今回はKing Tubbyのアルバム

king_tubby_16a

「King Tubby Presents The Roots Of Dub」です。

King Tubbyはルーツの時代から活躍するダブ
のミキサーであり、プロデューサーである人
です。
もともと電気技師だった彼は、ルーツ・レゲエ
の時代からミキサーとして活躍し、ダブの創成
期からダブを作った人として知られています。
ダブはルーツ・レゲエが誕生した70年代初め
頃から徐々に作られるようになるのですが、
1973年に一斉にダブのアルバムが作られた
事から一気にひとつのジャンルとして確立した
音楽で、エコーやリバーヴなどのエフェクト
などを使用して原曲を全く別の曲に作り変えて
しまう手法を指します。

ダブ - Wikipedia

リミックスの元祖とも言われる音楽で、誰が
初めのダブを考案したかかはハッキリとは
解っていないのですが、このKing Tubbyが
ダブという音楽を完成させたと言われてい
ます。
自身のスタジオKing Tubby'sで、助手の
Prince JammyやScientistなどとともに
70年代から80年代にかけて多くのダブの
ミックスを手掛けたのが、このKing Tubby
という人なんですね。

その後も活躍を続けたKing Tubbyでしたが、
1989年に自宅前で何者かに射殺されて
亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby (キング・タビー)

今回のアルバムは1975年にジャマイカの
Total Soundsというレーベルからリリース
されたKing Tubbyのダブ・アルバムです。
(ネットのDiscogsでは75年が一番古い
アルバムでしたが、いくつかの販売サイト
には74年と書かれていました。)

プロデューサーのBunny Leeの元で作られた
アルバムのようで、Cornell Campbell & The
Eternalsの「Queen Of The Minstrel」や
「Stars」、Johnny Clarkeの「Do You Love
Me」など、Bunny Leeがプロデュースした曲
が多く使われたダブ・アルバムです。

また曲の多くが74~75年のわずかの期間
だけ流行した、Carlton 'Santa' Davisが
開発したビート「フライング・シンバル」が
使われたアルバムで、独特のシャリシャリと
いうサウンドが印象的なアルバムに仕上がって
います。
この「フライング・シンバル」というビート
は、ほとんどがBunny Leeのハウス・バンド
The Aggrovatorsの曲で、彼ら専用のビート
のようなところがあります。

手に入れたのはClocktower Records傘下の
レーベルAbrahamからリリースされたCDの
中古盤でした。
オリジナルは全12曲ですが、なぜか
「A Closer Dub」という曲が削除されて、
全11曲入りのアルバムでした。
ちなみに曲順もSide 1とSide 2が丸ごと
入れ変わっていました。

また音質が多少悪く、よく聴くと気になる
パリパリ音が入っています。

全11曲で収録時間は約36分。
書いたように1~6曲目まではオリジナル
ではSide 2の曲で、7~11曲目までが
Side 1の曲です。
またSide 1の最後の曲「A Closer Dub」が
削除されています。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Following Musicians Better Known as Agrovators
Bass: Robert Shakespear alias Robbie, George Fulwood alias Fully
Drums: Carlton Davis alias Santa, Carlton Barrett
Guitars: Earl 'Chinna' Smith, Tony Chin, Aston Barrett
Organ: Ossis Bongo, Brother Ian
Piano: Bernard Harvey

Produced by Bunny Lee
Mixer: King Tubby
Mixed at King Tubby's

Photo by Shinzo Ishii
Design by K. Okuyama

となっています。

ミュージシャンはAgrovators(Aggrovators)
で、ベースにRobert Shakespear(Robbie)と
George Fulwood(Fully)、ドラムにCarlton
Davis(Santa)とCarlton Barrett、ギターに
Earl 'Chinna' SmithとTony Chin、Aston
Barrett、オルガンにOssis BongoとBrother
Ian、ピアノにBernard Harveyという布陣です。

ただ60年代後半のロックステディの時代の
Cornell Campbell & The Eternalsの曲など
もあるので、そうした曲はThe Aggrovators
とは別のバンドが演奏しているかもしれま
せん。

