今回はPeter Toshの1977年のアルバム
「Equal Rights」から、表題曲の「Equal
Rights (平等の権利)」について書いて
みたいと思います。

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Peter Tosh ‎– Equal Rights (1977)

まずはこの曲が発表された70年代という
のはどういう時代だったのか?という事から
話したいと思います。
この70年代頃は、まだ人種差別が歴然と
あった時代なんですね。
さすがに黒人も奴隷という扱いでは無くなって
いましたが、白人は優秀で黒人や黄色人種は
それより能力が劣るとそういう偏見がハッキリ
と残っていた時代なんですね。
序列を付けてみると、白人>黄色人種>黒人と
いった感じです。
その中でも白人は特別な地位があり、当時の
日本でも「白人には敵わない」と普通に言わ
れていたほど、その格差が認められていた
時代でした。
今考えると不思議なほどですが、その白人優位
がワールド・スタンダードな時代だったん
ですね。

当時はまだ当たり前のように白人は優遇され、
黒人や有色人種はなかなか良い職に付けず、
低賃金の労働しかさせてもらえない社会だった
んですね。
それどころか南アフリカでは少数の白人支配
層が権力を持ち、多数の黒人貧困層と分かれて
暮らす、悪名高き「アパルトヘイト(人種隔離
政策)」が平然と行われているような社会
だったんですね。

アパルトヘイト - Wikipedia

ただこの70年代ぐらいから、時代は徐々に
変わり始めます。
アメリカではアフリカ系アメリカ人の公民権
運動が起こり、マルコムXやマーティン・
ルーサー・キング(いずれも暗殺)といった
英雄が登場し、黒人の権利を主張するように
なります。

アフリカ系アメリカ人公民権運動 - Wikipedia

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア - Wikipedia

マルコム・X - Wikipedia

そうした人々の身を賭した努力もあり、世界
は徐々に良い方向へと変わり始めるんですね。

その70年代頃にジャマイカで誕生したのが
レゲエ、今ではルーツ・レゲエと呼ばれている
音楽です。
当時ジャマイカの最下層に置かれていた黒人層
から生まれたこのレゲエという音楽は、その
人種差別に対する激しいプロテストで、世界に
衝撃を与えるんですね。

その一翼を担ったグループがThe Wailersで、
このPeter Toshもそのグループの一員として
Bob Marleyとともに世界に衝撃を与えたひとり
なんですね。
その後彼はソロとなるのですが、その激しい
メッセージ性は変わらず、多くの黒人の同胞
をその死の瞬間まで励まし続けるんですね。
Bob Marley以上に人種差別に対して激しい
言葉で訴え続けた男、それがこのPeter Tosh
という男です。

今回はThe Wailers離脱後のセカンド・
アルバム「Equal Rights」から、表題曲に
なっている「Equal Rights (平等の権利)」
を、日本のSony RecordsのCDに付いていた
山本安見さんという方の対訳で紹介して
みたいと思います。


○Equal Rights (平等の権利) - Peter Tosh

誰もが平和を望むけれど
正義を望む者は一人もいない
誰もが平和を望むけれど
正義を望む者は一人もいない
俺には平和は必要ない
平等と正義が欲しいだけ
平等と正義 平等と正義
平等と正義が欲しいだけ

誰もが天国に行きたがるけど
死を望む者は一人もいない
ああ イエスよ
誰もが天国に行きたがるけど
死を望む者は一人もいない
俺には平和は必要ない
平等と正義が欲しいだけ
平等と正義 平等と正義
平等と正義が欲しいだけ

シーザーに属するものは
シーザーに与えるのが当然だ
I(俺)とI(お前)に属するものは
俺たちに与えるのが当然だ
俺には平和は必要ない
平等と正義が欲しいだけ
平等と正義 平等と正義
平等と正義が欲しいだけ

誰もがトップを目指しているけど
トップとボトムにはどれだけ差が
あるのだろう
誰もがトップを目指しているけど
トップとボトムにはどれだけ離れて
いるのだろう
俺には平和は必要ない
平等と正義が欲しいだけ
平等と正義 平等と正義
平等と正義が欲しいだけ

誰もが罪について語っているけど
犯罪者とはいったい誰の事だろう
誰もが罪について語っているけど
犯罪者など はたして存在するの
だろうか
平和などいらない
平等と正義が欲しいだけ
平等と正義があれば 犯罪もなくなる
平等と正義があれば 犯罪もなくなる
誰もが平等と正義を求めて戦っている
パレスチナは平等と正義のために戦っている
アンゴラも平等と正義のために戦っている
ボッツワナも平等と正義のために戦っている
ジンバブエも平等と正義のために戦っている
ローデシアも平等と正義のために戦っている
ジャマイカも平等と正義のために戦っている
世界中 誰もがみな戦っている……

(Sony Records「平等の権利」より山本安見
さんの対訳より)


このPeter Toshの歌詞は「平和」とは何かと
問いかけています。
それが不平等や不正義から成り立っている
「平和」なら「俺には必要ない」と、彼は
言っているんですね。
それよりも「平等と正義のために」俺は戦う
と…。
それは不平等や不正義の為に苦しんでいる
人々に対する力強いメッセージです。

その後世界は以前よりも白人優位の世界では
無くなり、アメリカでは初の黒人大統領が
誕生するまでに変わって行きます。
この70年代には考えられないぐらいに、
世の中は変わって行くんですね。
今では白人が生まれた時からすでに優秀など
と思っている人はほとんど居ないのではない
でしょうか。
それは教育の問題であり、ちゃんと教育を
受ければ白人でも黒人でも充分に能力を
発揮する事が出来る、そう思っている人が
ほとんどだと思います。

そうした人々の心の変化に、こうしたレゲエ
のプロテスト・ソングが、その一助になった
事は間違いがありません。
世界を言葉で変える、それが歌の持つ力です。

ただ差別は今もまだ、この世界に残り続けて
います。
それは解り易いアパルトヘイトのような形は
とっていませんが、ポピュリズムのような形
をとったりしながら、この世界を支配している
のが今の現状です。

ポピュリズム - Wikipedia

他民族が仕事を奪っている、他宗教が攻撃
して来る、そういう言葉で先導されて、世界
はどんどん閉鎖的になって来ています。
また富の50%を世界のたった1%の人が
支配し、同じ民族間でも貧困格差は広がって
います。
日本を含めた世界は今もまだ、正しく良い
方向に必ずしも向かっていないんですね。

今回のこの歌を聴いた時に、あなたはどんな
気持ちで聴いたのでしょう。
「平等と正義」は今の時代にあるのか?
それが成し遂げられない限り彼の残した歌は、
今も闘い続けるのです。

俺には平和は必要ない
平等と正義が欲しいだけ

09 - Peter Tosh - Equal Rights & Downpressor Man (Live)