今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「King Jammys Dancehall 3: Hard Dancehall
Murderer 1985-1989」です。

King Jammy(Prince Jammy)はレゲエの歴史
の中で、King Tubbyと並ぶ最も偉大な
プロデューサーであり、ミキサーである人
です。

70年代からKing Tubbyのスタジオ
King Tubby'sでミキサーとしてPrince Jammy
という名前で活動を始めた彼は、そこで
多くのダブや楽曲のミックスなどを手掛け
ます。
さらに80年代になると新しく起こった
ダンスホール・レゲエやダブのミックスなど
で有名なミキサーとなり、独立して自分の
スタジオJammysを構え活躍するようになるん
ですね。
そして80年代半ばにダンスホール・レゲエ
をさらに進歩させた初のデジタルのダンス
ホール・レゲエのヒット曲Wayne Smithの
「Under Me Sleng Teng」で、ジャマイカ
全土にデジタルのダンスホール・レゲエの
大ブーム「コンピューター・ライズド」を
起こすんですね。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng (1985)

彼はこのヒットをきっかけにそれまで
King Tubby'sのエンジニア時代から名乗って
いたPrince Jammy→King Jammyに改名して
います。

ジャマイカの音楽界をそれまでの生演奏から
コンピューターを使った「打ち込み」の世界
に変えたのが、このKing Jammyという人なん
ですね。

King Jammy (キング・ジャミー)

今回のアルバムは2017年に日本の
Dub Store Recordsからリリースされた、
そのKing JammyのレーベルKing Jammysから
リリースされたデジタルのダンスホールの
音源を集めたコンピュレーション・アルバム
です。
「King Jammys Dancehall 3」となっている
ように、このアルバムはその第3集目の
アルバムで、他に2011年に「King Jammys
Dancehall 1985-1989 Part 1」、さらに
2017年に「King Jammys Dancehall 2」、
そして同時に「King Jammys Dancehall 4」
もリリースされています。

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Various ‎– King Jammys Dancehall 1985-1989 Part 1 (2011)

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Various ‎– King Jammys Dancehall 2: Digital Roots & Hard Dancehall 1984-1991 (2017)

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Various ‎– King Jammys Dancehall 4: Hard Dancehall Lover 1985-1989 (2017)

「Hard Dancehall Murderer 1985-1989」と
題されているように、彼らの作ったデジタル
のダンスホールの曲の中でも85~89年
までに作られた、特にハードでキラーな音源
を集めたアルバムになっているようです。

手に入れたのはDub Store Recordsから
リリースされたCDでした。
手に入れたCDの帯には、次のような文章が
書かれていました。

「ジャマイカの夜を熱狂させたジャミーズ・
キラー・サウンド・チューン傑作集!
ダンスホール隆盛期、ジャミーズのサウンド
システムを沸かしたスター・アーティストに
よるハード・ダンスホール音源!」

全20曲で収録時間は約70分。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

Produced by Lloyd James
Recorded in Kingston, Jamaica

という記述があります。

プロデュースはLloyd James(King Jammyの
本名)で、レコーディングはジャマイカの
キングストン(おそらくJammysのスタジオ)
で行われています。

収められているアーティストはGregory Isaacs、
Nitty Gritty、Echo Minott、Johnny Osbourne、
Banana Man、King Kong、Robert Lee、
Pad Anthony、Wayne Smith、Tonto Irie、
Admiral Bailey、Bunny General、King Jammy、
Prince Jammyといった人達です。
そのうち16~20曲目までのKing Jammyや
Prince Jammy名義になっている最後の5曲は
このアルバムに収められている曲のダブです。

さて今回のアルバムですが、この「King
Jammys Dancehall」シリーズの中でもキラー
な曲が収められたアルバムで、聴きごたえが
あり内容はなかなか良いと思います。

プロデューサーのKing Jammy(Prince Jammy)
はこのデジタル以前の自身のダブ・アルバム
でもシンセなどのデジタル音を大胆に使って
いたので、そうしたデジタル・サウンドが
リスナーにウケるという事は知っていたんだ
と思います。

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Prince Jammy ‎– Prince Jammy Destroys The Invaders... (1982)

ただそうしたデジタル音だけで曲を作ると
いう発想が、80年代前半のアーリー・
ダンスホールの時代にはまだ無かったんです
ね。

それを変えたのはWayne Smithと友人のNoel
Daveyの持ち込んだ1台のカシオ・トーンで
作った音源です。
これが後に「Sleng Teng」として大ヒット
する事になるのですが、ネットの情報などに
よるとPrince Jammyは当初は確信が持て
なかったようで、自身のサウンド・システム
で曲をかけてみて聴衆に大ウケした事でやっと
リリースに踏み切ったというエピソードが
あります。

