今回はKing Tubby & Prince Jammyのアルバム

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「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」
です。

King Tubbyはルーツの時代から活躍するダブ
のミキサーであり、プロデューサーである人
です。
もともと電気技師だった彼は、ルーツ・レゲエ
の時代からミキサーとして活躍し、ダブの創成
期からダブを作った人として知られています。
ダブはルーツ・レゲエが誕生した70年代初め
頃から徐々に作られるようになるのですが、
1973年に一斉にダブのアルバムが作られた
事から一気にひとつのジャンルとして確立した
音楽で、エコーやリバーヴなどのエフェクト
などを使用して原曲を全く別の曲に作り変えて
しまう手法を指します。

ダブ - Wikipedia

リミックスの元祖とも言われる音楽で、誰が
初めのダブを考案したかかはハッキリとは
解っていないのですが、このKing Tubbyが
ダブという音楽を完成させたと言われてい
ます。
自身のスタジオKing Tubby'sで、助手の
Prince JammyやScientistなどとともに
70年代から80年代にかけて多くのダブの
ミックスを手掛けたのが、このKing Tubby
という人なんですね。

その後も活躍を続けたKing Tubbyでしたが、
1989年に自宅前で何者かに射殺されて
亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby (キング・タビー)

Prince Jammyはダブ・マスターKing Tubbyの元
でミキサーとして仕事をした後に独立し、プロ
デューサーとして成功した人です。
85年にジャマイカ初のデジタル機材を使った
大ヒット曲Wayne Smithの「Under Me Sleng
Teng」で、デジタルのダンスホール・レゲエ、
いわゆるコンピューター・ライズドの大ブーム
を起こすんですね。
それを機にPrince Jammy→King Jammyに改名
し、今までの生録からデジタルによる「打ち
込み」の録音へと音楽界全体を変えてしまう、
大ムーヴメントを引き起こしたのがこの人
です。

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Wayne Smith - Under Me Sleng Teng (1985)

アーティスト特集 Prince Jammy (プリンス・ジャミー)

今回のアルバムは1996年にレゲエ・リイ
シュー・レーベルBlood & Fireから「Dub
Gone Crazy」シリーズの第2弾として発表
されたアルバムです。
この「Dub Gone Crazy」シリーズは、レゲエ
のプロデューサーBunny Leeが彼のハウス・
バンドThe Aggrovatorsの音源をKing Tubby's
でミックスしたダブを集めたシリーズです。

第1弾のKing Tubby And Friends名義のダブ・
アルバム「Dub Gone Crazy: The Evolution Of
Dub At King Tubby's 1975-1979」は、前々年
の94年に発売されています。

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King Tubby And Friends ‎– Dub Gone Crazy: The Evolution Of Dub At King Tubby's 1975-1979 (1994)

今は活動を停止しているBlood & Fireですが、
この第1弾の「Dub Gone Crazy」はアルバム
番号が「BAFCD 002」で、アルバムとしては
2枚目に発売されたアルバムで、今回の
アルバムは「BAFCD 013」で13枚目の
アルバムです。
つまりもっとも精力的に活動していた時期に
出されたアルバムなんですね。

レーベル特集 Blood & Fire (ブラッド・アンド・ファイア)

手に入れたのは中古で売られていたCDでした。

全14曲で収録時間は約48分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced by: Bunny 'Striker' Lee
Recorded at: Dunamic, Randy's and Channel One Studios
Mixed by: King Tubby's Studio by King Tubby and Prince Jammy
Alltracks written by Edwards O'Sullivan Lee and published by Westburry Music Ltd
except "Dub Of Rights" written by B. Collins/D. Munning/L. Munning and published
by Happy Valley Music, and "Drums Of Africa" written by Bob Marley and published
by Blue Mountain Music Ltd

