今回はAnthony Red Roseのアルバム

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「Red Rose Will Make You Dance」です。

Anthony Red Roseは80年代半ばにヒット曲
「Tempo」を歌った事で知られるシンガーです。
80年代半ばはKing Jammyがプロデュースした
Wayne Smithの「Under Me Sleng Teng」が大
ヒットしてコンピューター・ライズドの大ブーム
が起きた頃ですが、「Tempo」はKing Jammyの
師匠であるKingTubbyがプロデュースした作品
で、師匠KingTubbyから教え子King Jammyへの
アンサー・ソングとして知られている曲です。
そうしたエポック・メイキングな曲を歌ったのが
このAnthony Red Roseだったんですね。
彼はその後も歌手やプロデューサーとして活躍
しています。

アーティスト特集 Anthony Red Rose (アンソニー・レッド・ローズ)

今回のアルバムは1986年にKing Tubby
のレーベルFirehouseからリリースされた
Anthony Red Roseのファースト・ソロ・
アルバムです。
ヒット曲の「Tempo」の他、全10曲が収め
られたアルバムになっています。

このAnthony Red Roseは非常に寡作の人で、
他のミュージシャンと共演のアルバムを
含めても数作のアルバムしかリリースして
いないんですね。
特にこの86年には「Tempo」のヒットが
あったせいかリリースが集中していて、
同じFirehouseからリリースされたKing Kong
との共演作「Two Big Bull In A One Pen」
とディージェイのPapa Sanとの共演作
「Frontline」の3枚のアルバムをリリース
しています。

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Red Rose & King Kong ‎– King Tubbys Presents Two Big Bull In A One Pen (1986)

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Papa San Meets Anthony Red Rose ‎– Frontline (1986)

アンソニー・レッド・ローズ(Anthony Red Rose)、'Tempo'の誕生ストーリー ...

それ以降のアルバムになると、90年代以降
になってしまうんですね。
ただ「Tempo」がデジタルのダンスホール・
レゲエの幕開けを開いた曲のひとつである事
は間違いなく、レゲエの歴史に名前を刻んだ
シンガーである事も確かです。

手に入れたのは今年2016年に日本の
レゲエ・リイシュー・レーベルDub Store
RecordsからリリースされたCDでした。
ここのところ意欲的なリリースが光る
Dub Store Recordsですが、特にこの80年代
半ばのKing Tubbysのリリースは素晴らしく、
上のRed Rose & King Kongの「Two Big Bull
In A One Pen」やそのダブKing Tubbyの
「Two Big Bull In A One Pen Dubwise」など
レゲエの埋もれていた貴重な歴史のリリース
が続いています。

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King Tubby's ‎– Two Big Bull In A One Pen Dubwise (1986)

このあたりの音源はかなりマニアックで、
日本ではなかなか売りづらい音源らしいの
ですが、レゲエの貴重な歴史なのでこれから
もこうしたリリースは続けてもらいたいもの
です。

ちなみに今回このアルバムを調べていて
見つけたのですが、今回のアルバムのダブ
Red Rose & King Tubbyの「Will Make You Dub」
というアルバムがあるらしいです。
ジャケット写真もなく盤面写真のみでしたが、
1件だけそういう情報が出て来ました。
ネットのDiscogsにも出て来ない非常にレア
なアルバムのようですが、出来ればその
リリースもDub Store Recordsさんでして
もらえないですかねぇ…なかなか難しい
ですかねぇ…(笑)。

全10曲で収録時間は約36分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Recorded at King Tubby's Recording Studio
Engineers: Peego & Fatman
Edited by: Peego
Art Work: Herman Cain
Produced by: King Tubby
Dist by: Tuff Gong Ltd.

Musicians:
Synth & Drums: King Asha (tracks 1,2,3,5), Noel Daley (tracks 6,7,8,9)
Synth: Pablo Black (track 10)
Drums: Cleevy (Track 10), Fatman (Track 6)
Lead Guitar: Negril (Track 10)

Background Vocals: Anthony Red Rose, Lilly Melody, Bob Livingston, King Everald

となっています。

バックがシンセとドラムにリード・ギターのみ
というのも、このデジタルの時代らしいところ
です。
この時代になるとミュージシャンの顔ぶれ
も、80年代前半のアーリー・ダンスホール
の時代とは様変わりしています。
このあたりから徐々にデジタルの音作りと
いうものがジャマイカでも始まって、徐々に
パソコンを使った音作りに移行するように
なって来るんですね。

プロデューサーはKing Tubby、レコーディング
はKing Tubby'sで行われ、エンジニアはPeegoと
Fatmanが担当しています。

印象的なジャケットはHerman Cainという人が
作成しています。
よく見ると飛び出してきている文字は「Tempo」
という文字なんですね。
彼のこのヒット曲がこのアルバムのウリだった
事は間違いありません。

さて今回のアルバムですが、やはり「Tempo」
が入っているという事が、このアルバムの
最大の魅力である事は間違いありません。
このアルバムの中でもこの曲はもっとも凝った
作りの曲で、他の曲と較べても抜きん出た曲
なんですね。

