今回はSugar Minottのアルバム

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「Ghetto-Ology」です。

Sugar Minottはレゲエを代表するシンガー
の一人です。
70年代のルーツ・レゲエの時代にDerek
'Eric Bubbles' HowardとWinston 'Tony
Tuff' MorrisとAfrican Brothersという
3人組コーラス・グループAfrican Brothers
として音楽キャリアをスタートさせた彼は、
グループ解散後もStudio Oneをはじめと
して多くのレーベル、多くのプロデューサー
の元に素晴らしい楽曲を残し活躍した人
です。
そのかたわら「ゲットーの兄貴」として、
多くの若者をシンガーとして育てる事にも
尽力した事でも知られています。

そうした彼ですが2010年に54歳で
亡くなっています。

アーティスト特集 Sugar Minott (シュガー・マイノット)

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Sugar Minott ‎– Showcase (1979)

今回のアルバムは1979年にUKの
Trojan Recordsからリリースされた彼の
ソロ・アルバムです。
タイトルにもなっているジャマイカの
ゲットーの生活を歌った「Ghetto-Ology」
をはじめ、当時のジャマイカの厳しい環境
に生きる人の心情が綴れられたアルバムで、
彼の代表作ともいえるアルバムです。

手に入れたのはTrojan Recordsからリリース
されたLPの中古盤でした。

ちなみにこのアルバムのダブが1980年
にBlack Roots Players名義(実際の演奏
はSoul Syndicate)で「Ghetto-Ology
Dubwise」という名前でリリースされて
います。

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Black Roots Players ‎– Ghetto-Ology Dubwise (1980)

実は今回このアルバムを手に入れたのも、
このアルバムのダブが下北沢のdisk union
で中古盤で売られていたからでした。
こちらのアルバムは時々見かけるのですが、
ダブ・アルバムの方はなかなか売られて
いないんですね。
それがダブ・アルバムが売られていて、この
アルバムも一緒に売られていたのでまとめて
買ってしまいました。
オリジナル・アルバムとダブ・アルバム、
この70年代ぐらいのルーツを集めている
人間にとって、両方集めたいというのが本音
なんですね(笑)。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Lead Vocals: Sugar Minott
Drums: Freddy McGregor, Albert Malawi, Barnabas
Bass: Michael Ashley, Earl 'Bagga' Walker
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith, Sangie Davis, Tony Chin
Hornes: Arnold Brackenridge, Roy Grant
Rhythm Guitar: Sangie Davis, Tony Chin
Keyboards: John Steelie, Gladstone Anderson, Pablove Black
Percussion: Zoot Sims, Donovan, Errol Holt
Harmony: Little Roy, Ian Rock, Tony Tuff, Tristan Palma,
Sugar Minott, Henry Francis, Ashanti Waugh

All Tracks Recorded at Channel One Studios, Kingston, Jamaica
Voiced & Mixed at King Tubby's Studio, Kingston, Jamaica
Engineered by Prince Jammy & Lancelot McKenzie
Produced by James Brown, Keith Bartley & Sugar Minott - J.K.S Production
All Titles Written by Sugar Minott
Published by New Town Sounds Ltd.
Special Thanks to The Soul Syndicate Band & The Youth Promotion Band

Sleeve: Connie Jude

となっています。

リード・ヴォーカルはSugar Minottで、
ドラムにFreddy McGregorとAlbert Malawi、
Barnabas、ベースにMichael Ashleyと
Earl 'Bagga' Walker、リード・ギターに
Earl 'Chinna' SmithとSangie Davis、Tony
Chin、ホーンにArnold Brackenridgeと
Roy Grant、リズム・ギターにSangie Davisと
Tony Chin、キーボードにJohn Steelieと
Gladstone Anderson、Pablove Black、
パーカッションにZoot Sims, Donovanと
Errol Holt、ハーモニーにLittle Royと
Ian Rock、Tony Tuff、Tristan Palma、Sugar
Minott、Henry Francis、Ashanti Waughと
いう布陣です。

ドラムに名シンガーとして知られるFreddy
McGregor(Freddie McGregor)の名前があり
ます。
実はこの人小器用な人で、79年のJudy
Mowattのアルバム「Black Woman」では
ドラム、キーボード、シン・ドラム、バック・
ヴォーカル、ミキシングまでこのFreddie
McGregorが担当しているんですね。

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Judy Mowatt ‎– Black Woman (1979)

(その努力が報われたのか、後にJudy Mowatt
とFreddie McGregorと結婚しています。)

