今回はIsrael Vibrationのアルバム

israel_vibration_03a

「Unconquered People + Dub (Unconquered
People Dub)」です。

Israel VibrationはWiss、Skelly(Skeleton)、
Appleの3人で結成されたコーラス・グループ
です。
彼ら3人ともが小児麻痺による身体的障害者で、
リハビリ施設で知り合った彼らは苦難の末に
1978年に「Same Song」でアルバム・
デビューしています。

israel_vibration_02a
Israel Vibration - Same Song (1978)

その後順調にキャリアを積み重ねた彼らです
が、97年にAppleが脱退し、以後は二人で
活動しています。

Israel Vibration - Wikipedia

今回のアルバムは1979年にTuff Gong
レーベルから発表された、彼らのセカンド・
アルバムです。

Tuff Gongはジャマイカ最古のスタジオ
Federal RecordをあのBob Marleyが買い
取ったスタジオで、その名義のレーベルから
発売された事もあって、The Wailersのリズム
隊AstonとCarltonのBarrett兄弟も参加した
アルバムになっています。
このIsrael VibrationをBob Marleyはとても
高く評価して応援していたんですね。

ラスタファリアンの中には彼らのような
障がい者を、「呪われた者」として嫌う
一派も居たといわれています。
そのため彼らIsrael Vibrationは、デビュー
まで大変苦労したといわれています。
ただそうした彼らに救いの手を差し伸べたの
が、Bob Marleyだったんですね。

手に入れたのはVP Recordsレーベルから出た
再発盤で、その79年のアルバム「Unconquered
People」と、80年にリリースされたそのダブ
「Unconquered People Dub」がカップリング
された、全18曲入りのアルバムでした。

全18曲で収録時間は約68分秒。
前半の10曲は79年のアルバム「Unconquered
People」からの曲で、後半の8曲は80年の
ダブ・アルバム「Unconquered People Dub」
の曲が収められています。
(ダブは2曲カットされている模様。)

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Israel Vibration: Cecil 'Skeleton' Spence, Albert 'Apple' Craig,
Lacelle 'Wiss' Bulgin

Arranged by: Israel Vibration, Tommy Cowan
Bass: Aston Barret
Drums: Carlton Barrett, Cornel Marshall
Piano: Augustus Pablo
Keyboards: Tyrone Downie, Earl 'Wya' Lindo, Franklyn Waul 'Youth Bubbler'
Guitar: Sweeney Williams, Michael Chung, Eric Frater, Michael 'Ras' Starr
Trombone: 'Nambo'
Saxophone: Dean Frazer
Trumpet: Junior Chin
Percussion: Alvin Haughton

Recorded and Mixed at Tuff Gong studios, Jamaica
Recording Engineers: Dennis Thompson, Errol Brown, Chiao NG
Mixing Engineer: Errol Brown
Produced by: Israel Vibration, Tommy Cowan
Special thanks to: Dennis Thompson, Carlton Barrett, Aston Barrett,
Tyrone Downie

となっています。

プロデュースはIsrael VibrationとTommy
Cowan、レコーディングとミックスはTuff Gong
で行われ、ミキシング・エンジニアはErrol
Brownが担当しています。

ミュージシャンはBarrett兄弟のほか、目立つ
ところではピアノでAugustus Pabloが参加して
います。

さて今回のアルバムですが、ファーストの
「Same Song」が素晴らしい内容で、その陰
に隠れてしまっている印象の今回のセカンド・
アルバムですが、内容はかなり良いです。
辛い過去を乗り越えて来た彼らですが、その
歌声にはそうした事を感じさせない突き抜けた
明るさがあります。

