今回はDub Specialistのアルバム

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「Version Dread: 18 Dub Hits From Studio One」です。

Dub SpecialistのついてはネットのDiscogs
のDub Specialistのページに、次のような
記述があります。

Dub Specialist is a name used for a series of dub LP
releases from Studio One throughout the 70s.
These limited edition albums were mixed down by a number
of engineers over the decade, including Sylvan Morris,
Syd Bucknor & Overton "Scientist" Brown, all under the
auspices of legendary producer, sound system pioneer
and music entrepeneur, Clement "Coxsone" Dodd.
The series ended when Dodd left Brentford Road for
the USA at the end of the decade

これを自動翻訳なども使って意訳すると、だい
たい次のような内容になります。

「Dub Specialistは、70年代を通してStudio
Oneからの一連のダブのLPのリリース時に使わ
れた名前です。
これらの限定盤アルバムは、伝説的な音楽プロ
デューサーでサウンド・システムのパイオニア
として知られるClement 'Coxsone' Dodd後援で、
Sylvan Morris、Syd BucknorとOverton
'Scientist' Brownなど何人かのエンジニアに
よって10年の間に亘りミキシングされました。
Doddがジャマイカのブレントフォード通りから
米国へ向かったとき、このシリーズは終わり
ました」

実は私自身Dub Specialistという名前は
ミキサーのSylvan Morrisの別名と理解して
いたのですが、実はStudio Oneのダブを
作ったミキサーの総称、あるいはプロジェクト
名だったようです。
Sylvan Morrisの他にもSyd BucknorとScientist
もダブを作っていたんですね。
(おそらくScientistは、まだ売り出す前
あたりか?)
Sylvan MorrisがこのStudio OneのあとDub
Specialistを名乗っていないのは、そういう
事情があるのかもしれません。
ただ多くのダブはSylvan Morrisが作っている
ようなので、Dub Specialist=Sylvan Morris
というのも、あながち間違っていないよう
です。
ちなみにこのDub SpecialistによるStudio
Oneのダブは、74年頃から80年頃までに
10枚前後のアルバムが作られているよう
です。

Studio Oneというレーベルについても説明
しておきます。
Studio Oneはレコードをかけて踊る「サウンド・
システム」を運営していたClement 'Coxsone'
Dodd(C.S. Dodd)が立ち上げたレーベルで、
50年代後半には活動を始めています。
ジャマイカの音楽はメント→スカ→ロック
ステディ→レゲエとその変遷をたどるのです
が、そのスカの時代からTreassure Isleレーベル
とともに、常にジャマイカをけん引して来た
のがこのStudio Oneというレーベルだったん
ですね。
このレーベルからはあのBob Marleyの
The Wailersのほか、数え切れないくらいの
ジャマイカの音楽界のスターが育っています。

レーベル特集 Studio One (スタジオ・ワン)

今回のアルバムは2006年にHeartbeat
Recordsからリリースされた66年から82年
の間にStudio Oneからリリースされた7インチ・
シングルのB面に収録されたインスト・
ヴァージョンとダブ・ヴァージョンを集めた
コンピュレーション・アルバムです。
これらの音源はCDとしてリリースされるのは
初めての音源なんだとか。

エンジニアがClement Dodd and Sylvan Morris
となっていますが、おそらくはSylvan Morris
がミックスしているものと考えられます。
なので今回はSylvan Morris=Dub Specialist
という解釈で良いようです。

手に入れたのは中古のCDでした。

全18曲で収録時間は約51分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced by Clement Dodd, The Dub Specialist
Engineered by Clement Dodd and Sylvan Morris
Musicians include the Soul Vendors, the Sound Dimension, the Soul Defenders,
the New Establishment, the Blentford Rockers and the Blentford Disco Set

Design by Steven Jurgensmeyer

となっています。

プロデュースはClement DoddとThe Dub
Specialist(Sylvan Morris)で、エンジニア
はClement DoddとSylvan Morris、演奏は
the Soul Vendorsにthe Sound Dimension、
the Soul Defenders、the New Establishment、
the Blentford Rockers、the Blentford Disco
Setという、Jackie Mittooなどを中心とした
Studio Oneのバック・バンドが担当していま
す。
これらのバンドは66年から68年までの
ロックステディの時代と、それ以降の
70年代中期蔵まで活躍したバンドなん
ですね。

