今回はRas Michael & The Sons Of Negusの
アルバム

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「Revelation」です。

Ras Michael & The Sons Of Negusはレゲエ
の中でも特にディープな、ラスタファリアン
の集会音楽「ナイヤビンギ」のグループと
して知られています。
レゲエという音楽が誕生する以前の60年代
から、すでにThe Sons Of Negusを率いて
活動し、Bob MarleyやBurning Spearなどの
ルーツ・レゲエのアーティストにも大きな
影響を与えたのが、このRas Michaelなんです
ね。
1974年にDadawah名義のアルバム「Peace
And Love」でアルバム・デビューして以来、
ナイヤビンギというレゲエの中でももっとも
ディープな音楽で、Lee Perryのプロデュース
した「 Love Thy Neighbour」など、数々の
印象的なアルバムを残して来たのがこの
Ras Michael & The Sons Of Negusです。

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Dadawah ‎– Peace And Love: Wadadasow (1974)

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Ras Michael & The Sons Of Negus ‎– Love Thy Neighbour (1979)

Ras Michael - Wikipedia

今回のアルバムは1982年にUKのTrojan
Recordsからリリースされたアルバムです。

「Revelation(啓示)」と題された今回の
アルバムですが、片面に3曲ずつが収め
られた計6曲のアルバムで、曲が長く、かつ
内容もとてもディープなアルバムです。

ほぼダブと言えるSide 1の初めの2曲から
始まり、そこから一気にナイヤビンギ色の
強いコーラスとパーカッションの楽曲で
一気に聴かせるアルバムです。
ナイヤビンギという古典的な音楽であり
ながら、どこかアヴァンギャルドな
Ras Michaelらしいアルバムに仕上がって
います。

手に入れたのはTrojan Recordsからリリース
されたLPの中古盤でした。

Side 1が3曲、Side 2が3曲の全6曲。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Bass: Robbie Shakespeare
Lead & Rhythm Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Trap Drums: Santa
Percussion: Sydney Wolfe
Lead Repeater: Ras Michael
Back Up Voices: Puma Jones, Ras Michael
Hornes: Dave Madden
Bass Drum: Ras Michael

All Tittles Written by Michael George Henry,
and Published by New Town Sound

となっています。

ベースにRobbie Shakespeare、リードと
リズム・ギターにEarl 'Chinna' Smith、
トラップ・ドラム(普通のドラムの事
か?)にSanta Davis、パーカッションに
Sydney Wolfe、リード・リピーターに
Ras Michael、バック・ヴォーカルに
Puma JonesとRas Michael、ホーンに
Dave Madden(David Madden)、ベース・
ドラムにRas Michaelという布陣です。

バック・コーラスのPuma Jonesは、あの
Black Uhuruの女性コーラス・メンバー。

すべての曲はMichael George Henry
(Ras Michael)が作曲をしています。

残念なのはスタジオとミキサーの記録のない
事です。
今回のアルバムは初めの2曲がほぼダブ
だったりして、かなりミキサーの手腕が
効いているアルバムなんですね。
奥行きのある音処理はなかなか見事で、その
ミキサーの名前が解らないのは、とても残念
です。

さて今回のアルバムですが、いかにもRas
Michaelらしいディープでアヴァンギャルド
な曲が収められたアルバムで内容はとても
良いです。

このRas Michaelという人「聖」と「俗」が
入り混じったような、独特な個性の持ち主
なんですね。
彼のアルバムは「聖」の部分強く出ると、
清らかで美しいすごく聴き心地の良い
アルバムになるのだけれど、「俗」の部分が
強く出ると俗っぽくて大衆に迎合したような
「ちょっとなぁ…」というアルバムを作っ
ちゃう人でもあります(笑)。
そしてジャマイカの古典的になナイヤビンギ
という音楽をやっていながら、意外と
アヴァンギャルドな今日的なサウンドを
作れる人なんですね。

ネットのdisk unionでは彼のファースト・
アルバムDadawah名義の「Peace And Love」
を「サイケデリック・ナイヤビンギ」と
名付けていましたが、まさにその言葉が
ピッタリ来るようなそれまでに無い挑戦的な
音楽を作れる人なんですね。
反面「俗」の部分が強く出ると、スコット
ランド民謡の「ロンドン橋落ちた(London
Bridge Is Falling Down)」みたいなのを
やっていたりして、「あれれ…?!」みたい
な人でもあります(苦笑)。

そうした気難しい個性のRas Michaelですが、
今回は彼の良い面が際立ったアルバムに
仕上がっています。

やはり気になるのはそのミックスで、奥行き
のあるミックスはうまくこのRas Michaelの
個性を引き立てています。
このミックスはいったい誰なんでしょう?

