今回はVarious(オムニバス)もののアルバム

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「Don Mais Presents: Roots Tradition
From The Vineyard」です。

まずはRoots Traditionというレーベルに
ついて説明しておきます。
Roots Traditionは70年代後半から80年代
前半のアーリー・ダンスホールの時代に活躍
した、主催者Errol 'Don' Maisを中心とした
ジャマイカのマイナー・レーベルです。

このレーベルの特徴は、それまであった楽曲
をダンスホール・レゲエ用の楽曲にリメイク
し直すのを得意としていたレーベルという事
です。
このダンスホールの時代になると、それより
10年以上前のロックステディの楽曲などが
多くリメイクされて使われていますが、そう
いう事を積極的なやったのがこのレーベル
だったんですね。
そういう何度も使われている楽曲の事を、
レゲエでは「リディム」という呼び方を
しますが、リディムの使い回しのウマい
レーベルがこのRoots Traditionだったん
ですね。

ちなみに主催者のErrol 'Don' Maisは、
Jah Bibleという名前でミュージシャンとして
も活動しています。

レーベル特集 Roots Tradition (ルーツ・トラディション)

今回のアルバムは1997年にオランダの
Majestic Reggaeというレーベルからリリース
された、80年代初期のアーリー・ダンス
ホール・レゲエの時代のRoots Traditionの
音源を集めたコンピュレーション・アルバム
です。
ジャマイカ国内で聴かれていたマイナー・
レーベルのRoots Traditionですが、バック
はSoul SyndicateやRoots Radicsが担当して
いて、ミックスはKing Tubby'sという、
なかなか魅力的な布陣のアルバムです。
これを聴けば当時のジャマイカの人々が
聴いていた音楽が解るというアルバムに
なっています。
ある意味マイナーゆえの面白さのある
アルバムと言えるかもしれません。

手に入れたのはMajestic Reggaeから出て
いる、中古のCDでした。

全15曲で収録時間は約47分。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

Produced by Errol 'Don' Mais
Compiled by Ingmar Van Wijnsberge
Mastered by– Wil Hesen at the Farmsound Studio, Heelsum
Annotated by Steve Barrow
Don Mais interviewed by John Masouri, London, September 1996
Rhythm by Soul Syndicate and Roots Radics
Recorded at Channel One Studio
Voiced and mixed at King Tubby's Studio

Musicians include:
Drums: Carlton 'Santa' Davis, Max Asher, Style Scott, Eric 'Fish' Clarke
Bass: George 'Fully' Fulwood, Errol 'Flabba' Holt
Guitar: Earl 'Chinna' Smith, Noel 'Sowell' Bailey, Eric 'Bingy Bunny' Lamont
Keyboards: Keith Sterling, Gladstone 'Gladdy' Anderson, Bobby Kalphat, Anthony 'Steely' Johnson
Percussion: Noel 'Scully' Simms, Uziah 'Sticky' Thompson, Bongo Herman
Trumpet: Bobby Ellis
Saxophone: Felix 'Deadly Headley' Bennett

Special thanks to Phillip Frazer, Don Mais and John Masouri

Photography by Beth Lesser
Don Mais Photography courtesy of Don Mais
Design by Eddie at Fonts + Files

となっています。

プロデュースはRoots Traditionの主催者
Errol 'Don' Maisで、録音はChannel One
Studio、ミックスと声入れはKing Tubby's
で行われています。
80年前半のミックスなので、この時代の
King Tubby'sはPrince JammyやScientist、
Phillip Smartなどがミックスをおもに行って
おり、King Tubby本人は幾分ミックスの仕事
から遠ざかっていた時代です。
今回のアルバムにはダブも入っていますが、
おそらくScientistやPrince Jammyがミックス
を行ったものと推測されます。

バックのミュージシャンはSoul Syndicate
とRoots Radicsが担当しています。
Soul SyndicateのリーダーのEarl 'Chinna'
Smith、ドラマーのCarlton 'Santa' Davis、
ベースのGeorge 'Fully' Fulwood、トラン
ペットのBobby Ellis、Roots Radicsで活躍
したStyle ScottやErrol 'Flabba' Holt、
Eric 'Bingy Bunny' Lamont、Gladstone
Anderson、Felix 'Deadly Headley' Bennett
といった名前があります。

