今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「King Jammys Dancehall 2: Digital Roots &
Hard Dancehall 1984-1991」です。

King Jammy(Prince Jammy)はレゲエの歴史
の中で、King Tubbyと並ぶ最も偉大な
プロデューサーであり、ミキサーである人
です。

70年代からKing Tubbyのスタジオ
King Tubby'sでミキサーとしてPrince Jammy
という名前で活動を始めた彼は、そこで
多くのダブや楽曲のミックスなどを手掛け
ます。
さらに80年代になると新しく起こった
ダンスホール・レゲエやダブのミックスなど
で有名なミキサーとなり、独立して自分の
スタジオJammysを構え活躍するようになるん
ですね。
そして80年代半ばにダンスホール・レゲエ
をさらに進歩させた初のデジタルのダンス
ホール・レゲエのヒット曲Wayne Smithの
「Under Me Sleng Teng」で、ジャマイカ
全土にデジタルのダンスホール・レゲエの
大ブーム「コンピューター・ライズド」を
起こすんですね。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng (1985)

彼はこのヒットをきっかけにそれまで
King Tubby'sのエンジニア時代から名乗って
いたPrince Jammy→King Jammyに改名して
います。

ジャマイカの音楽界をそれまでの生演奏から
コンピューターを使った「打ち込み」の世界
に変えたのが、このKing Jammyという人なん
ですね。

King Jammy (キング・ジャミー)

今回のアルバムは2017年に日本の
Dub Store Recordsからリリースされた、その
King JammyのレーベルKing Jammysから
リリースされたデジタルのダンスホールの
音源を集めたコンピュレーション・アルバム
です。
「King Jammys Dancehall 2」となっている
ように、2011年にリリースされたKing
Jammysのデジタル・ダンスホールの音源を
集めたCD2枚組のコンピュレーション
「King Jammys Dancehall 1985-1989 Part 1」
の第2集として発売されたのが今回のアルバム
です。

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Various ‎– Jammys - King Jammys Dancehall 1985-1989 Part 1 (2011)

副題に「Digital Roots & Hard Dancehall
1984-1991」となっているように、84年
から91年までの、デジタルでも比較的
ルーツ・レゲエ寄りのサウンドとアーティスト
の曲が集められているようです。
ジャケットになっているAdmiral Tibetや
Dennis Brown、Cornell Campbell、Wailing
Soulsなどの曲が収められています。
付いていた帯には

「70年代ルーツの伝統を継承した80年代
デジタル・ルーツ・スタイル!
デニス・ブラウン、コーネル・キャンベル、
ホレス・アンディなどヴェテラン・アーティ
スト達がジャミーズに残したデジタル・
ルーツ・決定盤!」

という文字が書かれています。

ちなみにこのシリーズは3集と4集も、
2017年4月14日に発売されました。

全20曲で収録時間は68分。
1~15曲目まではDennis Brownをはじめ
とする歌手の歌、残りの5曲はそうした歌
のヴァージョン(ダブ)が収められています。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

Produced by Lloyd James
Recorded in Kingston, Jamaica

という記述があります。

プロデュースのLloyd Jamesは、King Jammy
の本名です。

収められている歌手はDennis Brown、Cornell
Campbell、Admiral Tibet、Wailing Souls、
Tinga Stewart、Pad Anthony、Wackad、
Al Campbell、Junior Delgado、Junior Murvin、
Prince Junior、Horace Andy、Half Pintと
いった人達です。
Dennis BrownやCornell Campbell、Wailing
Souls、Junior Murvin、Junior Delgado、
Horace Andyなどはルーツ・レゲエの時代から
活躍したベテランのシンガー。

アーティスト特集 Dennis Brown (デニス・ブラウン)
アーティスト特集 Cornell Campbell (コーネル・キャンベル)
アーティスト特集 Wailing Souls (ウェイリング・ソウルズ)
アーティスト特集 Junior Murvin (ジュニア・マーヴィン)
アーティスト特集 Junior Delgado (ジュニア・デルゲイド)
アーティスト特集 Horace Andy (ホレス・アンディ)

