今回はThe Viceroysのアルバム

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「Inna De Yard」です。

The Viceroysはレゲエの前身ロックステディ
の時代から活躍する3人組のコーラス・
グループです。

2002年シンコー・ミュージック刊行の本
「Roots Rock Reggae」にはこのグループに
ついて次のような解説文があります。

「キャリアのスタートは60年代末の
スタジオ・ワン。最初は”Voice Roys”と
名乗っていた。70年代に入ると
ウィンストン・ライリー(テクニクス)の
もとへインターンズ(Inturnes)名義で
「Mission Impossible」などのヒットを
記録。70年代中期にはスタジオ・ワンに
戻ってまたヴォイス・ロイズ名義で吹き込む
というように、レーベルによって名義を使い
分けるという珍しいパターンのグループ
だった。(後略)」

The Viceroys以外にもThe Inturnes名義
でも活動しているグループなんですね。

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Inturns ‎– Consider Yourself (1978)

その後も長く活動を続け、近年でもあの
Chinna Smithの「Inna De Yard」シリーズ
のアルバムも残しています。

The Viceroys - Wikipedia

今回のアルバムは2007年にInna De Yard
レーベルから、「Inna De Yard」シリーズの
5枚目のアルバムとしてリリースされた
アルバムです。

この「Inna De Yard」シリーズは、ルーツ・
レゲエの時代から活躍する名ギタリスト
Earl 'Chinna' Smithの自宅の「庭」に
アーティストを招いて、昔のヒット曲を
アコースティックで再現するというシリーズ
で、このEarl 'Chinna' Smith本人の他に
Kiddus IやThe Mighty Diamonds、
The CongosのCedric 'Congo' Mytonなど、
歴史に名を残した素晴らしいアーティストが
昔の楽曲をアコースティックで再現している
シリーズなんですね。

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Earl 'Chinna' Smith & Various ‎– Inna De Yard (2004)

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Kiddus I ‎– Inna De Yard (2007)

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The Mighty Diamonds ‎– Inna De Yard (2008)

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Cedric 'Congo' Myton ‎– Inna De Yard (2005)

ルーツレゲエの英雄に敬意を…「Inna De Yard」シリーズが誕生するまで

今回のThe ViceroysもStudio Oneに残した
名曲「Ya Ho」やInturnes名義で録音した
「My Mission Is Impossible」、さらには
ルーツの名曲「Satta Massagana」リディム
の「Shadrach, Meshach, And Abendigo」
など、持ち歌を見事にアコースティックで
再現しています。

手に入れたのはInna De Yardからリリース
されたCDの中古盤でした。

全10曲で収録時間は約49分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Recorded in Chinna's yard, Kingston 10, November 2005, by Clive 'Dub King' Geffrey & Earl Smith Jnr.
Produced & arranged by Earl 'Chinna' Smith & The Viceroys
All songs performed by the Voceroys, as Wesley Tinglin, Nevvile Ingram and Michael Gabbidon
All songs written by Wesley Tinglin, published by Playbox Music publishing (UK)
Executive Producer: Soundcate
Mixed & mastered at Dubwise Factory by Serial P
Coorination project: Soundcate Inna de yard
Liner notes & photos: Soundcate
Translation: Celeste Karlin
Artwork: Nicolas 'Kouakou' Mamet

Musicians :
All Guiars: Earl Smith, Bo-Pee, Sangie Davis, Wesley Tinglin (acoustic)
Keyboards: Robbie Lynn, Lloyd Palmer
Percussions: Jah Youth, Kiddus I, Red Burchel, Kush McAnuff, Ras Appa, Alphonso Craig
Drums: Alphonso Craig, Kush McAnuff

となっています。

録音は2005年の11月にキングストンに
あるChinnaの庭で行われ、Clive 'Dub King'
GeffreyとEarl Smith Jnr.が録音を担当して
います。
プロデュースとアレンジはEarl 'Chinna'
SmithとThe Viceroys。
すべての歌にThe Voceroysのメンバーの
Wesley TinglinとNevvile Ingram、Michael
Gabbidonが参加しています。
すべての作曲はThe Voceroysのメンバーの
Wesley Tinglin。
エグゼクティブ・プロデューサーはSoundcate
で、ミックスとマスタリングはDubwise Factory
で行われ、エンジニアはSerial Pが担当して
います。

アート・ワークはNicolas 'Kouakou' Mamet。

ミュージシャンはアコースティック・ギター
にEarl SmithとBo-Pee、Sangie Davis、
Wesley Tinglin、キーボードにRobbie Lynnと
Lloyd Palmer、パーカッションにJah Youth、
Kiddus I、Red Burchel、Kush McAnuff、
Ras Appa、Alphonso Craig、ドラムに
Alphonso CraigとKush McAnuffという布陣
です。

さて今回のアルバムですが、この「Inna De
Yard」シリーズは残念ながら今は倒産して
しまったフランスのレゲエ・リイシュー・
レーベルMacasoundの企画ですが、どの
アルバムもすごく内容が良いんですね。

昔のレゲエの名曲を本人がアコースティック
で再現するという内容ですが、生ギターで
再現する事により新しい曲の魅力が発見でき
たり、今も衰えないミュージシャンの情熱が
感じられるのがこの企画の最大の魅力です。
またこの企画ではそれまでメジャーで注目
されていなかったアーティストKiddus Iの
「発掘」にも成功しています。
彼はそれまで映画「Rockers」の中の
「Graduation In Zion」のレコーディング・
シーンしか知られておらず、謎の多い
アーティストだったんですね。
このKiddus Iは「Inna De Yard」と、同年
に発売された、日本のリイシュー・レーベル
Dub Store Recordsの「Graduation In Zion」
の2枚のアルバムによって、2007年に
ようやくブレイクしたルーツ・レゲエの
アーティストなんですね。

