今回はBurning Spearのアルバム

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「The Fittest Of The Fittest」です。

Burning Spear(本名Winston Rodney)は、
レゲエを聴く人なら知らない人は居ない
ほど有名なルーツ・シンガーです。
Studio Oneからデビューした彼は常に
ディープなルーツ・レゲエを歌い続けた
シンガーとしてよく知られています。

Jack Rubbyプロデュースの彼のアルバム
「Marcus Garvey」は、攻撃的なミリタント・
ビートのルーツ・レゲエの定番アルバムとして
よく知られていますが、このアルバムの時
だけRupert WellingtonとDelroy Hinesという
二人のコーラスが付いていて、Burning Spear
という名前は3人組のコーラス・グループの
名前だったんですね。

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Burning Spear - Marcus Garvey (1975)

その後はまたひとりでBurning Spearを名乗り、
数多くアルバムを残した彼は「アフリカン・
ティーチャー(アフリカの先生)」の愛称で
人々の尊敬を集め、さらには12度もの
グラミー賞のベスト・レゲエ・アルバムの賞
を受賞しています。
常にルーツ・レゲエと生きた硬派なシンガー、
それがBurning Spearです。

アーティスト特集 Burning Spear (バーニング・スピア)

今回のアルバムは1983年にUKのRadic
というレーベルからリリースされた、彼の
ソロ・アルバムです。

あの「Marcus Garvey」で世界に衝撃を
与えたBurning Spearですが、その後も順調
にリリースを重ね、このアルバムがダブを
除いて通算11枚目ぐらいにあたるアルバム
です。
この頃にはレゲエのアイコンだったあの
Bob Marleyも亡くなっていて、世界的には
彼がレゲエの象徴的な存在になって行くん
ですね。
さすがにデビュー当時のインパクトはだいぶ
弱くなっていますが、独特の「Spear節」は
健在で、多くの楽曲でその実力を披露して
います。

手に入れたのはEMIレーベルからリリース
されたCDの中古盤でした。

ちなみにこのLPも私が初めにレゲエを
聴いていた20代の頃に購入しています。
おそらく83年頃だと思います。

ちなみに裏ジャケには曲目とプロデュース、
ミックスなどの記載しかありませんが、
LPの内袋(スリーブ)の片面に詳細な
ミュージシャンについての記載があります。

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Burning Spear - The Fittest Of The Fittest (LP) 表ジャケ

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Burning Spear - The Fittest Of The Fittest (LP) 裏ジャケ

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LPの内袋(スリーブ)

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LPの内袋(スリーブ)

全9曲で収録時間は約36分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced by: Burning Music Production
Co-Produced by: Burning Band
Engineered by: Errol Brown
Assistant Engineer: Chris Lewis
Mixed by: Winston Rodney, Errol Brown

Vocals: Winston Rodney

Burning Band:
Trumpet & Flugelhorn: Bobby Ellis
Saxes: Herman Marquis
Bass: Anthony Bradshaw
Drums & Percussion: Nelson Miller
Rhythm & Lead Guitar: Michael Wilson, Devon Bradshaw
Keyboards: Anthony Johnson

Rhythm Section on "Bad To Worst":
Aston Barrett, Tyrone Downie, Earl Lindo, Junior Marvin,
Nelson Miller, Anthony Johnson (moog Prodigy)

Special Thanks to:
Trumpet: David Madden
Sax: Glen DaCosta
Trombone: Barry Bailey, Calvin Cameron

Percussion: Alvin Haughton
Piano & Clarinet: Winston Wright
Organ: Bobby Kalphat, Robbie Lyn
Profet 5: Peter Ashbourne

Recorded and Mixed at: Tuff Gong Recording Studio

Original Art Concept: Wicked And Gold
Orijinal Photography: Howard Liebowitz, M.D.
Original Typography & Inner Bag Design:
Keith Breeden (Assorted Images) & The Printed Word

となっています。

プロデュースはBurning Music Productionで、
エンジニアはErrol Brown、アシスタント・
エンジニアはChris Lewis、ミックスは
Winston Rodney(Burning Spear本人)と
Errol Brownとなっています。