もうルーツ・レゲエの時代を過ぎた、
アーリー・ダンスホールが大流行していた
82年のアルバムですが、そうした時の流れ
を超えた魅力がこのアルバムにはあります。
Ras Michaelのアルバムの中でもDadawah
名義の「Peace And Love」や、Lee Perry
プロデュースの「 Love Thy Neighbour」
などと並んで、聴いておくべきアルバムの
ひとつだと思います。

Side 1の初めの2曲「Black Vibes」と
「Red,Gold & Green」は、1曲目でエコー
のかかったRas Michaelのヴォーカルが遠く
で聴こえるだけで、パーカッション(と
ホーンやキーボード)を中心としたほぼダブ
といった曲で、そこから一転Ras Michaelの
ヴォーカルとPuma Jones(Black Uhuru)の
コーラスの美しいナイヤビンギらしい
「Black & White」へ、。
Side 2の1曲目はパーカッションとコーラス
が素晴らしい「Build Up Your House」から
始まり、2曲目もパーカッションに乗せた
女性コーラスに心地良さそうに歌うRas
Michaelのヴォーカルが魅力的な「Ethiopian
People」、最後はディープ感のあるいかにも
ナイヤビンギといった「Rastafari」で
シメています。
ナイヤビンギという宗教音楽のテイストを
残しながら、その上にアヴァンギャルドな
要素を積み上げていく、Ras Michaelという
人の個性がよく出たアルバムに仕上がって
います。

ちなみにこのアルバムはシンコー・ミュー
ジック刊行の本「Roots Rock Reggae」にも
紹介されているアルバムで、そこには「林」
さんという方の文章で「すべての曲がロング・
ヴァージョンになり、パーカッションを際
だたせたダブ・ミキシングにより、完璧な
メディテーション・ミュージックとなって
いる。」と紹介されています。
ちなみに解説文によると「1978年の
アルバム『Movements』に収録されている
『Armagudeon』や『Hosana』『Children
On The Mt. Top』の再演やリミックスを
収めたアルバム」との事です。

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Ras Michael & The Sons Of Negus ‎– Movements (1978)

その「Movements」のロング・ヴァージョン
やダブが収められたのが、今回のアルバム
という事らしいです。

Side 1の1曲目は「Black Vibes」です。
Dave Maddenの奏でるサックスの印象的な
フレーズから、遠くで聴こえるようなエコー
のかかったRas Michaelのヴォーカルに
パーカッション…。
音が滲んで行くようなダブワイズが、グッと
来る1曲です。

Ras Michael & The Sons Of Negus_Black Vibes


2曲目は「Red,Gold & Green」です。
こちらは遠くで聴こえるようなホーン・
セクションのサウンドに、さまざまな
パーカッションのサウンドが絡み合った、
完全なダブです。
音作りのウマさにミキサーのセンスを感じ
ます。

Ras Michael & The Sons Of Negus_Red Gold & Green


3曲目は「Black & White」です。
ギターのメロディからパーカッション、
Ras Michaelのヴォーカルにコーラス
(Puma Jones)と徐々に盛り上がって行く、
ナイヤビンギらしい曲です。
心地良い打楽器のリズムが徐々に
メディテーション空間へ誘うような曲です。

Side 2の1曲目は「Build Up Your House」
です。
オルガンのメロディにナイヤビンギらしい
パーカッション、Ras Michaelのヴォーカル
に被さるように入るPuma Jonesのコーラス、
さらにサックスのメロディが追い打ちを
かけるように入って来る重厚な曲です。
適度なダブワイズがよりこの曲を魅力的に
しています。

2曲目は「Ethiopian People」です。
こちらもパーカッションをバックに、
伸びのあるRas Michaelのヴォーカルと
Puma Jonesのコーラスが良い味を出して
いる曲です。
中盤以降のEarl 'Chinna' Smithのギター・
プレイもなかなか魅力的。
実はこのEarl 'Chinna' Smithは、Ras
Michaelのデビュー盤以来、ずっと付き合い
のある人なんですね。

3曲目は「Rastafari」です。
こちらはギターのメロディにRas Michaelの
ヴォーカルにパーカッションという曲です。
ここでもEarl 'Chinna' Smithのギターの
澄んだ音色が、ナイヤビンギに魅力をプラス
しています。

ざっと追いかけて来ましたが、Ras Michael
のアルバムの中でも、なかなか良いアルバム
のひとつではないかと思います。
やはりこの他にないディープな世界観は、
とても魅力的。
この人の音楽は時々「俗」に走るという欠点
がありますが、それでも本気を出した時の
彼の音楽は誰も生み出せないようなディープ
でアヴァンギャルドな音楽を作れる人なん
ですね。

そんな「不思議の国の住人」Ras Michaelの
音楽は、いろいろ文句を言いながらも
ついつい聴いてしまうところがあります。

機会があればぜひ聴いてみてください。

RAS MICHAEL : BLACK MAN LAND



○アーティスト: Ras Michael & The Sons Of Negus
○アルバム: Revelation
○レーベル: Trojan Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1982

○Ras Michael & The Sons Of Negus「Revelation」曲目
Side 1
1. Black Vibes
2. Red,Gold & Green
3. Black & White
Side 2
1. Build Up Your House
2. Ethiopian People
3. Rastafari

●今までアップしたRas Michael & The Sons Of Negus関連の記事
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Kibir Am Lak」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Live Ina Babylon」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Love Thy Neighbour」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Movements」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Rastafari Dub」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Rastafari」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Disarmament」
〇Ras Michael And The Sons Of Negus「Nyahbinghi」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus With Jazzboe Abubaka「Tribute To The Emperor」
〇Sons Of Negus「A Psalm Of Praises To The Most High 1967-1972」
〇18th Parallel「Downtown Sessions」