印象的なジャケットはSteven Jurgensmeyer
という人が担当しています。
筋肉質なDub Specialistと思われるドレッド
ロックス・ヘアーの男性が、バラの花か何か
を咥えているような絵柄で、まるでドレッド
ロックスの頭が花のように見える、ちょっと
ユーモラスなデザインです。

今回のアルバムでは表ジャケットが小冊子に
なっていて、そこには曲ごとのデータが書か
れています。
例えば1曲目のErnest & The Sound Dimension
の「Why Oh Why Version」は、

1. Why Oh Why Version Ernest & The Sound Dimension 2:57
(Ernest Wilson-Clement Dodd/JAMREC, BMI 1969)
Previously released as the B side of Ernest Wilson - "Why Oh Why" single on the Studio One level.

と書かれています。
これを読むと「Why Oh Why Version」(2分
57秒)は1969年の作品で、Ernest Wilson
のシングル「Why Oh Why」のB面として、
Studio Oneレーベルからリリースされた曲だと
いう事が解ります。
こういう丁寧な仕事は嬉しいところです。

さて今回のアルバムですが、このStudio One
というレーベルは「レゲエのモータウン」と
呼ばれるほど高品質な音楽を作ったレーベル
なんですね。
ところが70年代の中ごろ以降は他の新興
レーベルに押されて、Studio Oneは徐々に勢い
を失っていくんですね。
(理由は主催者C.S. Doddの金払いの悪さに
あったと言われています。)

そうして勢いを無くしたStudio Oneを、音楽
制作に対する情熱を失ったC.S. Doddに代わって
支えたのが、Sylvan Morris=Dub Specialist
だったと言われています。
彼はそれまでStudio Oneで作られた古い音源
を使って、10枚ぐらいのダブ・アルバムを
作成するんですね。
さらにSuger MinottやFreddie McGregorと
いった新しいアーティストに、昔の音源を
使って新しい歌を歌わせてデビューさせるん
ですね。

こうしてStudio Oneというレーベルは70年
代中盤以降に、古くて新しい面白い音源を
たくさん残すことになります。
それはかなり窮余の策だったかもしれません
が、今から見るととても面白い音源なんです
ね。
このStudio Oneのダブは、ダブ好きならぜひ
とも押さえておきたい音源なんですね。

ただ今回のアルバムにはダブの曲は全18曲中
4曲と、あまり多く入っていません。
最後に曲もとともに制作年も載せておきました
が、ダブの曲75年以降の曲で、5曲目82年
の「Armagideon Version」、8曲目77年の
「It Deep, Pt.2」、9曲目75年の「Version
Dread」、12曲目75年の「Zion Lion」だけ
なんですね。
あとはすべてインストのヴァージョンが収め
られていて、完全なダブではないんですね。
(おそらくはDub Specialistと名乗る前の
音源だと思います。)
ただ選曲が良いのかダブの匂いのする曲もあり
ます。
ただあまりダブを期待しすぎると、肩透かしを
食う感じがするかもしれません。

ただすべてがダブでは無くてもさすがStudio
Oneの音源という感じで、内容は悪くないん
ですね。
もともとこのDub Specialistの作るダブ自体が
比較的控えめな、ヤリ過ぎないダブという感じ
なので、全く違和感なく聴けてしまいます。
やはり1曲1曲の元々の出来が、すごくイイん
ですね。

そのあたりはバック・バンドの中心だった
Jackie Mittooの力が大きいかもしれません。
このJackie MittooとC.S. Doddがレゲエの
基礎を作ったといわれるほど、初期のレゲエ
で彼ら2人が果たした役割は大きかったん
ですね。
その基礎が揺らがないレゲエが聴けるのが、
このアルバムだと見る事も出来ます。
一見軽いインストのアルバムのようですが、
その中身の濃厚さはやはり魅力的です。

1曲目はErnest & The Sound Dimensionの
「Why Oh Why Version」です。
書いたように69年のErnest Wilsonのシングル
「Why Oh Why」のB面のインストです。
ホーンのイントロから浮遊感のあるヴォーカル
が入る、ベースを軸とした演奏です。
ちょっとダブの萌芽を感じさせる内容です。