Admiral TibetやTinga Stewart、Pad Anthony、
Al Campbell、Prince Junior、Half Pintは
このダンスホール期に活躍したシンガーです。

アーティスト特集 Admiral Tibet (アドミラル・チベット)
Tinga Stewart - Wikipedia
Pad Anthony - Wikipedia
Al Campbell - Wikipedia
アーティスト特集 Half Pint (ハーフ・パイント)

Wackadは今回初めて知ったシンガー?で、
シングルを2枚ぐらい出している人のよう
です。

さて今回のアルバムですが、このデジタルの
ダンホール・レゲエのブームの中のルーツ系
のシンガーの活躍ぶりが解るアルバムで、
内容は悪くないと思います。
このダンスホール・レゲエの時代になると
それまでのルーツ・レゲエの時代とは
変わって、コンシャス(真面目)なリリック
よりスラックネス(下ネタ系)が主流になって
行くんですが、それでもコンシャスな思考も
根強く残り続けるんですね。
今回のアルバムなどを見ると、そうした比較的
コンシャスなアーティストを集めたアルバム
のようです。
このダンスホールの時代に活躍したAdmiral
Tibetのようにコンシャスなリリックを持った
アーティストは、それはそれで価値があった
んだと思います。

またこのレゲエという音楽にとって、この
デジタルのダンスホールという音楽の誕生は
ものすごく大きな「転機」だったんだと思い
ます。

もともと80年代の前半のアーリー・ダンス
ホールの時代には、King Jammy(当時はPrince
Jammy)や弟分のScientistなどは自身の
コンピューター・ゲームを題材にしたダブ・
アルバムを制作していて、シンセなどを使った
「トビ音」が多くの聴衆にウケるという事を
知っていたんですね。

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Scientist ‎– Scientist Meets The Space Invaders (1981)

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Prince Jammy ‎– Prince Jammy Destroys The Invaders... (1982)

ただこの時点ではすべての音楽をコンピュー
ターを利用した「デジタル音」で作るという
事はしていなかったんですね。。
ただ70年代後半ぐらいからドイツの
Kraftwerk(クラフトワーク)や日本のYellow
Magic Orchestraなどテクノ系の音楽が
世界的に流行り始めていたので、そういう
知識はすでにあったんじゃないかと思われ
ます。

クラフトワーク - Wikipedia
イエロー・マジック・オーケストラ - Wikipedia

そうしたジャマイカの音楽を劇的に変える
きっかけを作ったのはWayne Smithだったん
ですね。
彼の友人であるミュージシャンのNoel Davey
がカシオのキーボード「カシオ・トーン」を
買った事がきっかけで、そのキーボードで
遊ぶうちにあるフレーズを見つけるんですね。
それがあの「Under Me Sleng Teng」の元と
なったリズムで、彼らはさっそくPrince Jammy
の元にそのリズムを持ちこんで、レコーディ
ングをするんですね。
そしてその曲がジャマイカ初のデジタル・
レゲエの大ヒットになったという訳です。

'Under mi Sleng Teng'でレゲエ史に革命を起こしたウェイン・スミス

そこからPrince JammyはKing Jammyとなり、
次々にコンピューターを使ったデジタル・
レゲエの世界を築き上げて行くんですね。

今では当たり前になったDTMの世界が、
この80年代ぐらいから当たり前になって
行くんですね。
こうした変化は音楽だけに限らず、事務処理
や印刷(DTP)など、パソコンが人々の
暮らしの中に入り込んで行ったのが、この
80年代ぐらいからなんですね。
こうした事の功罪はいろいろあると思います
が、コンピューター(パソコン)を使う事で
人々の生活が効率化されて行った事は事実
です。

実際にジャマイカの音楽界でも、おそらく
多くのミュージシャンの失業者が居たと思い
ますが、反面音楽制作が容易になり、多くの
アルバムが量産されるようになって行くん
ですね。

