今回はLinval Thompsonのアルバム

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「I Love Marijuana」です。

Linval Thompsonは70年代から80年代の
初めにシンガーとして活躍した人で、また
80年代頃からはプロデューサーとして
ダンスホール・レゲエの多くのアーティスト
をプロデュースした事でも知られる人です。
Scientistの「漫画ジャケ」シリーズの
プロデュースなど、アーリー・ダンスホール
を盛り上げたのがこのLinval Thompsonだった
んですね。

アーティスト特集 Linval Thompson (リンヴァル・トンプソン)

今回のアルバムは1978年にUKのTrojan
Recordsからリリースされた彼のソロ・
アルバムです。
タイトル曲の「I Love Marijuana」や「Big
Big Girl」など、彼の当時の代表曲が収め
られたアルバムになっています。

なお今回のアルバムにはいわゆるガンジャ・
アンセム(マリファナ賛歌)がタイトルに
なっていますが、私自身はマリファナ等の
薬物を肯定する立場には立っていません。
むしろこうした吸うと幻覚を見るような薬物
は、脳に悪影響があり、さらなる重度の薬物
に依存する引き金になると考えており、
否定的な立場です。
こうした曲を聴く事自体は吸う事とは別の事
ですが、薬物を使う事は人生を壊す事に繋がり
ます。
絶対にマリファナ等の薬物は使用しないで
ください。

たとえマリファナでも使えば人生が終わってしまう

話を戻しますが、手に入れたのはTrojan
RecordsからリリースされたCDの中古盤
でした。

ちなみにこのアルバムは同78年に発売
された彼のダブ・アルバム「Negrea Love
Dub」の、元になったアルバムのようです。

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Linval Thompson ‎– Negrea Love Dub (1978)

全11曲で収録時間は約37分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Many thanks to the following musicians:
Bass: Aston 'Family Man' Barrett, Robert Shakespeare
Drums: Hoss Mouth, Sly Dunbar
Guitar: Errol 'Chinna' Smith
Organ: Ossie
Piano: Ansel Collins

Arranged & produced by Linval Thompson
Recorded at Channel One Studio
Remixed at King Tubby's Studio, Kingston, Jamaica

となっています。

バックのミュージシャンは、ベースにAston
'Family ManとBarrett, Robert Shakespeare、
ドラムにHoss MouthとSly Dunbar、ギターに
Errol 'Chinna' Smith、オルガンにOssie、
ピアノにAnsel Collinsという布陣です。
ドラムのHoss MouthはLeroy 'Horsemouth'
Wallace、ギターのErrol 'Chinna' Smithは
Earl 'Chinna' Smith、オルガンのOssieは
Ossie Hibbertだと思われます。

アレンジとプロデュースはLinval Thompson
で、録音はChannel Oneで行われ、リミックス
はKing Tubby'sで行われています。
もうこの時点でLinval Thompsonは、アレンジ
やプロデュースの才能を発揮しているんです
ね。

表ジャケは2つ折りになっていて、その内側
にはJah Laruという人の短い英文の紹介文
(ライナー・ノーツ)が書かれています。

印象的なジャケット・デザインですが、
制作者の記述はありません。

さて今回のアルバムですが、この70年代
後期になって来るとレゲエという音楽も
徐々に変わる兆候が見え始めます。

70年代という時代はルーツ・レゲエが
真っ盛りな時代で、社会に他する不満を
持った黒人層のプロテストとジャマイカ特有
の宗教ラスタファリズムが一体となった音楽
が主流だった時代だったんですね。
その代表格があのBob Marleyだったと言え
ます。
(当時はまだルーツ・レゲエと呼ばれておら
ず、単にレゲエと呼ばれていました。)
ただ70年代後半になって来ると、そうした
思想性も徐々に後退し、レゲエは踊るための
音楽へと徐々に姿を変える気配が出始めるん
ですね。
そうした中で生まれたのが、80年頃に登場
したダンスホール・レゲエです。

このアルバムはまだその前夜ともいえる時期
に作られたアルバムですが、すでにその
ダンスホールの傾向が色濃く出ているん
ですね。
例えば今回の表題曲の「I Love Marijuana」
ですが、ネットにはその対訳がありましが、
「マリファナを吸いたい。吸いたくてたまら
ないんだ。」という事を歌っています。

リンヴァル・トンプソン(Linval Thompson) - I Love Marijuana - 1975 - リリック

これがBob Marleyの歌詞などだとマリファナ
はラスタファリズムの神の草であり、必要な
ものという理由が歌われている事が多いの
ですが、この歌詞にはそうした思想性はあまり
なく、ただただ吸いたいという欲望だけが
歌われているんですね(笑)。
そうしたところにレゲエという音楽が、思想的
な音楽から欲望を優先する踊るための音楽
へという変貌が感じられます。
いち早くこうしたダンス・ミュージックへと
舵を切ったアーティストのひとりが、この
Linval Thompsonだったんですね。
先見の明を持っていた彼は、その後Volcano
レーベルのHenry 'Junjo' Lawesなどと組んで
ダンスホール・レゲエをプロデューサーと
してけん引する役目を果たすんですね。

