今回はYellowmanのアルバム

yellowman_10a

「Them A Mad Over Me」です。

Yellowmanは80年代のダンスホール・
レゲエの時代に「King」と呼ばれるほど
の人気を博したディージェイです。
アルビノ(先天性色素欠乏症)で生まれた
彼は、幼い頃に両親に捨てられ孤児院で
育つという辛い経験をし、成長してからも
なかなかスタジオに入れてもらえない日々
を過ごしました。
しかしその容姿を逆手に取って、キザで
ユーモラスな伊達男というキャラクターを
確立し、ダンスホール・レゲエの世界で
人気ディージェイになって行くんですね。
80年代前半のアーリー・ダンスホール
の時代に、その個性的なトースティングで
絶大な人気を誇ったディージェイが、この
Yellowmanです。

アーティスト特集 Yellowman(イエローマン)

イエローマン - Wikipedia

今回のアルバムは1982年にUSの
J&L Recordsというレーベルからリリース
された彼のソロ・アルバムです。

ネットのDiscogsを見ると、Yellowmanの
アルバム・デビューはこの82年で、彼は
この年に「Mister Yellowman」や「Just
Cool」など共演盤を含めて8枚のアルバム
をリリースしています。

yellowman_09a
Yellowman ‎– Mister Yellowman (1982)

yellowman_04a
Yellowman ‎– Just Cool (1982)

さらにYellowman & Fathead名義のアルバム
が共演盤も含めて他に7枚もあるんですね。
そうすると共演盤も含めて15枚のアルバム
をリリースしている事になります。

この事からも解るように、当時の彼の人気
はすさまじく、あまりにアルバムのリリース
が多いので、どれが一番新しいアルバムか
解らなかったほどだと言われています。

今回のアルバムもその全盛期の好調ぶりが
うかがえるアルバムで、Don Carlosの
「I'm Not Getting Crazy」のリディムを
使った「I'm Getting Married」や、表題曲
の「Mad Over Me」、Lone Rangerの「M16」
のリディムを使った「Gun Man」、Big Wille
の「College Rock」のリディムの「Bone Man
Connection」、Sly & Robbieの「Taxi」
リディムの「Whine Up」、Eric Donaldson
の「Cherry Oh Baby」リディムの「Sweet
And Sexy」など、名リディムが盛りだくさん
のこの時代らしいスローなワン・ドロップの
リズムに乗せたYellowmanらしいトースティ
ングが楽しめるアルバムになっています。

手に入れたのはChannel Oneからリリース
されたCDの中古盤でした。

全12曲で収録時間は40分。
オリジナルは9曲で、残りの3曲はCD
ボーナス・トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Drums: Sly Dunbar, Santa
Bass: Robbie Shakespeare
Percussion: Sticky
Rhythm + Lead Guitar: Rad Bryan
Keyboards: Ansell Collins, Robbie Lyn
Synthesizer: Robbie Lyn
Piano: Glady Anderson
Trumpet: Madden
Alto + Tenor Sax: Dean Frazier
Mixed by: Scientist

Recorded and Remixed at Channel One Recording Studio
Engineer: Ernest Hookim
Produced by: Joseph Hoo Kim
Executive Producer: Joseph Hoo Kim
Artwork: Jamaal Pete

となっています。

ドラムはSly Dunbar DunbarとSanta Davis、
ベースにRobbie Shakespeare、パーカッション
にSticky、リズムとリード・ギターにRad
Bryan、キーボードにAnsell CollinsとRobbie
Lyn、シンセにRobbie Lyn、ピアノにGlady
Anderson、トランペットにDavid Madden、
アルトとテナー・サックスにDean Frazier、
ミックスはScientistという布陣です。

録音とリミックスはChannel Oneで、
エンジニアはErnest Hookim、プロデュース
はJoseph Hoo Kimとなっています。
Channel Oneの録音でエンジニアはErnest
Hookim、プロデュースはJoseph Hoo Kim
で、Sly & Robbieが演奏に参加という事に
なると、バック・バンドはやはり
The Revolutionariesという事になるので
しょうか?
80年代以降のアルバムなので、その辺は
微妙です。
Sly & Robbieが当時人気だったRoots Radics
に似た、ユッタリしたワン・ドロップの
サウンドを作り上げているのも、ちょっと
面白いところです。

印象的なジャケットはJamaal Peteです。
彼はこの時代に多くのレゲエのジャケット・
デザインを手掛けています。
Yellowmanのアルバムだと「Just Cool」や
「Live At Aces」、記録がハッキリしません
が「One Yellowman」も彼の作品のようです。

yellowman_08a
Yellowman And Fathead ‎– Live At Aces (1982)

yellowman_06a
Yellowman And Fathead ‎– One Yellowman (1982)

