今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Firehouse Revolution: King Tubby's
Productions In The Digital Era 1985-89」
です。

今回はKing Tubby'sの80年代のデジタルの
ダンスホール・レゲエの音源を集めたアルバム
なので、まずはKing Tubbyについて説明して
おきます。

King Tubbyはレゲエの歴史に偉大な功績を
残したダブのミキサーであり、プロデューサー
である人です。

ダブという音楽は70年代のルーツ・レゲエ
の時代に発明された音楽形態で、元の曲の
カラオケにエコーやリバーブなどのエフェクト
などをかけて全く別の曲に作り変えてしまう
手法を言います。

ダブ - Wikipedia

誰が一番初めにダブを作ったのかは諸説あり
ハッキリとは解っていませんが、プロデュー
サーのBunny LeeはKing Tubbyが偶然の失敗
からダブを発明したという説を唱えています。
73年にLee Perryの「Black Board Jungle
Dub」やRandy'sのImpact All Starsによる
「Java Java Java Java」など最初期のダブの
アルバムが一斉に発売された事により一般に
広く認知されるようになり、ひとつのジャンル
として確立した音楽形態なんですね。
そしてダブという音楽形態を完成させたのが
このKing Tubbyだと言われています。

King Tubbyは70年代に自身のスタジオKing
Tubby'sで、プロデューサーの依頼を受けて
大量のダブを作っているんですね。
70年代はこうしたダブが大量に作られた時代
で、それを支えたのが元のアルバムをリミックス
し直す事に長けていた、このKing Tubby'sと
いうスタジオだったんですね。
彼はこの70年代にPrince JammyやScientist
という多くの助手を育て、早くからスタジオで
ダブのリミックスを請け負うという作成方法を
とっています。

ところが80年代に入るとKing Tubbyは、ダブ
のミックスの仕事は当時助手を務めていた
Prince JammyやScientistに任せて、自身では
あまりダブを作らずに、もともとしていた
電気技師の仕事を多くするようになってしまう
んですね。
ところがそのPrince JammyやScientistが独立
してKing Tubby'sを離れると、再びスタジオに
戻り、助手のFatmanやPeegoなどの指揮を執る
ようになるんですね。

そして元助手だったPrince Jammy改めKing
Jammyが80年代半ばにデジタルのダンスホール・
レゲエで「コンピューター・ライズド」の
大ブームを起こすと、それに対抗してAnthony
Red Roseの「Tempo」などのヒット曲を出し、
自身のレーベルFirehouseやWaterhouseなどの
プロデューサーとして活躍するようになるん
ですね。

そうして活躍していたKing Tubbyですが、
89年に何者かに自宅前で銃殺されて
亡くなっています。

アーティスト特集 King Tubby(キング・タビー)

今回のアルバムは2001年にレゲエ・
リイシュー・レーベルPressure Soundsから
リリースされたKing Tubby'sの80年代半ば
以降のデジタルのダンスホール・レゲエの
音源を集めたコンピュレーション・アルバム
です。

書いたように80年代前半はKing Tubbyは
ミックスの仕事は助手だったPrince Jammyや
Scientistに任せて、自身ではあまりミックス
の仕事をしなくなるんですね。
ところが主力だった2人が独立してKing
Tubby'sを離れると、再び現場に戻り指揮を
取るようになるんですね。

そしてPrince Jammyがプロデュースした
Wayne Smithの「Under Me Sleng Teng」の
大ヒットをきっかけに、ジャマイカでは
デジタルのダンスホール・レゲエの大ブーム
が起きるんですね。
その「Under Me Sleng Teng」のアンサー・
ソングとしてKing Tubby'sが作成したのが
「Tempo」だと言われています。
この曲はKing Tubby'sの最大のヒット曲と
なるんですね。

今回はそうしたKing Tubby'sの80年代半ば
以降の音源を集めたアルバムです。

全16曲で収録時間は約60分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Album co-ordinated by Pete Holdsworth
Photography: Harry Hawke, Dave Hendley & Beth Lesser
Artwork and design: Steve Smart
with thanks to: Laurent Allegre, Steve Baker, Paul Coote, Bert Douglas,
'Frenchie', Dave Hendley, Chris Lane, Jason Lee and Jeb Nichols

Musicians:
King Asha
Noel Davy
The Fire House Crew:
Drums: Melbourne George Miller
Bass: Donald Dennis
Keyboards: Paul 'Wrong Move' Crossdale
Intoro Man: Alty 'Fuzzy Jones' Salmon

Released under license from Sonic Sounds, Kingston, Jamaica

Produced and arranged by King Tubby's
(Professor, Phantom, Peego & Fatman)
Recorded at King Tubby's Recording Studio

となっています。

バックはKing Tubby'sのバック・バンド
The Fire House Crewなどが担当しています。

プロデュースがKing Tubby'sとなっていて、
カッコ付きでProfessor, Phantom, Peego &
Fatmanとなっています。
実質的に1曲1曲をミックスしたのは、この
人達という事のようです。