収められているアーティストも多彩で、
Phillip Frazer、Peter & Lucky、Toyan、
Errol Scorcher、Sammy Dread、Rod Taylor、
Peter Ranking、Little John、Jah Bible、
Soul Syndicateといった顔触れです。
いずれも超メジャーというアーティストでは
なく、ジャマイカ国内で人という感じの人が
多いです。
その中でもPhillip Frazerは、このRoots
Traditionの看板アーティストという存在
だったようです。
(彼はRazor Soundsという、自身のレーベル
も所有しています。)

Phillip Frazer - Wikipedia

アーティスト名にあるPeter & Luckyは、
正式名はPeter Ranking & General Lucky
というディージェイ・コンビで、82年に
「Jah Standing Over Me」というアルバム
を出している、極めてレアなディージェイ・
コンビです。

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Peter Ranking & General Lucky ‎– Jah Standing Over Me (1982)

書いたようにJah Bibleは、主催者Errol 'Don'
Maisのアーティスト名です。

そういうレアの音源が聴けるのも今回の
アルバムの面白さかもしれません。

さて今回のアルバムですが、70年代の
ルーツ・レゲエの時代が終わり、80年代
初めのアーリー・ダンスホールの空気感が
伝わって来るアルバムで、なかなか面白い
内容のアルバムだと思います。

ここに収められているアーティストの多く
が、このアーリー・ダンスホール・レゲエ
の時代に一瞬だけ強烈な光を放ち、そして
消えて行った人達なんですね。

例えばディージェイのToyanは彼のディスコ
グラフィーを調べてみると、1981年から
85年にアルバムをリリースしており、
特に82年と83年に多くのアルバムを
リリースしているんですね。
おそらくはこの2年から3年間だけが、彼の
注目された時代だったんだと思います。
ただその短い期間だけでも誰より強い光を
放った、それだけでも実にスゴイ事なんじゃ
ないか…、レゲエを聴いているとそういう事
を考えるんですね。

Toyan - Wikipedia

ある意味スゴイ人なんだけれどもスゴクない
(笑)、そういう人が揃ったのが今回の
アルバムなんですね。
そうしたジャマイカのアーリー・ダンスホール
の生の空気感が味わえるアルバム、それが今回
のアルバムです。

1曲目はPhillip Frazerの「Come On Over」
です。
書いたようにoots Traditionの看板アーティ
ストの、ダンスホールの空気を伝えるような
1曲です。
ScientistかPrince Jammyか解らないけれど、
ちょっとトンがったミックスもグッド。

2曲目はPeter & Luckyの「Housing Scheme」
です。
1曲目Phillip Frazerの「Come On Over」の
ディージェイ・ヴァージョンです。
気を付けて聴かないとディスコ・ミックスの
ように、1曲目にくっ付いた感じでスッと
曲に入って行きます。
ホーンに乗せたちょっと荒いザラッとした
トースティングが、何とも言えない魅力が
あります。

PETER RANKING & GENERAL LUCKY Housing scheme + version (Roots tradition)

↑後半のダブはありません。

3曲目はToyan & Errol Scorcherの「Natty
Roots」です。
リディムはYabby U & Ralph Brothersの
「Conquering Lion」。
このErrol Scorcherもマイナーなシンガーの
ようです。

Errol Scorcher - Wikipedia

彼の歌に絡むToyanのトースティングがすごく
良いです。
Toyanのコンピュレーション・アルバム
「Early Days」にも収められた1曲。
ダークな空気感がタマラない、ルーツ色の
強い1曲。

toyan_03a
Toyan ‎– Early Days (Unkown)

Ranking Toyan // Natty Roots


4曲目は「Natty Twelve Tribe Dub」です。
3曲目Toyan & Errol Scorcherの「Natty
Roots」のダブ。
こちらはパーカッションとベースの効いた、
クールなダブになっています。

5曲目はPhillip Frazer & Toyanの「Only
Jah Jah Know」です。
リディムはThe Jamaicans「Ba Ba Boom」。
Phillip Frazerのヴォーカルに後半はToyan
のトースティングという1曲。

リズム特集 Ba Ba Boom (バ・バ・ブーム)

