今回はLee Perry & The Upsettersのアルバム

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「Return Of Wax」です。

Lee 'Scratch' Perryは60年代後半から
活躍するプロデューサーです。
60年代後半に自身のハウス・バンド
The Upsettersを率いて軽快なインスト・
ナンバーの「スキンヘッド・レゲエ」の
プロデューサーとしてUKで人気となり、
さらにはルーツ・レゲエの時代には自身の
スタジオBlack Arkで数々の名ダブを制作
したり、Max RomeoやThe Congosなどの多く
のアーティストのプロデュースで活躍する
んですね。

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Max Romeo & The Upsetters ‎– War Ina Babylon (1976)

彼の作った「Blackboard Jungle Dub」は、
ダブを広めた初期の代表的なダブ・アルバム
のひとつと言われています。
そうしたレゲエのダブというジャンルで
活躍したのが、このLee Perryというプロ
デューサーなんですね。

アーティスト特集 Lee Perry (リー・ペリー)

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The Upsetters ‎– Blackboard Jungle Dub (1973)

The Upsettersについても、一言書いておき
ます。

The UpsettersはLee Perryのハウス・バンド
として活躍したバンドで、初期はUKの若者
向けの「スキンヘッド・レゲエ」のバンドと
して活躍し、ルーツ・レゲエ全盛の時代には
バック・バンドとしてMax RomeoやThe Congos
などの多くのミュージシャンのバック・バンド
として活躍したほか、Lee Perryの作るダブの
演奏を務めた事で知られています。
当時のバンドはプラスティック・バンドだった
ので、メンバーはいろいろ入れ替わっている
ようですが、Black Arkの時代にベースの
Boris Gardiner、ギターのEarl 'Chinna'
Smith、ドラムのSly Dunbarなどが参加して
いた事はよく知られています。

アップセッターズ - Wikipedia

今回のアルバムは1975年にDipという
レーベルからわずか300枚だけリリース
されたというアルバムです。

Lee Perryはこの75年に「インスト3部作」と
呼ばれるインストの3枚のアルバムを作って
います。
ひとつは今回のThe Mighty Upsetter名義の
「Kung Fu Meets The Dragon」で、次に
Lee Perry & The Upsetters名義の「Musical
Bones」、そして同じくLee Perry &
The Upsetters名義の「Return Of Wax」という
3枚のインスト系のアルバムを作っているん
ですね。

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The Mighty Upsetter ‎– Kung Fu Meets The Dragon (1975)

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Lee Perry & The Upsetters ‎– Musical Bones (1975)

この3枚のアルバムはプレ・リリースのみ
だったりとリリースが少なく、当時は激レア
盤だったというアルバムなんですね。

この時代のLee Perryはこうした実験的な
アルバムを作っていて、それが後の「Super
Ape」や「Return Of The Super Ape」に
繋がったと言えます。

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The Upsetters ‎– Super Ape (1976)

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The Upsetters ‎– Return Of The Super Ape (1978)

手に入れたのはJustice Leagueというレーベル
から1998年にリリースされたCDでした。

ひとつ残念な事を書いておくと、今回のCD
は音質が悪いです。
多くの曲に気になるパリパリ音が入ってい
ます。

全12曲で収録時間は約45分。
オリジナルは10曲で、最後の2曲はCD
ボーナス・トラックです。


ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Recorded and mixed at the black ark, jamaica 1975

Produced and arranged by Lee 'Scratch' Perry
issued under lisens from pauline morrison and omar perry

となっています。

レコーディングとミックスは1975年に
Lee PerryのスタジオBlack Arkで行われ、
プロデュースとミックスはLee 'Scratch' Perry
が行っています。
詳細なミュージシャンが解らないのは、
ちょっと残念なところです。

さて今回のアルバムですが、この3枚の
「インスト3部作」はLee Perryの中でも特別
なシリーズで、その実験精神に満ちた音作りは
やはり評価すべきものがあります。
ある意味その旺盛な実験精神がある為に、これ
らのアルバムが当時はプレ・リリースのみで
終わっていたのかもしれません。

それでもプレ・リリースとはいえ発表されて
いた事で、これらのアルバムはより価値がある
んですね。
どんな良いアルバムでも発表されなければ、
それは時代や音楽を変える力にはなりません。
音楽は発表されて、初めて輝くんですね。

今回の「Return Of Wax」は一見すると、
ミディアム・テンポのタラタラとした
インスト・ナンバーが並ぶアルバムです。
ただ一見ユルく見える楽曲に、張り過ぎず
ユル過ぎずの微妙な緊張感を織り込んでいる
ところが、このアルバムの面白さなんです
ね。
このあたりの微妙な手綱さばきは、この
優れたプロデューサーの全盛期だから
成し得た技です。

ただただユルかったらそれはイージー・
リスニングであり、レゲエではありません。
ちゃんと緊張した糸が張り巡らされている
からこそ、このアルバムは飽きる事無く
聴く事が出来るのです。
その魅力が解るか解らないかで、このアルバム
の評価はずいぶん変わると思います。

