今回はVarious (Dub Specialist)のアルバム

dub_specialist_03a

「Studio One Dub」です。

Various (Dub Specialist)
まずはStudio Oneというレーベルについて説明
しておきます。
Studio Oneはレコードをかけて踊る
「サウンド・システム」を運営していた
Clement 'Coxsone' Dodd(C.S. Dodd)が
立ち上げたレーベルで、50年代後半には
活動を始めています。
ジャマイカの音楽はメント→スカ→ロック
ステディ→レゲエとその変遷をたどるのです
が、そのスカの時代からTreassure Isle
レーベルとともに、常にジャマイカをけん引
して来たのがこのStudio Oneというレーベル
だったんですね。
このレーベルからはあのBob Marleyの
The Wailersのほか、数え切れないくらいの
ジャマイカの音楽界のスターが育っています。

レーベル特集 Studio One (スタジオ・ワン)

今回のダブのミキサーであるDub Specialist
についても書いておきます。
ネットのDiscogsのDub Specialistのページ
には次のような記述があります。

Dub Specialist is a name used for a series of dub LP
releases from Studio One throughout the 70s.
These limited edition albums were mixed down by a number
of engineers over the decade, including Sylvan Morris,
Syd Bucknor & Overton "Scientist" Brown, all under the
auspices of legendary producer, sound system pioneer
and music entrepeneur, Clement "Coxsone" Dodd.
The series ended when Dodd left Brentford Road for
the USA at the end of the decade

これを自動翻訳なども使って意訳すると、だい
たい次のような内容になります。

《Dub Specialistは、70年代を通してStudio
Oneからの一連のダブのLPのリリース時に使わ
れた名前です。
これらの限定盤アルバムは、伝説的な音楽プロ
デューサーでサウンド・システムのパイオニア
として知られるClement 'Coxsone' Dodd後援で、
Sylvan Morris、Syd BucknorとOverton
'Scientist' Brownなど何人かのエンジニアに
よって10年の間に亘りミキシングされました。
Doddがジャマイカのブレントフォード通りから
米国へ向かったとき、このシリーズは終わり
ました》

実は私自身はDub Specialistという名前は
ミキサーのSylvan Morrisの別名と理解して
いたのですが、実はStudio Oneのダブを
作ったミキサーの総称、あるいはプロジェクト
名だったようです。
Sylvan Morrisの他にもSyd Bucknorと
Scientistなども一緒にダブを作っていたん
ですね。
(おそらくScientistは、まだ売り出す前
あたりか?)
Sylvan MorrisがこのStudio Oneのあとは
Dub Specialistという名前を名乗っていない
のは、そういう事情があるのかもしれません。
ただ多くのダブはSylvan Morrisが作っている
ようなので、Dub Specialist=Sylvan Morris
というのも、あながち間違っていないよう
です。
ちなみにこのDub SpecialistによるStudio
Oneのダブは、74年頃から80年頃までに
10枚前後のアルバムが作られているよう
です。

この70年代半ば頃になると老舗レーベル
だったStudio Oneも、すっかり勢いを失って
いたらしいんですね。
その原因は主催者C.S. Doddの金払いの悪さ
にあったと言われています。
それまでのスカやロックステディの時代は
たとえ金払いが悪くても大きなレーベルは
Studio OneかTreassure Isleしかなく、
ミュージシャンを続けるにはこのどちらか
でレコードを出すしかなかったんですね。
ところがレゲエが世界的に人気を博すよう
になり、Channel Oneなど新興レーベルが
次々と誕生するようになります。
そうすると金払いの悪いStudio Oneは、
徐々にミュージシャンから見限られて行く
んですね。

この70年代半ば頃になるとC.S. Doddは
すっかり音楽への情熱を失って、仕事の
大半をミキサーのSylvan Morrisに任せていた
と言われています。
Sylvan MorrisはそうしたStudio Oneの
スカやロックステディ、初期レゲエなどの
過去の古い音源を使って、Sugar Minottや
Freddie McGregorなどの新しい歌手に歌わせ
たり、、このDub Specialist名でのダブの
制作などを手掛けているんですね。
そうして古くて新しい、面白い作品群が
出来上がったという訳です。

今回のアルバムは2004年にリイシュー・
レーベルSoul Jazz Recordsからリリース
された、そのStudio OneのDub Specialist
が作ったダブを集めたコンピュレーション・
アルバムです。
音源としては66年~72年というロック
ステディから初期レゲエの時代ぐらいの
音源が使われており、その時代に活躍した
Studio Oneのバック・バンドSound Dimension
やNew Establishment、Roots Group、
Brentford All-Stars、Soul Defendersと
いったバンドの演奏が使われているよう
です。

書いたようにDub SpecialistによるStudio
Oneのダブは、74年頃から80年頃までに
10枚前後のアルバムが作られているのです
が、そうしたアルバムからセレクトされた
ダブと思われ、そう考えると制作時期は
74~80年の間ではないかとと思われます。