この「Sleng Teng」のヒットをきっかけに、
ジャマイカでは「コンピューター・ライズド」
の大旋風が吹き荒れる事になります。
今回の音源はそうしたコンピューター・
ライズドの最中の85年から89年の音源
なんですね。
「Sleng Teng」のヒットをきっかけに
ジャマイカの音楽の質は、ガラッと一大転換
を果たす事になります。

ただそれだけデジタル音がウケた背景には
デジタル音の面白さだけではなく、King
Jammysというスタジオの作るサウンドの
クウォリティの高さがあった事も見逃せ
ません。
今回のアルバムなどを聴いても細部まで神経
が行き届いていて、独特なムーディーな空気
を作り上げています。
ちゃんと音楽好きを納得させるだけの、魅力
的なサウンドなんですね。
特に最後に収められた5曲のダブは、曲の
構造が良く解り彼King Jammy(Prince Jammy)
の才能をあらためて認識させられます。

こうした音楽の一大変革が出来たのも、
King Jammyという飛び抜けた才能を持った
プロデューサーが居たからなんですね。
彼無くしてこのコンピューター・ライズド
が出来なかった事が、あらためて解る
アルバムになっています。

1曲目はGregory Isaacsの「The Ruler」
です。
リディムはRighteous Flamesの「I Was Born
To Be Loved」。
ベテラン・シンガーのGregory Isaacsですが
その人気は衰えず、デジタルの時代になって
も魅力的なセクシーな歌声を聴かせています。
ちなみに今回のアルバム・ジャケットも
Gregory Isaacsの写真のようです。

2曲目はNitty Grittyの「Butter Bread」
です。
デジタルのドラム音にNitty Grittyのセクシー
なヴォーカルが冴える曲です。

3曲目はEcho Minottの「I Am Back」です。
明るく転がるようなシンセのメロディに、
エコーの効いたEcho Minottのヴォーカル、
キュッキュッという効果音…デジタルらしい
サウンドです。

Echo Minott - I Am Back


4曲目はEcho Minottの「Trouble Nobody」
です。
ちょっと東洋っぽいシンセのメロディに、
打ち込みのドラム、Echo Minottのエコーの
効いたヴォーカルという組み合わせ。

5曲目はJohnny Osbourneの「Chain Robbery」
です。
いかにもデジタルらしいリズムにキーボード
のメロディ、Johnny Osbourneの歯切れの
良いヴォーカルの曲です。

6曲目はBanana Manの「Musical Murder」
です。
デジタルらしいドラミングにリリカルな
ピアノ、エコーのかかった陰のある
ヴォーカルが魅力的な曲です。

Banana Man - Dancehall Murder


7曲目はKing Kongの「Can't Ride Computer」
です。
リディムはAnthony Red Roseの「Tempo」。
King Tubbyの作ったダンスホールの名曲に
乗せて、King Kongらしい男臭いけれど
スムースなヴォーカルが心地良い曲です。

King Kong - Can't Ride Computer - Tempo riddim.flv


リズム特集 Tempo (テンポ)

8曲目はRobert Leeの「Come Now」です。
こちらも「Tempo」のリディムが使われている
ようです。
ライヴァルKing Tubbyの名リディムですが、
曲の良さを引き出したさすがの音処理をして
います。

Robert Lee - Come Now Sound Boy


9曲目はPad Anthonyの「By Show Down」
です。
ちょっと賑やかな始まりから、Pad Anthony
のノビのあるヴォーカルとコロコロとした
デジタル音が楽しい1曲。

10曲目はNitty Grittyの「Rub A Dub Kill
You」です。
リディムはSound Dimensionの「Rockfort
Rock」。
ズシッと重いベース音に、Nitty Grittyの
エコーのかかったセクシーなヴォーカルと
いう組み合わせ。

Nitty Gritty & King Kong, Turbo Charged & Trouble Again - Rub A Dub A Kill You


11曲目はWayne Smithの「Like A Dragon」
です。
「Sleng Teng」が有名なWayne Smithですが、
こちらもデジタル音が心地良いなかなかの
名曲です。

wayne smith like a dragon


12曲目はTonto Irieの「Ram Up Every
Corner」です。
こちらはホーンと重いリズムに乗せたトース
ティングの曲です。

13曲目はPad Anthonyの「Murderer」です。
リディムはDon Drummond & Skatalitesの
「Heavenless」。
デジタルな打ち込みにピアノのメロディ、
ソフトなPad Anthonyのヴォーカルという
組み合わせです。