さて今回のアルバムですが、私が初めてこの
アルバムを聴いた時に、かなり衝撃を受けた
アルバムでした。
当時はまだデジタル以降のダンスホール・
レゲエというものにまだちょっと抵抗が
残っていた頃だったんですが、このアルバム
を聴いて始めてデジタルのダンスホールの
凄さ面白さが理解出来た気がしました。

おそらく当時のジャマイカの人々にとっても
このデジタルのダンスホール・レゲエの
ちょっとチープなサウンドは、かなり衝撃的
なものだったんじゃないかと思います。
Prince Jammyは「Under Me Sleng Teng」の
ヒット以降King Jammyと名乗るようになるの
ですが、彼の生み出したこの音楽は、その後
の音楽を全て変えてしまうくらいに衝撃的な
ものだったんだと思います。

それほど衝撃的な音楽が誕生したにもかかわ
らず、このKing Tubbyはすぐにその衝撃的な
音楽形態にも対応してしまうんですね。
もちろん彼自身が作った訳では無いかもしれ
ませんが、彼の優秀な助手達を使って…。
意外と一度音楽を作りだした人にはこうした
対応は難しいはずなのに、彼はしっかりと対応
して次世代の音楽を作る事に成功しているん
ですね、プロデューサーとして。
今回のアルバムを聴いた時に、本当にこの
King Tubbyという人は天才だと思いました。
このアルバムで聴かれる音楽は、今でも新鮮で
新しいリリックに溢れています。

それまではKing Tubbyという人は70年代に
ダブを完成した人で、80年以降の活躍は
イマイチだと思っていたのですが、この
アルバムを聴いてその認識が間違いだと思う
ようになりました。
実は80年以降も、このKing Tubbyは本当に
スゴイんですね。
このアルバムを聴いてからは、King Tubbyの
80年以降のアルバムも意識して探すように
なりました。

最近はDub Store Recordsからこのデジタル
以降の音源がよくリリースされるようになり
ましたが、やっぱりこの時代のKing Tubby'sの
音源て面白いんですね。
特にRed Rose & King Kongの「Two Big Bull
In A One Pen」やそのダブ・アルバムは特に
おススメです。

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Red Rose & King Kong ‎– King Tubbys Presents Two Big Bull In A One Pen (1986)

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King Tubby's ‎– Two Big Bull In A One Pen Dubwise (1986)

こうしたアルバムを聴いていて気付いたのです
が、「Tempo」やこのアルバムなどの85年から
86年当時のKing Tubby'sの音源は、まだ
完全なデジタルでは無くて「疑似デジタル」な
サウンドのようです。
Jammy'sや後のKing Tubby'sのサウンドと較べる
と曲に微妙に表情があるんですね。
ある意味Jammy'sが作るようなノッペリして
チープなサウンドがウケた訳ですが、この時代
のKing Tubby'sのサウンドには微妙に表情が
あり、それがかえって面白いんですね。
意識してなったというよりは設備がまだ整わ
なくてという事情かもしれませんが、今聴く
とこうした音源の方が、かえって貴重に思い
ます。
今回のアルバムもそうした「疑似デジタル」
の音源が多く収められているので、その
あたりも隠れた注目点だと思います。

またチープで安っぽいサウンドに聴こえる
裏に、緻密で繊細なKing Tubby'sらしさが
隠れているのも魅力的なところ。
大ヒットしたAnthony Red Roseの「Tempo」
はもちろんの事、Anthony Red Rose / King
Kongの「Two Big Bull Inna One Pen」、
Junior BylesのカヴァーLittle Johnの
「Fade Away」など、この時代のKing Tubby's
がいかに素晴らしいレーベルであったのか、
あらためて思い知らされるような内容の
アルバムになっています。

1曲目はAnthony Red Roseの「Tempo」です。
King Tubby'sの最大のヒット曲です。
バックのリズムだけでなく、ヴォーカルの
エコーのかけ方まですべて細かく計算された
ミックスです。
重厚なリズムに何となく湿気を帯びた
ヴォーカル…他にない新しい音楽を感じ
させる1曲です。

Anthony Red Rose - Tempo


2曲目はKing Everallの「After All」です。
こちらも「Tempo」のリディム。
ユッタリしたドラム・サウンドからシンセ、
ファルセットのヴォーカルと、湿り気タップリ
のムーディーな曲です。

King Everald-After All (Tempo Riddim 1985) King Tubby's


3曲目はKing Ashaの「Crank Angle Part 2」
です。
こちらも「Tempo」のリディム。
こちらはヘリコプターの飛行音からピアノと
重いシンセのメロディに乗せたインスト・
ナンバーです。

4曲目はAnthony Red Rose / King Kongの
「Two Big Bull Inna One Pen」です。
2人のシンガーによる男臭くムーディーな
デュエット曲です。
細かいバックの音に変化を付けている繊細さ
が、いかにもKing Tubby'sらしい音作りを
感じさせます。