ヴォーカルはもちろんWinston Rodney
(Burning Spear本人)です。

バックのBurning Bandのメンバーは
トランペットとフリューゲル・ホーンに
Bobby Ellis、サックスにHerman Marquis、
ベースにAnthony Bradshaw、ベースと
パーカッションにNelson Miller、リズムと
リード・ギターにMichael WilsonとDevon
Bradshaw、キーボードにAnthony Johnson
という布陣です。

3曲目「Bad To Worst」はメンバーが多少
違うようで、Aston BarrettとTyrone Downie、
Earl Lindo、Junior Marvin、Nelson Miller、
Anthony Johnson (moog Prodigy)の録音の
ようです。

他にサポート・メンバーとして、トランペット
にDavid Madden、サックスにGlen DaCosta、
トロンボーンにBarry BaileyとCalvin Cameron、
パーカッションにAlvin Haughton、ピアノと
クラリネットにWinston Wright、オルガンに
Bobby KalphatとRobbie Lyn、Profet 5
(シンセ)にPeter Ashbourneという名前が
あります。

レコーディングとミックスはTuff Gong
Recording Studioで行われています。

オリジナル・ジャケットのアート・コンセプト
はWicked And Gold、オリジナルの写真は
Howard Liebowitz、文字とインナー・バッグ
(スリーブ)のデザインはKeith Breeden
(Assorted Images)とThe Printed Wordが
担当しています。

さて今回のアルバムですが、Burning Spear
というと初期の強烈なメッセージとそれまで
の音楽に無かった黒人特有の強烈なリズムと
いうイメージがありますが、この頃になると
そうした強烈な個性はずいぶん薄められ、
サウンドもだいぶマイルドに変わって行くん
ですね。
例えれば初期のサウンドは芳香を持った強烈
な刺激のラム酒で、この頃のサウンドは熟成
したカビ臭いワインの趣きです。
今多くの人がBurning Spearといえば千年
一日のごとくひとつのメッセージを伝え
続ける人というイメージを抱くと思います
が、そのイメージはこの時代に出来上がった
ものかもしれません。

このサウンドはグルーヴ感もありそれなりに
悪くはないのですが…。
正直なところを言えば、強烈なインパクトの
ある初期のサウンドを知っていると、ちょっと
不満が残ります。
素直に言えばこのBurning Spearに関しては、
イチオシは何といっても唯一Burning Spear
というグループで活動していた、Jack Rubby
プロデュースの攻撃的なミリタント・ビート
が印象的な「Marcus Garvey」で、次はそれ
以前のStudio One時代の2枚「Burning
Spear」と「Rocking Time」、それに続くの
が70年代~80年代前半の作品群で、あと
はそれなりにという事になると思います。

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Burning Spear ‎– Burning Spear (1973)

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Burning Spear ‎– Rocking Time (1974)

Burning Spearは12度もグラミー賞を受賞
していますが、ことBurning Spearについて
言えばそれ以前の70年代の作品の方が彼の
履歴の中でも大切な作品なんですね。
例えればBurning Spearの他のどのグラミー
賞受賞作品よりも、「Marcus Garvey」の方
が1万倍ぐらい聴く価値があります(笑)。
この「Marcus Garvey」はルーツ・レゲエと
いう音楽を代表するアルバムなんですね。
ルーツ・レゲエ好きにとっては、誰かに
レゲエを教える時にも「まずはこれを聴け」
と言うほどのアルバムなんですね。

さらに言ってしまえば、グラミー賞の
ベスト・レゲエ・アルバム賞が出来たのは
85年からで、しかもアメリカの一部の
評論家の評価な訳で、それがすべて正しい
とは限らないんですね。
おそらくグラミー賞というのは、確かに
ひとつの基準や権威ではあるけれども、受賞
していなくても良い作品はあるし、受賞して
いてもイマイチと感じる作品はあるんです
ね。

人の評価とはそういうものです。
それは人が「名盤」と呼ぶアルバムにも
言える事で、実際に聴いてみたらイマイチ
だったりする事はある…。
それがあたり前で、けっしてあなたの感覚が
おかしいという事ではないんですね。
人の経験は様々でそれによって音楽の良し
悪しも変わるし、好みによっても変わるもの
なんですね。
結局最後は自分の耳で聴いて、良いと思うか
どうかなんですね。