プロデュースはBunny Leeで、ミックスは
King Tubby'sでKing Tubby本人が行って
います。

さて今回のアルバムですが、King Tubbyは
この70年代のルーツ・レゲエの時代に数
多くのダブを作成していますが、その中でも
今回のアルバムは彼の代表作のひとつとも
いえるアルバムです。

73年にダブのアルバムがいっせいに発売
された事で多くの人に認知されるように
なったダブという音楽形態ですが、ダブを
完成させたのはKing Tubbyだと言われて
います。
どうして彼がそうしたダブという音楽の
スタイルを完成させる事が出来たのかと
いえば、彼が感覚的な芸術肌の人ではなく、
論理的な職人肌の人だったからなんですね。
論理的に物事を詰めて行く、そういう思考で
それ以降の音楽は作られるようになります。
「現代の音楽はKing Tubbyから始まっている」
そういわれるのは、この人がそういう論理的
な音楽の作り方を始めた人だったからなん
ですね。

彼や彼の指導を受けた人のダブやミックス
された音楽を聴くと、常にある水準以上の
音楽である事に驚かされます。
ミキサーとして常にレヴェル以上の音楽を
冷静に作る、それがこのKing Tubbyという人
の作った世界なんですね。
誤解のないように言うと、そういう音楽を
作るにはまったく感性が必要がない訳では
なく、むしろ優れた感性が必要です。
ただこの人King Tubbyはそうした完成に依存
する事なく、常に「自分」を消しあくまで
最善の音楽を作る事に心を砕いた人なんです
ね。
そこがこの人の凄さです。

今回のアルバムも依頼主から与えられた
「素材」に対して、最善の音楽にリミックス
し直す、彼の素晴らしい才能が垣間見えます。
そうしたダブの制作方法を確立した事で、
King Tubbyはこの70年代のルーツ・レゲエ
の時代に、彼のスタジオKing Tubby'sで
助手とともに大量のダブを作る事になるん
ですね。

今回のアルバムはその方法論を確立した頃の
アルバムで、比較的オーソドックスなアルバム
ですが、曲の良さを引き出すミックスがされ
ていて、なかなか魅力的なダブに仕上がって
います。
特にロックステディの名曲Cornell Campbell
& The Eternalsの「Queen Of The Minstrel」
や「Stars」などを、ミックスし直して再生
している手腕は見事というしかありません。

こうした昔の曲を再生する事は、依頼主の
プロデューサーにとって一度録音した音源の
「再利用」という大きなメリットがあったん
ですね。
この70年代のルーツ・レゲエの時代は、
こうしたダブやディージェイという実験的で
革新的な音楽が生まれていますが、まだ貧し
かったジャマイカという国のプロデューサー
の、経済的な理由からの一度録音した音源の
「再利用」という切実な目的があったのも
事実なんですね。

ちなみにこのアルバムは2002年シンコー・
ミュージック刊行の本「Roots Rock Reggae」
にも紹介されているアルバムで、そこには
「大場」さんという方の文章で「すでに彼の
スタイルは完成の域に達していると言える
ほど、音の抜き差し、エフェクターによる
効果音などを駆使したこの異様な音空間は
凄い。」と絶賛されています。

1曲目は表題曲の「Roots Of Dub」です。
リディムはCornell Campbell & The Eternals
のロックステディの時代のヒット曲「Stars」
です。
ホーンの特徴的な甘いメロディにダブワイズ、
呟き声など、King Tubbyのミックスが生きた
曲です。

King Tubby - Roots of Dub


リズム特集 Stars (スターズ)

2曲目は「Dub You Can Feel」です。
リディムはJohn Holtの「A Love I Can
Feel」。
こちらもロックステディのスウィートな
メロディに、ズシッと響くベースを中心と
したド・渋なダブに仕上げています。
こうしたベース使いのウマさも、このKing
Tubbyのミックスの特徴です。

King Tubby - The Roots Of Dub - 08 - Dub You Can Feel


リズム特集 Love I Can Feel (ラブ・アイ・キャン・フィール)