このDub Specialistのダブというのは、比較
的エフェクトが控えめにダブが多く、それが
かえって原曲の良さを感じさせるダブになって
います。

ちなみにこの「Studio One Dub」シリーズ
ですが、2作目の2007年に「Studio
One Dub Vol. 2」、2016年に3作目の
「Studio One Dub Fire Special Chapter
Three」がリリースされています。

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Various ‎– Studio One Dub Vol. 2 (2007)

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Dub Specialist ‎– Studio One Dub Fire Special Chapter Three: 18 Heavyweight Dub Cuts From Brentford Road (2016)

手に入れたのはSoul Jazz Recordsから
リリースされたCDでした。

全17曲で収録時間は約50分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Special Thanks: Jackie Mittoo, Richard Ace, Earl 'Bagga' Walker,
Cedric Brooks, Dennis Campbell, Leroy Sibbles, Eric Frater,
Leroy 'Horsey', Freddie McGregor and all the other musicians
who have contributed in making this album possible.

Music is by Sound Dimension, New Establishment, Roots Group,
Brentford All-Stars, Soul Defenders and more.

By Dub Specialist

となっています。

「Special Thanks」としてJackie Mittoo、
Richard Ace、Earl 'Bagga' Walker、 Cedric
Brooks、Dennis Campbell、Leroy Sibbles、
Eric Frater、Leroy 'Horsey、Freddie
McGregorという名前があります。

バック・バンドとしてSound Dimension、
New Establishment、Roots Group、Brentford
All-Stars、Soul Defendersという名前があり
ます。

表ジャケになっている小冊子にはStuart Baker
という人の、Dub Specialistとして知られる
Sylvan Morrisに対する長文のインタビュ―
記事が載っています。

印象的なジャケットは、Adrian SelfとRyan
D'Baconという人が担当しているようです。

さて今回のアルバムですが、この
Dub Specialist(Sylvan Morris)が活躍
した時代というのはStudio Oneという
レーベルがかなり衰退してしまった時代なん
ですが、そうした状況の中Dub Specialist
はStudio Oneの資産である古い音源をうまく
加工して、古くて新しいちょっと面白い
サウンドのダブを生み出しています。

実際には窮余の策で生まれたダブだと思い
ますが、そうした事を感じさせない面白さが
このダブにはあるんですね。
そうしたダブを作り上げたSylvan Morris
というミキサーは、やはり傑出した才能の
持ち主で、この時代のダブが好きな人なら
聴き逃せないミキサーのひとりなんじゃない
かと思います。
さすがにDub Specialistのダブの中から厳選
されたダブだけあって、どの曲もすごく魅力
的な曲が揃っています。

Horace Andyの「Skylarking」のリディムを
使った「Sky Rhythm」や、The Paragonsの
「Change Your Style」のリディムの
「Hooligan」、Dawn Pennの「No No No」の
リディムの「Creator Version」、Freddie
McGregorの「Bobby Babylon」のリディムの
「Hi Fashion Dub」、The Heptonesの「Pretty
Looks Isn't All」のリディムの「Pretty
Version」など、有名リディムがこれでもかと
使われたアルバムになっています。

また6曲目「Taurus Dub 2」や14曲目
「Spawning」、15曲目「In Cold Blood
Version」など、あまり起承転結を感じさせ
ない茫洋とした空間に漂うような不思議な
感覚のダブもあり、そのあたりも聴きどころ
になっています。

まさにこのDub Specialist(Sylvan Morris)
の才能と実力を感じさせるダブが揃っている
のが、今回のアルバムなんですね。

1曲目は「Bionic Dub」です。
リディムはトロンボーン奏者Vin Gordonの
「Red Blood」です。
トロンボーンをメインとしたダブですが、
面白いのは遠くで聴こえるような音処理を
しているところ。
この時代には録音技術が進んだので、古い
音源はどうしても音の幅が平板に聴こえて
しまうんですね。
そこで一度トロンボーンをメインで鳴らした
後に、あえて音を絞った遠くでトロンボーン
が鳴っているような奥行きのある音処理を
しているんですね。
その奥行き感が面白いダブに仕上がって
います。

Dub Specialist - Bionic Dub


2曲目は「Take A Ride Version」です。
リディムはAl Campbellの「Take A Ride」
で、この時代にJohnny Osbourneがヒット
させた「Truths and Rights」のリディム
として、覚えている人が多いリディムです。
浮遊感のあるオルガンのクールなメロディ
が印象的なダブ。

リズム特集 Take A Ride/Truth & Rights (テイク・ア・ライド/トゥルース・アンド・ライツ)

3曲目は「Sky Rhythm」です。
こちらはHorace Andyの大ヒット曲
「Skylarking」のダブです。
ホーンの印象的なメロディとリリカルな
ピアノがが耳に残るダブです。
こちらも奥行きの付け方がすごくウマい
です。

