今回はThe Aggrovatorsのアルバム

aggrovators_10a

「Kaya Dub」です。

The Aggrovatorsは70年代のルーツ・レゲエ
の時代に、プロデューサーのBunny Leeの
ハウス・バンドとして活躍したグループです。
数々の歌手のバック・バンドとして活躍した
ほか、Kingu Tubbyなどのミックスによる
ホーンを中心とした素晴らしいダブを多く
残しています。

The Aggrovators - Wikipedia

この70年代のレゲエのバック・バンドは、
集まれる人が集まって録るプラスティック・
バンドの形式が一般的でした。
レコードの制作自体がBunny Leeのように
スタジオを持たないプロデューサーが仕切って
いるケースが多かったので、スタジオは
レンタルで歌手やミュージシャンも日雇い、
儲けも損もプロデューサーのものという
専属契約のないインディーズ的な作り方だった
んですね。

その為グループ名は違っても、同じアーティ
ストがいろいろなグループで演奏しているん
ですね。
Sly & Robbieや'Chinna' Smith、Barrett兄弟
などはほとんどのグループに顔を出している
くらいです。
ある意味こういうバック・ミュージシャンが、
当時の「レゲエ」というサウンドを創造して
いたとも言えます。

当時のバンド名とは、プロデューサーが誰か?
レーベルがどこか?という事で決まっていま
した。
例えば今回のThe Aggrovatorsという名前は、
Bunny Leeがプロデューサーの時に使われて
いた名前なので、彼のハウス・バンド名と
いう事です。
これがChannel OneのHookim兄弟の録音だと、
バンド名はThe Revolutionaries、Joe Gibbs
の録音だとThe Professionalsという名前に
なります。
他にも○○レーベルだと、○○ All-Stars
なんていう名前になっている場合があります。
ただバンド名だけでなく演奏しているミュー
ジシャンを見てみると、意外と同じ人が演奏
しているケースが多いんですね。

ではバンド名が違うだけで全く同じかという
と、そこはプロのスタジオ・ミュージシャン
だけあって、バンドごとに核になるミュー
ジシャンが居て、バンドごとに音を使い分けて
いた形跡が見られます。

例えばChannel OneのThe Revolutionaries
の場合は、ドラマーの'Sly' Dunbarをリーダー
として、攻撃的なミリタント・ビート(別名
ロッカーズ・ビート)をウリとしています。

The Aggrovatorsの場合は、'Robbie'
Shakespeareがリーダーと書かれている事が
あり、Carlton 'Santa' Davisが開発したと
いわれる「フライング・シンバル」の楽曲が
多いんですね。
(フライング・シンバルは74~75年の
短期間だけ流行。)
またThe Aggrovatorsの場合は、Tommy McCook
を中心としたホーンを中心とした演奏が多い
のも特徴的なところです。

要するに雇い主の好みに合わせて、中心
メンバーの違いなどでグループの個性に変化
を付けることをしているんですね。
The Aggrovatorsの場合は一時期フライング・
シンバルの楽曲が多かった事と、比較的に
ブラスを中心としたナンバーが多い事が
特徴的なところです。

今回のアルバムは1977年にUKのThird
Worldというレーベルからリリースされた、
Bunny Leeが頬杖をついたジャケットの
アルバムがオリジナルのようです。
そのアルバムを2007年にUKのAttack
レーベルがリイシューしたのが今回の
アルバムという事になりそうです。

今回のアルバムの最大の特徴は、Bunny Lee
のハウス・バンドThe Aggrovatorsによる
Bob Marleyの楽曲のダブが収められている
事です。
Bob Marleyのダブって、メジャーのIsland
レーベルが版権をしっかり押さえていたせい
か、実はあまりないんですね。
そうした彼のダブが楽しめるのが、今回の
アルバムです。