さて今回のアルバムですが、ユッタリした
ワン・ドロップのリズムに乗せたYellowman
のトースティングは、やはりとても魅力的
で、内容は悪くないと思います。

たびたび書いていますがこの80年代前半
は、このスローなワン・ドロップのリズムが
大流行した時代で、それをけん引したのが
VolcanoレーベルのプロデューサーのHenry
'Junjo' Lawesであり、ミキサーのScientist
であり、バック・バンドのRoots Radics
だったんですね。
そのRoots Radicsのサウンドは、それまで
ルーツ・レゲエで活躍していたSly & Robbie
を中心としたThe Revolutionariesの隙の
無い引き締まったサウンドとは対照的で、
ユッタリとして「隙間だらけのサウンド」
なんですね。
ただそのサウンドの裏には、ヴォーカルが
入るとちょうど良いように作られた、かなり
高度に計算されたサウンドなんですね。
その高度なサウンドでVolcanoのHenry
'Junjo' Lawes、ミキサーのScientist、
バック・バンドのRoots Radicsは、この
80年代前半の時代を完全に支配します。

さてその時代に他のミュージシャンや、他の
レーベルはどうしたのか?
その一端がこのアルバムからも少し解るん
ですね。
ブームを作った一人のミキサーのScientist
は、この82年にKing Tubby'sからこの
Channel Oneの移籍しているんですね。
この移籍はアーリー・ダンスホールに必要な
ミキサーとして、このScientistを評価した
結果のようです。
今回のアルバムでもScientistのハードな
ミックスが効果的に使われています。

またChannel Oneのバック・バンド
The Revolutionariesが事実上の解散状態に
なったのも、もともとはSly & Robbieが
Black Uhuruなどの海外公演が多くなり、
ジャマイカを空ける事が多くなったためと
言われていますが、Sly & Robbieが戻って
来てこのChannel Oneで仕事をする時には、
この時代にジャマイカで流行っていたワン・
ドロップのサウンドをシッカリとコピーして
いるんですね。
そのサンドはあのRoots Radicsと聴きまごう
ほどです。
このあたりは彼らの適応力の高さがうかがえ
ます。

そうしたスローなワン・ドロップに乗せた
Yellowmanのトースティングは、この時代を
制覇したと言われるだけあって絶品なものが
あります。
この時代はルーツ期のホーンなどを使った
分厚い音が好まれた時代から変化して、
スッキリしたサウンドが好まれた時代です
が、曲によってはほとんどSlyのドラムと
Robbieのズンと響くベースのみが鳴っている
ような演奏に、Yellowmanのグルーヴ感
溢れるトースティングがすごく良いです。
この時代にYellowmanは大量のアルバムを
制作していますが、その彼の好調ぶりが
うかがえるアルバムに仕上がっています。

Don Carlosの「I'm Not Getting Crazy」の
リディムを使った1曲目「I'm Getting
Married」から始まり、表題曲のThe Terrors
の「Don't Bother Me」のリディムを使った
「Mad Over Me」、Lone Rangerの「M16」
のリディムを使った「Gun Man」、Big Wille
の「College Rock」のリディムの「Bone Man
Connection」、Sly & Robbieの「Taxi」
リディムの「Whine Up」、Eric Donaldson
の「Cherry Oh Baby」リディムの「Sweet
And Sexy」など、名リディムが盛りだくさん
のアルバムで、この時代らしいスローな
ワン・ドロップのリズムに乗せたYellowman
らしいトースティングが楽しめるアルバム
になっています。

全盛期の彼のアルバムの中でも、特に聴く
べきアルバムのひとつかもしれません。

1曲目は「I'm Getting Married」です。
リディムはDon Carlosの「I'm Not Getting
Crazy」です。
この当時彼Yellowmanは結婚したのか、彼の
代表曲のひとつです。
ユッタリしたワン・ドロップのリズムに、
力の抜けたYellowmanのトースティングが
良い味を出しています。

2曲目は表題曲の「Mad Over Me」です。
リディムはThe Terrorsの「Don't Bother
Me」です。
ホーンのイントロから、それに被るように
入るYellowmanのトースティングが良い味
を出している曲です。
ズンと響くベースのスローなワン・ドロップ
のリズムに乗せた、Yellowmanの余裕のある
トースティングが冴えまくります。

