今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

studio_one_roots_03a

「Studio One Roots Vol.3」です。

ずは今回のアルバムの元になっている
Studio Oneというレーベルについて書いて
おきます。
Studio Oneは主催者のC.S. Doddを中心に、
ジャマイカの音楽界をスカ→ロックステディ
→レゲエとけん引し続けたレーベルです。
質の高い音楽性から「レゲエのモータウン」
という、言い方をされる事があります。

そうしたジャマイカに質の高い音楽を提供し
続けてきたStudio Oneですが、70年代半ば
以降はChannel Oneなどの他のレーベルに
押されて失速し、80年代半ばには閉鎖に
追い込まれています。

レーベル特集 Studio One (スタジオ・ワン)

今回のアルバムは2007年にSoul Jazz
RecordsからリリースされたStudio Oneの
ルーツ期の音源を集めたコンピュレーション・
アルバムの第3集です。です。
ルーツ・レゲエという音楽は、ジャマイカ
の音楽がスカ→ロックステディ→レゲエと
発展してきた一番最初に誕生したレゲエの
形態で、当時ジャマイカのレゲエ・
ミュージシャンの間で流行していた
ラスタファリズムという宗教的な思想運動
に影響を受けたプロテスト・ソング的色彩
を強く持った歌詞と、その思想性から
アメリカのような堕落した文明社会を否定
し、音楽的にもアフリカ音楽を意識した
自己のルーツ・ミュージックを目指した
音楽性が特徴の音楽です。
白人の作るポピュラー音楽とは一線を画した
その音楽性で、「レゲエ」は第三世界から
初めて世界に通用する音楽として認められて
いくんですね。

ちなみに今回のアルバムはその第3集です
が、2001年には第1集の「Studio One
Roots」が、2005年には第2集の
「Studio One Roots 2」が発売されてい
ます。

studio_one_roots_01a
Various ‎– Studio One Roots (2001)

studio_one_roots_02a
Various ‎– Studio One Roots 2 (2005)

全18曲で収録時間は約49分。

詳細なミュージシャンの表記はありません。

さて今回のアルバムですが、Soul Jazz
Recordsの「Studio One」シリーズの中でも
このルーツ・レゲエのシリーズは、特に
内容が濃いディープなシリーズになっている
と思います。

このStudio Oneのシリーズは、例えばルーツ・
レゲエを多くリリースしたリイシュー・
レーベルBlood & Fireなどと較べてみても、
その目線がちょっと違うんですね。
Blood & Fireがマニアックなレゲエ好きの
視点からレゲエという音楽を見ているのに
対して、このSoul Jazz Recordsはもう少し
距離を置いたカタログ的なクールな視点から
レゲエという音楽を捉えている印象です。
Blood & Fireがもの凄い至近距離から「こんな
面白いものがあるんだよ」と言っているのに
対して、Soul Jazz Recordsは遠くから
あくまで名前のあるなしにこだわらず、その
粒の大きさや色で音楽を仕分けているような
印象です。

そのセレクターの目がしっかりしているので、
Soul Jazz Recordsのアルバムは有名無名の
曲が並んでいても違和感なく聴けてしまうん
ですね。
この聴くべき音楽をシッカリ選ぶセレクト力
が、このSoul Jazz Recordsの魅力です。
今回のアルバムもそのシッカリしたセレクト力
が効いていて、あまり知られていない面白い
曲をうまく混ぜ込んでいると思います。
実はこうした無名の曲を発掘して来る事が、
こうしたコンピの質を高める生命線ともいえる
事なんですね。
今回は第3集目という事もあってかなり
マニアックな曲が並んでいますが、初めての
リスナーでもマニアックなリスナーでも、
聴いて納得というセレクトに長けているのが
このSoul Jazz Recordsというレーベルなん
ですね。

今回のアルバムは特にマニアックなリスナー
に興味深い曲が、多く集められた内容です。
ルーツ・レゲエ好きには聴いて損のない
アルバムだと思います。

1曲目はFreddie McKayの「(I'm) A Free Man」
です。
陰のあるギターのイントロから、ルーツ期に
活躍した名シンガーの寂しげな歌声が冴える
ディープな1曲です。
おもにシングル盤で活躍したこの人ですが、
今の時代になって評価が上がったのはむしろ
当然と言えるしっかりした実力派のシンガー
です。

Studio One Roots Vol. 3 - Freddie Mckay - (I'm) A Free Man


2曲目はJennifer Laraの「A Change Is Gonna
Come」です。
タイトルからソウル・シンガーSam Cookeの
名曲を連想しますが、別の曲です。
これが素晴らしい!名曲と言って良い出来の
曲なんですね。
Studio Oneで活躍した女性シンガーの白眉の
1曲です。

Jennifer Lara-A Change Is Gonna Come (Studio One Roots Vol.3 2007) Soul Jazz Records


3曲目はAlton And Zootの「Oppression」
です。
Alton Ellisと女性シンガーZoot Simmsの
デュエット曲です。
Zoot Simmsの張りのある歌声とフォローする
ように歌うAlton Ellisのバランスがすごく
良いです。
レゲエらしいパーカッションも魅力。

