今回はTappa Zukieのアルバム

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「Tappa Zukie In Dub」です。

Tapper Zukie(Tappa Zukie)はRanking Dread
などとともに「第2世代」のディージェイと
して知られている人です。
この「第2世代」のディージェイ特徴として
は、U Royなどの「第1世代」のディージェイ
と較べて、より政治性が強い事があげられます。
当時のジャマイカは極貧国のひとつで、政治
抗争も激しく、当時の2大政党ジャマイカ
労働党 (JLP)と人民国家党 (PNP) の間で銃撃
戦が起きるほど荒れた国だったんですね。
このTapper ZukieとRanking Dreadは、
ジャマイカ労働党 (JLP)の熱烈な支持者と
して有名だったらしいです。
彼らはディージェイなので、銃ではなく言葉
(トースティング)で政治闘争をしていたん
ですね。

その彼Tappa Zukieの思想性はジャマイカだけ
に留まらず、多くのパンクスなどの社会に
不満を持つ人々にも影響を与えました。
当時「ニューヨーク・パンクスの女王」と
呼ばれたPatti Smithも彼に影響を受けたひとり
で、彼を自分のステージのオープニング・
アクトに起用したほどでした。
さらにツアーを共にした彼女はTapper Zukie
を師と仰ぎ、トースティングの手ほどきを
受けたと言われています。
さらにはあのSex PistolsのJohn Lydonも
彼を絶賛したとも言われています。
今回はそれだけパンクスにまで影響を与えた
Tapper Zukieという人の紹介です。

Tapper Zukie - Wikipedia

今回のアルバムは1976年にジャマイカの
Starsというレーベルからリリースされた
Tappa Zukieのプロデュースしたダブ・
アルバムです。
同年の76年にリリースされたTappa Zukieの
セカンド・アルバム「MPLA」の表題曲
「M.P.L.A.」のダブをはじめ、彼自身の曲も
含めて彼のプロデュースした曲のダブが収め
られています。

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Tapper Zukie ‎– MPLA (1976)

ネットの販売サイトなどの情報によると、
当時はわずか300枚しかリリースされ
なかった希少なアルバムだったらしいです。

手に入れたのは1995年にレゲエ・リイ
シュー・レーベルBlood & Fireからリイシュー
されたCDでした。

レーベル特集 Blood & Fire (ブラッド・アンド・ファイア)

全14曲で収録時間は約44分。
オリジナルは12曲で最後の2曲はCD
ボーナス・トラックです。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Rhythm played by The Musical Intimidators, including:

Drums: Lowell 'Sly' Dunbar, Santa Davis
Bass: Robbie Shakespeare
Rhythm Guitar: Tony Chin, Bingy Bunny
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith
Organ: Ansel Collins
Piano: Gladstone Anderson
Percussion: Noel 'Skully' Simms, Sky Juice
Trombone: Vin Gordon as Don D.Jonior
Trumpet: Bobby 'Willow' Ellis
Sax: 'Deadly' Headley Bennett

Produced & arranged by Tappa Zukie
All tracks published by Jade & Crystal Ltd
Mixed by Philip Smart aka Prince Phillip at: King Tubby's Studio
Mastered by Kevin Metcalfe at The Town House, London

Designed by Matthew Rudd at Intoro, London
Cover and inlay photographs by Phil Hale

となっています。

バックはTappa Zukieのバック・バンド
The Musical Intimidatorsが担当しています。
たびたび書いていますが、この70年代の
バックはメンバーが固定ではなくいわゆる
プラスティック・バンドで、その時その時で
集まれる人達で録音する形式でした。
その為今回のバンドでもBunny Leeのバンド
The AggrovatorsでもChannel Oneのバンド
The Revolutionariesでも、メンバーがけっこう
重複しているんですね。
スタジオ・ミュージシャンに専属契約がなく
1回の演奏ごとの日雇いだったので、ミュー
ジシャンを続けるには数多くの録音をこなさ
なければならないという事情があったよう
です。

