今回はU-Royのアルバム

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「Dread In A Babylon」です。

U-Royはレゲエのトースティング・スタイル
を確立したディージェイとしてよく知られ
ています。
それまでもCount MachukiやKing Stittなど、
サウンド・システムで曲と曲の間や間奏部分
で「掛け声係」として観客を盛り上げる
ディージェイという職業はジャマイカに
あったのですが、曲の中でしゃべる
「トースティング」というスタイルを始めた
のは彼が最初だと言われています。
そのトースティングでU Royは70年代初めの
ルーツ期にディージェイの大ブームを起こし、
一躍人気者となるんですね。
彼のファースト・アルバム「Version Galore」
は、世界初のディージェイ・アルバムとして
知られています。

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U Roy ‎– Version Galore (1971)

このディージェイ・スタイルは70年代に
ジャマイカで大流行し、すぐにI Royや
Big Youthなど多くの追随者を生み、やがて
そのスタイルはアメリカのラップという音楽
も生み出す事になるんですね。
そのため彼U Royは「元祖ラッパー」と言わ
れる事があります。

アーティスト特集 U Roy (U ・ロイ)

今回のアルバムはルーツ・レゲエ全盛の
1975年にジャマイカのTR International
というレーベルからリリースされた彼のソロ・
アルバムです。

ネットの販売サイトにはU-Royの「通算5作目」
という記述が書かれているところがありました
が、ネットのDiscogsでは71年のファースト
「Version Galore」、74年の「U-Roy」に
続く3枚目のアルバムとなっていました。

Techniquesの「Queen Majesty」のリディム
を使った「Chalice In The Palace」や、
同じくTechniquesの「You Don't Care」を
使った「Natty Don't Fear」、Ken Bootheの
「Moving Away」を使った「Listen To The
Teacher」など、ほとんどの曲が60年代後半
に流行ったロックステディの時代のリディム
を使った曲が収められています。

手に入れたのはVirgin傘下のFront Line
レーベルから「Reggae Classics」シリーズ
としてリイシューされたCDの中古盤でした。

全10曲で収録時間は約31分。
すべてオリジナル・アルバムに収められた曲
で、最後の1曲のみU-Royのトースティング
が入っていないメロディカのダブが収められ
ています。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

All tracks written by U-Roy / Robinson except track 5 by Ford / U-Roy / Robinson
All tracks produced by Tony Robinson

という記述があります。

プロデュースがTony Robinsonで、作曲が
U-RoyとRobinsonという以外の記述が無いん
ですね。

アーティスト特集 Tony 'Prince Tony' Robinson (トニー’プリンス・トニー’ロビンソン)

ただどうもリイシューする際に記述が削除
されてしまったようで、ネットのDiscogs
などを見ると、バック・バンドがSkin, Flesh
And Bones BandとThe Soul Syndicate、
スタジオはJoe Gibbsで、ミックスはErrol
ThompsonとPrince Tonyという事が書かれて
いました。
どうもこのFront Lineの「Reggae Classics」
シリーズのリイシューでは、こういう削除が
多い傾向が見られます。

さて今回のアルバムですが、このU-Royという
人はそのファースト「Version Galore」でも
ロックステディの曲に乗せたトースティング
で人気を博したように、ゆったりしたロック
ステディのリズムに乗せたトースティングが
すごくウマく、魅力的な人なんですね。
今回のアルバムでもその多くがロックステディ
のリズムで、それに乗せたU-Royのトース
ティングはグルーヴ感がありとても魅力的
です。

リディムが特定出来ないものもいくつかあり
ましたが、多くはロックステディのリディム
で、Ken Bootheの「Just Another Girl」の
リディムを使った1曲目「Runaway Girl」、
Techniquesの「Queen Majesty」のリディム
を使った2曲目「Chalice In The Palace」、
同じくTechniquesの「You Don't Care」を
使った6曲目「Natty Don't Fear」、Ken
Bootheの「Moving Away」を使った7曲目
「African Message」、The Paragonsの
「Fly Little Silver Bird」を使った8曲目
「Silver Bird」、Lloyd & Devonの「Red Bum
Ball」を使った9曲目「Listen To The
Teacher」など、名リディムのオン・パレード
で、それに乗せたU-Royのウィキッドなトース
ティングがレゲエしか生みだせない独特の
世界を作り上げています。

この独特の世界観こそ、レゲエという音楽の
魅力なんですね。

1曲目は「Runaway Girl」です。
リディムはKen Bootheの「Just Another
Girl」。
ロックステディのちょっとダブワイズが
入った名曲に、U-Royのの間を心得たトース
ティングです。

U Roy‎ - Runaway Girl (1975)


2曲目は「Chalice In The Palace」です。
リディムはTechniquesの「Queen Majesty」。
ロックステディの時代の名コーラス・
グループの、香り立つようなコーラスに
乗せたトースティングです。
カッコいいです。

U-Roy - Chalice In The Palace (Original)


リズム特集 Queen Majesty (クイーン・マジェスティ)