そうしたカラっとした明るさがこのグループ
の魅力であり、それがよく出ていたのがファー
ストの「Same Song」だったんですね。
それにプラスして今回のアルバムでは、少し
陰影を感じさせる優しい曲が多く収められて
います。
その分ちょっとインパクトが弱く感じれる
面がありますが、聴けば聴くほど彼ら本来の
ヴァイブレーションが伝わって来る、そんな
アルバムに仕上がっています。
その突き抜けた明るさと優しいヴァイブこそ、
彼らがずっと人気グループとして活躍し続け
られた秘密かもしれません。

またそのダブ「Unconquered People Dub」が
収められているのも悪くありません。
ちょっと2曲カットされているのが残念な
ところですが、ダブになると1曲1曲の違い
がより際立ち、けっこうヴァラエティがある
曲調だった事にあらためて気付かされます。
14曲「Survive Dub」のDean Frazerと思わ
れるサックスの熱演など、バック・プレイヤー
個々の実力の高い演奏が光ります。

ちなみに2002年シンコー・ミュージック
刊行の本「Roots Rock Reggae」には、この
アルバムについて「瀬戸口」さんという方の
文章で、次のように書かれています。

「80年にタフ・コングから出たセカンド・
アルバムの再発盤。ウェイラーズのバレット
兄弟による攻撃的リズムとエロル・ブラウン
によるミックスだが、曲によってはキーボー
ドの音色や高域の出し方が、アップセッター
ズっぽい印象も受ける。僕も全くの不勉強
だったが、彼らの言うイスラエルとは、帰属
する土地を追われ、共同体を引き裂かれた
黒人やパレスチナ人を指す。録音から22年
経った今もなお、彼らの教訓はリアルに響い
て来る。」
(「Roots Rock Reggae」より「瀬戸口」さん
という方の解説文より。)

「帰属する土地を追われ」た民としての
彼らは、それでも力強いメッセージを今日
まで発し続けています。

1曲目は「Give I Grace」です。
Barrett兄弟の叩き出す、硬質でガシッと弾き
返すようなリズムに、ユーモラスさも感じ
させるような優しく余裕のあるヴォーカルに
蕩けるようなコーラス・ワーク、彼ららしさが
詰まった曲です。

1~10曲目までは79年のアルバム
「Unconquered People」からの曲が収められ
ています。

Israel Vibration - Give I Grace + Dub 1980


2曲目は「Friday Evening」です。
カラット乾いたリズムにホーン・セクション、
それに乗せたしゃがれたヴォーカル、優しい
コーラス・ワークが一体となり、ひとつの
濃厚な世界を作りだしています。
途中に入るサックス・ソロもグッド。

Israel Vibration - Friday Evening


3曲目は「Mr. Taxman」です。
ホーンの華々しいオープニングから、ピアノ
のリリックなメロディにホーン、ソフトな
コーラスが絡み合った曲です。

4曲目は「Survive」です。
こちらはリリックなピアノに、サックスが
すごくムーディーに絡み合う曲です。
そのメロディに乗せた余裕のあるヴォーカル、
ソフトなコーラスが魅力的。

Israel Vibration - Survive


5曲目は「Top Control」です。
リリカルで優しいピアノのメロディから
ユッタリしたグルーヴ感のあるヴォーカルに
コーラス・ワークが魅力の曲です。
今回のアルバムではおそらくAugustus Pablo
と思われるピアノが際立つ曲が、多く収め
られている印象です。

Israel Vibration - Unconquered People - 05 - Top Control


6曲目は「We A De Rasta」です。
こちらもリリックなピアノとこの時代らしい
攻撃的なビートが、うまく緊張感を演出して
いる1曲。

7曲目は表題曲の「Unconquered People」
です。
こちらは電子ピアノとシンセのサウンドが
面白い空気感を作っている曲です。
そこの飄々としたヴォーカルにコーラス・
ワークという組み合わせ。
この時代のレゲエならではの美しさがあり
ます。

Israel Vibration - Unconquered People


8曲目は「Possibility」です。
こちらはシンセのメロディに乗せたゆとりの
あるヴォーカルに、コーラス・ワーク。
ユッタリしたメロディに、ビシビシ決まる
ドラム・ワークが心地良い曲です。

