今回はMisty In Rootsのアルバム

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LPジャケット

「Live At The Counter Eurovision 79」です。

Misty In RootsはWalford TysonとDelvin
TysonのTyson兄弟とDelbert Mckayの3人の
ヴォーカリストを擁するUKのルーツ・
レゲエ・グループです。

2002年シンコー・ミュージック刊行の本
「Roots Rock Reggae」には「孝」さんという
方の文章で、「1975年にニッキー・
トーマスのバック・バンドとして集められた
ミュージシャン集団。」だそうで、「ロック・
アゲインスト・レイシズムの中心的役割を
担う」バンドだったそうです。

Misty in Roots - Wikipedia

「ロック・アゲインスト・レイシズム」に
ついても少し説明しておきます。
事の発端は1976年のバーミンガムのライヴ
で白人のロック・ギタリストのEric Claptonが
「有色人種はイギリスから出て行け」と人種
差別発言をしたことがきっかけで起きた運動
で、当時イギリスで台頭して来ていた極右の
白人組織「ナショナル・フロント」やそう
した差別的な思想の白人ミュージシャンなど
に反対する運動なんだそうです。
そのロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)
の運動の中心になったのが、パンクでは
The Clash、レゲエではSteel Pluseやこの
Misty In Rootsだったんですね。
1978年4月にRARのイベントがヴィクトリア
公園で開催され、The ClashやSteel Pluseなど
のライヴが行われて10万人の観衆を集めた
んだそうです。

Rock Against Racism - Wikipedia

今でも日本で人気のあるEric Claptonです
が、黒人のブルースを元にしたブルース・
ロックを演奏したグループThe Creamで人気
となり、Bob Marleyの「I Shot The Sheriff」
も歌って「黒人の音楽」で商売をしている
のに、そういうレイシストの側面があると
聞くと、ちょっと幻滅しますよね(苦笑)。

エリック・クラプトン - Wikipedia

まだこの70年代という時代は白人が公然と
黒人をはじめとする有色人種を差別する事が
平気で行われる時代だったんですね。
そういう差別に立ち向かうロック・アゲイン
スト・レイシズムの運動の先頭に立ち、活動
していたのが彼らMisty In Rootsだったん
ですね。

今回のアルバムは1979年にPeople Unite
というレーベルからリリースされた彼ら
Misty In Rootsのファースト・アルバム
です。
彼らMisty In Rootsのデビュー・アルバムは
なんと!ライヴ盤なんですね。

70年代半ばに結成されたグループとしては
遅いデビュー盤ですが、確か宗教上(ラスタ
ファリズム)の理由でアルバムを作らなかった
という文章を、ネットで読んだ記憶があり
ます。
デビューがライヴ盤だったのも、その為と
書かれていたような気がします。

このアルバムは私が初めにレゲエを聴いて
いた20代の頃、LPで購入しています。
それがPeople Uniteからリリースされた
LPだったようです。

さらに再びレゲエを聴くようになってから、
UKのKaz RecordsからリリースされたCD
も購入しました。

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Misty In Roots - Live At The Counter Eurovision (CD)

2つのアルバムに大きな違いはありませんが、
初めに出たLPのタイトルには「79」という
録音した年号がタイトルに付いています。

CDの方はジャケットが変わって、1曲目に
「Introduction」として、54秒のメンバー
のライヴ会場でのメッセージが追加されて
います。

全8曲で収録時間は約39分。
書いたように初めに出たLPにはメンバー
の口上「Introduction」はなく、A面に3曲、
B面に4曲が収録されています。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Vocals: Walford Tyson, Delvin Tyson, Delbert McKay
Guitar: Lawrence Crossfield, Chesley Sampson, Dennis Augustin
Keyboards: Vernon Hunt
Bass: Antony Henry
Drums: Julian Peters
MC: William Simond

Executiv Producer: Clarence Baker
Sound Recording: Caramel Studio, Brussels
Engineers: Chris Bolton, Daniel Leon, Philippe Ohse
Degitally Remastered: Bob Whitney, Abbey Road Studio, London
Photos: Colour - Tim Jarvis / Black & White - Pour
Sleeve: Walton & Green

となっています。

Misty In Rootsのメンバーは、ヴォーカルに
Walford TysonとDelvin Tyson、Delbert McKay、
ギターにLawrence CrossfieldとChesley
Sampson、 Dennis Augustin、キーボードに
Vernon Hunt、ベースにAntony Henry、ドラム
にJulian Peters、MCにWilliam Simondと
いう10人の名前が書かれています。
3人のヴォーカリストが居るというスタイル
のバンドですが、「Roots Rock Reggae」の
解説文によると、87年にTyson兄弟の弟が
不慮の事故で亡くなったんだそうです。

写真に「Colour」と「Black & White」と書か
れていますが、「Colour」は後のCDの
ジャケットの写真で、オリジナルはモノクロ
写真に赤文字のグループ名というデザイン
です。
オリジナルの写真は、Pourというベルギーの
週刊新聞の写真が使われているようです。

録音は1979年の3月31日と4月1日に、
ベルギーのブリュッセルにあるCirque Royal
のThe Counter Eurovisionという所で行われ
たライヴの模様を収めたもののようです。