ただそうした変化の中でも、また変わらない
ものもあるんですね。
今回のアルバムではそうした「ルーツの魂」
を持つアーティストが収められていて、
そうしたアーティストがこのデジタルの時代
をどう乗り越えて行ったのかに、スポットが
当てられています。
このデジタル・ダンスホールの時代に活躍
したAdmiral Tibetなどに顕著ですが、彼ら
はこうしたデジタルの時代になっても魂を
失わず、デジタルのリズムに乗りながらも
コンシャスなテーマを歌い続けています。
そうした頑ななほどに頑固なアーティスト
が居るのも、またレゲエという音楽らしい
ところなんですね。

また最後に5曲ヴァージョン(ダブ)が収め
られていますが、ダブ好きにとっては注目
です。
この後の90年代になるとジャマイカでは
あまりダブという実験的な音楽は作られなく
なりますが、この時代にはまだ作られていた
んですね。
こうしたダブを聴くと骨組みがよく解り、
元の曲の面白さがよく解るんですね。
King Jammyという人の音のセンスの良さが
解るので、ぜひ注目して聴いてもらいたい
と思います。

1曲目はDennis Brownの「History」です。
打ち込みのリズムにシンセの浮遊感のある
メロディ、シッカリと歌い込むDennis Brown
のヴォーカルが魅力的な曲です。
こうした初期のデジタルではどうしても音の
浅さがあったので、歌手の技量がより求め
られるようになります。
そうした要求に応えられるヴォーカリスト
が、このDennis Brownなんですね。

Dennis Brown - History


2曲目はCornell Campbellの「Nothing Don't
Come Easy」です。
60年代後半のロックステディの時代から
活躍するCornell Campbellですが、得意の
ファルセットを駆使してこのデジタルの時代
にもうまく対応しています。
陰影のあるシンセのメロディが、グッと来る
曲です。

CORNELL CAMPBELL - NOTHING DON'T COME EASY


3曲目はAdmiral Tibetの「Victim Of Babylon」
です。
デジタルらしい軽快なリズムにAdmiral Tibet
らしい歯切れの良いヴォーカルが心地良い、
まさにデジタル・ルーツと言えるナンバー
です。

Admiral Tibet - Victim Of Babylon


4曲目はWailing Soulsの「Move On」です。
デジタル期にも人気を博した名コーラス・
グループの、ツボを心得たコーラス・ワーク
が魅力的なナンバーです。

5曲目はTinga Stewartの「No Drugs」です。
こちらはTinga Stewartのヴォーカルと女性
コーラスが、デジタルにうまくメリハリを
付けた1曲。

6曲目はPad Anthonyの「Dangerous System」
です。
かにもデジタルらしいノリのバックに、
メリハリの効いたPad Anthonyのヴォーカル
が魅力的な曲です。

7曲目はWackadの「Cry For The Youths」
です。
書いたようにシングルを2枚ぐらいリリース
しているWackadですが、デジタルの打ち込み
とピアノをバックに、魅力的なヴォーカルと
コーラス・ワークを聴かせています。

Wackad - Cry For The Youths [Jammy's Records 1988]


8曲目はDennis Brownの「Tracks Of Life」
です。
打ち込みのリズムにシンセのメロディ、
Dennis Brownらしい情感あふれるヴォーカル
が魅力の曲です。

9曲目はAl Campbellの「Don't Take Your Gun
To Town」です。
デジタルの心地良いリズムにAl Campbellの
ハリのあるヴォーカルが気持ちの良い曲です。

10曲目はPad Anthonyの「Gotta Be Strong」
です。
デジタルなリズムにキャッチーなシンセの
メロディが良い味を出している曲です。
よく徹るPad Anthonyのヴォーカルも良い
です。

11曲目はJunior Delgadoの「Run Come」
です。
リディムはAnthony Red Roseの「Tempo」。
この時代の大ヒットリディムですが、Junior
Delgadoのセクシーな歌声がとても魅力的な
1曲。

Junior Delgado - Run Come


リズム特集 Tempo (テンポ)

12曲目はJunior Murvinの「Cool Down
The Heat」です。
リディムはNitty Grittyの「Run Down The
World」。
ファルセットを得意とするベテランのJunior
Murvinですがいきなり全開のファルセットに
リリカルでオリエンタルなシンセのメロディ
が絡み合いシビレる1曲。