さて話をアルバムに戻しますが、今回の
アルバムはスゴイという感じではないです
が、レゲエらしいグルーヴ感を重視した音楽
で、ある意味もっともBurning Spearらしい
音楽と言えるかもしれません。
彼がヨーロッパなどでも人気を誇ったのは、
こうした千年一日とも言える変わらぬ音楽
姿勢をとったからなんですね。
書いたように、そこにはラム酒のような
強烈な刺激はないけれど、カビの生えた
ようなワインを漉して飲むような味わいが
あります。

彼のこの時代の音楽を聴いていると、結局
ルーツ・レゲエが音楽的に追及したものは
グルーヴ感なんだなぁという事をあらためて
思わされます。
ここには目新しさはあまり無いけれど、
グルーヴ感だけは溢れる程あるんですね。
もっともレゲエらしい音楽を作り続けた人、
それがこのBurning Spearだったのかもしれ
ません。
初期のサウンドよりは…というのはあるの
ですが、グラミー賞を12度受賞というの
も、またダテではないんですね。

1曲目は表題曲の「The Fittest Of The
Fittest」です。
ホーン・セクションのイントロから、ギター
とホーンのメロディに乗せたBurning Spear
の節回しのある歌い方が印象的。
彼らしい世界を築いています。

Burning Spear - The Fittest Of The Fittest


2曲目は「Fire Man」です。
明るいピアノとホーンのワン・ドロップの
メロディに、ユッタリとしたBurning Spear
のヴォーカルが心地良い曲です。

3曲目は「Bad To Worst」です。
ホーンとシンセのメロディに、感情を込めた
Burning Spearのシリアスなヴォーカルが
印象に残る曲です。
唸るようなギター・ワークが、うまく曲に
彩りを添えています。

Bad To Worst - Burning Spear


4曲目は「Repatriation」です。
こちらもホーンとシンセのワン・ドロップ
に、Burning Spearらしい感情を込めた
ヴォーカルが良い味を出している曲です。

5曲目は「Old Boy Garvey」です。
ホーンのメロディに鳴くギター、キビキビ
したドラミングに乗せたBurning Spearの
ヴォーカルも冴えを見せる1曲。

Burning Spear - Old Boy Garvey


6曲目は「2000 Years」です。
ユッタリとしたホーンとギターのメロディ
から、表情のあるBurning Spearのヴォーカル
が魅力的。
あのアルバム「Marcus Garvey」に入っていた
「Tradition」の再演です。
時代の違からか、こちらの方がユッタリ目。

Burning Spear: 2000 Years (Reggae)


7曲目は「For You」です。
こちらはシンセとギターのメロディに、
Burning Spearのユッタリとしたヴォーカル
が心地良いグルーヴ感のある曲です。

8曲目は「In Africa」です。
ホーン・セクションの華やかなイントロ
から、ギターとホーンに乗せたBurning Spear
のよったりとしたヴォーカルがとても良い曲
です。

9曲目は「Vision」です。
浮遊感のあるシンセとホーンのイントロ
から、漂うようなBurning Spearのヴォーカル
と鳴くギターが不思議な魅力を作っている
ちょっと面白い曲です。

Burning Spear - Vision


今回はアルバムについてあまり良い事は書か
なかったかもしれませんが、それはあの
「Marcus Garvey」と比較しての事で、1曲
1曲を追いかけて行った時には得意の
「Burning Spear節」は健在で、そのグルーヴ
感はなかなか心地良いものがあります。
この後彼Burning Spearはルーツ・レゲエの
象徴的な存在として生き続ける事になります
が、それは彼ならではの独特のヴォーカル・
スタイルがあったからなんですね。
その魅力はこのアルバムでも失われていま
せん。

またドラムのNelson MillerなどのBurning
Bandを中心としたバック陣も、この時代に
流行ったワン・ドロップのリズムを取り
入れるなど、うまくこのヴォーカリストを
支えています。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: Burning Spear
○アルバム: The Fittest Of The Fittest
○レーベル: EMI
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1983

○Burning Spear「The Fittest Of The Fittest」曲目
1. The Fittest Of The Fittest
2. Fire Man
3. Bad To Worst
4. Repatriation
5. Old Boy Garvey
6. 2000 Years
7. For You
8. In Africa
9. Vision