今回のアルバムなどを見てもSly & Robbieや
ギターのEarl 'Chinna' Smithをはじめ、
このルーツ・レゲエの時代を支えたスタジオ・
ミュージシャンが揃っています。
こうした人達がジャマイカから世界に発信した
音楽「レゲエ」の、サウンドを作ったとも言え
ます。

ミックスはKing Tubby'sのPhilip Smartが
担当しています。

さて今回のアルバムですが、内容はなかなか
良いと思います。
この70年代という時代はこうしたダブや
ディージェイなど、それまでに無かったような
「実験的な音楽」が次々と生み出された時代
だったんですね。
それだけこのジャマイカの「レゲエ」という
音楽には、何か新しいものを生み出そうという
パワーが溜まっていたんだと思います。
そのエネルギーがマグマのように一気に噴き
出したのが、この70年代だったんですね。
またこうs他斬新な音楽を生みだしたところ
に、レゲエという音楽が他の民族音楽とは違う
先進性があるんですね。

今回のアルバムも初めのリリースはたったの
300枚だったという事ですが、その実験性
や先進性を考えれば、それも当然だったの
かもしれません。
ただもう作れなくなった今は、その価値は
何倍もアップしているんですね。
後にリイシューされたのも、また当然だった
のかもしれません。

音楽的なコラージュ(切り張り)を行うダブ
という音楽は、絵画の「シュールレアリズム
(超現実主義)」のような音楽で、音楽的に
「非現実的」な異次元空間を作り上げている
音楽なんですね。

シュルレアリスム - Wikipedia

音楽にさらに音楽を重ねていくという手法は、
まさに超現実的で陶酔的です。

この音楽の面白いのは、それまでの音楽の
ようになるべく生の音楽に近付けて行こうと
するのではなく、録音したテープという
「加工品」を前提とした音楽だという事です。
そのテープを切り張りして、まったく新しい
音楽に作り変える。
まさにシュールレアリズムの「コラージュ」
の手法なんですね。
そこにこのレゲエという音楽の先進性があり
ます。

話を戻しますが、今回のアルバムでは前述した
Tappa Zukieのアルバム「MPLA」のほか、
彼がプロデュースしたJunior Rossの曲が多く
収められています。
このJunior Rossは70年代に活躍したシンガー
で、当時はシングル盤のみのリリースだった
ようですが、2002年に今回のBlood & Fire
レーベルからPrince Allaと2枚組のアルバム
「I Can Hear The Children Singing 1975-
1978」がリリースされています。

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Prince Alla, Junior Ross ‎– I Can Hear The Children Singing 1975-1978 (2002)

彼の曲「Rasta Man」のダブ「Beautiful Dub」
や、「Judgement Time」のダブ「Judgement
Dub」、「So Jah Jah Say」のダブ「Jah
Speaks In Dub」、「Send Me Over There」の
ダブ「Way Over In Dub」など、多くの曲が
収められています。
そうした70年代に活躍したシンガーのダブ
が多く収められた、当時のジャマイカの空気感
が満載のアルバムです。

1曲目は表題曲の「Tapper Zukie In Dub」
です。
リディムはBurning Spearの「He Prayed」。
口上のようなTapper Zukieのトースティング
から重いベースのサウンドを軸に、ダブワイズ
したホーンが魅力的な曲です。

2曲目は「Pick Up The Dub」です。
リディムはThe Royalsの「Pick Up The
Pieces」。
アルバム「MPLA」に収められた「Pick Up The
Rockers」のダブです。
こちらもベースを軸とした、ズシッとした
サウンドが魅力のダブです。

リズム特集 Pick Up The Pieces (ピック・アップ・ザ・ピーシズ)

3曲目は「Dub MLPA」です。
リディムはRoy Richardsの「Freedom Blues」。
アルバム「MPLA」に収められた「M.P.L.A.」
のダブです。
「M.P.L.A.」とはアンゴラの政党「アンゴラ
開放人民運動」の事だそうです。
Tappa Zukieを代表する1曲をダブにしてい
ます。

Tappa Zukie - M.P.L.A. [Version]


