロディにヴォーカル、リリカル
なピアノ、ベースと展開して行く曲です。

13曲目はThe Dynamitesの「Uptown
Shuffle Dub」です。
ズシッとしたベースにキーボード、ピアノ
などがうまく絡んだダブ。

14曲目はThe Dynamitesの「House Of
Darkness」です。
ガシッと硬いドラミングにキーボードや
ピアノが絡んだダブです。

15曲目はThe Dynamitesの「Tribute To
Drumbago」です。
こちらもオリジナルにない曲です。
哀愁のあるトランペットのメロディから、
ホーン・セクションが北条のある楽しい
メロディを奏でる1曲。

ざっと追いかけて来ましたが、初期レゲエ
らしい若々しいサウンドを、King Tubbyは
その魅力を損なわないようにすごくウマく
ミックスしているんですね。
彼のまだ手慣れた感じではない、心配りの
感じられるミックスが素晴らしいです。

この後彼King Tubbyは数多くのミックスを
体験して、ダブという音楽を体系化して行く
んですね。
そして自分のスタジオKing Tubby'sで、
助手だったPrince JammyやScientistととも
に、70年代から80年代にかけてダブと
いう音楽を量産して行く事になるんですね。

そうした量産が可能だったのも、King Tubby
という人が自分の感性に頼らない理知的な
視線を持った人で、さらに電気技師という
音響機材を自在に操れる才能のある人だった
からなんですね。
現代の音楽はKing Tubbyから始まっていると
言われる事がありますが、このKing Tubbyは
音楽を感性だけで作るのではなく理性で作る
手法を始めた人だったからなんですね。

今回のアルバムは単にレアなアルバムだった
という事ではなく、そのKing Tubbyの初期の
音源としてとても貴重なアルバムだと思い
ます。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various (King Tubby & Clancy Eceles All Stars)
○アルバム: Sound System International Dub LP
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○Various (King Tubby & Clancy Eceles All Stars)「Sound System International Dub LP」曲目
1. Dub Star - The Dynamites *
2. Kingston Dub Town - The Dynamites *
3. King Of Kings - King Stitt
4. Joe - The Dynamites *
5. Dance Beat - King Stitt & Clancy Eccles
6. Garrison - The Dynamites *
7. Red Moon - The Dynamites *
8. King Tubby's City Dub - The Dynamites *
9. Phantom - The Dynamites & Andy Capp
10. I For I - King Stitt
11. King Banga - The Dynamites *
12. Down Town - The Dynamites *
13. Uptown Shuffle Dub - The Dynamites *
14. House Of Darkness - The Dynamites *
15. Tribute To Drumbago - The Dynamites
* オリジナルLPに収められている曲目

●今までアップしたKing Tubby関連の記事
〇King Tubby & Friends「Dub Gone Crazy: The Evolution Of Dub At King Tubby's 1975-1979」
〇King Tubby & Soul Syndicate「Freedom Sounds In Dub」
〇King Tubby & Friends「Dub Like Dirt 1975-1977」
〇King Tubby & Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
〇King Tubby And The Aggrovators「Shalom Dub」
〇King Tubby, Scientist「Ranking Dread In Dub」
〇King Tubby, Errol Thompson「The Black Foundation In Dub」
〇King Tubby「100% Of Dub」
〇King Tubby「Dangerous Dub: King Tubby Meets Roots Radics」
〇King Tubby「Dub From The Roots」
〇King Tubby「Fatman Presents: Unleashed Dub Vol.1」
〇King Tubby「King Of Dub」
〇King Tubby「King Tubby Presents The Roots Of Dub」
〇King Tubby「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style Part 2」
〇King Tubby「Rocker's Almighty Dub」
〇King Tubby「The Fatman Tapes」
〇King Tubby「The Sound Of Channel One: King Tubby Connection」
〇King Tubby's (Scientist)「King Tubby's Answer The Dub」
〇King Tubby's「African Love Dub 1974-1979」
〇King Tubby's「King Tubby's Present Two Big Bull In A One Pen Dubwise」
〇Augustus Pablo「King Tubbys Meets Rockers Uptown (Deluxe Edition)」
〇Augustus Pablo「Rockers Meets King Tubbys In A Fire House」
〇Prince Jammy VS King Tubbys「His Majestys Dub」
〇Tommy McCook & The Agrovators「King Tubby Meets The Agrovators At Dub Station」
〇African Brothers, King Tubby「The African Brothers Meet King Tubby In Dub」
〇Aggrovators「Dubbing At King Tubby's」
〇Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators「Brass Rockers」
〇Various「Firehouse Revolution: King Tubby's Productions In The Digital Era 1985-89」
〇Various「King Tubbys Presents Soundclash Dubplate Style」
〇Various「Once Upon A Time At King Tubbys」
〇Augustus Pablo「Ital Dub」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meets King Tubby's In Dub Conference Volume One」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meet King Tubby In Dub Conference Vol.2」
〇Harry Mudie, King Tubby「Harry Mudie Meet King Tubby In Dub Conference Vol.3」
〇Niney The Observer All Stars At King Tubby's「Dubbing With The Observer」
〇Niney The Observer「At King Tubby's: Dub Plate Special 1973-1975」