あと、この時代らしいわざと音程をハズシた
唱法「アウト・オブ・キー」を多用した
歌い方が、強く印象に残ります。
この80年代になるとバックは薄い音が好まれ
たのかシンプルになって、その分シンガーが
唱法を工夫するようになって来るんですね。
わざとハズして歌うと、普通に歌うよりは
全体にモッタリと重い感じになるんですね。
今回のAnthony Red Roseもそのアウト・オブ・
キーを多用していて、独特の不思議な「間」
というか空気感を作っています。
そのあたりは人によって好き嫌いが、ちょっと
出るところかも…。

ただこの80年代の中頃の時代にしかない、
独特の空気感なんですね。
この時代にはレゲエという音楽がもう一度
原点にあった実験精神が戻って来て、他には
ない面白い音楽が作られた時代なんですね。
ちょっと初めは解りづらいところがあるかも
しれませんが、ハマれば強烈!それがこの
時代の音楽です。

今回のアルバムも「Tempo」はもちろんですが、
表題曲の「Red Rose Will Make You Dance」
など、けっこう面白い曲が揃ったアルバム
だと思います。

今回のもうひとつのポイントが、一見デジタル
に聴こえてデジタルでない「疑似デジタル」の
トラックという事です。
特にこの86年頃のKing Tubby'sの録音は、
Jammysよりもデジタルが追い付いていなかった
のか、どこかヒューマン・トラックの匂いが
残っていて、サウンドがとても繊細なんです
ね。
それは意図してそうなった訳ではないのかも
しれませんが、今聴くとそうしたヒューマン・
トラックの匂いの残った「疑似デジタル」の
サウンドは他にないサウンドでとても魅力的
なんですね。
このKing Tubby'sの86年頃のサウンドは、
今になるととても貴重だと思います。

1曲目は表題曲の「Red Rose Will Make You
Dance」です。
心地良いドラムとシンセのメロディに乗せた
曲です。
エコーのかかったAnthony Red Roseの心地
良さそうなヴォーカルも良いです。

2曲目は「Canta」です。
こちらも浮遊感のあるシンセに、打ち込みを
感じさせるドラミング。
多重録音か2人で歌っているように、
ヴォーカルがかぶさって来ます。

ANTHONY RED ROSE - CANTA


3曲目は「Up To Date」です。
心地良いドラムの縦ノリのリズムに、シンセ
のソソるメロディのアップ・テンポの曲です。

Anthony Red Rose - Up To Date


4曲目は「Material Girl」です。
こちらは「Tempo」を思わせるようなユッタリ
したリズムに独特の間のあるシンセ、Anthony
Red Roseのかなりハズシたアウト・オブ・キー
と、この時代らしい1曲。

5曲目は「Sweet Cindi Rella」です。
こちらもシンセのメロディを基調に、かなり
自由なAnthony Red Roseの節回しを中心とした
曲です。
こうしたシンガーに任せた自由な節回しが
出来るのも、この時代ならでは。

6曲目は「Tempo」です。
ご存じAnthony Red Roseの大ヒット曲です。
あらためて聴くとベースのように重いシンセ
のメロディ、時々エコーのかかるヴォーカル、
猫の鳴き声のようなエフェクトなど、細かく
繊細な細工が散りばめられているのが解り
ます。
この曲がデジタルのダンスホールの幕開けを
飾った、名曲中の名曲である事は間違いあり
ません。

Anthony Red Rose Tempo


7曲目は「Bad Boy Corner」です。
軽快なシンセとドラムのリズム、Anthony Red
Roseの閃きのあるヴォーカルという組み合わせ
の曲です。

8曲目は「Reggae Matic」です。
優しいシンセのメロディに、掛け合いのヴォー
カルが楽しい曲です。
リラックスした空気感がグッド。

Anthony Red Rose - Reggae Matic


9曲目は「Can't Knock Me」です。
こちらはデジタルっぽいドラム・サウンドに
楽し気なシンセのメロディ、アウト・オブ・
キーを駆使した唱法が印象的な曲です。

ANTHONY RED ROSE - CAN`T KNOCK ME


10曲目は「Dub Organizer」です。
ユッタリとしたシンセのメロディに乗せた
Anthony Red Roseのヴォーカルが冴える曲
です。

ざっと追いかけて来ましたが、多少忙しない
ようなヴォーカルの曲などもあるものの、
それも新しい音楽を模索しようという意欲が
感じられ、楽しんで聴けるアルバムだと思い
ます。

私のように70~80年代のレゲエが好きな
人間にとっては、レゲエという音楽は何かに
挑戦してこそレゲエというところがあるん
ですね。
このアルバムにはそうした音楽に対する実験
精神が、垣間見えます。
「Tempo」はその実験精神が結実した、他の
どこにもない「果実」です。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Anthony Red Rose
○アルバム: Red Rose Will Make You Dance
○レーベル: Dub Store Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1986

○Anthony Red Rose「Red Rose Will Make You Dance」曲目
1. Red Rose Will Make You Dance
2. Canta
3. Up To Date
4. Material Girl
5. Sweet Cindi Rella
6. Tempo
7. Bad Boy Corner
8. Reggae Matic
9. Can't Knock Me
10. Dub Organizer

●今までアップしたAnthony Red Rose関連の記事
〇Red Rose & King Kong「Two Big Bull In A One Pen」
〇King Tubby's「King Tubby's Present Two Big Bull In A One Pen Dubwise」