さて今回のアルバムですが、「Roots Rock
Reggae」によるとロック・アゲインスト・
レイシズムのライヴ・アクトで「デビュー・
ライヴ盤の素晴らしさに反映した」と書かれ
ていますが、そのタイトなリズムに浮遊感の
あるシンセのメロディ乗せたヴォーカルには
力強さがあり、とても魅力的です。

一言で言うと、とてもカッコいいんです
ね(笑)。
このアルバムは私が若い頃に買ったアルバム
の中でも、特にシビレたアルバムのひとつ
です。
おそらくルーツ・レゲエが好きな人でこの
アルバムが嫌いな人は居ないんじゃないか
と思うほど、素晴らしい内容のアルバムなん
ですね。

ちなみに2002年に出た彼らのコンピュ
レーション・アルバム「Roots Controller」
にも、このアルバムから「Man Kind」と
「Ghetto Of The City」の2曲が収録されて
います。

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Misty In Roots ‎– Roots Controller (2002)

デビュー・アルバムでライヴ盤というのは
ちょっと変わっていますが、彼らがロック・
アゲインスト・レイシズムで培ったその演奏
力は、やはりそのライヴで一番生き生きと
輝いています。

Eric Claptonの差別発言からも解るように、
この70年代はまだ白人の差別が厳然とあった
時代だったんですね。
その時代にそうした差別に対するプロテスト・
ソングとして、レゲエは誕生しています。
Bob Marleyが世界中の多くの人々から支持
されたのも、彼がプロテスト・ソングを歌う
シンガーだったからなんですね。
そのプロテストをUKレゲエの中でもっとも
よく行ったのが、このMisty In Rootsであり
Steel Pluseだったんですね。
彼らの名前が今の時代になっても色褪せない
のは、彼らが時代に向き合った歌を歌った
からなんですね。

今回のアルバムからは、そうした時代に
向き合った男達の鼓動が聞こえます。

1曲目は「Introduction」です。
書いたようにオリリなるのライヴ盤には
入っていない、ライヴ会場における口上
(MC)です。

2曲目は「Man Kind」です。
浮遊感のあるシンセのメロディにタイトな
リズム隊、それに乗せた力強いヴォーカル。
このグループの魅力がすべて詰まったような
1曲です。

Misty in Roots - Mankind ( Live )


3曲目は「Ghetto Of The City」です。
MCから浮遊感のあるシンセ、間髪置かず
入る3人の息の合ったヴォーカル。
タイトなリズムにこちらもシンセが効いた曲
です。

Misty In Roots - Ghetto Of The City (live)


4曲目は「How Long Jah!」です。
こちらもタイトなリズムにシンセ、息の合った
コーラス・ワークに力強いヴォーカル。
「神よ!どれだけ待てば良いのか」と訴える
彼らの歌には、闘う男のやりきれない思いが
あります。

Misty in Roots How Long Jah


5曲目は「Oh! Wicked Man!」です。
こちらはシンセの流れるようなメロディを
中心に、力強いリズムと、ちょっと余裕を
感じるヴォーカルが印象的な曲です。

6曲目は「Judas Iscariote」です。
こちらは浮遊感のあるシンセにタイトな
リズムの、疾走感を感じる曲です。

Misty In Roots Judas Iscariote


7曲目は「See Them Ah Come」です。
こちらも浮遊感のあるシンセにギター、タイト
なリズム、複雑に絡み合うヴォーカルと、
彼ららしい個性が出た曲です。

Misty In Roots - See Them Ah Come - (Live At The Counter Eurovision)


8曲目は「Sodome And Gomorra」です。
浮遊感のあるシンセに心地良いリズム、
性急な印象のヴォーカルとライヴ感満点
の曲です。

ざっと追いかけて来ましたが、ライヴ独特の
空気感もこのアルバムの魅力のひとつです。
そのタイトな緊張感は聴く者を釘付けにする、
力強さがあります。
その圧倒的なパフォーマンスは、今聴いても
とても魅力的です。
この時代の彼らがUKレゲエを代表する
バンドのひとつだった事は、疑う余地が
ありません。

言葉でレイシズムと闘う、それは音楽だから
こそ出来る事です。
それを貫いた彼らの音楽は、まだこの時代でも
色あせる事はありません。
それはまだこの時代でも差別が無くならない
から…?
そうだとしたら少し残念な事ですが、彼らの
音楽は今も必要な音楽なのかもしれません。
差別される者を鼓舞する為に…。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Misty In Roots
○アルバム: Live At The Counter Eurovision 79
○レーベル: Kaz Records (CD), People Unite (LP)
○フォーマット: CD, LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1979

○Misty In Roots「Live At The Counter Eurovision 79」曲目
1. Introduction
2. Man Kind
3. Ghetto Of The City
4. How Long Jah!
5. Oh! Wicked Man!
6. Judas Iscariote
7. See Them Ah Come
8. Sodome And Gomorra

●今までアップしたMisty In Roots関連の記事
〇Misty In Roots「Roots Controller」
〇Misty In Roots「Wise And Foolish」