The Aggrovators [1975-1979], included:
Drums: Carlton 'Santa' Davis, Lowell 'Sly' Dunbar O.D.
Bass: Robert 'Robbie' Shakespeare O.D., Lloyd Parkes
Guitar: Earl 'Chinna' Smith, Tony Chin, Winston 'Bo-Pee' Bowen, Carl Harvey,
Cornell Campbell
Keyboards: Ansell Collins, Johnnie 'Studio Idler' Clarke, Bernard 'Touter' Harvey,
Ossie 'No-Go' Hibbert, Jackie Mittoo, Errol 'Tarzan' Nelson, Winston Wright
Sax: Felix 'Deadly Headly' Bennett, Lennox Brown, Richard 'Dirty Harry' Hall
Trumpet: Bobby Ellis
Trombone: Vincent Gordon
Percussion: Noel 'Skully' Simms, Uziah 'Sticky' Thompson, Barnabas
Secretary: 'Blackheard' Sinclair
Compiler: Steve Barrow
Designed by: KB At Intro London

となっています。

プロデュースはBunny 'Striker' Lee、録音は
DunamicとRandy's、Channel Oneといった
スタジオで行われ、ミックスはKing Tubby'sの
King TubbyとPrince Jammy、演奏はBunny Lee
のハウス・バンドThe Aggrovatorsといった布陣
です。

録音期間は1975年から79年で、メンバー
の数が多いのは、録音がその期間に何度も行わ
れている為です。
この頃のジャマイカのバック・ミュージシャン
は、その時に集まれる人が集まって録音する
「プラスティック・バンド」の形式が一般的
でした。
その為バンド名は違っても、いろいろなバンド
でだいたい同じようなメンバーが演奏している
んですね。
今回もSly & RobbieやChinna Smithなど、この
時代のおなじみのメンバーが揃っています。

そうして録音した音源を、King Tubby'sに持ち
込んでダブにミックスしてもらったのが今回の
アルバムなんですね。

ちなみに今回のアルバムの収録曲は今年
2016年にVP Recordsから出たLPで2集、
CD2枚組で発売されたThe Aggrovatorsの
アンソロジー「Dubbing At King Tubby's」と
収録曲がかなりダブっています。

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The Aggrovators ‎– Dubbing At King Tubby's (2016)

こちらのアルバムを持っていれば、手に入れる
必要はないかもしれません。

さて今回のアルバムですが、さすがBlood & Fire
らしい選曲で内容はとても良いです。
名義がKing Tubby & Prince Jammyとなって
いますが、どちらの曲かはハッキリとは明示
されていません。
そのあたりは単純にKing Tubby'sのミックスと
考えて楽しんだ方が良いと思います。
(ちなみにVP Recordsの「Dubbing At King
Tubby's」の方は曲ごとのミックスが書かれて
います。)

この70年代のKing Tubby'sのミックスは、
まさに時代を作ったミックスといえるで
しょう。
70年代初めにダブという音楽は誕生して
いますが、それまで生演奏に近付けるような
テープの編集は行われていますが、徐々に
そうした音楽は作られ始めてはいたものの、
テープという「加工物」を前提とした音楽
がこのダブです。
そうした先進性を持った音楽を生みだした
ところに、このレゲエという音楽が他の民族
音楽と一線を画す、世界に認められた魅力が
あります。
この70年代にはこうした実験的な音楽が
作られるだけのパワーが、このレゲエという
音楽にはあったんですね。

特にこのダブにおけるKing Tubby'sの活躍
には目覚ましいものがあります。
このKing Tubbyの素晴らしいところは、自分
の名前ではなくスタジオKing Tubby'sとして
ダブのミックスを作ったところにあります。
この人は一人で出来る事の限界を、ちゃんと
わきまえているんですね。
そして手柄を独り占めにせず、スタジオと
して人をちゃんと評価するところがある。
その後の音楽の作り方を変えた、偉大な人物
がこのKing Tubbyなんですね。

1曲目は「Dub Of Rights」です。
リディムはThe Abyssiniansの名曲
「Declaration Of Rights」です。
Johnny Clarkeの歌うヴァージョンで、雷の
ような強烈なエフェクトも入った印象的な
ダブです。

King Tubby & Prince Jammy - Dub Of Rights


2曲目は「A Living Version」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Live Up Jah
Man」。
こちらも雷のようなエフェクトに、この当時
流行ったBunny LeeとThe Aggrovatorsの専売
特許のようなビート「フライング・シンバル」
に乗せた曲です。