なお曲によっては、多少チリチリ音の入る
曲があります。

全15曲で収録時間は約55分。
オリジナルは12曲で13曲目以降の3曲は
CDボーナス・トラックです。
さらに77年のアルバムでは、今回のアルバム
に収められている2ヴァージョンの「No Woman
No Cry Dub」も入っていないようで、全10曲
だった模様です。

ミュージシャンについては以下の記述があり
ます。

The Aggrovators Are: Carlton Barett, Aston Barett, Sly Dunbar,
Robbie Shakespeare, Earl 'China' Smith, Santa Davis,
Geoffrey Chung, Tony Chin, K. Sterling, C. Harvey, T. McCook,
Bobby Ellis, Skully, L. Brown, Jackie Mittoo, Winston Wright

となっています。

残念ながらこれ以外の記述はありません。

ただ77年のアルバムには、プロデューサー
がBunny Lee、ミックスはKing Tubby's時代
のPrince Jammyという記述があったようです。

ミュージシャンはドラムにCarlton Barettや
Sly Dunbar、Santa DavisベースにAston
BarettにRobbie Shakespeare、ギターに
Earl 'China' SmithとGeoffrey Chung、Tony
Chin、キーボードにK. SterlingとJackie
Mittoo、Winston Wright、ホーンにT. McCook
とBobby Ellis、パーカッションにSkullyなど
この当時の主要なスタジオ・ミュージシャン
が揃った布陣です。
Bob Marley & The Wailersに当時参加して
いた、Barett兄弟が参加しているのが面白い
ところです。

さて今回のアルバムですが、Bob Marleyの
耳馴染みのある楽曲のダブという事で、聴き
心地はとても良いです。
また「No Woman No Cry (Tubby Mix)」など
では、文字通り女性の鳴き声のエフェクト
などが入っていたり、Prince Jammyのかなり
トンがったミックスがとても魅力的です。
このPrince Jammyは後の80年代にデジタル
のダンスホール・レゲエ「コンピューター・
ライズド」で、レゲエ界に大変革の嵐を起こす
のですが、そうした才能の片鱗が随所に感じ
られるダブを作っているのも、今回のアルバム
の魅力です。

1曲目は「Dub Is Shining」です。
原曲はBob Marleyの「Sun Is Shining」。
危険な空気が漂うオルガンからパーカッション
の複雑に交錯するリズム、妖し気なエフェクト。
いかにもヤバさ満点の空気感がタマリません。

The Aggrovators - Dub Is Shining Dub


2曲目は表題曲の「Kaya Dub」です。
原曲はBob Marleyの「Kaya」。
こちらもベースを軸とした、ヤバさ満点の
ダブ。
今回のアルバムはこうしたベースを軸とした
ダブが、比較的多い印象です。
地味になりがちなところを派手なエフェクト
を飛ばして、刺激的で危険な空気をうまく
演出しています。

The Aggrovators - Kaya dub


3曲目は「Crazy Bald Head」です。
原曲はBob Marleyの同タイトル曲です。
入っているヴォーカルはJohnny Clarke。
重いベースとギターのサウンドが、危険な
空気をうまく演出しています。

King Tubby - Crazy Bald Head Dub


4曲目は「Natural Mystic」です。
原曲はBob Marleyの同タイトル曲です。
甲高いオルガンのメロディからシブく重い
ベースのリズム。
それだけでシビレる曲です。

5曲目は「So Jah Sey Dub」です。
原曲はBob Marleyの「So Jah Sey」。
こちらは響き渡るホーンにヴォーカル、ダブ
ワイズして行くホーンが異次元へ誘うような
曲です。

6曲目は「No Woman No Cry Dub (Horns
Version)」です。
原曲はBob Marleyの「No Woman No Cry」。
Tommy McCookを中心とした、鳴り響くホーン
がとても魅力の1曲。