Israel Vibration - Possibility


9曲目は「Dwellers Of Darkness」です。
ホーンのメロディに乗せたユッタリした
ヴォーカルの曲です。

10曲目は「Practice What Jah Teach」です。
からとしたドラムに浮遊感のあるシンセに
ギターのメロディ、淡々と訴えるようなヴォー
カルにコーラス・ワークが一体となった曲です。

Israel Vibration - Practice What Jah Teach + Dub 1980


11~18曲目まではそのダブ「Unconquered
People Dub」が収められています。
こちらはミックスのErrol Brownの手腕が
楽しめるダブになっています。

11曲目は「Give I Grace Dub」です。
1曲目「Give I Grace」のダブです。
ゆとりのあるメロディにパーカッションが
際立つダブ。

12曲目は「Friday Evening Dub」です。
2曲目「Friday Evening」のダブ。
こちらはベースを軸としたシブいダブです。

13曲目は「Mr. Taxman Dub」です。
3曲目「Mr. Taxman」のダブ。
ホーンのイントロからダブワイズした
ヴォーカル、リリカルなピアノと、なかなか
凝ったダブです。

14曲目は「Survive Dub」です。
4曲目「Survive」のダブです。
書いたようにこちらはサックスの際立つダブに
なっています。

Israel Vibration - Survival Dub


15曲目は「Top Control Dub」です。
5曲目「Top Control」のダブです。
こちらはベースを軸に、ギターやピアノで
アクセントを付けたダブです。

16曲目は「We A De Rasta Dub」です。
6曲目「We A De Rasta」のダブです。
シンセのメロディを中心としたダブ。

17曲目は「Unconquered People Dub」
です。
7曲目「Unconquered People」のダブ。
シンセにベースドラムが絡み合うようなダブ
です。

18曲目は「Possibility Dub」です。
8曲目「Possibility」のダブ。
こちらはベースを軸に、リリックなピアノ、
ギターなどがうまく挿入されたダブ。

ざっと追いかけて来ましたが、あまりに
「Same Song」というアルバムのインパクト
が強すぎて、その陰に隠れがちな今回の
アルバムですが、内容的にはもっとも彼ら
らしいアルバムなんじゃないかと思います。

ちょっとユーモラスに感じてしまうほどの
陽性なエネルギーを持ったグループ、それが
彼らIsrael Vibrationです。
彼らの音楽にはそれほどの強さと優しさが
あるんですが、そこに辿り着くには彼らに
障害があるゆえの苦難の道筋があった事は
忘れてはなりません。
それを乗り越えたからこその力強さが、
彼らの音楽にはあります。
その痛いほどのの優しさが、形になったのが
今回のアルバムなのかもしれません。

「Unconquered People」というタイトルは
「征服されない人々」という事のようです
が、彼らの歌にはけっして人に支配されない
強さと優しさがあります。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Israel Vibration
○アルバム: Unconquered People + Dub (Unconquered People Dub)
○レーベル: VP Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1979, (1980)

○Israel Vibration「Unconquered People + Dub」曲目
(Unconquered People)
1. Give I Grace
2. Friday Evening
3. Mr. Taxman
4. Survive
5. Top Control
6. We A De Rasta
7. Unconquered People
8. Possibility
9. Dwellers Of Darkness
10. Practice What Jah Teach
(Unconquered People Dub)
11. Give I Grace Dub
12. Friday Evening Dub
13. Mr. Taxman Dub
14. Survive Dub
15. Top Control Dub
16. We A De Rasta Dub
17. Unconquered People Dub
18. Possibility Dub

●今までアップしたIsrael Vibration関連の記事
〇Israel Vibration「Dub Combo」
〇Israel Vibration「Strength Of My Life」
〇Israel Vibration「The Same Song」