3曲目は「I Can't Love Another」です。
こちらもいかにもロックステディらしい
コーラスの曲ですが、曲目が特定出来ません
でした。
ヴォーカルやコーラスに被せるトースティング
の確かさが、このディージェイのスキルの
高さを証明しています。

4曲目は「Dreadlocks Dread」です。
確かThe Wailersの曲でこんなリズムの曲が
あったような気がするのですが…どうも
リディムが特定出来ませんでした。
ピアノとギターを中心としたリズムに、
U-Royのノリノリのトースティングが気持ち
良い曲です。

U Roy - Dread In A Babylon - 04 - Dreadlocks Dread


5曲目は「The Great Psalms」です。
こちらはベースを中心としたズシッとした
リズムに、ブルース・ハーモニカの奏でる
ファンキーなメロディ…。
そうした陰影の濃い曲に、U-Royらしい
滑らかなトースティングが冴えます。

6曲目は「Natty Don't Fear」です。
リディムはTechniquesの「You Don't Care」。
ロックステディのヒット曲をバックに、
U-Royの心地良いトースティングが冴える
曲です。

リズム特集 You Don't Care (ユー・ドント・ケア)

7曲目は「African Message」です。
リディムはKen Bootheの「Moving Away」。
こちらもダブワイズしたロックステディの
ヒット曲に、U-Royのらしい滑らかなトース
ティングが冴える曲です。

U Roy - African Message


リズム特集 Moving Away (ムービング・アウェイ)

8曲目は「Silver Bird」です。
リディムはThe Paragonsの「Fly Little
Silver Bird」。
ダブワイズしたJohn Holtと思われるヴォーカル
に、ウィキッドなU-Royの味のあるトース
ティング。

9曲目は「Listen To The Teacher」です。
リディムはLloyd & Devonのロックステディ
のヒット曲「Red Bum Ball」です。
ロックステディ独特の転がすようなギターの
音色にコーラス、U-Royのトースティングと
いう組み合わせがとても良いです。

U Roy | Listen To The Teacher


10曲目は「Trench Town Rock」です。
なぜか最後はU-Royのトースティングでは
なく、メロディカのダブが入っています。
演奏しているのはやはりAugustus Pabloか?
Jackie Mittooの「Darker Shade of Black」
に似たメロディを演奏しています。
その唐突さもある意味レゲエらしいところ
かも…(笑)。

u-roy trench town rock


ざっと追いかけて来ましたが、やはりU-Roy
のロックステディのリズムを使ったトース
ティングはとても魅力的です。
もともとU-Royがトースティングを始めたの
がロックステディの時代が終わり初期レゲエ
の時代ぐらいだったので、初めのアルバム
「Version Galore」でトースティングを付けた
のはロックステディの曲だったんですね。
そうしたロックステディのスローな曲に
トースティングを付ける、間の取り方のウマさ
にはやはり秀でたものがあります。

またファーストの「Version Galore」に
無かった要素として、この75年の頃になる
と曲にダブワイズがかかるようになるんです
ね。
ダブというのは曲にエコーやリヴァーブと
いったエフェクトをかけて、元の曲を別の曲
に作り変えてしまう実験的な手法で、73年
ぐらいに初期のダブ・アルバムが一斉に発売
された事でこのルーツ・レゲエ全盛の70年代
に流行した音楽なんですね。

ダブ - Wikipedia

今回の曲を聴くとオリジナルはロックステディ
の曲のようですが曲にエコーなどのエフェクト
が施されており、ちょっとダブワイズした曲
に編集されているんですね。
70年代半ば以降はディージェイもこうした
ダブワイズされた曲にトースティングを付ける
事を要求されるようになり、より高度なトース
ティング技術が必要になって来ます。
ただそうした要求にもU-Royはサラリと応えて
おり、シッカリした実力を証明しています。

意外と難しい事をサラリとやっているのが
このディージェイの世界で、そのあたりも
このレゲエのディージェイの面白さなんです
ね。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Natty Don't Fear - Soul Rebel - U-Roy Heartland Reggae 1978



○アーティスト: U-Roy
○アルバム: Dread In A Babylon
○レーベル: Front Line
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1975

○U-Roy「Dread In A Babylon」曲目
1. Runaway Girl
2. Chalice In The Palace
3. I Can't Love Another
4. Dreadlocks Dread
5. The Great Psalms
6. Natty Don't Fear
7. African Message
8. Silver Bird
9. Listen To The Teacher
10. Trench Town Rock
●今までアップしたU-Roy関連の記事
〇U Roy & Friends「With A Flick Of My Musical Wrist: Jamaican Deejay Music 1970-1973」
〇U Roy「30 Massive Shots From Treasure Isle」
〇U Roy「Hold On Rasta」
〇U Roy「I Am The Originator」
〇U Roy「Jah Son Of Africa」
〇U Roy「Old School / New Rules」
〇U Roy「Rasta Ambassador」
〇U Roy「Smile A While」
〇U Roy「True Born African」
〇U Roy「Version Galore」
〇Various「When Jah Shall Come」
〇Niney The Observer「Microphone Attack 1974-78」
〇Various「King Jammy Presents New Sounds Of Freedom」