4曲目は「Taurus Dub 2」です。
リディムはHorace Andyの「Mr. Jolly Man」。
ギターなどを駆使したまるでさざ波のように
音が押し寄せてくるような、不思議な感覚の
ダブです。

Taurus Dub 2


5曲目は「Hooligan」です。
リディムはThe Paragonsの「Change Your
Style」。
おそらくDub Specialistのダブの中でも、
もっとも知られているダブではないかと
思います。
勢いのあるホーンのメロディとThe Paragons
のコーラスが心地良いダブ。

Dub Specialist Hooligan


6曲目は「Dub Rock」です。
リディムはBurning Spearの「Swell Headed」。
ギターとベースを中心にしたド・渋なダブ
です。

7曲目は「Rastaman Version」です。
リディムはFreddie McGregorの「Rastaman
Camp」。
エコーのかかったオルガンのメロディに
ヴォーカル、胸を締め付けられるような
緊迫感のあるダブです。

07. Rastaman Instrumental Dub Version [Studio One Dub Specialist] Reggae Soul Jazz


8曲目は「Jah Jah Version」です。
リディムはThe Gladiatorsの「Jah Go
Before Us」。
The GladiatorsのAlbert Griffithのネバ着く
ようなヴォーカルが印象的なダブです。

JAH JAH VERSION STUDIO ONE DUB


9曲目は「Creator Version」です。
リディムはDawn Pennの「No No No」。
ピアノやメロディカなど、いくつかの音を
オーヴァー・ダブしているようで、うまく
サウンドに奥行きを作っています。

10曲目は「Running Dub」です。
リディムはDelroy Wilsonの「Run Run」。
音割れしたホーンにエコーのかかった
ヴォーカルなどが、不思議な世界作って
います。

Dub Specialist - Running Dub


リズム特集 Run Run/Koloko (ラン・ラン/コローコ)

11曲目は「Hi Fashion Dub」です。
リディムはFreddie McGregorの「Bobby
Babylon」。
ホーンの華やかなメロディと、ド・渋な
ベースのメロディをうまく対比させたダブ。

リズム特集 Bobby Babylon/Hi Fashion (ボビー・バビロン/ハイファッション)

12曲目は「Pretty Version」です。
リディムはThe Heptonesのロックステディの
ヒット曲「Pretty Looks Isn't All」です。
スウィートなホーンのメロディと、甘い
ヴォーカルにダブワイズ…。

13曲目は「Race Track Version」です。
リディムはSoul Vendorsの「Race Track」。
ギターのメロディに浮遊感のあるオルガン、
ダブワイズしたホーンという面白い感覚の
ダブです。

Dub Specialist - Studio One Dub - Race Track Version


14曲目は「Spawning」です。
こちらは元の曲が見つかりませんでした。
ギターのメロディにダブワイズして行く
ヴォーカル、ピアノのメロディ、世界が
グニャグニャと変形して行くような不思議な
感覚のダブです。

15曲目は「In Cold Blood Version」です。
リディムはSound Dimensionの「In Cold
Blood」。
低音のベースにザワザワ鳴り響くエフェクト、
オルガンのメロディなど、ザワザワ感のある
ダブ。

In Cold Blood Version


16曲目は「Chase Them Version」です。
リディムはHorace Andyの「Mr. Bassie」。
こちらもエフェクト音がタップリと入った
ダブです。

17曲目は「Feel The Dub」です。
こちらもリディムが解りませんでした。
ギターのメロディを中心としたダブ。

ざっと追いかけて来ましたが、やはりこの
Dub Specialistのダブはとても面白いん
ですね。

それはもしかしたら苦肉の策だったのかも
しれませんが、アイディアでその窮地を乗り
越えて行く、そういう音楽的なインテリ
ジェンスがこのジャマイカの人達にはあるん
ですね。
そうした音楽的なインテリジェンスがある
からこそ、ジャマイカの音楽は初めて
第3世界で世界的に人気のあるレゲエという
音楽を作る事が出来たのかもしれません。

こうした再利用の発想は、その後のダンス
ホール・レゲエでも、人気のリズムを何度も
再利用する「リディム」という考え方に
受け継がれて行きます。
そして面白い音楽を次々に生み出して行くん
ですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various (Dub Specialist)
○アルバム: Studio One Dub
○レーベル: Soul Jazz Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2004

○Various (Dub Specialist)「Studio One Dub」曲目
1. Bionic Dub
2. Take A Ride Version
3. Sky Rhythm
4. Taurus Dub 2
5. Hooligan
6. Dub Rock
7. Rastaman Version
8. Jah Jah Version
9. Creator Version
10. Running Dub
11. Hi Fashion Dub
12. Pretty Version
13. Race Track Version
14. Spawning
15. In Cold Blood Version
16. Chase Them Version
17. Feel The Dub