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Kiddus I ‎– Graduation In Zion (2007)

そうしたInna De Yard」シリーズですが、
今回のThe Viceroysもこれまた長い経歴を
持ちながら、なかなか苦難の道を歩んできた
グループなんですね。
ロックステディの時代の68年には早くも
「Ya Ho」というヒット曲を飛ばしますが、
70年代にはThe Inturns名義の「Consider
Yourself」というアルバムを出しているのみ
で、80年代前半にようやく82年に
「We Must Unite」、83年に「Brethren
And Sistren」84年に「Chancery Lane」、
85年に「Ya Ho」と快調に4枚のアルバム
を出してブレイクしていますが、その後は
2000年代までアルバムが無いんですね。

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The Viceroys ‎– Chancery Lane (1984)

そうした彼らに再び大きな光を当てたのが、
今回のアルバムという事になります。
そのあたりは仲間であるEarl 'Chinna' Smith
の友情が感じられて嬉しいところ。
The Viceroysもその期待に応えるように、
Studio One時代のヒット曲「Ya Ho」や、
Inturnes名義で録音した「My Mission Is
Impossible」、さらにはルーツの名曲
「Satta Massagana」リディムの「Shadrach,
Meshach, And Abendigo」など、心のこもった
演奏を披露しています。

解っていてもそのアコースティックな演奏に
ジンとして心打たれてしまう、それがこの
シリーズの魅力なんですね。

1曲目は「Heart Made Of Stone」です。
生ギターの刻むリズムに、感情の入った
ヴォーカルにコーラス・ワーク。
彼ららしいヴォーカル・ワークが楽しめる
曲です。

The Viceroys Heart made of stone


2曲目は「Ya Ho」です。
彼らのロックステディ時代のStudio Oneの
ヒット曲です。
生ギターに重厚なコーラス・ワーク。
長年に亘って磨かれた、彼らならではの世界
がここにあります。

The Viceorys (Inna De Yard) - Ya Ho


3曲目は「My Mission Is Impossible」
です。
Inturnes名義で録音した70年代のルーツ
時代のヒット曲です。
曲はあの映画「Mission Impossible」の
テーマ曲のレゲエ・アレンジ。
スリリングなメロディにパーカッションなど
でアクセントを付け、うまく自分のフィールド
の曲にしているのが素晴らしいです。

Mission Impossible- The Viceroys. Inna de yard


4曲目は「I Guarantee My Love」です。
レゲエらしいパーカッションのドラミングに
乗せた、ヴォーカルとコーラス・ワークが
素晴らしい曲です。

5曲目は「So Many Problems」です。
こちらも心地良いドラミングにシンセの
メロディ、コーラス・ワークと、ディープ
な世界に引き込まれて行くような曲です。

6曲目は「Love Jah」です。
こちらもパーカッションとシンセのメロディ
に、ちょっとしゃがれたヴォーカルと
コーラス・ワークがすごく魅力的な曲です。

7曲目は「Last Night」です。
パーカッションの心地良い響きにギター、
明るい空気のあるヴァ―カルにファルセット
なコーラス。
ラフな中に良いグルーヴ感のある曲です。

8曲目は「Slogan On The Wall」です。
ギターのメロディにパーカッション、
ちょっと陰影のあるヴォーカルが、良い
空気感を醸し出している曲です。
冒頭に犬の吠える鳴き声が入っているのも
ご愛敬。

The viceroys - Slogan on the wall


9曲目は「Shadrach, Meshach, And Abendigo」
です。
ルーツ・レゲエの名曲「Satta Massagana」の
リディムを使った曲です。
パーカッションのドラミングからギター、
ヴォーカルにコーラスと徐々に彼ら世界に
引き込まれて行くような曲です。
コーラス・ワークに統制感があるのが、この
The Viceroysの絶対的な強みです。

リズム特集 Satta Massa Ganna (サタ・マサ・ガナ)

10曲目は「Rise In The Strength Of Jah」
です。
こちらは生ギターの刻むようなメロディに、
ヴォーカルとコーラス・ワークで聴かせる曲
です。
ギター1本あればそこに音楽がある、それが
この「Inna De Yard」のコンセプトであり
魅力なんですね。

ざっと追いかけて来ましたが、この「Inna De
Yard」シリーズは見事なほどに彼らのその後
の人生を映し出しています。
そしてそのルーツに生きた人生は、まったく
の曇りもなく素晴らしいんですね。
けっして金銭的や物質的なものでは得られ
ない、精神的な幸せが彼らの生き方の中には
あるんですね。

ある意味みんな「汚いジジイ」になっている
んですが(笑)、それでも彼らの歌う姿を
見ると神々しいまでに美しい瞬間があるん
ですね。
それがこの「Inna De Yard」シリーズの魅力
です。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: The Viceroys
○アルバム: Inna De Yard
○レーベル: Inna De Yard
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2007

○The Viceroys「Inna De Yard」曲目
1. Heart Made Of Stone
2. Ya Ho
3. My Mission Is Impossible
4. I Guarantee My Love
5. So Many Problems
6. Love Jah
7. Last Night
8. Slogan On The Wall
9. Shadrach, Meshach, And Abendigo
10. Rise In The Strength Of Jah

●今までアップしたViceroys関連の記事
〇Viceroys「At Studio One: Ya Ho」
〇Viceroys「Chancery Lane」
〇Viceroys「Ghetto Vibes」
〇Viceroys「We Must Unite」