King Tubby & Prince Jammy - Living Version


3曲目は「The Poor Barber」です。
リディムはJohn Holtの「Ali Baba」。
ろっくすてでぃのめいりでぃむに、銃撃の
ようなエフェクトが印象的な曲です。
印象的なフルート(たぶんTommy McCook)に、
こちらもフライング・シンバルのビート。

4曲目は「Higher Ranking」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Top Ranking」。
ベースを軸としたド渋な演奏です。

King Tubby & Prince Jammy - Higher Ranking


5曲目は「A Heavy Dub」です。
リディムはHorace Andyの「Just Say Who」。
こちらも雷のエフェクトが効果的に使われた、
ベースを軸としたダブ。

6曲目は「A Stalawatt Version」です。
リディムはEric Donaldsonの「Cherry Oh
Baby」。
Johnny Clarkeの心地よい歌声をうまく生か
したダブです。

King Tubby - Stalawatt Version


リズム特集 Cherry Oh Baby (チェリー・オー・ベイビー)

7曲目は「King Tubby's In Fine Style」
です。
リディムはRonnie Davisの「Power Of Love」。
ただHorace Andyの「You Are My Angel」の
リディムと言った方が解り易いかもしれま
せん。
こちらもルーツ期らしい陰影のあるリズムを、
うまく生かしたミックスです。

King Tubby's In Fine Style


8曲目は「African Sounds」です。
リディムはJohnny Clarkeの「African
People」。
こちらもベースを軸とした、渋めのダブ。

9曲目は「Version Of Class」です。
リディムはJackie Mittooの「Death Trap」。
こちらもベースを中心としたダブ。
時折入るオルガンのメロディが効果的なダブ
です。

10曲目は「Channel One Under Heavy
Manners」です。
リディムはLeroy Smartの「Pomps And Pride」。
Leroy Smartのヴォーカルも入った、ホーンや
ピアノが効果的に使われたダブです。

king tubby & prince jammy - channel one under heavy manners


11曲目は「Breaking Up Dubwise」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Breaking Up」。
こちらはピアノのメロディとベースを中心
としたダブです。

12曲目は「Channel Get Knockout」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Girl I Love
You」。
こちらもベースを軸とした演奏です。

13曲目は「Channel Is A Joker」です。
リディムはJohnny Clarkeの「Just Give Up
The Badness」。
こちらはギターのメロディが印象に残る
ダブです。

King Tubby & Prince Jammy 「Channel Is A Joker」


14曲目は「Drums Of Africa」です。
リディムはKen Parkerの「I Can't Hide」。
パーカッションを中心に、オルガンやギター
などがうまく絡み合ったダブです。

ざっと追いかけて来ましたが、いかにもBlood
& Fireらしい、素晴らしい選曲が光るダブ・
アルバムです。

この70年代にはBunny Leeのように、スタ
ジオを持たないプロデューサーが多く居たん
ですね。
そうしたプロデューサーはスタジオをレンタル
し、ミュージシャンや歌手を日雇いし、レコード
を作っていたんですね。
そうしたプロデューサーにとっては、一度録音
した音源をさらに別の歌手に歌わせたり、ダブ
に作り変えて再利用する事は、コスト面から
見ても効率的な事だったんですね。
その時に役に立ったスタジオがこのKing
Tubby'sだった事は間違いありません。

元々は再利用という実利的な目的で生まれた
ダブですが、このルーツの時代を彩る独特の
実験的な音楽として、人々の記憶に残る音楽
になった事は間違いありません。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: King Tubby & Prince Jammy
○アルバム: Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979
○レーベル: Blood & Fire
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1996

○King Tubby & Prince Jammy「Dub Gone 2 Crazy: In Fine Style 1975-1979」曲目
1. Dub Of Rights
2. A Living Version
3. The Poor Barber
4. Higher Ranking
5. A Heavy Dub
6. A Stalawatt Version
7. King Tubby's In Fine Style
8. African Sounds
9. Version Of Class
10. Channel One Under Heavy Manners
11. Breaking Up Dubwise
12. Channel Get Knockout
13. Channel Is A Joker
14. Drums Of Africa