今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「DJ Dubcuts: Dubbing With The DJ's Volume 1
1970 - 1975」です。

今回は2003年にレゲエ・リイシュー・
レーベルJamaican Recordingsから発表された、
ディージェイのダブ・ヴァージョンの曲を
集めたアルバムです。
副題に「Dubbing With The DJ's Volume 1
1970 - 1975」とあるように、1970年から
75年までのDillingerやU-Royなどルーツ・
レゲエの時代に活躍したディージェイの曲が
集められています。

プロデュースはBunny Leeなのでいわゆる
「Bunny Lee音源」と思われ、バックは彼の
ハウス・バンドThe Aggrovatorsが担当して
いるものと思われます。

The Aggrovators - Wikipedia

このJamaican Recordingsは「Bunny Lee音源」
を多くリリースしているレーベルなんですね。

手に入れたのは中古で売られていたCDでした。

全14曲で収録時間は約45分。
最後の2曲はCDボーナス・トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Musicians include:
Drums: Carlton Barrett, Carlton 'Santa' Davis, Sly Dunbar
Bass: Robbie Shakespeare, Aston 'Family Man' Barrett
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Rhythm Guitar: Tony Chin
Organ: Winston Wright
Trumpet: Bobby Ellis
Trombone: Vin Gordon
Tenor Saxophone: Tommy McCook, Roland Alphonso
Alto Saxophone: Lennox Brown, Lester Sterling

Recorded at: King Tubby's, Randy's Studio17 & Channel 1
Produced by: Bunny Lee
Design by: Voodoo London
Photography: Maverick,Jah Floyd Archive
All Titles published by: Greenwich Farm Music

となっています。

プロデュースはBunny Leeで、バックは彼の
ハウス・バンドThe Aggrovatorsと思われ、
レコーディングはKing Tubby'sとRandy's、
Channel 1で行わています。

おそらく声入れとミックスはKing Tubby'sで
行われているものと思われます。
Bunny Leeのインタビューなどを読むと、
演奏などはChannel 1などを使い、声入れと
ミックスはKing Tubby'sを使うというケース
が多いんですね。

今回アルバムに収められているアーティストは
Dillinger、U-Roy、I-Roy、Prince Jazzbo、
Derrick Morgan、Prince Far I、Big Youth、
Dave Barker、Trinity、Dennis Alcapone、
Lee Perry、Don Leeといった人達です。
この時代に活躍したディージェイが収められて
いますが、プロデューサーとして知られる
Lee Perryが入っているのが面白いところです。

アルバムの裏ジャケットには「Unreleased
Versions」と書かれているので、リリースされ
なかった曲のようです。
こうした「在庫」をBunny Leeは多く持って
いて、それが「Bunny Lee音源」として今に
なって多く出回っているんですね。

今回のアルバムは表ジャケが小冊子になって
いて、そこにはレゲエ・リイシュー・レーベル
Jamaican Recordingsらしい曲ごとの英語の
解説文が付いています。
例えば3曲目I-Royの「Baby Girl Dub」には、

3. I-Roy: Baby Girl Dub
I Roy voices over Delroy Wilson's 'Can I Change My Mind'.
This is a lost dub version.

と書かれています。

これを読むと原曲はDelroy Wilsonの「Can I
Change My Mind」だと解ります。
こういう丁寧な仕事は、いかにもJamaican
Recordingsらしいところです。

さて今回のアルバムですが、この70年代の
ディージェイのレアなダブが集められた
アルバムで内容は悪くないです。

この70年代のルーツ・レゲエの時代に
誕生した音楽がダブとディージェイだった
んですね。
それももともと作られた理由は一度作った
音源の「再利用」の為という、かなり実利的
な目的だった節があります。

この時代のレゲエのプロデューサーは、Bunny
Leeのようにスタジオを持たないプロデューサー
がかなり居たんですね。
そうしたプロデューサーはスタジオをレンタル
し、歌手やミュージシャンを日雇いして録音
してアルバムを作っていました。
そうした経費はすべてプロデューサーが負担
し、儲けも損もまたプロデューサーが負担して
いたんですね。

そうした中から、一度録ったバックの音源を
何とか再利用出来ないかという発想が生まれ
て来るわけです。
ひとつは別の歌手として歌わせることですが、
他に考え出されたのがダブとディージェイなん
ですね。
特にダブは元の音源を切り刻んで全く別の曲
に作り変えてしまうというかなり実験的な
手法で、よくこういう方法を思いついたなぁ
と感心する部分があります。

ダブ - Wikipedia

それだけこの時代のレゲエという音楽が、
革新的な音楽だったんですね。
そこにこのレゲエという音楽が他の民族音楽
と一線を画し、世界に認められた秘密があり
ます。

今回のアルバムはそうしたダブとディー
ジェイに焦点を当てたアルバムで、そこが
今回のアルバムの面白いところではないか
と思います。

1曲目はDillingerの「Trial & Cross Dub」
です。
原曲はLeroy Smartの「Wreck Up My Life」。
Dillingerの危険な香りが漂う、縦揺れの1曲。
トビ音も入ったダブワイズした演奏に、彼
らしい危ない感じが最大の魅力です。

