今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Hottest Hits Volume 1」です。

今回はTreasure Isleレーベルのコンピなの
で、まずはTreasure Isleについて説明して
おくと、ジャマイカがまだスカの時代から
活躍する主催者のArthur 'Duke' Reidを中心
とする老舗レーベルです。
このレーベルはジャマイカが60年代のスカ
のからロックステディの時代に、ライバルの
Studio Oneと並ぶ2大レーベルだったんです
ね。
この主催者Duke Reidという人は、腰に2丁
拳銃をぶら下げて、演奏が気に入らないと
拳銃を天井にぶっ放すという、かなりコワモテ
の人だった事で知られています。

レーベル特集 Treasure Isle (トレジャー・アイル)

ロックステディについても一言説明しておき
ます。
ロックステディはレゲエの前身となった音楽
で、1966年から68年までのわずか3年間
だけ流行した音楽です。
ジャマイカの音楽史を見て行くと、50年代は
労働歌であったメント、50年代後半に
アメリカのブルースやR&Bになどに影響を
受けたスカが誕生し、66年頃にこのスローで
甘いメロディ・ラインを持ったロックステディ
が誕生するんですね。
しかしその中心人物だったJackie Mittooや
Lyn Taittがカナダ移住をしてしまった事で、
わずか3年という短い期間でロックステディの
ブームは終わってしまうんですね。
その後の60年代後半に誕生した音楽が、レゲエ
なんですね。

ロックステディ - Wikipedia

今回のアルバムは1977年にTreasure Isle
レーベルから出された、同レーベルのロック
ステディ時代のヒット曲を集めたコンピュレー
ション・アルバムです。
(一応ネットのDiscogsの年号の解っている
一番早い年が77年だったのでそうしました
が、もう少し早い70年の半ばぐらいの発売
かもしれません。)

Dobby Dobsonの「Loving Pauper」やThe
Techniquesの「Queen Majesty」、Phyllis
Dillon & Hopeton Lewisの「Right Track」、
さらにはThe Paragonsの「The Tide Is High」
など、このロックステディの超名曲が多数収め
られたアルバムで、これを聴けばロックステディ
というのがどういう音楽で、Treasure Isleと
いうレーベルがいかにこの時代、この音楽に
貢献したのかがよく解るアルバムになって
います。

ちなみにこの「Hottest Hits」シリーズは
第3集までリリースされていて、どれも
素晴らしい内容のコンピュレーションに
仕上がっています。

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Various ‎– Hottest Hits Volume 2 (1977)

なお今回のアルバムの音質はそこそこで悪く
ありませんが、何故か最後の曲Nora Deanの
「Barb Wire」のみ気になるポツポツ音が
かなり入ります。

全16曲で収録時間は約45分。
オリジナルは12曲で、13曲目以降の
4曲はボーナス・トラックです。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

ただPhyllis Dillonの曲など多くの楽曲は、
Treasure Isleの専属バンドTommy McCook &
The Supersonicsがバックを担当している
ようです。

Pressure Soundsレーベルから出ている、この
Tommy McCook & The Supersonicsのダブを
集めたアルバム「Pleasure Dub」には、この
バンドのメンバーとして以下の名前があります。

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Tommy McCook & Supersonics - Pleasure Dub (1976)

Drums: Paul Douglas, Winston Greman, Hugh Malcolm,
Arkland 'Drumbago' Parks & 'Wade' from Los Cabballeros
Bass: Clifton 'Jackie' Jackson & Lloyd Spence
Guitar: Ernest Ranglin, Nerlyn 'Lynn' Taitt,
George 'Cowboy' Tucker, Lorraine Bop' Williams
Piano: Gladstone 'Gladdy' Anderson
Organ: Aubley Adams, Lloyd DelPratt, Nevelle Hinds, Winston Wright
Alto,Baritone & Tenor Saxophone: Herman Marquis
Alto Saxophone: Mark West
Tenor Saxophone: Tommy McCook
Trumbone: Vincent 'Don D Junior' Gordon, Danny Simpson
Trumpet: Winstone Graham, Johnny 'Dizzy' Moore, Mark West

