今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Tree Of Satta Volume 1: The Abyssinians & Friends」です。

まずは今回のアルバムに深い関わりのある
コーラス・グループThe Abyssiniansについて
説明しておきます。

Abyssiniansはロックステディの時代に
「Love Me Forever」のヒット曲を持つ
Carlton & The ShoesのManning3兄弟のうち
のコーラスを担当していた(The Shoesの方)
のDonald ManningとLinford Manningの2人と、
ソロ・シンガーだったBernard Collinsの3人
で結成されたグループです。

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Carlton And The Shoes - Love Me Forever

おもに70年代のルーツ・レゲエの時代に
活躍したグループで、ディープなルーツの
名曲「Satta Massagana」や「Declaration
Of Rights」などのヒット曲で知られる名
コーラス・グループです。

アーティスト特集 Abyssinians (アビシニアンズ)

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The Abyssinians ‎– Satta Massagana (1976)

今回のアルバムは2004年にUKのレゲエ・
リイシュー・レーベルBlood & Fireから
リリースされたThe Abyssiniansの名曲として
知られる「Satta Massagana」を様々な
アーティストが歌ったワン・ウェイ・アルバム
です。

レゲエではこうした同じ曲を歌った多くの
ヴァージョンをまとめたワン・ウェイ・
アルバムがよく作られるんですね。
今回はルーツ期のディープなリイシューを
得意としたBlood & Fireレーベルらしい、
オリジナルのThe Abyssiniansをはじめ、
ディージェイのBig YouthやPrince Far I、
さらにはErnest RanglinやTommy McCook、
Dean Fraserなどのインスト・ナンバー、
ルーツより後の世代のLucianoやCapleton、
Anthony Bなど、ヴァラエティに富んだ非常に
濃い内容のアルバムになっています。

手に入れたのはそのBlood & Fireからリリース
されたCDでした。

全20曲で収録時間は約72分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Singers & Players:
original tracks, recorded at Studio One, March 1969:
Vocals: Bernard Collins, Donald Mannings, Linford Mannings
Bass: Leroy Sibbles
Drums: Fil Callendar
Guitar: Eric Frater
Keyboards: Richard Ace
Alto Sax: Headley Bennett
Trombone: Vin Gordon

overdubs:
Keyboards: Robbie Lyn, Ibo Cooper
Percussion: Bongo Herman

Produced by Bernard Collins

Design by Julian House @ Intoro
Photography by Dennis Morris, Seb Carayol, Nicky Birch,
Colin Bird, David Corio, Simone Hay, Steve Barrow

となっています。

「Singers & Players」としてThe Abyssinians
のオリジナル・ヴァージョンの録音メンバー
が記されています。
それによると録音は1969年5月にStudio
Oneで行われ、ヴォーカルはリード・ヴォーカル
にBernard Collins、コーラスにDonaldと
LinfordのMannings兄弟、ベースはThe Heptones
のリード・ヴォーカルとしても知られるLeroy
Sibbles、ドラムはFil Callendar、ギターは
Eric Frater、キーボードはRichard Ace、
アルト・サックスはDaedley Headley Bennett、
トロンボーンはVin Gordonという布陣です。

また「overdubs」として、キーボードの
Robbie LynとIbo Cooper、パーカッションに
Bongo Hermanの名前があります。
2曲目Bongo Hermanの「Thunderstorm」など、
何曲かはオリジナル曲にオーヴァー・ダブの
処理がされた曲があるようです。

他にも曲が多く収められていますが、それ
以外の曲は記述が見つかりませんでした。

プロデュースはThe AbyssiniansのBernard
Collinsとなっています。
おそらく今回のアルバムの曲の選曲をした
のが、彼という事ではないかと思います。