他にハーモニーではAfrican Brothersで一緒
だったTony Tuffや、名シンガーのLittle Roy、
まだ若手だったと思われるTristan Palmaの
名前もあります。
このあたりは彼Sugar Minottの交友関係の
広さがうかがえます。

すべてのトラックはChannel One Studiosで
録音され、声入れとミックスはKing Tubby's
Studioで行われ、エンジニアはPrince Jammy
とLancelot McKenzieが担当しています。
プロデュースはJames BrownとKeith Bartley、
Sugar Minott。
作曲はSugar Minottが行っています。

ミックス・エンジニアとしてPrince Jammyが
参加していますが、前述したダブ・アルバム
「Ghetto-Ology Dubwise」も彼のミックス
なんですね。

「Special Thanks」として、The Soul
Syndicate BandとThe Youth Promotion Band
の名前があります。
この2つのバンドが今回のアルバムのバック
を務めたようです。
今回のアルバムのダブ・アルバムは多くの
雑誌やネットでBlack Roots Playersと紹介
されていますが、実はジャケットにはその
記載がないんですね。
むしろ裏ジャケには「Ghetto-Ology Dubwise」
という文字の下に大きな文字で「Dubwize
Soul Syndicate」と記載されています。
バックの演奏はSyndicate BandとThe Youth
Promotion Bandというのが正しいようです。

ちなみにBlack Roots PlayersとはSugar
MinottのレーベルBlack Rootsのバンドと
いう意味です。
彼は同時に若手を育てるYouth Promotionと
いうのをやっていたので、
The Youth Promotion Band=Black Roots
Playersと考えて良いのかもしれません。

印象的なスーパーの陳列棚のイラストの
ジャケット・デザインは、Connie Judeと
いう人が担当しています。

さて今回のアルバムですが、Sugar Minottの
初期の最重要作ともいえるアルバムで、内容
はとても良いと思います。

「Ghetto-Ology(ゲットー学)」という
タイトルからも解るように、厳しいゲットー
(貧民街)という環境で育った彼の心情が
歌われた曲は、やはり説得力があります。

「生物学の事はよくわからない
地質学の事はよくわからない
俺はゲットー学のことを話そう」

シュガー・マイノット(Sugar Minott) - Ghetto Ology - 1983 - リリック

そのシュガーとまで称される甘い歌声で
歌われる現実は、とても厳しいものがあり
ます。
ただそうした厳しい現実をサラッとカラッと
歌ってしまうのが、またレゲエという音楽
の魅力なんですね。

また今回のアルバムでもSugar Minottの持つ
優れたアレンジ能力が発揮されているのも、
この人らしいところ。
もともと彼は他のレーベルに押されて勢いを
失っていたStudio Oneからソロ・デビュー
した訳ですが、そのStudio Oneが持っていた
ロックステディの時代の音源を自分で
アレンジして新しいリリックを乗せて、
デビューしているんですね。
例えば彼のヒット曲である「Vanity」は、
オリジナルはAlton Ellisのロックステディ
の時代のヒット曲「I'm Just A Guy」です。

リズム特集 I'm Just A Guy (アイム・ジャスト・ア・ガイ)

そうしたStudio Oneのロックステディの時代
のヒット曲を10年以上経ってから甦らせ、
新しいダンスホールの時代の曲に作り直した
のが、このSugar Minottと当時Studio Oneを
仕切っていたSylvan Morris(別名
Dub Specialist)だったんですね。

その優れたアレンジ能力は今回のアルバム
でも発揮されていて、映画「ロミオと
ジュリエット(Romeo And Juliet)」の
テーマ曲を「The People Got To Know」と
いう曲に、ポピュラー・ソングの大ヒット曲
メリー・ホプキン(Mary Hopkin)のこちらも
大ヒット曲「Those Were The Days(邦題:
悲しき天使」を「Strange Things」という曲
にうまく書き換えています。

Sugar MinottはDennis BrownやGregory
Isaacs、Freddie McGregorと並んで「4大
ヴォーカリスト」と呼ばれるほどの歌唱力の
持ち主ですが、こうした編曲能力の高さも
彼の武器のひとつなんですね。
今回のアルバムでもその事がよく表れて
います。

ちなみに今回のアルバムはシンコー・
ミュージック刊行の本「Roots Rock
Reggae」にも紹介されているアルバムで、
そこには「大場」さんという方の文章で
「甘い歌声で厳しいゲットー社会の現実を
切々と歌う姿は余りに凛々し過ぎる。」と
紹介されています。