2曲目はSound Dimensionの「Fire Coal
Version」です。
70年のThe Wailing Soulsのシングル「Fire
Coal Man」のB面に収められたインスト・
ヴァージョン。
ちょっと語りが入ってからあの特徴的な
サイレン音、さらにThe Wailing Soulsの
ヴォーカルが少し、またサイレン音という
音の出入りがウマい構成になっています。
ただのカラオケではないんですね。
初期のレゲエらしい味わい深い曲です。

3曲目はWinston & The New Establishmentの
「Creation Version」です。
73年のBurning Spearの「Creation Rebel」
のB面のヴァージョンです。
その前の曲もそうなのですが、単なるオケに
せずにヴォーカルをちょっと入れているのが
特徴的。
その辺がカラオケで物足りなさを感じない
ような配慮が見て取れます。
そうした考えが根底にあり、ダブという音楽が
生まれたのかもしれません。

WINSTON & THE NEW ESTABLISHMENT - Creation (Ver.) [1972]


4曲目はThe Sound Dimensionsの「Please Be
True Version」です。
69年のAlexander Henryのヒット曲「Please
Be True」のB面に収められたヴァージョン
です。
特徴的なホーンのメロディに合間よくヴォー
カルが入り、単なるインストでないところが
さすが。

5曲目はWillie & The Brentford Rockersの
「Armagideon Version」です。
82年のWillie Williamsの大ヒット曲
「Armagideon Time」のB面のヴァージョン
です。
オリジナルはロックステディの時代のSound
Dimensionのヒット曲「Real Rock」。
この曲のみ82年と断トツに離れた時代の曲
ですが、この曲も「使い回し」のヒット曲
なんですね。
こちらは耳朶も時代なので、かなりダブワイズ
したミックスがされています。

Willie & Brentford Rockers - Armagideon Version


リズム特集 Real Rock (リアル・ロック)

6曲目はThe Soul Vendorsの「Born To Dub」
です。
68年のThe Righteous Flamsの「I Was Born
To Be Loved」のヴァージョンです。
The Righteous Flamsは確かWinston Jarrett
などが参加していた、Alton Ellisのバック・
コーラス・グループじゃなかったかと思い
ます。
まだロックステディの時代らしいギターが
印象的。
時折入るコーラスもグッド。

THE SOUL VENDORS BORN TO DUB


7曲目はSound Dimensionの「Pick Up Version」
です。
69年のRoy Cousins & The Royalsのヒット曲
「Pick Up The Pieces」のB面のヴァージョン
です。
この時代らしい硬いドラミングやコーラス
など、うまく聴きどころを作った曲です。

リズム特集 Pick Up The Pieces (ピック・アップ・ザ・ピーシズ)

8曲目はLloyd Robinson & Brentford Disco
Setの「It Deep, Pt.2」です。
77年のLloyd Robinsonの「It Deep」の
B面のヴァージョンです。
ベースを軸としたシブいダブですが、あまり
ヤリ過ぎない禁欲的な感じがこのSylvan Morris
という人のセンスなんですね。

Lloyd Robinson & Brentford Disco Set - It Deep Pt.2


9曲目はSound Dimensionの表題曲「Version
Dread」です。
75年のCharlie Ace & Scorcher'sの「Father
And Dreadlocks」のB面のヴァージョンです。
ヴォーカルのエコーなど、こちらはシッカリ
したダブになっています。
浮遊感のあるオルガンが耳に残ります。

Sound Dimension - Version Dread


10曲目はSound Dimensionの「Declaration
Version」です。
69年のThe Abyssiniansのヒット曲
「Declaration Of Rights」のB面のヴァー
ジョンです。
ある意味ルーツの定番曲ですが、コーラスの
使い方など尋常ではないセンスがあります。
ダブと言ってもおかしくない1曲。

11曲目はThe Soul Vendorsの「Things A
Come Up To Dub」です。
69年のThe Bassiesの「Things A Come Up
To Bump」のB面のヴァージョンです。
こちらもエコーのかかったコーラスは、ダブ
といっても不思議ではありません。

12曲目はSound Dimensionの「Zion Lion」
です。
75年のHigh Charlesの「Zion」のB面の
ヴァージョンです。
オリジナルはMarcia Griffithsの「Melody
Life」のようです。
エコーの効いたヴォーカルと懐かしいメロディ
という組み合わせのダブです。