ジャケット・デザインはJulian House @ Intoro
となっています。

今回のアルバムに収められているアーティスト
はThe Abyssiniansをはじめ、Bongo Herman、
Big Youth、Lloyd Charmers、Prince Far I、
Bernard Collins、Dillinger、Tommy McCook、
U-Roy、Luciano、Natural Black、Yami Bolo、
Capleton、Tony Tuff、Ernest Ranglin、
Jah Mali、Anthony B、Dean Fraserといった
人達で、インストものを含めて新旧様々な
アーティストの作品が収められています。

さて今回のアルバムですが、この「Satta
Massa Ganna」という曲はルーツ・レゲエと
いう音楽を代表するような1曲で、その
支柱となったラスタファリズムという思想
をもっともよく表した歌詞で多くのアーティ
ストに愛された曲なんですね。
「遠く離れたところに約束の地がある。そこ
には王の中の王が居て私達を導いてくれる。」

アビシニアンズ(Abyssinians) - Satta Massa Ganna - リリック

そう歌われる歌詞には、アフリカから奴隷と
して連れて来られた私たち(ラスタファリアン)
が貧しく苦渋の暮らしをしているが、いつか
は解放され母なるアフリカの大地に帰るという
「アフリカ回帰思想」が歌われています。
この当時のジャマイカのレゲエ・ミュージシャン
に多かったラスタファリアンにとって、それは
魂の解放の歌だったんですね。
そのためこの時代の多くのミュージシャン
が、この「Satta Massa Ganna」という曲を
カヴァーしているんですね。

今回のアルバムに収められているだけでも
20通りの「Satta Massa Ganna」が収め
られていますが、その他にもAugustus Pablo
やThird World、I-Roy、Prince Busterなど、
様々な「Satta Massa Ganna」があるんです
ね。

実は個人でもそうしたアーティストを集めた
「Satta Massa Ganna」のワン・ウェイ・
アルバムを作ってみた事があります。
個人的にもこの曲は好きな曲だったので、
再びレゲエのアルバムを集め始めた時に
この曲の入っているアルバムを中心に
集めたりしてみた事もあったんですね。

ちなみに私のお気に入りの「Satta Massa
Ganna」は、オリジナルでもアルト・サックス
を吹いているDaedley Headley Bennett
のソロ・アルバム「35 Years From Alpha」
に入っている「Another Satta」です。
(今回のアルバムには入っていません。)

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Deadly Headley ‎– 35 Years From Alpha (1982)

話を戻しますが、そうした自分が作った
「Satta Massa Ganna集」と較べると、今回の
アルバムに収められている「Satta Massa
Ganna」は全体にヘヴィーな印象がしました。
これはおそらく曲を選んだと思われる
プロデューサーのBernard Collinsの好みが
反映したものと思われます。
今回のアルバムを1枚聴き終わると、
ズッシリとした疲労感を感じるほどかなり
ヘヴィーなんですね(笑)。
その辺は人によってかなり好き嫌いが分か
れるアルバムという気がしました。

リズム特集 Satta Massa Ganna (サタ・マサ・ガナ)

1曲目はThe Abyssiniansの「Satta Massa
Gana」です。
オリジナルの「Satta Massa Ganna」です。
やはりコーラス・ワークの素晴らしさと、
Daedley Headley BennettやVin Gordonの
ホーンの活躍が素晴らしい名曲です。

The Abyssinians Satta Massagana


2曲目はBongo Hermanの「Thunderstorm」
です。
オリジナルにBongo Hermanのパーカッション
をオーヴァー・ダブした曲です。
リズムが強調され、より激しい曲になって
います。

The Abyssinians - Thunder Storm (Clinch)


3曲目はThe Abyssiniansの「Mabrak」です。
こちらは会話のようなトースティングが
入った「Satta Massa Gana」です。

4曲目はBig Youthの「I Pray Thee」です。
おそらく「Satta Massa Gana」のカヴァーと
しては、もっとも知られている曲のひとつ
だと思います。
Big Youthらしい自在のトースティングが
魅力。