実はレゲエはミディアム・テンポの中に
ハード・コアを実現した音楽で、その事が
解っているかいないかで面白さが変わる音楽
なんですね。
よくロックなんかを聴いている人がレゲエの
アルバムなどをブログに書く時に、「たま
にはこういうユルイのもイイね」みたいに
書く人が居るけれど、それはレゲエの本質が
見えていないんですね。
ハイ・テンポがハードでミディアム・テンポ
がユルいというのは、多くの人がしている
カン違いなんですね。
ミディアム・テンポでも音の組み合わせを
複雑にする事などで、ハード・コアな音楽を
作る事は可能です。
むしろヘビ・メタみたいにただただハイ・
テンポで単調な曲は、レゲエを聴いていると
なんだこれ?イージー・リスニングかよ!」
と思う事があります(笑)。
まあ、思っていても「たまにはこんなユルイ
のもイイね」とは言いませんけれど…(笑)。

話がそれましたが、今回のアルバムにも
そうした「隠れたハード・コア」が随所に
仕込まれています。

1曲目は「Last Blood」です。
ばたばた端としたドラミングから始まる、
ベースのメロディを中心とした曲です。
一見ユルいメロディの繰り返しですが、
徐々に罠にハマっているのかも…。

2曲目は「Deathly Hands」です。
こちらもタラタラとしたドラミングから、
ベースとギターのメロディを中心とした曲
です。

3曲目は「Kung Fu Warriors」です。
こちらもベースとギターのメロディを中心と
した曲です。

KUNG FU WARRIOR ⬥Lee Perry & The Upsetters⬥


4曲目は「Dragon Slayer」です。
こちらはギターン単調なフレーズの繰り返し
と、重いベースのメロディから成り立って
いる曲です。
今回のアルバムはこうしたフレーズの繰り
返しが多いですが、そうして徐々に彼の世界
に引き込まれて行きます。

Lee Perry - Dragon slayer


5曲目は「Judgement Day」です。
こちらは浮遊感のあるシンセのメロディが
活躍する曲です。
それを支えるベースとドラムのリズムも
グッド。

6曲目は「One Armed Boxer」です。
こちらはベースの重いリズムとシンセの
アクティヴなメロディがうまくかみ合った
曲です。
こうしたインスト系のサウンドでは、ベース
がうまく効いている事が重要です。

Winston Wright & The Upsetters-One Armed Boxer Jam #1


7曲目は「Big Boss」です。
こちらはVin Gordonと思われるトロンボーン
がすごく魅力的な曲です。
この「インスト3部作」のひとつ「Musical
Bones」ではこのVin Gordonのトロンボーン
が全面的にフィーチャーされていましたが、
やはり彼のトロンボーンはすごく魅力的です。

Lee Perry & The Upsetters - Big boss


8曲目は「Fists Of Vengence」です。
こちらは淡々とした中に、シンセのメロディ
が際立つ曲です。

9曲目は「Samurai Swordsman」です。
こちらはベースを中心とした曲です。
途中から入るストリングスも、うまく曲に
色を付けています。

10曲目は「Final Weapon」です。
こちらはベースとギターのメロディの曲
です。
ベースの奏でる重いリズムがシブい1曲。

11~12曲目はオリジナルにはないCD
ボーナス・トラックが収められていますが、
ここでは省略します。

ざっと追いかけて来ましたが、やはりこの
時代のLee Perryの作る音楽はちょっと特別な
ものがあります。
彼はレゲエの中でも特に有名なアーティスト
のひとりですが、Black Arkというスタジオで
音作りをしていた時代の彼は、ちょっと
神がかったと形容したいほどの音作りを
しているんですね。
それがBlack Ark焼失後は、それだけの音作り
が出来なってしまうのは何故なのでしょう。

ともあれこのアルバムがLee Perryのアルバム
の中でも、聴いておくべきアルバムのひとつ
である事は間違いありません。
惜しまれるのは音質が悪い事です。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Lee Perry & The Upsetters
○アルバム: Return Of Wax
○レーベル: Justice League
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1975

○Lee Perry & The Upsetters「Return Of Wax」曲目
1. Last Blood
2. Deathly Hands
3. Kung Fu Warriors
4. Dragon Slayer
5. Judgement Day
6. One Armed Boxer
7. Big Boss
8. Fists Of Vengence
9. Samurai Swordsman
10. Final Weapon
(CD Bonus Tracks)
11. Experience - Delroy Butler
12. Living My Life (extended mix) - Keith Rowe

●今までアップしたLee Perry (The Upsetters)関連の記事
〇Lee Perry & The Upsetters「Musical Bones」
〇Lee 'Scratch' Perry「Mr Perry I Presume: Starring Lee Perry as The Upsetter」
〇Upsetters「Blackboard Jungle Dub」
〇Upsetters「Return Of The Super Ape」
〇Upsetters「Super Ape」
〇Max Romeo & The Upsetters「War Ina Babylon」
〇Jah Lion (Jah Lloyd)「Colombia Colly」
〇Congos「Heart Of The Congos」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Love Thy Neighbour」
〇Mighty Upsetter (Lee Perry)「Kung Fu Meets The Dragon」