Yellowman--Mad over me


3曲目は「Gun Man」です。
タイトルからしてリディムはあのMichael
Prophetの…と思いますが、Lone Rangerの
「M16」のリディムなんですね(笑)。
アーリー・ダンスホールのアンセムのような
ホーンのあのサウンドから、こちらもズンと
心に響くベースのサウンドをバックに、
Yellowmanのユッタリとしたトースティング
が心に響く曲です。

Yellowman ~ Gunman


4曲目は「Bone Man Connection」です。
リディムはBig Willeで知られるStudio One
の名リディム「College Rock」です。
ズンと響くベースとキーボードのメロディ
に、Yellowmanらしいユッタリとしたトース
ティングが魅力的。

Yellowman Bone Man Connection


リズム特集 Ballistic Affair/College Rock (バリスティック・アフェア/カレッジ・ロック)

5曲目は「Me Hot」です。
ベースとドラムを軸としたシンプルなワン・
ドロップの演奏に、Yellowmanらしい表情の
あるトースティング。

6曲目は「Adam & Eve」です。
こちらもベースとギターを軸とした演奏に、
Yellowmanらしい楽し気なトースティングが
魅力的な曲です。

Yellowman Adam And Eve


7曲目は「Whine Up」です。
リディムはSly & Robbieの「Taxi」リディム
と知られている曲で、オリジナルはLittle Roy
の「Prophecy」です。
ベースのズンとしたサウンドを軸に、
Yellowmanらしさの出たトースティングが
心地良い曲です。

リズム特集 Taxi (タクシー)

8曲目は「Sweet And Sexy」です。
リディムはEric Donaldsonの初期レゲエの
ヒット曲「Cherry Oh Baby」です。
もともとはノリの良い曲ですが、こちらは
ベースを軸としたクールな演奏に乗せた、
クールなトースティングです。

リズム特集 Cherry Oh Baby (チェリー・オー・ベイビー)

9曲目は「Lover Man Skank」です。
クールなキーボードと重いベースのユッタリ
としたリズムに、Yellowmanの動物の鳴き
マネなどを交えた楽しいトースティングの曲
です。

ここまでの9曲がオリジナルで、残りの3曲
はCDボーナス・トラックです。
Slim Smith & Uniquesの「My Conversation」
のリディムを使った「Me Kill Barnie」や、
こちらも「Taxi」リディムの「He Got The
Whole World In His Hands」、「Which One
Will Wear The Ring」の3曲が収められて
います。

リズム特集 My Conversation

ざっと追いかけて来ましたが、このアーリー・
ダンスホールの時代のYellowmanの好調ぶり
をよく示したアルバムで、内容は悪くないと
思います。
その不幸な生い立ちを逆手に取った、この
Yellowmanの転身は見事!というしかあり
ません。

彼はこのデビューの2年後に、あまりの人気
ぶりからメジャーからデビューする事になる
のですが、残念ながらその挑戦は成功しま
せんでした。
ただ当時はメジャーとマイナーには大きな壁
があり、多くのアーティストがその壁に弾き
返されていた時代だったんですね。

意外と今はそうした壁が低くなっているの
で、今の時代に彼の音楽を聴けば多くの人が
面白いと感じるのではないでしょうか。
Bob Marleyの次に大スターになっていても
おかしくなかったアーティスト、それがこの
Yellowmanです。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Yellowman
○アルバム: Them A Mad Over Me
○レーベル: Channel One
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1982

○Yellowman「Them A Mad Over Me」曲目
1. I'm Getting Married
2. Mad Over Me
3. Gun Man
4. Bone Man Connection
5. Me Hot
6. Adam & Eve
7. Whine Up
8. Sweet And Sexy
9. Lover Man Skank
(CD Bunus Tracks)
10. Me Kill Barnie
11. He Got The Whole World In His Hands
12. Which One Will Wear The Ring

●今までアップしたYellowman関連の記事
〇Yellowman & Fathead, Purpleman, Sister Nancy「The Yellow, The Purple, The Nancy」
〇Yellowman & Fathead「Live At Aces」
〇Yellowman and Fathead「One Yellowman」
〇Yellowman Feat. Fathead「Just Cool」
〇Yellowman VS Josey Wales「Two Giants Clash」
〇Yellowman, Toyan, (Ringo)「Super Star Yellowman Has Arrived With Toyan」
〇Yellowman「King Yellowman」
〇Yellowman「Live At Reggae Sunsplash」
〇Yellowman「Mister Yellowman」
〇Yellowman「Nobody Move Nobody Get Hurt」
〇Yellowman「Zungguzungguguzungguzeng」
〇Various「Junjo Presents A Live Session With Aces International」
〇Yellowman & Fathead「Bad Boy Skanking」