今回はLinval Thompsonのアルバム

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「Rocking Vibration / Love Is The Question」です。

Linval Thompsonは70年代から80年代の
初めにシンガーとして活躍した人で、また
80年代頃からはプロデューサーとして
ダンスホール・レゲエの多くのアーティスト
をプロデュースした事でも知られる人です。
Scientistの「漫画ジャケ」シリーズの
プロデュースなど、アーリー・ダンスホール
を盛り上げたのがこのLinval Thompsonだった
んですね。

アーティスト特集 Linval Thompson (リンヴァル・トンプソン)

今回のアルバムは1978年にUKのBurning
Soundsからリリースされた、Linval Thompson
の2枚のアルバム「Rocking Vibration」と
「Love Is The Question」を1枚にまとめた
2in1のアルバムです。

76年に「Don't Cut Off Your Dreadlocks」
でアルバム・デビューしたLinval Thompson
は、この78年にこの2枚のアルバムを含めて
4枚のアルバムをリリースしています。
(そのうちの1枚はダブ・アルバム。)

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Linval Thompson ‎– I Love Marijuana (1978)

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Linval Thompson ‎– Negrea Love Dub (1978)

この翌年の79年にはさらに3枚のソロ・
アルバムをリリースしており、彼が歌手と
してもっとも旬だったのがこの2年間ぐらい
なんですね。

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Linval Thompson ‎– Six Babylon (1979)

注目すべきはこの時代がまだルーツ・レゲエ
の時代だったにもかかわらず、彼の音楽から
はすでにダンスホール・レゲエの匂いが
プンプンと漂って来る事です。
80年代に入るとVolcanoレーベルのHenry
'Junjo' Lawesとともに、アーリー・ダンス
ホール・レゲエをけん引して行く事になる
Linval Thompsonですが、この歌手の時代から
すでにその道筋はかなりはっきりと見えて
いたのかもしれません。
彼の作る音楽にはルーツ・レゲエの時代の
人が持っていた、政治性があまり感じられ
ないんですね。

全19曲で収録時間は約70分。
1~10曲目まではアルバム「Rocking
Vibration」からの曲が10曲、残りの
11~19曲目まではアルバム「Love Is
The Question」の曲が9曲収められています。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

● Rocking Vibration

All tracks written and produced by Linval Thompson

Bass: R. Shakespeare
Guitar: Chinna
Drums: Sly Dunbar
Piano: Ossie

Recorded at Channel One and King Tubby's Studio, Kingston, Jamaica
Sleeve Illustration / Design: Earl Neish

● Love Is The Question

Produced by Linval Thompson

Recorded at Channel One Studios, Jamaica
Sleeve Illustration / Design: Earl Neish

となっています。

「Rocking Vibration」の方は、作曲とプロ
デュースがLinval Thompsonで、ミュージシャン
はベースにRobbie Shakespeare、ギターに
Chinna Smith、ドラムにSly Dunbar、ピアノ
にOssie Hibbertという布陣です。
録音はChannel OneとKing Tubby'sで行われて
います。

「Love Is The Question」の方は、プロ
デュースがLinval Thompsonで、録音は
Channel Oneという記述があります。

両方のジャケットともデザインとイラスト
レーションは、Earl Neishという人が担当
しています。

どちらもChannel Oneの録音なので、バックは
ほぼThe Revolutionariesと思われます。
「Love Is The Question」にはメンバーの
記載がありませんが、ネットのDiscogsには
ほぼ同じようなメンバーの記載があります。
注目はこの70年代後半に流行ったような
ホーンなども入れた重厚なサウンドではなく、
メンバー構成がドラムとベース、ギター、
キーボードと、極めてシンプルである事
です。

この後のアーリー・ダンスホールでは、あまり
ホーンなどの厚い音が好まれなかったのか、
今回のようなシンプルなメンバー構成になって
行くんですね。
このLinval Thompsonのアルバムでは、すでに
その兆候が現れています。
この後のアーリー・ダンスホールが彼の好み
が反映したのかは解りませんが、このアルバム
では彼のシンプルでソリッドなサウンドの嗜好
が見て取れます。