リズム特集 Freedom Blues (フリーダム・ブルース)

アンゴラ解放人民運動 - Wikipedia

4曲目は「Beautiful Dub」です。
リディムはJunior Rossの「Rasta Man」。
ギターとホーンのこのルーツの時代らしい
メロディのダブです。

Tappa Zukie - Beautiful Dub


5曲目は「Prophesy Dub」です。
こちらはリディムが解りませんでした。
重いベースのリズムを軸としたダブです。

6曲目は「Falling Dub」です。
リディムはJunior Rossの「Babylon Fall」。
こちらもズシッと来るベースを軸に展開する
ダブです。
ダブワイズしたヴォーカルもグッド。

7曲目は「Rush I Some Dub」です。
リディムはLinval Thompsonの「Black
Princess Lady」。
ベースを軸にギター、Linval Thompsonの
ダブワイズしたヴォーカルなどでアクセント
を付けたダブです。

Tapper Zukie - Rush I Some Dub


8曲目は「Cool This Dub」です。
リディムはLinval Thompsonの「Cool Down
Your Temper」。
こちらもベースを軸にピアノやドラムが
うまく絡み合ったダブ。

Tappa Zukie - Cool this Dub


9曲目は「Jah Jah Dub」です。
こちらはリディムが特定出来ませんでした。
遠くで聞こえるようなヴォーカル、に刻む
ようなギターのリズムが心地良いダブ。

10曲目は「Judgement Dub」です。
リディムはThe Abyssiniansの「Declaration
Of Rights」。
このリディムを使ったJunior Rossの曲
「Judgement Time」のダブです。
陰影のあるホーンのメロディからJunior
Rossのダブワイズしたヴォーカル、ヒラヒラ
と舞い落ちるようなホーンのメロディが
魅力的なダブです。

Tapper Zukie - Judgement Dub


11曲目は「Loving Dub」です。
リディムはThe Uniquesの「Give Me A Love」。
オルガンのメロディを中心としたダブで、
アクセントのように入るチンという金属音が
印象的なダブです。

12曲目は「Rub This Dub」です。
リディムはAlexander Henryの「Please Be
True」。
ホーンが印象的なStudio Oneの名リディムを
使ったダブです。

最後の2曲はCDボーナス・トラックです。

13曲目は「Jah Speak In Dub」です。
リディムはJunior Rossの「So Jah Jah Say」。
こちらはピアノのメロディにJunior Rossの
ヴォーカルも入ったダブ。

14曲目は「Way Over In Dub」です。
リディムはJunior Rossの「Send Me Over
There」。
ホーンのイントロから、ベースとホーンの
メロディを中心としたダブです。

Tappa Zukie - Way Over In Dub


ざっと追いかけて来ましたが、派手さはあり
ませんがベースを軸としたシッカリとした曲
が多く入ったダブで、内容は悪くないと思い
ます。

今の時点から見ても、こうしたダブという
実験的な音楽がたくさん作られたルーツ・
レゲエの時代というのはちょっと特殊な時代
で、とても面白い時代だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Tappa Zukie
○アルバム: Tappa Zukie In Dub
○レーベル: Blood & Fire
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1975

○Tappa Zukie「Tappa Zukie In Dub」曲目
1. Tapper Zukie In Dub
2. Pick Up The Dub
3. Dub MLPA
4. Beautiful Dub
5. Prophesy Dub
6. Falling Dub
7. Rush I Some Dub
8. Cool This Dub
9. Jah Jah Dub
10. Judgement Dub
11. Loving Dub
12. Rub This Dub
(Bonus Tracks)
13. Jah Speak In Dub
14. Way Over In Dub

●今までアップしたTappa Zukie関連の記事
〇Tappa Zukie「Living In The Ghetto」
〇Tappa Zukie「Raggamuffin」
〇Tappa Zukie「Tapper Roots」
Tapper Zukie「Escape From Hell」
〇Tapper Zukie「MPLA」
〇Tapper Zukie「Raggy Joey Boy」
〇Tapper Zukie「The Man From Bozrah」