3曲目は「Loving Dub」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Do You Love
Me」。
この曲はI-RoyとPrince Jazzboの「伝説の
舌戦」で使われた事でも知られている曲です。
この舌戦が行われたのがこの75年頃なん
ですね。
The Aggrovatorsの「フライング・シンバル」
のビートの、特徴的なシャリシャリいう
ドラミングが印象的な曲です。

Loving Dub - King Tubby


ちなみにこの「伝説の舌戦」は、Pressure
Soundsから2009年にリリースされた
アルバム「Once Upon A Time At King Tubbys」
にまとめられています。

pressure_sounds_04a
Various ‎– Once Upon A Time At King Tubbys (2009)

4曲目は「The Immortal Dub」です。
リディムはCornell Campbell & The Eternals
のロックステディの時代のヒット曲「Queen
Of The Minstrel」です。
原曲はスウィートなメロディの曲ですが、
こちらもギターやベースが効いたビターな
テイストにウマく仕立てています。

King Tubby - The Immortal Dub


5曲目は「Dread Locks Dub」です。
こちらもフライング・シンバルのドンシャリ
のビートで、ピアノとベースが効いたダブに
仕上げています。

King Tubby - The Roots Of Dub - 11 - Dreadlocks Dub


6曲目は「Rocking Dub」です。
こちらもピアノとベースにエコーの効いた
ダブ。
音作りのウマさが光ります。

7曲目は「Natty Dub」です。
ノリの良いオルガンのメロディに、ドンシャリ
の効いたフライング・シンバル。
ベースも効いています。

8曲目は「Dub Magnificient」です。
魅力的なピアノのリリカルなメロディ、ズシッ
と来るベース、フライング・シンバルの
ドラミングという曲です。

9曲目は「A First Class Dub」です。
リディムはCornell Campbellの「I Shall
Not Remove」。
遠くで聴こえるようなCornell Campbellの
ヴォーカル、ベースやギターが効いたダブ
です。

10曲目は「The Stepping Dub」です。
心地良いギターのメロディを中心とした
ダブ。

11曲目は「Rude Boy Dub」です。
こちらは重いベースのメロディを中心とした
ダブ。

YouTubeで今回の曲を探すと後半の方の曲
は、なぜか曲目が1曲ずつズレ込んでいま
した。
曲目の表記とiTunesで読み込んだ表記とは
一致しているのですが、ダブは歌詞が無い
ので曲目が解りづらいところがありますが、
もしかしたらアルバムによって曲目がズレて
いる可能性があります。

ざっと追いかけて来ましたが、オーソドックス
なダブではありますが内容は悪くないと思い
ます。

このKing Tubbyですが70年代のルーツ・
レゲエの時代はダブやミックスを大量に生産
しますが、80年代に入るとミックスの仕事
は助手だったPrince JammyやScientistに
任せて自分は電気技師の仕事に専念し、ダブ
をあまり作らなくなります。
ところがPrince JammyやScientistが独立し、
King Tubby'sに戻りプロデューサーとして
再び手腕を発揮するんですね。
この自分が作りたいではなくて人に任せる
ところが、いかにも職人気質のKing Tubby
らしいところであり、そうした才能のある
人が離れると再び現場にスッと戻れる才能
がこの人の凄さでもあります。

間違いなくこのレゲエという音楽の歴史に
大きな足跡を残したのが、このKing Tubby
という人です。
今回のアルバムはその彼の代表作のひとつ
で、聴いておくべきアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: King Tubby
○アルバム: King Tubby Presents The Roots Of Dub
○レーベル: Abraham
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1975

○King Tubby「King Tubby Presents The Roots Of Dub」曲目
1. Roots Of Dub
2. Dub You Can Feel
3. Loving Dub
4. The Immortal Dub
5. Dread Locks Dub
6. Rocking Dub
7. Natty Dub
8. Dub Magnificient
9. A First Class Dub
10. The Stepping Dub
11. Rude Boy Dub