今回のアルバムのEarl Neishという人の
イラストにも興味深い点があります。
「Rocking Vibration」の方のイラストは、
長髪の男性に手を出して群がる人達が描かれ
ています。
これは明らかにダンスホールで歌う歌手の
姿を描いたものと思われます。
表ジャケットになっている小冊子には、この
ジャケットの写真が載っていました。
それを切り抜くとこんな感じです。

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Rocking Vibration 表ジャケ

このあたりにもダンスホールの空気が感じ
られます。

さらに問題なのが「Love Is The Question」
のジャケットです。

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Love Is The Question 表ジャケ

ジャケットに描かれているのは、2組の男女
のかなり濃厚はラヴ・シーンです。
その周りにはピンクの無数のハート…。
さらに裏ジャケになるともっと過激に…。

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Love Is The Question 裏ジャケ

これがどういうシーンなのかはさすがに
説明出来ませんが(笑)、明らかにルーツ
とはコンセプトの違うジャケットになって
います。
こうしたジャケットからもこのLinval
Thompsonが、ダンスホールの先駆け的な存在
であった事がうかがえます。
良いか悪いかは別にして、時代というのは
常に動いているものなんですね。

さて今回のアルバムですが、曲調がかなり
似ていたりとか欠点はない事もないのですが、
この時代のLinval Thompsonの活躍がよく解る
アルバムで、内容は悪くないと思います。

何よりルーツ・レゲエに代わるコンセプト
を、解る形で具現化したこの人の功績は、
認めない訳にはいきません。
明らかにこの人がアーリー・ダンスホールの
原型を作ったという痕跡が、このアルバム
には感じられるんですね。
こうした新しい音楽がジャマイカの聴衆に
認められ、アーリー・ダンスホールが誕生
したと考えられます。

「Love Is The Question」のジャケットに
見られるようなエロティシズムが登場して
来ているのも特徴的なところで、この後の
ダンスホール・レゲエでは、それまでの
ラスタファリズムによるプロテスト・ソング
の歌詞から、スラックネス(下ネタ)を中心
とした歌詞へとジャマイカの音楽は変化して
行くのですが、このアルバムにはすでにその
兆しが感じられるんですね。

まだバックのサウンドなどは隙間の詰まった
70年代のサウンドだけれど、その志向は
すでにダンスホールに向かっている。
その時代の変わり目のギャップも、今回の
アルバムの面白いところです。

良い面も悪い面も含めて、このLinval
Thompsonが次世代の音楽を作るシンガー
だった事がよく解ります。

1~10曲目まではアルバム「Rocking
Vibration」からの曲が収められています。

1曲目は表題曲ともいえる「Rocking
Vibration Got Together」です。
同年に出たダブアルバム「Negrea Love Dub」
の、表題曲のダブにも使われたリズムです。
浮遊感のあるシンセのリズムに乗せた、
Linval Thompsonのヴォーカルがシビレる曲
です。
ちょっと湿った空気感に、ダンスホールの
匂いがします。

LINVAL THOMPSON ~ Rocking Vibration


2曲目は「Black Woman」です。
刻むようなギターのメロディに、切々と
歌うLinval Thompsonのヴォーカルが魅力的
な曲です。

3曲目は「Freedom Fighter」です。
漂うようなし背のイントロから、ズシッと
来るベースを軸としたメロディ、甘い香り
のLinval Thompsonのヴォーカルという
組み合わせの曲です。

Linval Thompson - Freedom Fighters


4曲目は「I Got To Have You」です。
ベースを軸とした演奏に、Linval Thompson
らしい高音にノビのあるヴォーカルが心地
良い曲です。

5曲目は「Superstar」です。
こちらは「ジャー賛歌」か?
ミリタント・ビートの明るいリズムに、
Linval Thompsonの心地良いヴォーカルが
とても魅力的な曲です。