Big Youth - I Pray Thee


5曲目はLloyd Charmersの「Charming
Version」です。
こちらはオルガンによるインスト・ヴァー
ジョンです。

6曲目はPrince Far Iの「Wisdom」です。
「ヴォイス・オブ・サンダー」と呼ばれた
ダミ声ディージェイの「Satta Massa Gana」
です。

7曲目はBernard Collinsの「Satta Me No
Born Yah」です。
こちらはBernard Collinsのソロのセルフ・
カヴァーです。
コーラスがなく、ちょっとムーディーに歌い
こなしています。

8曲目はDillingerの「I Saw Esau」です。
こちらはDillingerらしくスタイリッシュに
トースティングしています。

9曲目はTommy McCookの「Mandela」です。
こちらはTommy McCookによるインスト・
ヴァージョンです。

Tommy McCook - Mandella


10曲目はBernard Collinsの「Satta Don」
です。
こちらはBernard Collinsによる別のセルフ・
カヴァーです。
ダブワイズの入った「Satta Massa Gana」
です。

11曲目はU-Royの「Blessed」です。
ベテラン・ディージェイによるカヴァー
です。
早口ディージェイ風のトースティングが
楽しい1曲。

12曲目はLucianoの「Man Of Jah Order」
です。
このあたりからルーツ以降のカヴァーが入り
ますが、心地良い歌声の1曲。

13曲目はNatural Blackの「It's A Joy」
です。
こちらは男臭さを強調した「Satta Massa
Gana」です。
ルーツとは時代の変化を感じます。

NATURAL BLACK ITS A JOY satta riddim


14曲目はYami Boloの「Conspiracy」です。
パーカッションを強調した演奏に、心地良い
歌声が映えます。

15曲目はCapletonの「Dislocate」です。
こちらは感情を乗せたCapletonらしいトース
ティングの「Satta Massa Gana」です。

Capleton - Dislocate (Satta Riddim)


16曲目はTony Tuffの「How Long」です。
こちらはTony Tuffらしい表現力豊かな
「Satta Massa Gana」です。

17曲目はErnest Ranglinの「Ranglin Satta」
です。
こちらはErnest RanglinらしいJazzyなギター
によるカヴァー。
濃い曲が続くだけにこうしたインストは
息抜きの清涼感があります(笑)。

Ernest Ranglin-Ranglin Satta (Jamaican Serenades Vol.1)


18曲目はJah Maliの「Corner Stone」です。
こちらは感情を込めた熱唱の「Satta Massa
Gana」です。

19曲目はAnthony Bの「Good And Bad」
です。
人気ディージェイの勢いのあるトース
ティングの「Satta Massa Gana」です。

20曲目はDean Fraserの「Dahina Dimps」
です。
最後は80年代に活躍したサックス奏者の
インスト・ナンバーでシメています。

ざっと追いかけて来ましたが、やはりかなり
濃い内容でヘヴィーです。
ただ同じ曲を歌っているからこそそれぞれの
歌手の個性が際立つ面もあり、そのあたりが
こうしたコンピの面白さかもしれません。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Tree Of Satta Volume 1: The Abyssinians & Friends
○レーベル: Blood & Fire
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2004

○Various「Tree Of Satta Volume 1: The Abyssinians & Friends」曲目
1. Satta Massa Gana - The Abyssinians
2. Thunderstorm - Bongo Herman
3. Mabrak - The Abyssinians
4. I Pray Thee - Big Youth
5. Charming Version - Lloyd Charmers
6. Wisdom - Prince Far I
7. Satta Me No Born Yah - Bernard Collins
8. I Saw Esau - Dillinger
9. Mandela - Tommy McCook
10. Satta Don - Bernard Collins
11. Blessed - U-Roy
12. Man Of Jah Order - Luciano
13. It's A Joy - Natural Black
14. Conspiracy - Yami Bolo
15. Dislocate - Capleton
16. How Long - Tony Tuff
17. Ranglin Satta - Ernest Ranglin
18. Corner Stone - Jah Mali
19. Good And Bad - Anthony B
20. Dahina Dimps - Dean Fraser