リズム特集 Heavenless (ヘブンレス)

14曲目はAdmiral Baileyの「Mi Ah The
Danger」です。
明るいコロコロとしたメロディに打ち込みの
リズム、Admiral Baileyの楽しいトース
ティングという組み合わせで、この時代
らしい曲です。

15曲目はRobert Lee & Bunny Generalの
「Midnight Hour」です。
重いベースにピアノのメロディ、ソフトな
ヴォーカルに楽しいトースティングという
曲です。

Robert Lee & Bunny General - Midnight Hour


16~20曲目までの5曲は、このアルバム
に収められた曲のダブ(ヴァージョン)が
収められています。

16曲目はKing Jammyの「Dangerous System
Version」です。
11曲目Wayne Smithの「Like A Dragon」と
同じメロディを使ったPad Anthonyの
「Dangerous System 」のダブ(ヴァージョン)
のようです。
浮遊するようなメロディがとても魅力的。

17曲目はPrince Jammyの「I Am Back
Version」です。
3曲目Echo Minottの「I Am Back」のダブ
(ヴァージョン)です。
ちょっと木琴のようなサウンドやキュッキュッ
という効果音など、細部まで神経が張り巡ら
された曲だという事が解るダブになって
います。

18曲目はPrince Jammyの「One Time
Girlfriend Version」です。
4曲目Echo Minottの「Trouble Nobody」の
メロディを使ったSuper Blackの「One Time
Girlfriend」のダブ(ヴァージョン)です。
ちょっと東洋的なフレーズのシンセの
メロディとベースの組み合わせが面白い
1曲。

19曲目はKing Jammyの「Chain Robbery
Version」です。
5曲目Johnny Osbourneの「Chain Robbery」
のダブ(ヴァージョン)です。
デジタルらしいサウンドのダブ。

20曲目はPrince Jammyの「Musical Murder
Version」です。
6曲目Banana Manの「Musical Murder」の
ダブ(ヴァージョン)です。
高音のシンセのメロディと打ち込みのドラ
ミング、ピアノのメロディという曲です。

ざっと追いかけて来ましたが、King Jammys
の作り上げたデジタルのレゲエ・サウンドが
それまでのレゲエ・サウンドを塗り替えて
行った事は間違いありません。

この時代からミュージシャンに求められる
資格は、単に生演奏がウマいという事では
なく、楽器も使えてデジタルにも強いという
事が要求されるようになります。
この時代に他の業種でも起きたように、
パソコンの使えない人間は淘汰され、より
厳しい生き残りの道を要求された側面もあり
ます。
ただそれで音楽が変わり、新しいスキルを
持ったミュージシャンが登場したという側面
もあるんですね。
アナログからデジタルへという流れが出来た
のが、この80年代から90年代だったと
いう事です。

この時代にKing Jammyは、やはり魅力的な
音楽を作り上げているんですね。
多くの人が彼の作り上げるデジタルの
サウンドにハマったのは、そのサウンドに
力があったからにほかなりません。

機会があればぜひ聴いてみてください


○アーティスト: Various
○アルバム: King Jammys Dancehall 3: Hard Dancehall Murderer 1985-1989
○レーベル: Dub Store Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2017

○Various「King Jammys Dancehall 3: Hard Dancehall Murderer 1985-1989」曲目
1. The Ruler - Gregory Isaacs
2. Butter Bread - Nitty Gritty
3. I Am Back - Echo Minott
4. Trouble Nobody - Echo Minott
5. Chain Robbery - Johnny Osbourne
6. Musical Murder - Banana Man
7. Can't Ride Computer - King Kong
8. Come Now - Robert Lee
9. By Show Down - Pad Anthony
10. Rub A Dub Kill You - Nitty Gritty
11. Like A Dragon - Wayne Smith
12. Ram Up Every Corner - Tonto Irie
13. Murderer - Pad Anthony
14. Mi Ah The Danger - Admiral Bailey
15. Midnight Hour - Robert Lee & Bunny General
16. Dangerous System Version - King Jammy
17. I Am Back Version - Prince Jammy
18. One Time Girlfriend Version - Prince Jammy
19. Chain Robbery Version - King Jammy
20. Musical Murder Version - Prince Jammy