こうしたメンバーがおそらくはバックを務めて
いると思われますが、あくまで参考程度に見て
おいてください。

さて今回のアルバムですが、Treasure Isle
レーベルの名曲ばかりを集めたアルバムなの
で内容はとても良いです。
Dobby Dobsonの「Loving Pauper」や
The Techniquesの「Queen Majesty」、さら
にはThe Paragonsの「The Tide Is High」と
いった名曲がこれだけ詰まったアルバムは
なかなかありません。

特におススメはPhyllis Dillon & Hopeton
Lewisの「Right Track」です。
おそらく作曲はTommy McCookなんじゃないか
と思いますが、この人らしいキャッチーさの
ある曲で、今聴いてもけっして古く感じない
素晴らしい曲です。
Phyllis Dillonは「ジャマイカン・ソウルの
女王」とも言われる人ですが、「Don't Stay
Away」などこの人のヒット曲には名曲が多い
です。
今回の「Right Track」も、上に書いたTommy
McCook & The Supersonicsのダブ・アルバム
「Pleasure Dub」にも使われた名曲です。

さらにダブ好きにおススメなのが、6曲目
Alton & The Flamesの「Cry Tough」です。
今回のアルバムはただのロックステディ集
かと思ったら、この曲は前半がAlton Ellis
& The Flamesの歌で後半がダブのディスコ・
ミックス・スタイルにになっているんです
ね。
70年代のレゲエを聴いている人は解ると
思いますが、この66~68年まで続いた
ロックステディの時代にはまだダブは誕生
していません。

上に挙げた「レーベル特集 Treasure Isle」
のページに書かれていますが、Duke Reidの
死後会社を引き継いだErrol BrownがHigh Note
などを運営する女性プロデューサーSonia
Pottingerと組んで作ったのが今回の「Hottest
Hits」シリーズなんですね。
上に挙げた「Pleasure Dub」の解説文による
とErrol Brownは74年ぐらいに、そのダブの
他に「Treasure Dub Volume One」と「Treasure
Dub Volume Two」の3つのダブ・アルバムを
作っているんだそうです。

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Duke Reid ‎– Treasure Isle Dub Vol.1 + Vol.2 (1993)

今回のアルバムでは「Cry Tough」で、その
ダブが入ったディスコ・ミックスの音源が
使われているんですね。
このTreasure Isleのダブは他のダブとは違う
肌合いのあるダブなので、ダブ好きとしては
注目です。

1曲目はThe Sensationsの「Those Guys」
です。
1曲目からノック・アウト級の名曲です。
ユッタリにしたメロディに乗せた、優しい
ヴォーカルとコーラスが素晴らしい曲です。

The Sensations - Those Guys


2曲目はThe Melodiansの「Come On Little
Girl」です。
キャッチーなメロディを持った、この
グループの代表曲のひとつです。

リズム特集 Come On Little Girl (カム・オン・リトル・ガール)

3曲目はDobby Dobsonの「Loving Pauper」
です。
こちらも「恋する貧乏人」と題された、Dobby
Dobsonのロックステディの名曲として知られる
曲です。
恋する貧乏な男の心情を歌った、まさに涙もの
の名曲です。

DOBBY DOBSON - I ' M A LOVING PAUPER


Loving Pauper(恋する貧乏人) - Dobby Dobson

4曲目はThe Silvertonesの「Midnight Hour」
です。
スローなホーンのメロディと刻むようなギター
のリズムに乗せた、いかにもロックステディ
らしい曲です。

5曲目はVic Taylorの「Heartaches」です。
リリックなピアノから始まり、コーラス・
ワークに乗せたソフトなヴォーカルが心に
沁みる曲です。

Vic Taylor - Heartaches


6曲目はAlton & The Flamesの「Cry Tough」
です。
名ヴォーカリストAlton Ellisの歌声が心に
響く曲です。
低音のコーラス・ワークと、レゲエでは珍しい
ヴァイオリンが効果的に使われています。
書いたように後半がダブのディスコ・
ミックス・ヴァージョン。

