今回はAswadのアルバム

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「Aswad」です。

AswadはイギリスのUKレゲエの先駆的な
バンドとして知られているグループです。

UK(イギリス)では早くからジャマイカ
の音楽が認められていて、古くはスカの時代
から輸入元の
レーベルの名前からブルー・ビート(Blue
Beat)の名称でスカが聴かれていたんですね。
そういう事もあって、早くからUKでは
レゲエが聴かれていて、70年代にジャマイカ
以外で一番最初にレゲエのバンドが誕生した
のもUKだったんですね。
当時は「ブリティッシュ・レゲエ」などと
いう呼び方をされていました。

その初期のUKレゲエを、Dennis Bovellが
居たMatumbiなどとともに牽引してきたのが
このバンドAswadだったんですね。
のちの時代にはレゲエという音楽はかなり
インターナショナルな音楽へと発展して行く
訳なんですが、まずその礎を作ったのが彼ら
UKのレゲエ・バンドだったんですね。

このAswadも1976年にファースト・
アルバム「Aswad」でデビューし、ジャマイカ
のレゲエとは一味違う洗練されたサウンドで
一躍UKの人気グループとなります。
その後も一時期メジャー・レーベルのCBSと
契約したり、活躍を続けたAswadですが、
80年代半ば以降はそのメッセージ性が
薄らぎ、徐々にポップな路線に転向して
ポピュラー・チャートをにぎわせるように
なります。
その転向がレゲエ・ファンから厳しい評価
を受けている側面があるのが、このAswadと
いうグループなんですね。

アーティスト特集 Aswad (アスワド)

今回のアルバムは1976年にIsland Records
からリリースされたAswadのファースト・
アルバムです。
その洗練されたサウンドで、Aswadという
グループの評価を決定づけたアルバムのが
このアルバムなんですね。

このAswadやMatumbiなどの活躍で、UK
のレゲエは「第2のレゲエ」である
「ブリティッシュ・レゲエ」として確立
していくんですね。
いわばレゲエが世界中で愛され、プレイされる
音楽へと発展して行く先駆けを作ったのが、
このUKのレゲエだったんですね。

手に入れたのはIsland Records傘下のMango
レーベルからリリースされたCDでした。

全8曲で収録時間は約40分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Aswad Band:
Rhythm Guitar, Percussion, Vocals(lead voice on "I A Rebel Soul," "Can't Stand The Pressure,"
"Natural Progression," "Concrete Slaveship"): Brinsley Forde [Chaka B]
Lead Guitar, Percussion, Vocals: Donald Griffiths [Dee]
Keyboards, Percussion, Vocals: Courtney Hemmings [Khak]
Bass, Percussion, Herb: George Oban [Ras]
Drums, Percussion, Piano(on "Ire Woman"), Vocals(lead voice on"Back To Africa," "Ire Woman"):
Angus Gaye [Drummie]

Aswad Friends:
Harmonica: Bunny McKenzie
Acoustic Guitar: Adetokumba Illorin
Percussion: Trevor Bow
Backing Vocals: Candy McKenzie, Delroy Washington

Recorded at the Island Studio, Hammersmith
and Mixed at Basing Street Studios, London

Engineer: Tony Platt
Assistants: Dick Cuthell, Dave Hutchins, Kevin Dallimore, Dave Jordan

Produced by Aswad & Tony Platt
Executive Producer: Richard Williams
Cover: Ball 'n' Chain Associates
Photography: Dennis Morris

となっています。

Aswadのメンバーは5人で、楽器も多く演奏し、
その多才さが際立ちます。
Brinsley Forde(愛称Chaka B)は、リズム・
ギターとパーカッション、ヴォーカルを担当。
1曲目「I A Rebel Soul」と2曲目「Can't
Stand The Pressure」、4曲目「Natural
Progression」、5曲目「Concrete Slaveship」
の4曲でリード・ヴォーカルを担当しています。
Donald Griffiths(愛称Dee)は、リード・
ギターとパーカッション、ヴォーカル(ハー
モニー)を担当。
Courtney Hemmings(愛称Khak)は、キーボード
とパーカッション、ヴォーカル(ハーモニー)
を担当。
George Oban(愛称Ras)は、ベースとパーカッ
ション、ハーブを担当。
Angus Gaye(愛称Drummie)は、ドラムと
パーカッション、ピアノ(7曲目「Ire
Woman」)、ヴォーカルを担当。
5曲目「Back To Africa」と7曲目「Ire
Woman」は、彼がリード・ヴォーカルをとって
います。
3曲目「Ethiopian Rhapsody」と6曲目
「Red Up」の2曲は、ヴォーカルのない
インスト・ナンバーが収められています。

「Aswad Friends」としてサポート・メンバー
も参加しています。
Bunny McKenzieは何曲かで、印象的なハーモ
ニカを聴かせています。
他にアコースティック・ギターでAdetokumba
Illorin、パーカッションでTrevor Bowが参加。
注目はバッキング・ヴォーカルでCandy McKenzie
と、Delroy Washingtonがコーラスとして参加。
Candy McKenzieはLee Perryのプロデュースで
77年にアルバムを作ったものの、未発表の
ままで、2011年にようやく当時のアルバム
がリリースされたという女性シンガー。

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Candy McKenzie ‎– Lee 'Scratch' Perry Presents Candy McKenzie (2011)

Delroy WashingtonはこのAswadの録音中に
同じスタジオで彼のファースト・アルバム
「I-Sus」を録音していた、UKのレゲエ・
シンガーです。

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Delroy Washington ‎– I-Sus (1976)

この「I-Sus」の他に翌77年に「Rasta」
というアルバムをリリースしています。

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Delroy Washington ‎– Rasta (1977)