Linval Thompson - Superstar


6曲目は「More Power」です。
ひとつひとつ区切るようなピアノのメロディ
に、語りかけるようなLinval Thompsonの
ヴォーカルがグッと来る1曲。

7曲目は「No More Problems」です。
表情のあるピアノのメロディに、物語を語る
ようなLinval Thompsonのヴォーカル。
ズシッと来るベースも効いた曲です。

8曲目は「No Confusion」です。
ピアノとギターのメロディにズシッと来る
ベースのリズム、Linval Thompsonのよく
通るヴォーカルが心地良い曲です。

Linval Thompson - No Confusion


9曲目は「Dangerous Position」です。
こちらも重いベースを軸としたバックの演奏
に、Linval Thompsonのエコーの効いた
湿り気のあるシリアスなヴォーカルが魅力的
な曲です。

10曲目は「Rasta Children」です。
こちらはピアノのへげしいリズムに乗せた
曲です。

11~19曲目まではアルバム「Love Is The
Question」の曲が収められています。

11曲目は表題曲の「Love Is The Question」
です。
ベースのズシッとしたリズムを軸に、ギター
やシンセが彩りを添えた演奏です。
夜の濃厚な空気感を感じる1曲。

Linval Thompson - Love Is The Question 1978


12曲目は「My Girl」です。
ギターのメロディにベースのリズム、甘い
Linval Thompsonのヴォーカルという曲です。

13曲目は「Africa Is For Blackman」です。
野太いベースに心地良いリズム、ピアノの
メロディ、キリっとしたLinval Thompsonの
ヴォーカルが素晴らしい曲です。

Linval Thompson - Africa is for blackman


14曲目は「Dreader Than Dread」です。
ズンと来るベースを軸に、Linval Thompson
の独特の空気感のあるヴォーカルが冴える曲
です。

15曲目は「I The Cheater」です。
こちらもズシッと来るベースのメロディに、
甘さのあるLinval Thompsonのヴォーカルが
魅力の曲です。

Linval Thompson - I The Controller 1978


16曲目は「Love For Peace」です。
こちらは浮遊感のあるシンセのメロディに
乗せた曲です。

17曲目は「My Love」です。
リディムはBlack Uhuruの「I Love King
Selassie」。
こちらもシンセのメロディに心地良い
パーカッションが効いた曲です。

Linval Thompson - My Love 1978


18曲目は「Girl You Are A Cheater」です。
明るいオルガンのメロディに、スウィートな
Linval Thompsonのヴォーカルが冴える曲です。

19曲目は「Natty Is A Righteous Man」
です。
オルガンとピアノのメロディに、Linval
Thompsonのエコーの効いたヴォーカルが
魅力的な曲です。

ざっと追いかけて来ましたが、まだこの時代
は「ルーツのしっぽ」を残しているものの、
徐々にダンスホールへと移り変わって行く
空気が感じられます。

ルーツの時代によく使われた「Love」という
言葉は、「I Love Jah」など神(ジャー)への
愛という意味で使われる事が多かったのです
が、今回のアルバムでは個人的な恋愛感情の
愛という意味で使われているようです。
そうした変化がこの70年代後半から、現れ
始めるんですね。
そしてレゲエという音楽は、ダンスホールと
いう「現場主義」の音楽に転換して行きます。

今回のアルバムはそうした転換期のアルバム
として、なかなか印象的なアルバムだと思い
ます。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Linval Thompson
○アルバム: Rocking Vibration / Love Is The Question
○レーベル: Burning Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1978

○Linval Thompson「Rocking Vibration / Love Is The Question」曲目
● Rocking Vibration
1. Rocking Vibration Got Together
2. Black Woman
3. Freedom Fighter
4. I Got To Have You
5. Superstar
6. More Power
7. No More Problems
8. No Confusion
9. Dangerous Position
10. Rasta Children
● Love Is The Question
11. Love Is The Question
12. My Girl
13. Africa Is For Blackman
14. Dreader Than Dread
15. I The Cheater
16. Love For Peace
17. My Love
18. Girl You Are A Cheater
19. Natty Is A Righteous Man