Cry Tough (Extended Version)


7曲目はThe Techniquesの「Queen Majesty」
です。
このロックステディの時代の超名曲として
知られる曲です。
この歌にはさらに元歌があって、原曲はソウル
のCurtis Mayfieldの名曲として知られる
「Minstrel And Queen」です。
ソウルに影響を受けたソフトな歌声が心に
響きます。

The Techniques - Queen Majesty


リズム特集 Queen Majesty (クイーン・マジェスティ)

8曲目はPhyllis Dillon & Hopeton Lewisの
「Right Track」です。
今の時代に聴いても新鮮に感じる、ロック
ステディを華やかに彩った1曲です。

Phyllis Dillon (& Hopeton Lewis) - The Right Track


9曲目はThe Sensationsの「I'll Never Fall
In Love」です。
明るいホーンのイントロから、ソフトなファル
セットにコーラス・ワーク。
ソウルにも負けない鮮やかな色彩の曲です。

10曲目はThe Paragonsの「The Tide Is
High」です。
リード・ヴォーカルとしてJohn Holtが在籍
した名グループの代表曲のひとつです。
ロックステディを代表する1曲。

リズム特集 Tide Is High (タイド・イズ・ハイ)

11曲目はThe Jamaicansの「Things You Say
You Love 」です。
いかにもロックステディらしい歯切れの良い
リズムに乗せた、コーラス・ワークも素晴ら
しい曲です。

12曲目はThe Three Topsの「It's Raining」
です。
男女の会話から入り、ホーンのメロディに
乗せた、ロックステディらしいメロディの曲
です。

THE THREE TOPS - It's Raining


残りの4曲はボーナス・トラックです。
渋めの曲がいくつか収められています。

13曲目はThe Three Topsの「Do It Right」
です。
浸し見やすいメロディにコーラス・ワーク
も素晴らしい、優しいメロディの曲です。

14曲目はTyrone Evansの「If This World
Were Mine」です。
ホーンのソソるメロディに刻むギター、切ない
ヴォーカルといった曲です。

Tyrone Evans - If This World Were Mine


15曲目はThe Paragonsの「On The Beach」
です。
こちらもThe Paragonsを代表する1曲。

16曲目はNora Deanの「Barb Wire」です。
「Oh! Mama」と歌う、ちょっと個性的な1曲。
書いたように音質の悪いのが惜しまれます。

ざっと追いかけて来ましたが、このロック
ステディの時代のコンピュレーションとして
はとても内容の良いアルバムだと思います。

一度通り過ぎてしまえば、時代は2度と
戻って来ません。
ただ素晴らしい音楽の記憶は一生残り続け
ます。
このアルバムはこのTreasure Isleという
レーベルの記憶を刻んだアルバムとして、
時代が過ぎても愛され続けているアルバム
のひとつなんですね。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Hottest Hits Volume 1
○レーベル: Treasure Isle
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1977

○Various「Hottest Hits Volume 1」曲目
1. Those Guys - The Sensations
2. Come On Little Girl - The Melodians
3. Loving Pauper - Dobby Dobson
4. Midnight Hour - The Silvertones
5. Heartaches - Vic Taylor
6. Cry Tough - Alton & The Flames
7. Queen Majesty - The Techniques
8. Right Track - Phyllis Dillon & Hopeton Lewis
9. I'll Never Fall In Love - The Sensations
10. The Tide Is High - The Paragons
11. Things You Say You Love - The Jamaicans
12. It's Raining - The Three Tops
Bonus Tracks
13. Do It Right - The Three Tops
14. If This World Were Mine - Tyrone Evans
15. On The Beach - The Paragons
16. Barb Wire - Nora Dean