Trial & Cross Dub


2曲目はU-Royの「The Dub Originator」です。
原曲はThe Upsettersの「Shocks Of Mighty」
のリズムです。
ちょっとファンキーなノリに、U-Royの
ウィキッドなトースティングが冴えます。

3曲目はI-Royの「Baby Girl Dub」です。
書いたように原曲はDelroy Wilsonの「Can I
Change My Mind」。
当時の一番人気ディージェイの、トース
ティングが堪能できる曲です。

I Roy - Baby Girl Dub


4曲目はPrince Jazzboの「Run & Go Hide
The Dub」です。
リディムはCornell Campbell & Eternalsの
ロックステディの名曲「Stars」。
I-RoyとPrince Jazzboの「伝説の舌戦」で使わ
れた曲です。
ちょっとオフザケな感じがいかにもこのディー
ジェイらしく、面白いところです。

5曲目はDerrick Morganの「Dub Soldering」
です。
原曲はRoland Alphonsoの「Bang-A-Rang」。
軽快なスカのリズムに乗せたトースティング
です。

Dub Soldering


6曲目はPrince Far Iの「The Dub Station」
です。
原曲はLeste Sterlingのインスト曲の
「It Might As Well Be Spring」。
「ヴォイス・オブ・サンダー」として知られる
ダミ声ディージェイの、サックスのメロディ
に乗せたトースティングが冴える曲です。

7曲目はBig Youthの「Cinderella's Dub」
です。
原曲はErrol Dunkleyの「Blck Cinderella」。
Errol Dunkleyのスウィートなヴォーカルと
Big Youthの危険な香りの漂うトースティング
との対比が面白いところ。

Cinderella's Dub


8曲目はDave Barkerの「Scorcher Dub Sounds」
です。
原曲はMax Romeoのスキャンダラスな曲
「Wet Dream」です。
浮遊感のあるメロディに、うまく合いの手を
入れた曲です。

Scorcher Dub Sounds


9曲目はTrinityの「A Dub Situation」です。
原曲はJohnny Clarkeの歌うAlton Ellisの曲
「Let Him Try」です。
ソフトなヴォーカルと切れ味のあるトース
ティング。

10曲目はDennis Alcaponeの「Yeah Yeah Dub」
です。
原曲はEric Donaldsonのヒット曲「Cherry Oh
Baby」です。
Dennis Alcaponeらしい奇声も入った1曲。

11曲目はLee Perryの「Bronco Dub」です。
原曲はThe Upsettersの「Bronco」。
初期レゲエらしいオルガンを中心としたスキン
ヘッド・レゲエに、Lee Perryの奇声も入った
トースティングが面白い曲です。

Bronco Dub


12曲目はDon Leeの「Do Your Dub Thing」
です。
原曲はRoland Alphonsoのインスト曲「Try To
Remember」です。
合間良く入るトースティングがカッコいい曲
です。

Do Your Dub Thing


残りの2曲はCDボーナス・トラックです。

13曲目はDave Barkerの「Dub Getaway」です。
原曲はJohn Holtの歌う「Man Next Door」。

14曲目はU-Royの「Tubby's Dub Skank」
です。
「King Tubby's Skank」のリズムとなって
います。

ざっと追いかけて来ましたが、この時代の
ジャマイカの音楽界はBunny Leeのような
フリーランスのプロデューサーが主権を
握っていたので、ある意味著作権を無視して
自由に音楽が使えたんですね。
その功罪はいろいろあると思いますが、その
おかげで元の音楽にさらに新しいリリックを
盛って行くという発想が生まれ、音楽自体が
進化して行ったという側面は見逃せません。
自由に使えるという事で、自由に改変が
出来たんですね。
そういう自由さが無ければ、ダブもディー
ジェイも誕生しなかった可能性があります。

今の時点から見ると、その自由さをバックに
ジャマイカの音楽は驚異的な発展を遂げる事
が出来たんですね。
今回のアルバムはその自由さの産物だと思い
ます。

機会があれば聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: DJ Dubcuts: Dubbing With The DJ's Volume 1 1970 - 1975
○レーベル: Jamaican Recordings
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2003

○Various「DJ Dubcuts: Dubbing With The DJ's Volume 1 1970 - 1975」曲目
1. Trial & Cross Dub - Dillinger
2. The Dub Originator - U-Roy
3. Baby Girl Dub - I-Roy
4. Run & Go Hide The Dub - Prince Jazzbo
5. Dub Soldering - Derrick Morgan
6. The Dub Station - Prince Far I
7. Cinderella's Dub - Big Youth
8. Scorcher Dub Sounds - Dave Barker
9. A Dub Situation - Trinity
10. Yeah Yeah Dub - Dennis Alcapone
11. Bronco Dub - Lee Perry
12. Do Your Dub Thing - Don Lee
(CD Bonus Tracks)
13. Dub Getaway - Dave Barker
14. Tubby's Dub Skank - U-Roy