Red Rose & King Kong - Two Big Bull In A One Pen


5曲目はConroy Smithの「Original Sound」
です。
イントロ・マンの掛け声からピアノのメロディ
に乗せたリズムカルなメロディに乗せた1曲。
このあたりになるとかなりデジタルにこなれた
感じがありますが、女性の声を入れたり細かい
出し入れにKing Tubby'sらしさがあります。

Conroy Smith - Original Sound


6曲目はKing Everallの「Special Singer」
です。
特徴的なキーボードのイントロから、重い
ベースを基調にトースティングが冴える1曲。
こうした重いベース使いなどが、うまく曲が
軽くならないようにコントロールしています。

7曲目はLloyd Hemmingsの「Rude Boy」です。
浮遊感のあるシンセのメロディに乗せた曲
です。

Lloyd Hemmings Rude Boy


8曲目はTinga Stewartの「Dry Up Your
Tears」です。
7曲目Lloyd Hemmingsの「Rude Boy」と同じ
リディムの曲です。
こちらはスウィートなヴォーカルが際立ち
ます。

Tinga Stewart Dry Up Your Tears


9曲目はPeego & Fatman with King Ashaの
「Version」です。
7,8曲目のヴァージョン(ダブ)。

10曲目はJohnny Osbourneの「Line Up」です。
イントロ・マンのトースティングから、
Johnny Osbourneのノリノリのヴォーカルへと
移行する曲です。
シンセのメロディに乗せた軽快なリズムの
1曲。

11曲目はLittle Johnの「Fade Away」です。
書いたようにJunior Bylesのカヴァー曲です。
こちらもイントロ・マンのトースティング
から、悲し気なメロディw情感タップリに歌い
ます。
それと裏腹の力強い掛け声が入るのが、この
時代らしいところ。

Little John - Fade Away


12曲目はKing Kongの「Babylon」です。
軽快なシンセのメロディに乗せた曲です。
一見ゴツイ印象のKing Kongですが、その
歌いぶりは意外とスムーズで滑らか。
心地良いグルーヴ感のある歌いぶりです。

King Kong - Babylon


13曲目はLilly Melodyの「Pressure Me」
です。
こちらはちょっとユーモラスさを感じるよう
な、メロディの曲です。

14曲目はKing Everallの「Automatic」です。
この時代になるとバックのリズムがノッペリ
した分、歌手自身が細かい変化を付けるよう
になります。
この曲もそうした特徴が現れた1曲。

15曲目はAnthony Red Roseの「Under Me Fat
Thing」です。
リディムはご存じWayne Smithの「Under Me
Sleng Teng」です。
Jammy'sの作った原曲と較べて音の出し入れが
多いのが印象的。
その辺がKing JammyとKing Tubbyの志向の違い
がよく解る曲です。

Anthony Red Rose - Under Mi Fat Thing


16曲目はNoel Davyの「Version」です。
15曲目Anthony Red Roseの「Under Me Fat
Thing」のヴァージョン(ダブ)。
歌が抜けている分King JammyとKing Tubbyの
志向の違いが、より明確に解る曲です。
ある意味King Tubbyの作る音はより繊細で、
それが「疑似デジタル」の時代に素晴らしい
アルバムを多く生みだした理由です。

ざっと追いかけて来ましたが、デジタルの
ダンスホール・レゲエになって表情が無く
ノッペリとしてしまったかに思えたサウンド
が、このKing Tubby'sで聴いた時にあまりに
豊かな表現を持っていた、それがこのアルバム
を初めて聴いた時の一番大きな衝撃でした。
その繊細で豊かな表現力に圧倒されました。

その後聴いて行くうちにその豊かな表現力の
裏にあったのは、まだデジタルに完全に対応
する前の偽のデジタル「疑似デジタル」で
あったという事に気付きました。
それはある意味窮余の策であり、意図したもの
では無かったのかもしれません。
ただ今の時代に聴くと、むしろ完全にデジタル
に対応する前のこの時代のKing Tubby'sの
音源はとても表情があって、かえって面白いん
ですね。
このあたりのKing Tubby'sのサウンドは、
意識して探す価値があると思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Firehouse Revolution: King Tubby's
Productions In The Digital Era 1985-89
○レーベル: Pressure Sounds
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2001

○Various「Firehouse Revolution: King Tubby's Productions
In The Digital Era 1985-89」曲目
1. Tempo - Anthony Red Rose
2. After All - King Everall
3. Crank Angle Part 2 - King Asha
4. Two Big Bull Inna One Pen - Anthony Red Rose / King Kong
5. Original Sound - Conroy Smith
6. Special Singer - King Everall
7. Rude Boy - Lloyd Hemmings
8. Dry Up Your Tears - Tinga Stewart
9. Version - Peego & Fatman with King Asha
10. Line Up - Johnny Osbourne
11. Fade Away - Little John
12. Babylon - King Kong
13. Pressure Me - Lilly Melody
14. Automatic - King Everall
15. Under Me Fat Thing - Anthony Red Rose
16. Version - Noel Davy