Sound Dimension - Zion Lion


13曲目はCornell & The Brentford Rockers
の「Natty Rub A Dub」です。
71年のCornell Campbellの「Natty Don't Go」
のB面のヴァージョンです。
Cornell Campbellらしい濃厚なルーツの匂いが
タマラない曲です。

14曲目はThe Heptones & Sound Dimensions
の「Give Me This Version」です。
68年のThe Heptonesの「Give Me The Right」
のB面のヴァージョンです。
ロックステディ期の一番勢いのある時代の
The Heptonesの流れるような曲です。

15曲目はThe New Establishmentの「Fire
Version」です。
72年のClifton Gibbs & The Selected Few
の「Brimstone And Fire」のB面のヴァー
ジョンです。
浮遊感のあるオルガン、リリカルなピアノが
印象的な曲です。

The New Establishment - Fire Version


16曲目はBasil Daleyの「Hold Me Baby,
Pt.2」です。
68年のBasil Daleyの「Hold Me Baby」の
B面のヴァージョンです。
ロックステディらしいリズムに、エフェクト
やBasil Daleyのヴォーカルがうまく絡んだ曲
です。

Basil Daley-Hold Me Baby, Pt. 2


17曲目はSound Dimensionの「Train Is
Coming, Pt.2」です。
66年のKen Bootheの「The Train Is Coming」
のB面のヴァージョンです。
この時代はスカからロックステディに切り
替わったぐらいの時代ですが、まだ少しスカ
の時代の匂いの残った楽曲です。
このアルバムでも一番古い音源ですが、少し
ダブワイズが入っているのにビックリ。
これが本当に66年の音源だとすると、そう
いう事がすでにこの時代から始まっていた事に
なります。

Sound Dimension - Train Is Coming (Version) (Studio One)


18曲目はThe New Establishmentの「New
Broom, Part2」です。
74年のHorace Andyの「New Broom」のB面の
ヴァージョンです。
初期レゲエらしい陰影のあるメロディに、
Horace Andyの少し鼻にかかった声、ギターの
フレーズが印象的な曲です。

ざっと追いかけて来ましたが、ダブは最初に
誰が発明したかよく解っていないと言われ
ますが、今回のアルバムなどを聴くとダブと
言っても過言でない要素がある曲が、かなり
古い時代の曲でもあるんですね。
ある意味シングルのB面というのは、古い
時代からミキサーが遊べる場だったのかも
しれません。

またそういう遊びが出来るのも、原曲の良さ
があるからこそで、その中でもStudio Oneと
いうレーベルの音源は傑出したものがあった
んですね。
それが結果的に70年代の後半から80年代
の初めにかけて、Studio Oneの古くて新しい
不思議な音楽を生みだした事になります。
それを生み出したこのDub Specialist=Sylvan
Morrisという人は、レゲエの歴史の中で忘れ
られない足跡を残した人なんですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Dub Specialist
○アルバム: Version Dread: 18 Dub Hits From Studio One
○レーベル: Heartbeat Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2006

○Dub Specialist「Version Dread: 18 Dub Hits From Studio One」曲目
1. Why Oh Why Version - Ernest & The Sound Dimension (1969)
2. Fire Coal Version - Sound Dimension (1970)
3. Creation Version - Winston & The New Establishment (1973)
4. Please Be True Version - The Sound Dimensions (1969)
5. Armagideon Version - Willie & The Brentford Rockers (1982)
6. Born To Dub - The Soul Vendors (1968)
7. Pick Up Version - Sound Dimension (1969)
8. It Deep, Pt.2 - Lloyd Robinson & Brentford Disco Set (1977)
9. Version Dread - Sound Dimension (1975)
10. Declaration Version - Sound Dimension (1969)
11. Things A Come Up To Dub - The Soul Vendors (1969)
12. Zion Lion - Sound Dimension (1975)
13. Natty Rub A Dub - Cornell & The Brentford Rockers (1971)
14. Give Me This Version - The Heptones & Sound Dimensions (1968)
15. Fire Version - The New Establishment (1972)
16. Hold Me Baby, Pt.2 - Basil Daley (1968)
17. Train Is Coming, Pt.2 - Sound Dimension (1966)
18. New Broom, Part2 - The New Establishment (1974)