今回のアルバムはその出発点ともいえる
アルバムで、ルーツ・レゲエとダンス
ホール・レゲエを繋ぐその空気感はとても
魅力的です。

1曲目は表題曲の「I Love Marijuana」
です。
書いたようにただただマリファナが吸いたい
と歌う曲です(笑)。
そこには思想より欲望が充満しています。
ダンスホールの持つ湿った空気感が感じられ
る曲です。

Linval Thompson - I Love Marijuana


2曲目は「Dread Are The Controller」です。
心地良いギターとピアノのリズムに乗せた曲
です。
乾いたバックのサウンドと湿り気のある
Linval Thompsonのヴォーカルの対比が面白い
曲です。

3曲目は「The Children Of The Ghetto」
です。
ミディアム・テンポのギターのメロディ
に、Linval Thompsonのよく通る歌声が
冴える曲です。

4曲目は「Don't Push Your Brother」です。
こちらもギターを中心とした軽快なメロディ
に、ちょっと湿ったLinval Thompsonの歌声
が魅力の曲です。
初期のダンスホールの空気感があります。

Linval Thompson - Don't Push Your Brother


5曲目は「Begging For Apology」です。
心地良いドラムのリズムにギターのメロディ、
Linval Thompsonのヴォーカルといった組み
合わせが魅力の曲です。
今回のアルバムではルーツの時代に流行った
ホーンがあまり使用されておらず、その薄目
のサウンドがダンスホールの匂いを感じさせ
ます。
重厚なサウンドから軽快なサウンドへという
のが、この時代の流れなんですね。

Linval Thompson - Begging for Apology


6曲目は「Not Follow Fashion」です。
ギターのメロディからコーラス・ワーク、
心地良いLinval Thompsonのヴォーカルと
いう曲です。

Linval Thompson - Not Follow Fashion


7曲目は「Roots Lady」です。
こちらも軽快なメロディに、ちょっとかすれた
Linval Thompsonのヴォーカルが魅力的な曲
です。

8曲目は「Big Big Girl」です。
印象的なギターとピアノのメロディから、
Linval Thompsonの湿り気を帯びたヴォーカル
が心地良い曲です。

9曲目は「Just Another Girl」です。
Ken Bootheの同名曲のカヴァーで、オリジ
ナルはSound Dimensionのロックステディ
のヒット曲「Bitter Blood」です。
オリジナルはかなりスウィートなメロディ
を持った曲ですが、抑え気味なヴォーカル・
スタイルでドライに歌いこなしています。

Linval Thompson - Just Another Girl.


10曲目は「Starlight」です。
こちらはギターのメロディに乗せた、淡々と
したヴォーカルが心地いい曲です。

11曲目は「Jamaican Colley (Version)」
です。
1曲目表題曲の「I Love Marijuana」の
ヴァージョン(ダブ)です。
ギターを中心としたドラッギーなアレンジ
が冴える1曲。

Jamaican Colley - Linval Thompson & The Revolutionaries


ざっと追いかけて来ましたが、このアルバム
は78年のアルバムであり分類すればルーツ・
レゲエのアルバムという事になるのかもしれ
ませんが、サウンドにはすでにダンスホール
の匂いがかなり忍び込んでいます。
この時点で彼はすでに次の音楽に向かう
アイディアを、持っていたように感じます。
そのルーツとダンスホールが混ざったような
音楽の香りが、今回のアルバムの最大の魅力
という気がします。

この後彼はシンガーとしてだけではなく、
プロデューサーとしてもVolcanoレーベルの
Henry 'Junjo' Lawesにプロデュースを教え、
一緒にScientistの「漫画ジャケ」シリーズ
を作成したりと、時代をルーツ・レゲエから
ダンスホール・レゲエへと動かす、重要な
役割を果たす事になります。

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Scientist ‎– Scientist Meets The Space Invaders (1981)

その出発点にこういうアルバムがあった事は、
覚えておきたい事実なんですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Linval Thompson
○アルバム: I Love Marijuana
○レーベル: Trojan Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1978

○Linval Thompson「I Love Marijuana」曲目
1. I Love Marijuana
2. Dread Are The Controller
3. The Children Of The Ghetto
4. Don't Push Your Brother
5. Begging For Apology
6. Not Follow Fashion
7. Roots Lady
8. Big Big Girl
9. Just Another Girl
10. Starlight
11. Jamaican Colley (Version)

●今までアップしたLinval Thompson関連の記事
〇Linval Thompson (Scientist, Prince Jammie)「Dub Landing Vol.2」
〇Linval Thompson, King Tubbys「Linval Thompson Meets King Tubbys: "Ina Reggae Dub Style" "Dis A Yard Dub"」
〇Linval Thompson「Follow My Heart / I Love Jah」
〇Linval Thompson「Ride On Dreadlocks 1975-77」
〇Linval Thompson「Rocking Vibration / Love Is The Question」
〇Linval Thompson「Six Babylon」
〇Various「When Jah Shall Come」