JUNIOR MURVIN - COOL DOWN THE HEAT


13曲目はPrince Juniorの「Crucial Boy」
です。
こちらはデジタルなリズムにリリカルな
ピアノ、それをバックにちょっとスウィート
なPrince Juniorのヴォーカルが魅力的な曲
です。

Prince Junior - Crucial Boy


14曲目はHorace Andyの「Love Light Of
Mine」です。
リディムはChuck Turnerの「We Rule」。
独特のファルセットが特徴的なベテラン・
シンガーの、デジタルなリズムに乗せた
余裕のある歌いぶりが印象的な曲です。

15曲目はHalf Pintの「One Big Ghetto」
です。
こちらはデジタルな打ち込みに、ホーン・
セクションが入った華やかな曲です。
この時代の人気シンガーらしい、歌い回し
のウマさが際立つ1曲。

16~20曲目までの5曲は、それまでの曲
のヴァージョン(ダブ)が収められています。

16曲目はKing Jammyの「Nothing Don't Come
Easy Version」です。
2曲目Cornell Campbellの「Nothing Don't
Come Easy」のヴァージョン(ダブ)です。
歌のない分曲の作りの見事さがよく解ります。

Version (CORNELL CAMPBELL ~ Nothing Don't Come Easy, B Side)


17曲目はKing Jammyの「Victim Of Babylon
Version」です。
3曲目Admiral Tibetの「Victim Of Babylon」
のヴァージョン(ダブ)です。
歌のない分打ち込みのリズムの「作り」が、
よく解る印象。

18曲目はKing Jammyの「Don't Take Your
Gun To Town Version」です。
9曲目Al Campbellの「Don't Take Your Gun
To Town」のヴァージョン(ダブ)です。
こちらはベースの重低音が印象的。

19曲目はKing Jammyの「Gotta Be Strong
Version」です。
10曲目はPad Anthonyの「Gotta Be Strong」
のヴァージョン(ダブ)です。
こちらもベースの重低音が聴いたダブ。

20曲目はPrince Jammyの「Crucial Boy
Version」です。
13曲目Prince Juniorの「Crucial Boy」
のヴァージョン(ダブ)です。
名義がまだPrince Jammyとなっている事から
おそらく改名前、84年か85年ぐらいに
作られた曲ではないかと思われます。
こちらはリリカルなピアノと重低音の効いた
ベースが印象的。

ざっと追いかけて来ましたが、この80年代
後半のデジタル・ダンスホールの時代までは
ジャマイカの音楽は様々な形に変化し、とても
面白い時代が続きます。
このデジタルのダンスホール・レゲエという
音楽が、引き起こした功罪はいろいろとある
と思いますが、そうした飽くなき探求心が、
このジャマイカの音楽を進歩させ続けた事は
間違いがありません。

また70年代に誕生したルーツ・レゲエの
コンシャスな血脈も、細々ながらも今日に
至るまで残り続けるんですね。
今回のアルバムはそうしたデジタル・ルーツ
に光を当てた1枚で、なかなか面白いアルバム
だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: King Jammys Dancehall 2: Digital Roots & Hard Dancehall 1984-1991
○レーベル: Dub Store Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2017

○Various「King Jammys Dancehall 2: Digital Roots & Hard Dancehall 1984-1991」曲目
1. History - Dennis Brown
2. Nothing Don't Come Easy - Cornell Campbell
3. Victim Of Babylon - Admiral Tibet
4. Move On - Wailing Souls
5. No Drugs - Tinga Stewart
6. Dangerous System - Pad Anthony
7. Cry For The Youths - Wackad
8. Tracks Of Life - Dennis Brown
9. Don't Take Your Gun To Town - Al Campbell
10. Gotta Be Strong - Pad Anthony
11. Run Come - Junior Delgado
12. Cool Down The Heat - Junior Murvin
13. Crucial Boy - Prince Junior
14. Love Light Of Mine - Horace Andy
15. One Big Ghetto - Half Pint
16. Nothing Don't Come Easy Version - King Jammy
17. Victim Of Babylon Version - King Jammy
18. Don't Take Your Gun To Town Version - King Jammy
19. Gotta Be Strong Version - King Jammy
20. Crucial Boy Version - Prince Jammy