プロデュースはAswadとTony Plattで、録音は
Island Studioで行われ、ミックスはBasing
Street Studios、エンジニアはTony Plattと
いう、完全にUKのロンドンでレコーディング
されたアルバムです。

ラスタ・カラーの旗を持った「ジャー・
ライオン」が描かれたカヴァーはBall 'n'
Chain Associatesというところで作って
います。
この後Aswadのアルバム・ジャケットには、
頻繁にこの旗を持った「ジャー・ライオン」
が描かれるようになります。
そしてラスタの主張が弱まったポップな路線
に転向してからは、描かれることが少なく
なるんですね。

さて今回のアルバムですが、やはりAswad
といえばまずはこのアルバムを聴いてもらい
たいと思う1枚です。
この時代のAswadは新しいUKレゲエという
音楽を作ろうという意欲に満ち溢れていて、
その洗練されたサウンドは今の時代に聴いて
も充分に魅力的です。
おそらく当時このアルバムを聴いた人に
とっては、それ以上の衝撃だったであろう
と思われます。
UKレゲエの歴史に欠かせないアルバムが、
今回のアルバムなんですね。

このAswadは少なくても80年代半ばぐらい
まではレゲエとして充分なクウォリティを
保っているのですが、その後転向はレゲエ・
ファンとしてはちょっと残念なところ。
ただこの時代はまだレゲエを続けるには充分
な環境が整っていない時代で、多くのUKの
レゲエ・バンドがポップな路線に転向して
いるんですね。
ある意味致し方ない側面があります。

ちなみにこのアルバムは2002年シンコー・
ミュージック刊行の本「Roots Rock Reggae」
にも紹介されているアルバムで、そこには
「長井」さんという方の文章で、「今現在の
アスワドからは想像できないくらいスピリチュ
アルな出来のルーツ・アルバム」という
高評価が書かれています。

この時代のAswadがUKレゲエをけん引する、
大きな存在だったのは間違いが無さそうです。

1曲目は「I A Rebel Soul」です。
UKらしいギターの音色から始まる曲です。
こうしたロック・ギターのような泣くギター
が多用されるのも、のUKレゲエらしい
ところ。
Brinsley Fordeのリード・ヴォーカルに、
コーラス・ワークも素晴らしいです。

Aswad - I A Rebel Soul - Stereo HQ


2曲目は「Can't Stand The Pressure」です。
こちらもメロディアスなギターとピアノに、
Brinsley Fordeの感情の入ったヴォーカル、
女性も入ったコーラスの美しい曲です。

3曲目は「Ethiopian Rhapsody」です。
こちらはハーモニカのメロディを中心とした
インスト・ナンバーです。
レゲエには珍しいブルース・ハーモニカに、
乾いたドラミングとベースが映えます。
後から入って来るハーブもグッド。
ジャマイカにない独特の大人なムードのある
曲です。

Aswad - Ethiopian Rhapsody


4曲目は「Natural Progression」です。
心地良いパーカッションに、シリアスな空気
感のBrinsley Fordeのヴォーカル。
こちらもギターのメロディに時折入るブルース・
ハーモニカという曲です。
このアルバムの中での2番目に長い、6分7秒
の熱演です。

Aswad - Aswad - 04 - Natural Progression


5曲目は「Back To Africa」です。
印象的なフルートの音色から美しいコーラス・
ワーク、Angus Gayeの感情を込めたヴォーカル
も素晴らしい曲です。
こうしたそれまでのレゲエに無い、新しい
楽器やニュアンスをうまく盛り込んでいる
のもこのグループの特徴です。

aswad-back to africa


6曲目は「Red Up」です。
こちらはギターのイントロから始まる
インスト・ナンバー。
ギターとベースを中心に途中から入る
キーボードなどで、うまく変化を付けて
います。

7曲目は「Ire Woman」です。
こちらは淡々としたヴォーカルと感情を込めた
ヴォーカルの対比が面白い曲です。

8曲目は「Concrete Slaveship」です。
こちらはこのアルバムの中でも一番長い
8分28秒にも及ぶ曲です。
ビンギ・ドラムのようなイントロからギター、
キーボードが入ってBrinsley Fordeの
ヴォーカルへと展開していきます。
これが彼らの作りだしたルーツ・レゲエと
いう曲です。

Aswad - concrete slaveship 1976


ざっと追いかけて来ましたが、やはりこの
時代のAswadのサウンドはとても魅力的です。
彼らのジャマイカから遠く離れたUKで、
レゲエの反抗の炎を燃やしたんですね。
この時代の彼らは、確かにレベル・ミュー
ジックとしてのレゲエを演奏していたんだ
と思います。

ただその後思想を無くしてしまうと、彼らの
小器用な部分だけが目立つように感じられて
しまうんですね。
音楽とはメロディに乗せて歌うものですが、
そのバック・ボーンには、たとえ恋愛に
ついてしか歌わないような歌でも、必ず
その人の思想が反映します。
けっしてメロディだけで成り立っている
ものではないんですね。

ただ彼らAswadがUKのレゲエを作った
グループのひとつだという事、は忘れては
ならない事実です。
そしてこのような素晴らしいアルバムを
残した事も。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Aswad
○アルバム: Aswad
○レーベル: Mango
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1976

○Aswad「Aswad」曲目
1. I A Rebel Soul
2. Can't Stand The Pressure
3. Ethiopian Rhapsody
4. Natural Progression
5. Back To Africa
6. Red Up
7. Ire Woman
8. Concrete Slaveship

●今までアップしたAswad関連の記事
〇Aswad「A New Chapter Of Dub」
〇Aswad「Hulet」
〇Aswad「Live And Direct」
〇Aswad「New Chapter」
〇Aswad「Not Satisfied」