Alton & Zoot - Oppression


4曲目はWinston Flamesの「In A Armagideon」
です。
Winston Flamesって聞いた事の無い名前だなぁ
と思ったら、Winston Jarrett & The Righeous
Flames事らしいです。
ダブワイズしたヴォーカルがメチャメチャ
カッコいい1979年の曲です。

Winston Jarrett - In A Armagideon


5曲目はDillingerの「Babylon Fever」です。
リディムはHorace Andyの「Fever」。
ユッタリした刻むリズムに乗せた味のある
トースティングです。

6曲目はThe Gladiatorsの「Re Arrange」
です。
リディムはロックステディの時代のThe Cables
の名曲「What Kind Of World」です。
その曲をStudio One育ちのThe Gladiators
らしく、濃厚に歌いあげています。

7曲目はVin Gordonの「Fullness」です。
こちらは名トロンボーン奏者の1曲。
レゲエらしい刻むリズムに、トロンボーンの
茫洋とした中にキリっとしたものがある
サウンドが魅力。

8曲目はLarry Marshallの「Better Must
Come」です。
こちらは軽快なダンサブルなサウンドに
乗せたヴォーカルが魅力的な曲です。

9曲目はCliff Stewartの「Burn Collie」
です。
こちらはちょっとユーモラスさえ感じる音色
から始まる曲です。
これはSugar Bellyのバンブー・サックスか?
初期レゲエらしい明るいメロディに乗せた、
Cliff Stewartのヴォーカルが冴える1曲です。

Cliff Stewart - Burn Collie (bongoman 7)


10曲目はIm And Count Ossieの「So Long
Rastafari Calling」です。
サックス奏者Cedric 'Im' Brooksとパーカッ
ション奏者Count Ossieのコラボ曲です。
2人の演奏をメインにコーラス・ワークも
楽しいナイヤビンギの曲です。
ちなみにジャケットに使われている集団の写真
はCount Ossie & Mystic Revelation Of
Rastafariのようです。

11曲目はThe Nightingalesの「What A
Situation」です。
心地良いホーンのメロディからコーラス・
ワーク、刻むようなギターにオルガンと
いった曲です。

12曲目はClifton Gibbs & The Selected Few
の「Brimstone And Fire」です。
こちらは浮遊感のあるオルガンとピアノの演奏
に乗せた、ちょっとクセのあるヴォーカルが
印象的な曲です。

Clifton Gibbs & The Selected Few - Brimstone & Fire.flv


13曲目はDub Specialistの「Musical
Science」です。
リディムはKarl Bryan & The Afrokatsの
「Money Generator」。
元の演奏を生かしたうまいダブ処理をして
います。

14曲目はPrince Jazzboの「Creation Skank」
です。
リディムはBurning Spearの「Creation」。
ルーツの時代の人気ディージェイの、楽し気で
ユーモラスなトースティングが楽しめる1曲
です。

15曲目はErrol Dunkleyの「Way Down Low」
です。
甘い歌声が武器のこのシンガーの、魅力が
うまく出た1曲です。

16曲目はLloyd Forestの「Where It's At」
です。
刻むようなギターのリズムに乗せた、寂寥感の
ある歌声が魅力。
時折入るホーンもウマく楽曲を盛り上げて
います。

Lloyd Forest-Where Its At (Studio One Roots Vol.3 2007) Soul Jazz Records


17曲目はThe Dynamite Fourの「Let's Make
Love」です。
耳馴染みのあるリディムなんですが、特定
できませんでした。
アンニュイな女性ヴォーカルに、あまり
うまくないコーラスがかえって面白い1曲
です。

The Dynamic Four - Let's Make Love [1972]


18曲目はJudah Eskender Tafariの「Jah
Light」です。
ルーツ期から活躍する名シンガーの
ファルセット気味のヴォーカルが魅力的な
1曲です。
まるでデュエットするように入って来る
サックスも魅力。

Judah Eskender - Jah Light


ざっと追いかけて来ましたが、やはり
リスナーを納得させる優れたセレクト力が
魅力のアルバムです。
クールに質の高い曲のみを選び抜いている
からこそ、リスナーにこのStudio Oneという
レーベルの音楽の魅力を伝える事が出来る
んですね。
今回選び抜かれた曲も1曲として駄曲が
なく、ひとつひとつがキラキラと輝く宝石
のような素晴らしい曲が収められています。

ルーツ・レゲエという音楽の魅力を、心を
込めて伝える1枚だと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Studio One Roots Vol.3
○レーベル: Soul Jazz Records
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2007

○Various「Studio One Roots Vol.3」曲目
1. (I'm) A Free Man - Freddie McKay
2. A Change Is Gonna Come - Jennifer Lara
3. Oppression - Alton And Zoot
4. In A Armagideon - Winston Flames
5. Babylon Fever - Dillinger
6. Re Arrange - The Gladiators
7. Fullness - Vin Gordon
8. Better Must Come - Larry Marshall
9. Burn Collie - Cliff Stewart
10. So Long Rastafari Calling - Im And Count Ossie
11. What A Situation - The Nightingales
12. Brimstone And Fire - Clifton Gibbs & The Selected Few
13. Musical Science - Dub Specialist
14. Creation Skank - Prince Jazzbo
15. Way Down Low - Errol Dunkley
16. Where It's At - Lloyd Forest
17. Let's Make Love - The Dynamite Four
18. Jah Light - Judah Eskender Tafari