6曲目はSammy Dreadの「Sweetest Thing」
です。
こちらもアーリー・ダンスホールで活躍した
名ヴォーカリストの1曲。
ベースを軸としたシブい演奏が冴えます。

SAMMY DREAD - SWEETEST THING


7曲目はPeter & Luckyの「Vineyard」です。
こちらは浮遊感のあるオルガンのメロディに
乗せた曲です。
このコンビの持つ、ヌケた明るさが面白い
1曲です。

Vineyard - Peter Ranking & General Lucky [Roots Tradition From The Vineyard CD]


8曲目は「Planter Dub」です。
7曲目Peter & Luckyの「Vineyard」のダブ。
ベースを軸としたグルーヴ感のあるダブです。

9曲目はRod Taylorの「True History」です。
リディムはSammy Dreadの「One Man One Vote」、
というよりほとんどThe Abyssiniansの名曲
「Satta Massagana」のリディムです。
ダンスホールらしい湿った空気感が魅力の、
名ヴォーカリストの歌声が冴える1曲です。

Rod Taylor & Peter Ranking ‎– True History


Rod Taylor (singer) - Wikipedia

リズム特集 Satta Massa Ganna (サタ・マサ・ガナ)

10曲目はToyanの「Black People」です。
9曲目Rod Taylorの「True History」の
Toyanによるディージェイ・ヴァージョン
です。

11曲目はPeter Rankingの「See A Man
Face」です。
バックはRoots Radicsか?
印象的なシン・ドラムのワン・ドロップが、
ダンスホールの空気感満点な1曲。
後半に入るErrol 'Flabba' Holtのシブい
ベースもグッド!
このPeter Rankingはほとんど歌っています
が、トースティングも歌もありの人のよう
です。

12曲目はLittle Johnの「Robe」です。
リディムはFreddie McGregorの「Bobby
Babylon」。
このLittle Johnはまだガキ声の頃のLittle
Johnです。
彼はデビューが早くかなり子供頃から歌って
いて、それもあってLittle Johnという名前で
呼ばれていたんですね。

リズム特集 Bobby Babylon/Hi Fashion (ボビー・バビロン/ハイファッション)

アーティスト特集 Little John (リトル・ジョン)

13曲目はToyanの「Gun Fever」です。
12曲目Little Johnの「Robe」のToyanによる
ディージェイ・ヴァージョンです。
Scientistのミックスか?石のように硬いガツン
と来る武骨なミックスがカッコいいです。

Toyan- Gun Fever


14曲目はJah Bibleの「When I Fall In
Love」です。
リディムはKen Bootheの同名曲。
書いたようにJah BibleはDon Maisのアーティ
スト名です。

15曲目はSoul Syndicateの「Jah Jah
Knowledge」です。
リディムはBarry Brownの「Far East」。
最後はホーンのメロディが印象的なインスト・
ナンバーでシメています。

リズム特集 Far East/Jah Sharkey (ファー・イースト/ジャー・シャーキー)

ざっと追いかけて来ましたが、このアーリー・
ダンスホール特有の空気感が伝わって来る
ようなアルバムで、内容は悪くないと思い
ます。

実はこうしたマイナー・レーベルやマイナー
なミュージシャンこそが、レゲエという音楽
を下支えしていたんですね。
彼らのようなほんのひと時だけ光り輝いた存在
も、レゲエの大切な記憶として覚えておきたい
ものです。
そうした人々にスポット当てた今回のコンピ
は、なかなか面白いアルバムだと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: Various
○アルバム: Don Mais Presents: Roots Tradition From The Vineyard
○レーベル: Majestic Reggae
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 1997

○Various「Don Mais Presents: Roots Tradition From The Vineyard」曲目
1. Come On Over - Phillip Frazer
2. Housing Scheme - Peter & Lucky
3. Natty Roots - Toyan & Errol Scorcher
4. Natty Twelve Tribe Dub
5. Only Jah Jah Know - Phillip Frazer & Toyan
6. Sweetest Thing - Sammy Dread
7. Vineyard - Peter & Lucky
8. Planter Dub
9. True History - Rod Taylor
10. Black People - Toyan
11. See A Man Face - Peter Ranking
12. Robe - Little John
13. Gun Fever - Toyan
14. When I Fall In Love - Jah Bible
15. Jah Jah Knowledge - Soul Syndicate