The Aggrovators - No Woman No Cry Dub Horns Version


7曲目は「No Woman No Cry (Tubby Mix)」
です。
原曲はBob Marleyの「No Woman No Cry」。
こちらはいきなり女性の鳴き声から始まる
ヴァージョンです。
(Tubby Mix)となっていますが、おそらく
その斬新さからPrince Jammyのミックスじゃ
ないかと思います。
こちらも今回のアルバムの目玉曲のひとつ。

8曲目は「One Love Dub」です。
原曲はBob Marleyの「One Love」のはずなん
ですが、あまり「One Love」ぽくない気も…。
ベースを軸としたダブです。

9曲目は「Small Axe Dub」です。
原曲はBob Marleyの「Small Axe」。
こちらはピアノのメロディから始まるダブ。

Small Axe Dub


10曲目は「Nice Time Dub」です。
原曲はBob Marleyの「Nice Time」。
こちらはホーンを中心とした、Johnny Clarke
の歌も入ったダブです。
こちらもベースがうまく効いたダブに
仕上がっています。

The Aggrovators - Nice Time Dub


11曲目は「Power Dub」です。
こちらもJohnny Clarkeの歌の入ったダブです。
ユッタリしたリズムの繰り返しが、心地良い
ダブです。

12曲目は「Put It On Dub」です。
原曲はBob Marleyの「Put It On」。
こちらはメロディカ・ダブです。
名前がありませんがAugustus Pabloが吹いて
いるのか?
心地良いグルーヴ感のあるダブです。

The Aggrovators - Put It On Dub


13曲目は「Simmer Dub」です。
原曲はBob Marleyの「Simmer Down」。
スカの時代のThe Wailersのヒット曲のダブ
です。

14曲目は「I'm Still Waiting Dub」です。
原曲はBob Marleyの「I'm Still Waiting」。
こちらもロックステディの頃の名曲のダブ。

15曲目は「Rock Dub」です。
原曲はBob Marleyの「Don't Rock My
Boat 」。
ベースを中心としたダブです。

ざっと追いかけて来ましたが、やはり目玉曲
としては「No Woman No Cry」のダブ2曲が
強く印象に残ります。
耳馴染みのある曲が多く入っていて、とても
聴き心地の良いダブに仕上がっている印象です。
内容は悪くないと思います。

機会があればぜひ聴いてみてください。


○アーティスト: The Aggrovators
○アルバム: Kaya Dub
○レーベル: Attack
○フォーマット: CD
○オリジナル・アルバム制作年: 2007

○The Aggrovators「Kaya Dub」曲目
1. Dub Is Shining
2. Kaya Dub
3. Crazy Bald Head
4. Natural Mystic
5. So Jah Sey Dub
6. No Woman No Cry Dub (Horns Version)
7. No Woman No Cry (Tubby Mix)
8. One Love Dub
9. Small Axe Dub
10. Nice Time Dub
11. Power Dub
12. Put It On Dub
13. Simmer Dub
14. I'm Still Waiting Dub
15. Rock Dub

●今までアップしたAggrovators関連の記事
〇Aggrovators, Revolutionaries「Guerilla Dub」
〇Aggrovators「Dubbing At King Tubby's」
〇Aggrovators「Rasta Dub '76」
〇Agrovators, Revolutionaries「Agrovators Meets The Revolutionaries At Channel 1 Studios」
〇Tommy McCook & The Agrovators「King Tubby Meets The Agrovators At Dub Station」
〇Tommy McCook and The Agrovators「Cookin'」
〇Various (The Aggrovators)「Jackpot Dub: Rare Dubs From Jackpot Records 1974-1976」
〇Bunny Lee & King Tubby Present Tommy McCook And The Aggravators「Brass Rockers」
〇King Tubby's (Prince Jammy) And The Agrovators, (Delroy Wilson)「Dubbing In The Back Yard / (Go Away Dream)」
〇Various「Rubadub Revolution: Early Dancehall Productions From Bunny Lee」
〇Various「When Jah Shall Come」
〇Professionals「Meet The Aggrovators At Joe Gibbs」