Side 1の1曲目は「Man Hungry」です。
軽快なピアノのメロディに、ソフトなSugar
Minottらしいヴォーカルが魅力的です。

Sugar Minott - Man Hungry


2曲目は「The People Got To Know」です。
映画「ロミオとジュリエット」主題歌として
知られるニーノ・ロータ(Nino Rota)の曲
「Romeo And Juliet」です。
おそらく世界中の人が知っている名曲を、
独特のレゲエの曲にしているのが、この
Sugar Minottの才能なんですね。
イントロから盛り上げるギターとホーンに、
スローで甘いSugar Minottのヴォーカル。
意外な曲で新しいレゲエの世界を作り上げて
います。

Sugar Minott The People Got To Know


3曲目は「Walking Through The Ghetto」
です。
まさに「ゲットー学」というアルバムらしい
タイトルの曲です。
リズムカルなピアノのメロディに、スウィート
な彼らしいヴォーカルが冴える曲です。

4曲目は「Dreader Than Dread」です。
浮遊感のあるシンセのメロディに心地良い
パーカッション、滑らかなヴォーカルが
うまくキマった曲です。

Sugar Minott Dreader Than Dread


5曲目は「So Many Things」です。
刻むようなギターのメロディに心地良い
ドラミング、陰影を感じさせるSugar Minott
の表情のあるヴォーカルが魅力的。

Side 2の1曲目は「Never Gonna Give Jah
Up」です。
リディムはAlton Ellisの名曲「Breaking
Up」です。
シンセとギターのスローメロディに、心地
良いSugar Minottのヴォーカル。
彼らしさを感じる1曲。

Sugar Minott 'never gonna give jah up'


リズム特集 Breaking Up (ブレイキング・アップ)

2曲目は表題曲の「Ghetto-Ology」です。
書いたようにゲットー(貧民街)で暮らす
自身の心情を歌った曲で、緩やかなメロディ
で語られる「空腹なら俺はAクラスだ」と
いう言葉には胸を打たれます。
浮遊感のあるシンセの効いた曲です。

3曲目は「Africa Is The Black Man's Home」
です。
こちらは心地良いパーカッションのリズムに
乗せたディープなメロディに、Sugar Minott
のヴォーカルが魅力。
重い空気を彼のスウィートなヴォーカルが
救っています。

Sugar Minott - Africa Is The Black Man's Home


4曲目は「Strange Things」です。
書いたようにリディムはポピュラーの
メリー・ホプキン(Mary Hopkin)の大ヒット
曲「悲しき天使(Those Were The Days)」
です。
ホーンの奏でるフォーク調の寂寥感のある
メロディに、Sugar Minottの甘いヴォーカル
がすごくマッチした曲です。

Sugar Minott - Strange Things


5曲目は「Free Jah Jah Children」です。
ギターと心地良いパーカッションが作りげる
メロディに、Sugar Minottのソフトで説得力
のあるヴォーカルが魅力的。

ざっと追いかけて来ましたが、Studio Oneの
時よりも古い曲を使わなくてはならないと
いう制約がないせいか、Sugar Minottの
ヴォーカルがノビノビと輝いている印象
です。
まだルーツの余韻を残しながらも、これから
来る彼の時代であるダンスホールの気配も
感じさせるアルバムで、内容はとても良い
です。

Sugar Minottという稀代のシンガーの
もっとも重要な作品のひとつで、レゲエ好き
としてはぜひ聴いておくべきアルバムでは
ないかと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Sugar Minott
○アルバム: Ghetto-Ology
○レーベル: Trojan Records
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1979

○Sugar Minott「Ghetto-Ology」曲目
Side 1
1. Man Hungry
2. The People Got To Know
3. Walking Through The Ghetto
4. Dreader Than Dread
5. So Many Things
Side 2
1. Never Gonna Give Jah Up
2. Ghetto-Ology
3. Africa Is The Black Man's Home
4. Strange Things
5. Free Jah Jah Children

●今までアップしたSugar Minott関連の記事
〇Sugar Minott, Frankie Paul「Show-Down Vol. 2」
〇Sugar Minott「A True」
〇Sugar Minott「Black Roots」
〇Sugar Minott「Dance Hall Showcase Vol.II」
〇Sugar Minott「Rydim」
〇Sugar Minott「Showcase」
〇Sugar Minott「Sugar Minott At Studio One」
〇Sugar Minott「Wicked Ago Feel It」
〇Soul Syndicate (Black Roots Players)「Ghetto-Ology Dubwise」
〇Sugar Minott「African Girl」
〇Sugar Minott「Live Loving」